事例
WAONによる音響解析の実施で、スピーカー開発のフロントローディングを実現
JVCケンウッドグループ様 〜CAEの活用で、技術者のノウハウを蓄積・共有化〜
今回のインタビューでは、JVCケンウッドグループの皆様にご協力をいただきました。
JVCケンウッドグループは、株式会社ケンウッドと日本ビクター株式会社という歴史ある二社の経営統合で生まれた組織です。「カタ破りをカタチに。」という企業ビジョンのもと、カーエレクトロニクス事業やホーム&モバイルエレクトロニクス事業、業務用システム事業を中心に魅力ある製品をワールドワイドに提供し、多数のファンを獲得しています。
今回は車載用スピーカーを開発・設計されているJ&Kカーエレクトロニクス株式会社での音響解析ツール「WAON」を用いた解析事例を中心に、解析ツール利用のメリットや、スピーカー開発特有の興味深いお話を伺いしました。
(以下、お客様の名前の敬称は省略させていただきます。)

左から阿部様、冨澤様、熊倉様、重田様
今回お話いただいた方々
J&Kカーエレクトロニクス株式会社
市販事業部 スピーカ・アンプ部
開発グループ長 兼 品質保証グループ長 熊倉 弘幸様
開発設計グループ 重田 朗様
第一商品設計グループ 冨澤 達史様
JVC・ケンウッド・ホールディングス株式会社
統合シナジー推進部 CS・品質担当
シニアスペシャリスト 大角 親生様
チーフ 阿部 雄次様
フロントローディングの実現を目指す専門技術集団
最初に皆さんの所属やご担当をお聞かせください。





CADの延長として定着した磁場解析と、難易度が高いが 重要性が増す音響解析。
社内での解析への取り組みが進んでいるようですね?
磁場解析や構造解析の活用は部門内で 浸透されているようですね。 今回事例をご紹介いただく音響解析はいかがでしょうか?
スピーカー形状による音の指向性を解析で検証。 解析実施によって派生する様々なメリット
具体的には、現在どのような解析に取り組まれていますか? 特にWAONの音響解析事例についてお伺いしたいのですが。

車載スピーカで指向性が重要な理由

つまり…

過去モデルの検証(境界要素法の例)

現状での問題点

解決策(音圧分布を傾けるには)

結果
図1 WAONによる音響解析事例(パネルによる音響指向性制御)
まとめ
● スピーカユニット前面に取り付けるパネル形状を工夫する事により、音場分布軸を傾ける事を実現した。
● 大規模音響解析により、今まで見えてこなかった音場分布の全体像が視覚的に確認する事ができる。
● 解析と実測との比較により、より実機に近い形での検討が可能となった。(フロントローディング)

図2 解析(上)と実測(下)の比較表
※このグラフは形状を比較するために、縦軸をわざとずらしてあります。
今回の解析事例におけるメリットをお聞かせください。
今回の解析結果を反映した製品は、順調に売り上げを伸ばし ているとお聞きしました(図3)。

図3 実際の製品の写真。前面パネルにWAONで解析したパネル形状を採用
数値だけでは評価できない。 官能的評価がされる音への設計者のこだわり。
売上に直結する製品の音ですが、「良い音」と「悪い音」はど のように評価しているのですか?
評価に「官能的」という要素が入るとなると、担当者個人の 評価が非常に重要になりそうですね?
よりよい製品の開発を目指して。 今後は車室全体での解析や、解析同士の連動システムを。
当社や製品に対するご要望があればお聞かせください。

図4 ANSYS Workbench環境で動くWAON
今後取り組んで行きたいことがあればお聞かせください。
JVCケンウッドグループ 熊倉様、重田様、冨澤様、大角様、阿部様には、お忙しいところインタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。
この場をお借りして御礼申し上げます。
番外編 : 無響室を見学させていただきました
インタビュー当日は、製品の測定・検証を行う「無響室」も見学させていただきました。
同社の無響室はビルの2Fから4Fまでをくり抜いた空間にワイヤーで保持されており(箱が浮いている状態)、外の影響を受けにくくなっています。関東近辺では相当大きなサイズの無響室の一つとのこと。部屋の静かさの指標でNC値というものがあるそうなのですが、こちらの無響室は最も静かなレベルであるNC-15以下にあたるそうです。
部屋の中で試しに手を叩いてみましたが、全く音が響きませんでした。加えて、声を発するとその人の方向が明確にわかりました。この部屋を出た後、私たちが普段いる空間ではとても音が反響しあっていることを肌で感じました。
部屋の利用方法は、マイクの前にスピーカーを設置し、少しずつマイクに対するスピーカーの角度を変えながら音の伝わり方である指向性を測定します。
スピーカーの角度を変えるたびに防音のための重たいドアを開閉して部屋を出入りし、室外から測定器を操る作業を繰り返されるそうで、時間も手間もかかる非常に根気がいる作業とのことです。製品の測定が続くときは担当者は缶詰めになるそうで、しかも製品リリースが重なる際は部屋の取り合いも起きるそうです。
無響室での作業を考えると、解析である程度の傾向を導き出せたことはたいへん有益で時間短縮につながったとのことです。
今後もお客様の工数削減や品質向上のお役に立てるよう、音響解析ツールWAONの機能強化やサポートの充実を進めていこうと思いました。

中央にスピーカーを埋め込んだバッフル箱。この箱を少しずつ回転させて測定を行います。

無響室の内部。グラスウールが詰まった楔形状の突起が、天井・床・壁面に隙間なく並び、高い吸音効果を実現しています。