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モデルベース開発(MBD)とは? 開発プロセス全体の効率を大幅に向上させる手法を解説

モデルベース開発(MBD:Model-Based Development)とは?

モデルベース開発(MBD:Model-Based Development )は、製品やシステム、機能等の設計・開発において、コンピュータ上で数式によって再現したモデルを用い、設計および検証を行う開発手法です。従来のドキュメントベースの開発手法と異なり、システムの機能や動作を数学的、物理的に表現したモデルを作成し、そのモデルを活用して設計、シミュレーション検証を行います。試作品の製作にはコストと時間を要する為、試作前の早期段階で、設計と検証を並行して進めることにより(開発のフロントローディングを実現)、実機検証時などの開発後工程で発生する手戻りが大幅に減少し、開発プロセス全体の効率を大幅に向上させることができます。
さらに、モデルとシミュレーションにより生成されたデータは、他のプロジェクトや部門、関連企業とも再利用ができるため、企業全体でのリソースや知見の共有が促進されます。
サイバネットグループでは、長年積み上げてきた高度なモデリング技術で、モデルベースを取り入れた一連の開発プロセス改革を支援しています。

MBD(モデルベース開発)の基本原則

MBDは、以下の基本原則に基づいています。

1. モデル中心の開発

MBD(モデルベース開発)では、製品・システム・コンポーネント等の仕様、機能、動作をモデルとして表現し、そのモデルを中心に開発を進めます。設計工程の各段階で問題を早期に発見し、修正することが可能です。
また、エンジニアリングの共通言語として機能することで、設計者間のコミュニケーションを円滑にすることができます。プロジェクト開発全体の連携が強化され、複雑化する製品設計の品質向上にもつながります。

2. シミュレーションによる検証

モデルを使用してシミュレーションを行い、設計が意図した通りに機能するかを確認します。
実際のハードウェアやプロトタイプを作成する前に、シミュレーションとフィードバックを迅速に行うことで、多くの不具合や課題を発見し、対策を織込むことが可能となります。

3. デジタルツイン

デジタルツインは、MBDにおいて重要な役割を果たします。
実際の物理システムや製品状態を、センサーから収集されるデータをもとにリアルタイムでデジタル環境に表現し、高精度なシミュレーションとデジタルツインのリアルタイムフィードバックを用いることで、例えば、物理環境では計測ができない箇所のモニタリングや不具合の発見、実機テストの効率化も図ることができます。

4. 自動コード生成

MBD(モデルベース開発)では、モデルから自動的にソースコードを生成することが可能です。
これにより、手作業によるコーディングのミスを減らし、コードの品質を向上させることができます。

5. 継続的な検証・テスト

開発の各段階でモデルを使用して検証やテストを行い、設計の妥当性を確認します。モデルやシミュレーション環境を構築することで、設計変更があった場合でも迅速に検証とフィードバックが可能です。

MBD(モデルベース開発)のメリット

MBD を採用することにより、以下のような多くのメリットが得られます。

1. 開発効率の向上

モデルを使用することで、設計の初期段階からシステム全体の動作を可視化できるため、設計ミスの早期発見や修正が可能です。
また、モデリングやシミュレーション環境を構築することで、設計仕様や現象のメカニズムの理解促進につながり、設計者のスキルアップにもつながります。

2. 品質の向上

シミュレーションを通じて設計仕様を繰り返し検証できるため、最終製品の品質が向上します。
また、複数の仕様バリエーションに対するテストベンチの構築やシステム全体のテストも容易になります。

3. リスクの軽減

試作品等のハードウェアを製作する前に、設計の妥当性を確認できるため、トライアンドエラーの開発リスクが大幅に軽減されます。
特に、自動車や航空宇宙などの安全性が重視される分野では、デジタル環境の検証によりMBD(モデルベース開発)の効果は顕著です。

4. コストの削減

早期の問題発見と修正により、設計変更に伴うコストが削減されます。
また、試作品の製作が減少することで、開発全体のコストも削減されます。

MBD(モデルベース開発)の適用分野

MBD は、特に以下のような分野で広く採用されています。

1. 自動車産業

自動車産業におけるMBD(モデルベース開発)は、設計から製造まで多くのプロセスに革新をもたらす重要な手法として広がっています。
車両制御システム、パワートレイン制御、AD/ADAS(自動運転/運転支援)などの開発で不可欠となり、モデルを活用して制御アルゴリズムを設計し、シミュレーション環境で動作を確認してから実車テストを行うことで、不具合の未然防止や品質が向上します。
例えばエンジン/モーター設計では、燃費をシミュレーションすることで、試作品の製作前に制御設計や不具合の発見、最適設計が可能です。このため、実機製作後に発生する手戻りが減り、製品開発のコスト削減やリードタイム短縮に貢献します。従来の開発手法に比べ、効率化されるため、開発プロセスの一部としてMBDが採用されています。

MBDは、部品ごとに異なる専門知識が必要な自動車設計においても、共通のプラットフォーム上で設計データを共有できるため、エンジン/モーターやシャシー、電子制御ユニット(ECU)などの各分野の専門家が連携して開発を進めることができます。
設計の上流から下流工程にわたり、設計の妥当性確認や検証が繰り返し行われるため、製品の品質向上と不具合発生率の低減を実現できます。例えば、AD/ADASの機能は、複数のユニットやシステムから構成される為、シミュレーション環境の構築も複雑となり、共通プラットフォームによる工夫も必要です。
故障を再現したシミュレーションでは、実際の走行テストでは困難な環境での検証や事前評価が可能となり、検証の効率化にもつながります。このようにMBDの導入によって、設計、試験、製造のプロセス全体が効率化され、製品の競争力が強化されます。

2. 農機・建機産業

自動車産業同様にMBD(モデルベース開発)は重要な手法として定着しています。
これらの機械は、過酷な作業環境での運用を前提としており、作業効率や耐久性等が必須です。
特に、パワートレイン制御や油圧システムの制御、自動運転技術の開発において、MBD(モデルベース開発)を活用することで開発プロセスの効率化が図られています。

3. 航空宇宙産業

航空宇宙産業におけるMBD(モデルベース開発)は、フライト制御システムやエンジン制御システムなど高度な信頼性が求められる分野で、設計精度と効率を高める重要な役割を担っています。
例えば、航空機設計では飛行性能や燃料効率、耐久性をシミュレーションで予測することで、不具合の未然防止や設計工数の削減が可能です。
また、宇宙探査機や人工衛星の設計でもMBDは不可欠で、着陸や移動、姿勢制御の最適設計の為にシミュレーションが活用されています。MBDの活用により、航空宇宙業界での設計効率や信頼性が向上し、リスク低減にも貢献しています。

4. 家電製品

家電製品の開発では、MBD(モデルベース開発)を用いることで、設計の効率と品質が大幅に向上しています。
スマート家電やロボットなど、複雑なシステムを持つ製品では、シミュレーションと検証を行うMBDの導入により、試作前に性能や信頼性の評価が可能です。たとえば、温度調節器の制御システムへ採用など、設計段階でシステムシミュレーションを実施することで、潜在的な不具合の早期発見や、制御定数およびアルゴリズムの設計が実現されます。

5. 医療機器

医療機器の開発においても、サイバーセキュリティ対応などソフトウェアの複雑化が増しており、MBD(モデルベース開発)は品質管理と規制対応のための必要不可欠なツールとなっています。

MBD(モデルベース開発)の課題

MBD には多くのメリットがある一方で、いくつかの課題も存在します。

1. モデルの複雑さ

システムが複雑になると、モデル自体も複雑化し、精度の確保が難しくなることがあります。
機械学習/AIの活用、データ駆動型の非線形システムモデリングなど、モデルの作成や保守に必要な専門知識や技術が高度化しています。
初めにMBDの目的と目標を設定し、達成すべき成果を明確にした上で、ステップを踏んでモデリングとシミュレーション環境を構築していくことが重要です。

2. ソフトウェア選定・互換性

MBD(モデルベース開発)では、さまざまなツールやソフトウェアが使用されますが、それらの互換性や統合性が課題となることがあります。
適切なソフトウェア選定はMBD成功の鍵です。例えば、複数のソフトウェアを連成した環境の構築には専門スキルが必要であり、目的や目標に沿ったツールの選定やシミュレーション環境を構築しなければ、解析精度の低下により、必要な分析を実現できない可能性があります。

3. 教育とスキルの向上

MBD(モデルベース開発)を効果的に導入するためには、開発チーム全体のスキルと知識を向上させる必要があります。
既存の業務プロセスや価値観に固執すると円滑な導入が妨げられます。組織全体が新しい方法論を受け入れ、柔軟な思考を持ち、MBDに関するトレーニングや教育を行っていくことが不可欠です。

まとめ

モデルベース開発(MBD : Model-Based Development)は、モデルを中心に据えた開発手法であり、特に複雑なシステムの設計や開発において多大なメリットをもたらします。MBD を導入することで、開発効率の向上、品質の向上、リスクの軽減、コストの削減が期待できます。しかしながら、MBDを効果的に運用するためには、適切なツールの選定やチームのスキル向上が必要です。
MBD は、あくまで開発プロセスを改善する手段のひとつであり、製造業の開発現場にMBD を取り入れる際には、開発プロセスを理解した上で、目的に応じた対応等の工夫が必要です。

モデルベース開発(MBD)の導入は、サイバネットにおまかせください

サイバネットは、約40年の間、あらゆる製造業界の開発現場へMBD を導入する為の支援実績や、教育機関・官公庁等との共同研究の経験があります。
MBD 環境構築の手順やノウハウ等の独自知見を活かし、お客様の開発プロセスや目的をしっかりと把握した上で、開発現場に活きるプロセス構築のコンサルタントをお受けいたします。

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