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導入事例

富士通グループにおける設計上流での公差検討強化の取り組み

富士通アドバンストテクノロジ株式会社(現NTTエレクトロニクスクロステクノロジ株式会社)

評価、解析サービスに携わる、開発プラットフォームサービス統括部・構造系プラットフォームサービス部の濱添様、加藤様より、富士通グループ様内で上流設計の段階から公差検討を定着化するまでの経緯とその取り組みについて、また今後の公差ソリューション展開についてのご紹介をいただきました。

左から濱添様、加藤様

今回お話いただいた方
開発プラットフォームサービス統括部
構造系プラットフォームサービス部
濱添 一彦 様
加藤 賀一 様
(以下、お客様の名前の敬称は省略させていただきます)

富士通アドバンストテクノロジ株式会社様は、富士通グループでの長年の経験で培った技術やノウハウを生かし、最新のIT技術を基に開発された高速・高信頼・高開発プラットフォーム「エンジニアリングクラウド」を活用して、専門のエンジニアによる製品の評価、解析サービスや、設計から製造までお客様の製品にあわせた設計プロセスソリューションの提供を行っておられます。

今回は、評価、解析サービスに携わる、開発プラットフォームサービス統括部・構造系プラットフォームサービス部の濱添様、加藤様より、富士通グループ様内で上流設計の段階から公差検討を定着化するまでの経緯とその取り組みについて、また今後の公差ソリューション展開についてのご紹介をいただきました。

1. 公差解析の導入経緯

お2人のご担当業務についてお聞かせください。

濱添

富士通アドバンストテクノロジ(以下 弊社)全体では、富士通グループのハードウェア製品に対して新技術やソフトウェア利用技術の開発、提供を行っています。その中で私達はCETOL 6σを使って公差解析技術の提供や受託解析を担当しています。また、設計部門のユーザが自分達で公差解析を行いたいという依頼がある場合には、要望に合わせた解析のサポートや教育を通じて設計者自身で解析ができるような設計環境づくりのサポートを行っています。解析対象製品は、基幹サーバー、スーパーコンピュータ、携帯基地局などの通信機器から、エンドユーザ様向けのパソコン、携帯、スマートフォンまで多岐に渡ります。

富士通グループ様での公差検討のはじまりと、解析ツールの導入に至った経緯を教えてください。

はじまりは10年前です。3DCADで干渉チェックしても問題が出ないのに、実際に組み立ててみると不具合が出るという設計部門からの声を受け、一緒に要因を探っていく中で「公差の検討が不十分なのではないか?」と気づきました。そこで現場での公差検討状況を調査してみると、昔の図面そのままの公差を使っている、製品の実力を考慮せずに厳しい公差に設定しているなど、公差の検討不足により開発工程に負のループが発生している状況が伺えました。

しかしながら対象製品も多く、製品も複雑化する中で、手計算での公差検討は到底できないため、ツールの検討を始めました。複数の公差解析ツールでベンチマークを行った結果、圧倒的な計算スピードの速さと、構造的な重要寸法を把握できる指標である感度を得られる点から、CETOL 6σの導入を決めました。

2. 設計者自身での公差解析適用に向けた取り組み

設計者の方が公差解析を行いたい、というご依頼が増えたのはなぜでしょうか?

濱添

スマートフォンのような開発スパンの短い製品では、弊社に受託解析を依頼するよりも、設計者自身で解析を行った方が情報伝達作業を省ける分、タイムリーに設計に反映できます。年々、私たちの受託解析件数が増え、依頼を受けてもすぐに手が回らない事もありました。そこで 設計プロセスの中で設計者自身が解析を行えるようなソリューションを提供していく取り組みを始めました。

どのようなアプローチから始めたのでしょうか?

濱添

新しい試みに積極的な設計者に声をかけ、担当されている装置でためしました。CETOL6σで装置組⽴状態での部品締結部やコネクタ嵌合部を解析し、その結果の値を 過去発⽣した不具合と⽐較していただいて、締結部やコネ クタ嵌合部のずれ量が同じ傾向を⽰している事を確認いた だきCETOL6σの分析⼒を実感してもらい、その設計者と共に、部内の設計者や幹部社員に向けて公差解析ツールの 有用性を展開していきました。

どのようにして効果を伝えたのでしょうか?

加藤

設計部門では、常にリアルな指標とバーチャルな指標という2通りの指標で結果評価を⾏っています。リアルな指標としては部品費などがあります。例えば、電⼦部品間を接続していた複数本のケーブルの代わりに、新規採用コネクタの嵌合精度を公差解析によって保証できれば、上述のケーブルを削減できるという考え方です。バーチャルな指標とは、もし公差検討を⾏わずに後⼯程で不具合が発生した場合、どれだけの費用的なダメージを受けるかとい う考え方です。

その結果、富士通グループ内では設計部門の中で公差検討 の重要性、必要性が認知されるようになり、DRのチェックリストに公差解析の実施が追加されました。各設計フェーズで公差解析を⾏って規定の品質に達していないも のは、次の設計フェーズに進めないというルール付けを⾏いました。
※DR=Design Review

新しいルールを導入するにあたり、現場の設計者の方の抵抗などは無かったのでしょうか?

濱添

最初はどうしても設計者に余計な工数がかかってしまうと思いがちです。そのストレスを軽減するためにルールの⽴ち上げ当初は、公差解析そのものは弊社に依頼して も設計者⾃⾝で⾏ってもどちらでも良いとし、状況に応じて対応できるようにハードルを低く始めました。次第に適 用範囲が拡大し、全機種で展開していくことになり設計者⾃⾝で公差解析を⾏うしかない状況となっていきました。 私たちもツールの利⽤促進に向けて、⼿計算で⾏った場合 にかかる膨大な工数をイメージしてもらい、ツールを使った方が結果的には短い工数で進められる点や、手計算では出せない感度や寄与率を出せるメリットにも気づいてもらえるようなアドバイスを⾏いました。その結果、ツールを利⽤した解析に対する設計者の抵抗感をより少なくすることができ、次第に多くの事業部からの信頼を獲得していきました。

具体的にはどのようなサービスをご提供したのですか?

濱添

設計者が利⽤しやすいツール活⽤のノウハウ集を作り解析しやすい環境を提供しました。さらに新たな課題が出た時に、公差解析ツール活用の工夫で改善できないかとの相談を受けた場合、新しい解決⼿法の提案を⾏い、それをマニュアルとして提供することで、次回は設計者自身でマニュアルを⾒ながら解決できるようなサポートをしています。この取り組みにより、早くて1年程度、遅くても3年程度で設計部⾨内にルールが定着していきました。

富士通グループ様では設計の中でツールを使って公差解析を⾏う事が当たり前の環境になっているのですね?

濱添

最初から全ての事業部、プロダクトに公差解析のルールづけが浸透したわけではありません。例えば樹脂などたわみで吸収できる部分の設計では、不具合が出た時に公差が原因とは考えにくい事もあります。しかし、スマートフォンのボタン部分など樹脂を含む設計でも公差の⾒直しに取り組み、実績を出している事業部もあったため、私たちはその成功事例をもとに効果やメリットをまとめたPR資料を作成し、類似製品を担当している事業部にも伝える事で公差検討に対する理解を広めていきました。

スマートフォンサイドキー押下性検証

加藤

私達は公差解析を適用した案件に対しては設計者にアンケートを取りその効果を数値で残しています。改善効果を数字で認識できるため、特に幹部社員の方が公差解析の重要性について敏感になっていきました。

富士通グループ様ではCETOL 6σの利⽤率はどれく らいなのでしょうか?

濱添

CETOL6σで解析ができる設計者は100名を超えました。案件で⾒た場合、2016年度は弊社が受託解析した分だけで172案件でした。設計者自身で解析している製品も多数ありますが、残念ながらその数まではカウントしておりません。

3. 設計上流での公差解析適⽤に向けた取り組み

設計プロセスではどの段階で公差解析を適用しているのですか?

加藤

例えば「この部品はここに付く、どのように付くのかはまだ検討段階だが、どのように付ければ公差的に成⽴するか、⼀番経済的に良いのかを教えてほしい。」というような構想設計の段階で公差のソリューションを求められます。設計者は公差を追い込んだ結果を⾒てから詳細設計で図面に反映させたいという狙いがあります。短い開発期間の中で、図面を作成した後や量産段階で不具合に気づき⼿戻りするのを避けたい思いが強いためです。

⾃分が今⽴たれている岐路のどちらに⾏けば良いか公差解析で知りたいという事ですね。既に何か問題があってから初めて解決してという状態ではなく、構想設計段階からやって当たり前の状態なのですね

加藤

確かに10年前は設計がある程度できた段階や、量産工程で問題があってから公差解析を適用し、検証をして原因を究明するのが一般的でしたが、今では設計プロセスの中で公差の適⽤ステージはより上流段階にシフトしています。図⾯作成した後で⾒直しが必要となってはダメージも 大きいですし、それが上流であればあるほど⼿戻りの量も少なく、⼿直しにも⾃由度が⽣まれ、今では公差解析ツール活用の幅も増えています。

濱添

10年前は、試作で⼀度組み⽴ててからその結果を量産設計にフィードバックし、量産設計で図⾯を作成後、量産の段階で不具合が出た箇所を公差解析で検証していました。現在は、量産設計で図⾯作成前に、構想設計段階における3D検討図の中で公差によるアプローチを⾏いますので、 試作の段階での不具合も未然に防げるようになっています。 また現在はDRや出荷判定の節目には必ず公差解析の結果報告書を添付して最終確認を⾏うルール付けもある事から後⼯程に⾏けばいくほど公差解析の結果は確認作業に近くなっていきます。

10年前と現在の公差解析適⽤ステージの⽐較

設計の上流段階から公差解析という道具が必要だと思っていただけているのは幸いです。解析結果に期待されている分そのプレッシャーも大きいですね。

濱添

そうですね。だからこそ、これからも設計者と一緒に相談をしながら取り組みを進めていく必要があります。 設計の上流段階から重要な道具の1つとして、CETOL6σによる弊社の公差ソリューションを頼りにしてもらえているのは本当に有難いと思います。

これまでのお取り組みの成果を具体的に教えていただけますか?

濱添

公差解析を適用している全製品における設計段階での公差解析適⽤率は、2008年度は10%以下であったのに対し、2015年度には89%まで増えました。また、公差を起因とする組み⽴て不具合発⽣件数は0件という成果を出すことが出来ました。

設計者の意識も変化し、公差の重要性が再認識されて、早い段階から公差を意識した設計を⾏うようなりました。ツールでの公差解析を⾏う事で後⼯程での⼿戻りが削減され、結果的に設計上流から開発⼯程全体の短TAT化を達成しました。
※TAT=Turn Around Time
設計から量産までの⼀連の開発⼯程のループに必要な時間。

設計段階・構想段階での適用が定着 (2016年9月 3D公差解析活⽤セミナー講演資料より)

4. サイバネットとの協業による今後のビジネス展開について

多くのお客様がこのような成果を出すことを期待してツールを導入し、その後も活用を広げたいと思われています。これまでのご経験やノウハウをより多くの⽅に展開していただけると良いですね。

濱添

この度、CETOL6σによる公差ソリューションの展開に向けて、御社と弊社で協業をさせていただく事となりました。富士通グループ内で設計部門と共に培った経験と公差検討定着化の技術、ノウハウを生かし、今後は他の企業様のものづくりにも貢献していきたいと考えております。

富士通グループ内では弊社が共通部門となり公差解析の定着化に向けてサポートを⾏ったように、もし他の企業様で弊社のような共通部門をお持ちでない企業様には、弊社を共通部門の代わりとしてご相談いただければ幸いです。また、公差解析の理屈は理解しているが、現物に落とすにはどうすればいいのかというようなお悩みをお持ちの場合にも、私達のこれまで培った設計者との試⾏錯誤を重ねた経験を生かし、より設計現場や設計担当者の⽴場に寄り添った形で公差ソリューションをご紹介させていただければと思っております。

CETOL 6σはとても良いツールだと⾔えますし、富⼠通グループ内ではもう欠かせない存在となっています。折角ご導入されたCETOL6σを是非とも有効活用していただけるよう設計プロセスの中での課題をお持ちのお客様と一緒になって解決していきたいと考えております。

本日は貴重なお時間をいただきありがとうございました。

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