コラム用語集
サロゲートモデルとは?
CAE 解析を AI で高速化する仕組み・種類・メリットをわかりやすく解説
サロゲートモデルとは
サロゲートモデルとは、高精度である一方、計算コストの高いCAE解析や実験結果をもとに、その振る舞いを高速に近似・再現する数理モデルのことです。「代理モデル」や「近似モデル」と呼ばれることもあります。
CAE解析では、構造解析、熱解析、流体解析などにより高精度な結果を得ることができます。一方で、1ケースあたりの計算時間が長く、設計パラメータを変えながら何度も試行錯誤するには時間的な制約が生じることがあります。
特に、最適化やパラメータスタディを行う場合には、解析回数が膨大になり、現実的な時間内で十分な検討が難しいケースも少なくありません。
このような課題に対して有効なのが、サロゲートモデルです。あらかじめCAE解析結果や実験データの傾向を学習しておくことで、新たな条件に対する結果を短時間で予測できます。
つまり、計算コストの高いCAE解析を毎回実行するのではなく、学習済みのモデルを使って高速に結果を得るという考え方です。

なぜサロゲートモデルが注目されているのか
サロゲートモデルが注目されている背景には、製品開発における設計要求の高度化があります。
近年のものづくりでは、軽量化、高強度化、熱対策、コスト削減など、複数の要求を同時に満たす設計が求められています。そのため、設計者や解析担当者は、より多くの設計案を比較し、最適な条件を見つける必要があります。
しかし、CAE解析は高精度である一方、計算に時間がかかります。条件を少し変えるたびに解析を実行していては、検討できる設計案の数に限界があります。
サロゲートモデルを活用すれば、一度学習したモデルを使って、多数の条件に対する結果を短時間で予測できます。これにより、従来よりも多くの設計案を評価でき、設計品質の向上や開発期間の短縮につながります。
サロゲートモデルの種類
本記事では予測する出力の形式から2種類に分けて紹介します。
1. 応答曲面モデル
応答曲面モデルは、従来から広く使われているサロゲートモデルの1つです。
最大応力、平均温度、最大変位、圧力損失など、解析結果から得られる代表値を予測対象とします。設計変数と結果の関係を数式や統計モデルで近似し、新しい条件に対する結果を予測します。
主な手法には、多項式近似、ガウス過程回帰、ニューラルネットワークなどが用いられます。
応答曲面モデルは、比較的シンプルで扱いやすく、パラメータスタディや最適化に活用しやすい点が特徴です。一方で、通常は代表値を予測対象とするため応力分布や温度分布のような空間的な分布や、その発生位置を直接確認する用途には適していません。

2. 3次元サロゲートモデル
近年注目されているのが、3次元サロゲートモデルです。
3次元サロゲートモデルは、最大応力などの代表値だけでなく、応力分布、温度分布、変位分布、流速分布といった空間的な物理場全体を予測対象とします。
モデルの構築には、Convolutional Neural Network(CNN)やGraph Neural Network(GNN)、Transformerなどの深層学習技術が用いられます。これにより、部品全体のどの位置に応力が集中するのか、温度がどのように分布するのかといった情報を短時間で確認できます。代表値だけでは判断しにくい局所的な現象も把握できるため、より詳細な設計評価が可能になります。

サロゲートモデルを活用する3つのメリット
1. 解析時間を大幅に短縮できる
サロゲートモデルの大きなメリットは、結果を得るまでに時間を大幅に短縮できることです。
通常のCAE解析では1ケースの計算に数時間から数日かかることもあります。
サロゲートモデルを使えば、学習済みモデルに入力条件を与えるだけで、解析結果を短時間で予測できます。そのため、これまで時間の制約によって難しかった多数の設計案の比較が可能になります。
2. 解析工程の工数を削減できる
サロゲートモデルを活用することで、解析工程そのものの工数削減も期待できます。
CAE解析を条件ごとに実行する場合、1ケースごとにCADモデルの修正、メッシュ作成、境界条件設定、計算実行、結果確認といった工程が必要になります。
サロゲートモデルでは、学習済みのモデルを使って結果を予測するため、繰り返し検討時の作業負担を軽減できます。
また、解析ソフトの操作に不慣れな方でも、パラメータやCAD形状を入力することで結果を確認できるようになります。
これにより、解析専任者だけでなく、設計者自身が設計の初期段階で検討を行いやすくなります。
3. 繰り返し計算による設計検討を高速化できる
サロゲートモデルは、パラメータスタディや最適化との相性が非常に高い技術です。
計算が高速になることで、多数の条件を繰り返し評価しやすくなります。
これにより、設計パラメータが結果に与える影響を可視化したり、最適化計算によって最適解やパレート解を求めたりすることが可能になります。
つまり、サロゲートモデルは単なるCAE解析の高速化手段ではありません。
より多くの設計案を検討し、より良い設計を見つけるための設計支援技術といえます。

サロゲートモデルの活用例
サロゲートモデルは、さまざまな分野で活用できます。
例えば、構造解析では、形状や材料条件を変えたときの応力や変位を高速に予測できます。熱解析では、冷却構造や発熱条件を変えたときの温度分布を短時間で確認できます。流体解析では、形状や流入条件に応じた圧力分布、流速分布などの予測に利用できます。
また、自動車、電子機器、産業機械、航空宇宙、医療機器など、CAE解析が利用されている幅広い分野での活用が期待されています。
特に、次のような場面で効果を発揮します。
- CAE解析に時間がかかり、結果を得るまでの時間を短縮したい場合
- 流用設計などで類似する解析モデルを繰り返し使用しており、効率化を図りたい場合
- 異なる条件で多数の解析を実行しており、解析回数・時間を削減したい場合
- パラメータスタディや最適化計算を効率よく行いたい場合
- 普段CAE解析ソフトを使用していない方が結果の予測やパラメータ検討を行いたい場合
ただし、サロゲートモデルの予測精度は、学習に使用するデータの量や品質、設計空間の範囲、モデルの構築方法などに左右されます。学習範囲から大きく外れた条件では、予測精度が低下する可能性があるため、適用範囲を確認しながら使用することが重要です。
また、サロゲートモデルによる予測結果は、元となるCAE解析結果との一致を保証するものではありません。そのため、サロゲートモデルによって選定した最終的な設計案については、改めてCAE解析を実行し、性能や成立性を確認することが推奨されます。
サロゲートモデル構築ツールの活用
近年では、CAE解析結果をもとにAIや機械学習を活用してサロゲートモデルを構築できる専用ツールが登場しています。
「nvision」は、CAE解析データや実験の測定データなどから3次元サロゲートモデルを構築し、高速な予測計算を実現するツールです。Pythonスクリプトなどの専門知識を必要とせず、GUI上でモデル構築や結果確認を行える点が特徴です。
また、応力分布や温度分布などの3次元物理場を予測対象とできるため、従来の応答曲面モデルでは把握しにくかった、結果の分布や発生位置を含む詳細な設計評価にも活用できます。
詳細は、nvision の製品ページをご覧ください。

まとめ
サロゲートモデルとは、CAE解析や実験データをもとに、入力条件と結果の関係を近似し、新しい条件に対する結果を高速に予測する数理モデルです。
CAE解析では詳細な結果を得られる一方で、計算時間や解析作業の工数が課題になることがあります。サロゲートモデルを活用すれば、学習済みのモデルによって短時間で結果を予測できるため、設計検討の効率化、解析工数の削減、最適化の高速化、設計者による初期検討などが期待できます。
特に近年は、代表値だけでなく応力分布や温度分布といった物理場全体を予測できる3次元サロゲートモデルが注目されています。
サロゲートモデルは、CAE解析を完全に置き換えるものではなく、CAE解析と組み合わせることで設計開発のスピードと品質を高めることができる重要な技術です。
