分野別の課題
カメラの迷光解析と撮像シミュレーション

こんな方におすすめ
解析概要
本事例では、カメラレンズの迷光解析と撮像シミュレーションを取り扱います。
前半では、レンズシステムの光線経路を可視化して迷光の要因を特定し、対策を施します。
後半では、レンズの光学特性を反映させた、3D撮影シーンでの撮像を取得します。
使用ソフトウェア
Ansys Speos
Ansys Zemax OpticStudio※2024R2以降のバージョンが必要です。
解析目的および解析手法
背景と目的
カメラレンズの設計では、発生する迷光の対策が欠かせません。
レンズだけでなく周辺部材や筐体を含めた様々な光線経路を考慮し、意図しないものを除去・低減する必要があります。
また、レンズの光学特性については、MTFやPSFなどの数値評価だけでなく、撮像の画質も重要な評価指標のひとつです。
これら迷光や撮像について、試作前に仮想モデルで評価し対策・改善することで、開発の時間とコストを大幅に削減することができます。
解析対象
カメラ用レンズと、それを保持する周辺部材、筐体も含めたカメラレンズシステム全体

図1 カメラレンズシステムのモデル
解析手法
1.迷光解析
光学設計ソフトウェアAnsys Zemax OpticStudio にて設計したレンズモデル (レンズ形状+光学特性)を出力し、周辺部材とともに3次元光学解析ソフトウェアAnsys Speosへ取り込み、レンズシステム全体で発生する迷光を可視化します。フィルタリング機能を活用し、影響の大きな迷光の光線経路や要因箇所を特定し、対策を施すことで迷光を低減します。
2.撮像シミュレーション
Ansys Zemax OpticStudioから 縮退化して出力したレンズ特性モデル(ROM)をAnsys Speosのカメラセンサーに適用し、光線追跡を実行することで、3Dモデリングした撮影シーンでの撮像を取得します。
解析内容
迷光解析
<システムレベルでの迷光の可視化>
[1] レンズおよび周辺部材の取り込み
Optical Design Exchange(.odx)ファイルを使用して、Ansys Zemax OpticStudio から Ansys Speos にレンズモデルをインポートします。

図2 レンズ形状と光学特性を含むODXファイルの出力・入力

図3 ODXファイルによりレンズ形状と光学特性がSpeosに読み込まれる
[2] システム全体の迷光の可視化
Light Expert(LXP)機能により、注目すべき光線経路とシステム内での相互作用を視覚化することができます。このLXPおよびSequence Detection Tool(シーケンス検出ツール)を利用して、不要な迷光につながる光路シーケンスと物体の相互作用を解析します。

図4 可視化された光線経路
シーケンス検出ツールでは、各シーケンスの詳細情報が表示されており、各シーケンスと光線が当たった要素との相互作用の種類、および要素が当たった順序を把握できます。シーケンスリストには、相互作用に関する情報が表示されており、以下の列でソートすることができます。
- 長さ
- センサーのヒット数
- 総積分エネルギーに対するエネルギーの割合(%)
- 平均照度
- ピーク照度

図5 シーケンス検出ツール
<迷光の要因解析>
シーケンス検出ツールを用いて、シーケンスの相互作用を調べ、散乱相互作用を抽出します。シーケンス検出ツールには、専用のフィルターパネルが含まれており、正規表現構文を使用するもできます。これを利用した探索により、影響の大きい経路を絞り込みます。

図6 左:フィルターパネル、右:絞り込まれた光線経路
<迷光の低減>
シーケンスの調査結果から、鏡筒の内面がセンサーのノイズレベルに大きく寄与していることがわかりました。この該当箇所に、以下のような対策を施します。
迷光低減手法
- 反射防止(AR)コーティング
- バッフルデザイン
- オプトメカニクスの反射防止コーティング
- レンズフードのデザイン
迷光のS/N比(SNR)により、低減されたことを確認します。

図7 反射防止コーティング対策前後の迷光とS/N比
撮像シミュレーション
<Reduced Order Model(ROM)の出力>
Ansys Zemax OpticStudio にて、[Export Reduced Order Model to Speos]を起動し、サイズやサンプリング数を指定して実行すると、下表の光学特性を含む「.OPTDistortion」ファイルが生成されます。

図8 左:ROM対応のレンズ特性、右:ROM出力設定ウィンドウ
<Reduced Order Model(ROM)の入力>
Speosのカメラセンサーの定義メニューにある[Distortion]の項で、先ほど生成されたROMファイルを読み込みます。
<光線追跡の実行、撮像の取得>
インバースシミュレーションを実行すると、撮像がPNGファイルとして出力されます。

図9 左:3D撮影シーン、中央:取得した撮像、右:SpeosのROM読込画面
まとめ
Ansys Speosによる迷光解析と撮像シミュレーションについてご紹介しました。
- Ansys Zemax OpticStudioのレンズ設計データから、形状だけでなく光学特性も含めて取り込むことが可能です。
- 光線のフィルタリング機能や3D描画により、迷光の要因箇所を把握しやすく、対策が容易になります。
- Ansys Zemax OpticStudioからSpeosへ、レンズ特性を手軽に移行でき、それを反映させた撮像を取得することができます。
以上により、迷光や撮像について、試作前に仮想モデルで評価し対策・改善することで、開発の時間とコストを大幅に削減することができます。
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