事例
境界積分方程式型音源を用いた多指向性音源の音響解析
こんな方におすすめ
- 指向性のある音源を用いた音響解析の解析精度、解析時間が気になる方
- スピーカやブザーなどを用いた音の伝搬空間設計に興味・関心がある方
- ファンなどの騒音源となる機器を用いた製品の設計開発をされている方、それらの騒音をシミュレーションで評価したい方
背景
スピーカやブザーなどの音響機器やファンなどの騒音源となる機器は、特に周波数が高くなると特定の方向に強く音を放射する一方で他の方向にはあまり音を出さないといったような指向性をもつようになります。空間の音の伝搬をシミュレーションする音響解析においてこのような指向性を持つ音源をどのようにモデル化するかというのは解析の精度や解析時間に大きな影響を与えます。
WAONでの境界要素法や(他の音響解析ツールによる)有限要素法を用いた音響解析における音源のモデル化方法としては基本的に以下の二つの方法が考えられます。
①音源自体の形状をメッシュにて表現して、その音源の振動面に振動速度などを与える
②音源機器の形状はメッシュで表現せず、球面上に音波を放射する点音源といったように音源自体の形状(体積)は考慮しない仮想的(理想的)な音源モデルとして表現する
①の方法は正確に形状や振動速度を表現できれば解析精度は高いですが、複雑な音源機器の場合メッシュ数の増加などにより計算コスト(計算に必要なメモリ量や計算時間)が高くなってしまう可能性があります。②は計算コストを抑えることができますが、複雑な指向性の表現が困難な場合があります。
BIE音源
WAONで実装されている境界積分方程式(Boundary Integral Equation:BIE)型音源を使用することで、任意の放射指向性を持つ音源について、音源自体の形状は表現することなしに指向性をもつ音源として表現することが可能です。これは、まず図1のように自由空間内の特定の領域を想定し、その特定領域の境界面上における音圧と空気粒子振動速度が分かる場合、特定領域の外部空間における音圧は積分方程式で表すことができるという理論に基づきます。
WAONの音響解析でこのBIE音源を使用する場合、まず音源単体をメッシュで表現して自由空間に配置し、その音源を取り囲む仮想境界面上の音圧と粒子速度を計算して結果出力しておきます。その結果ファイルを他の音響解析計算時に音源としてインポートすることで、指向性をもった音源モデルとして使用することが可能となります。

図1:音場領域 Ω 内の任意の点 𝑦 における音圧 𝑝(𝑦) は、境界面 Γ 上の音圧 𝑝(𝑥) とその法線方向微分 𝜕𝑝(𝑥)/𝜕𝑛 によって境界積分方程式にて表される
解析例
スピーカをモデル化した解析例を示します。ここでは図2のようなスピーカを図3のように建屋の近傍(赤丸位置)に配置した場合の建屋まわりの音響解析を実施することを想定しています。本解析ではまず図2のようにスピーカ形状をメッシュで表現してそれを自由空間に配置した音響解析を実施します。このときスピーカを取り囲むように仮想境界面(結果出力面)を作成し、音響解析結果としてその仮想境界面上の音圧と粒子速度結果を出力しておきます(図4。なおこの解析をstep1とします)。続けて建屋まわりの解析において音源位置に、step1で用いた仮想境界面のメッシュと出力しておいた音圧・粒子速度結果をインポートして解析を実施することで、この建屋まわりの解析ではスピーカのメッシュを作成することなく、スピーカ指向性を考慮した解析結果を得ることができます(図5)。

図2:スピーカ

図3:建屋周辺空間(黄色のメッシュ部が建屋、薄紫の面が地面)とスピーカ配置(赤丸位置)

図4:スピーカを取り囲む仮想境界面(左)とその面上の音圧結果(右)

図5:スピーカの指向性を考慮した音響解析結果
もう一つの事例としてファン騒音の解析例を示します。流体解析ツールとしてAnsysを用いた流体解析結果においてファンを内包する仮想境界面上の圧力と速度の変動値からFFTなどにより音響解析用のデータを生成し、WAONによる音響解析における指向性音源として利用します(図6)。

図6:ファン騒音解析における指向性音源の利用
