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CAEを学ぶ

流れを考慮した電子機器の熱変形評価

Workbenchへの統合でより使いやすくなったAnsys Icepakについてご紹介いたします。

はじめに

電子機器の熱変形の問題を解決するために、従来では伝熱解析の結果を元に構造解析を行う方法がよく用いられてきました。しかし電子機器特有の問題として、

  • 近接部品間の放射伝熱
  • 配線パターンによる異方性熱伝導
  • 電子部品間の複雑な対流熱伝達

などの影響が大きいため、熱流体解析の結果を元にした構造解析が求められています。また汎用熱流体解析ツールでは解析が困難な電気系CADとの連携が必要になる場合もあります(配線インポート、ジュール発熱等)。
そこで本稿では、電子機器に特化した熱流体解析ツール Ansys Icepak 12.1を使用した、流体構造連成解析フローを事例と共にご紹介致します。

Ansys Icepakとは

Ansys Icepakは電子機器や電子部品の設計者を対象としており、手軽に熱設計を行えるよう開発された熱流体解析ツールです。
筐体を含むシステムレベルまで解析が可能で、形状作成、メッシング、計算実行及び結果処理までの一連の操作を共通のGUIで実施することができます。また、ソルバーとして世界トップシェアのAnsys Fluentを搭載し、高い信頼性と安定性を備えています。

Workbenchへの統合

Icepak12.1からWorkbench上での流体構造連成解析が可能になりました(図1)。以下、BGAの流体構造連成解析を例に、操作フローをご紹介致します。

図1 Ansys Workbenchでの連携

流体構造連成解析フロー

(1)CADデータのインポート

Icepakが標準対応しているジオメトリインポート機能に加え、Ansys DesignModeler(オプション)を使用することで様々なCAD形状をインポートし、Icepakの解析に使用することが可能になります。またDesignModelerにより解析結果への影響が無視できる箇所を必要に応じて簡略化し、計算負荷を低減することができます。
一方、CAD形状をそのまま使用したい場合も、Icepak 12.0に導入された新しいメッシングアルゴリズム(マルチレベルメッシュ:後述)により複雑な形状を考慮することが可能です。

(2)Icepakでの解析

電子機器に特化したIcepakならではの機能を使用して解析目的に応じた設定が可能です。主な機能としては、ファン、PCB, ICパッケージ、グリルやヒートシンクなどのオブジェクトによる直感的なモデリング機能、オートヘキサメッシング機能、スケールギャップのあるアセンブリモデルで有効な不連続メッシュやDO放射モデルなどを搭載しており、解析対象を効率的にモデリングすることが可能です。また、後述する新機能が追加され、バージョンを経るごとにより実際に近い条件を加味することが可能となっています。

図2 Ansys Icepakで求めた基板全体の温度分

(3)Ansys MechanicalへのIcepak温度データ転送

Icepakで計算したボリューム温度分布を構造解析に転送します。
プロジェクト概念図上で、マウス操作によりIcepakと構造解析をリンク付けるだけで容易に温度データ転送の設定が可能です。

図3 構造解析にインポートしたはんだの温度分布

(4)熱応力解析の実施

Icepakの温度分布は構造解析の温度荷重として自動的に追加されます。そのため、構造解析に必要な拘束条件、荷重条件を追加するだけで熱応力解析を実行することが可能です。


図4 構造解析で求めたはんだの変形量分布

図5 構造解析で求めたはんだの相当応力分布

(5)CFD-Postでのポスト処理

Icepakの標準ポスト処理機能のほか、Ansys流体解析ツールの統合ポストプロセッサとして開発されたCFD-PostにIcepakの結果を読込み、より高度な結果処理が可能です。また、構造解析の結果も読込むことができますので、流体と構造の結果を同時に処理することも可能です。CFD-Postではその他にも等値面の表示、結果の複数表示、複数結果の比較や様々な統計処理といった機能を豊富に取り揃え図2 Ansys Icepakで求めた基板全体の温度分布ておりますので、より詳細な結果処理が可能です。


図6 電子部品表面の相当応力コンターと
平面上での流速ベクトル

図7 結果の複数表示

更に解析精度を高めるためのIcepakの新機能

電子機器部品の熱応力解析の解析精度を更に向上させるIcepakの新機能をご紹介致します。

マルチレベルメッシュ

Icepakの解析モデルは基本的に直方体や円柱などの単純な形状で構成することができるため、ほとんどのケースで非構造六面体オートメッシュにより品質の良いメッシュを作成することが可能です。またCAD形状を扱う場合のためにマルチレベルメッシュ機能が追加され、複雑な形状に対しても高品質なメッシュを作成することが可能となりました。さらに、マルチレベルメッシュを作成する範囲を必要な形状の周囲に限定することでメッシュ数を最小限にとどめることができます。図8は遠心ファン周辺にメッシュを作成した例で、ファンやガイドベーンの境界付近でメッシュを細かくし、形状を再現したメッシュが確認できます。

図8 マルチレベルメッシュ

配線パターンのジュール発熱

プリント基板の配線形状の3次元化が可能になり、基板に流れる大電流によるジュール発熱を考慮したより詳細な熱解析が可能になりました。図9はプリント基板の配線パターンから一部の配線パターンを3次元化し、ジュール発熱計算時の電位分布を示したものです。また、フィルタ機能によりすべての配線パターンを3次元化するのではなく、ジュール発熱の影響が大きい一部のみを取り出して解析することが可能です。

図9 配線パターンのジュール発熱計算時の電位分布

ICパッケージオブジェクトの配線パターンのインポート

Cadence社のAllegro Package Designer(APD)からICパッケージの設計情報をICパッケージオブジェクトに直接インポート可能となりました。これにより、配線、ビア、はんだボール、バンプ、ワイヤーボンド、ダイなどの情報を元に解析モデルを構築し、ICパッケージの詳細な解析が可能になります。図10はBGAパッケージの配線パターンを考慮して解析した温度分布です。

図10 BGAパッケージの温度分布

最後に

バージョン12.1よりAnsys IcepakがWorkbenchに統合され、流体の流れを考慮した流体構造連成解析がより容易に行えるようになりました。また、マルチレベルメッシュをはじめとした新機能により、従来の伝熱解析や汎用熱流体解析ツールでは再現が困難な電子機器特有の問題について、より詳細に解析できるようになりました。
さらに今回ご紹介した熱応力解析に対し、クリープや亀裂進展と解析機能を考慮させることで、さらに高度化させることも期待できます。

当社発行誌「CAEのあるものづくり」は、CAE技術者の方や、これから解析を行ないたい設計者の方を対象としたWEBマガジンです。年2回(春、秋)発行し、Ansysシリーズを始めとした各種CAE製品紹介はもちろん、お客様の解析事例紹介やインタビュー記事、解析のテクニックなど、スキル向上に役立つ情報をご提供しています。
詳しくは、WEBマガジン「CAEのあるものづくり」をご覧ください。

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