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分野別の課題

ゴースト(迷光)低減レンズのための設計と視覚的検証アプローチ

解析概要

レンズの結像設計では、物体から出射された光線がレンズを通過し、屈折を繰り返して像面上に結像する過程を設計します。ひとつのレンズ系において、複数の波長や画角に対応する光線が像面上でどのように結像し、それによりどのような結像性能が得られるかを解析します。
結像設計は文字通り「結像」に焦点を当てた設計ですが、実際の製品では使用環境下で光がレンズ面やメカマウント表面で反射・散乱を起こすことも考慮しなければなりません。これらの不要な光が像面に到達すると、本来映るべきでない像、いわゆる「ゴースト(迷光)」が発生します。
図1は、太陽を撮影したサンプル画像です。太陽以外にも光の球が写っており、これはレンズ面で繰り返し反射した光がセンサー上に結像する形で到達した場合に発生したゴーストです。このような強い(明るい)ゴーストは画像の見栄えを損なうだけでなく、たとえば車載カメラでは対向車のヘッドランプや信号を誤認識するリスクがあり、FAカメラでは製品検査の妨げとなる可能性があります。そのため、レンズ製品においてはゴーストの発生を可能な限り抑える必要があります。

図1 : 太陽を撮影した際に映りこんだ球状のゴースト

ゴーストの発生状況は、照明解析の手法を用いたシミュレーションによって確認できます。レンズモデルに対して無数の光線を照射し、ランダムな反射を再現することで、最終的に光線が像面にどのように到達するかを解析します。このようなシミュレーションにより、製品製造の前段階でゴーストの発生を検証することが可能です。そして、検出されたゴーストを低減するためには、それを考慮した結像設計の最適化が求められます。
本稿では、光学設計ソフトウェア Ansys Zemax OpticStudio (以下、OpticStudio)で構築した結像設計モデルに対して、3次元光学解析ソフトウェア Ansys Speos(以下、Speos)を用いたゴーストシミュレーションを実施し、ゴーストの発生状況を視覚的に確認します。そして、OpticStudioによる最適化の前後でゴーストの低減効果を比較します。

背景/課題

ゴーストを回避するには

ゴーストを低減する方法として、大きく二つのアプローチが考えられます。
一つは「反射防止(AR)コーティング」の活用です。レンズは光を反射しやすいため、製品には通常ARコートが施されます。これによりレンズ面での反射光が抑えられ、ゴーストを軽減することが可能です。ただし、ARコートによってもゴーストの発生を完全に防ぐことはできません。たとえ反射率が下がっても、光源の強度によってはゴーストが相対的に目立ち、最終的に画質に影響を与える場合があります。もう一つの方法は、「レンズ形状の変更」です。レンズ面での反射そのものは避けられないため、反射光が像面の外に逃げるように、あるいは像面に届いても結像しないように設計することで、撮影画像へのゴーストの影響を抑えることが可能です。 本事例では、後者のレンズ形状の変更でゴーストを低減する方法に着目します。ゴーストの挙動を明確に把握するため、あえてARコートを施していない、ゴーストが発生しやすいモデルを用いて検証を行います。

ゴーストシミュレーション

ゴーストは照明解析の一環としてシミュレーション可能です。レンズモデルに光線を入射し、透過や反射の挙動を追跡することで評価を行います。照明解析は、OpticStudioのノンシーケンシャルモードやSpeosで実施できますが、本資料ではOpticStudioのシーケンシャルモードで設計されたデータに対する、Speosでのゴーストシミュレーションをご紹介します。Speosは、3Dモデルの操作性や特定の光路の可視化に優れています。

解析の仕様

解析のゴール

OpticStudioで作成した初期設計データと、最適化後のデータについて、Speosによるシミュレーションを通じてゴースト像を視覚的および解析的に比較・確認します。これにより、最適化によってゴーストが効果的に低減されていることを検証します。

モデル

表1および図2で示す広角レンズで検証します。レンズ面にはARコートを施していません。

構成 球面レンズ10枚
F# 2.1
焦点距離 4.33mm
全画角 200°

表1 : サンプルモデルの仕様

図2 : サンプルモデル

解析条件

本事例では、入射角45°の光線により発生するゴーストを検証します。図3は入射角0°と45°の光線のレイアウトです。

図3 : 入射角0°および45°の光線レイアウト

このような初期データのゴーストをSpeosによるシミュレーションで確認したのち、OpticStudioでゴーストを低減させる最適化を実行して、再度.ODXファイルをSpeosへエクスポートしてシミュレーションすることで、最適化によりゴーストが弱まっていることを確認します。この解析フローを図4に示します。

図4 : 解析フロー

解析結果

実際の解析

Ⅰ : OpticStudioから.ODXファイルのエクスポート

OpticStudioとSpeos間のゴーストシミュレーションを効率的に行うため、.ODXファイル形式でデータ連携を行います。.ODXファイルはOpticStudioからエクスポート可能なSpeos専用の光学モデルデータであり、3Dレンズ形状、材質、コーティング情報などを含みます。Speosではこのファイルをインポートするだけでシミュレーションに必要なレンズモデルを即座に構築でき、再度レンズをモデリングする手間が省けます。

Ⅱ : Speosでゴーストシミュレーション

Speos上で光源とセンサーをモデリングし、OpticStudioで作成した.ODXファイルをインポートします。図5はSpeos上でのモデル断面図で、表示されているレンズは.ODXファイルから取り込まれたものです。本事例では省略していますが、必要に応じてCAD形式のメカマウント設計データなどを追加することも可能です。これでSpeosでのモデリング工程は完了です。

図5 : Speosでのモデル断面図

次に、Speosを用いて光線追跡シミュレーションを実施します。光源には1[W]の出力を設定し、2.0E+7本の光線を用いて、2,856Kの黒体放射スペクトルに基づく解析を行っています。図6はその照度分布結果で、光源の像およびゴースト像が明瞭に視認できるよう、スケールの上限を1.0E+6に設定しています。光源の像以外で明るく表示されている部分がゴーストであり、今回は光源の像の上部に現れた明るい球状のゴーストに着目します。

図6 : 初期データのゴーストシミュレーション結果

図7は、SpeosのVirtual Lighting Controller機能を用いて、対象のゴーストのみを可視化した照度分布を示しています。さらに図8は、このゴーストを生成する光路のみを描いたモデルの断面図で、図7で選択した光路シーケンスがモデル画面にも反映されており、特定のゴーストが通過する経路を視覚的に把握することが可能です。この結果から、当該ゴーストは「10枚目レンズ後面-9枚目レンズ後面」の二重反射によって生じていることが確認できます。

図7 : ゴースト像のみを抽出した照度分布

図8 : ゴーストの光路

このゴーストについて、定量的な評価を行います。SpeosのSequence Detection機能を用いることで、各光路における光強度の確認が可能です。図9より、初期データにおける当該ゴーストの照度は、光源出力1[W]に対して、平均値(Average)が約0.077[W/m²]、ピーク値(Peak)が約109[W/m²]であることが確認できます。

図9 : ゴーストの定量評価

Ⅲ : OpticStudioでゴースト低減のための最適化

Speosのシミュレーションにより、「10枚目レンズ後面-9枚目レンズ後面」の組み合わせによるゴーストを確認できました。次に、このゴーストを低減するための操作をOpticStudioで行います。ここでは、GPIMオペランドを用いてゴーストを直接制御します。GPIMオペランドは、軸上画角の光線について、指定した一対の面で発生するゴースト像と、像面との距離の逆数を算出するもので、目標値を0に設定して最適化を行うことで、ゴースト像を像面から離すことが可能です。図10に示すように、ゴースト像が像面から離れると焦点が合わなくなり、照射面積が広がることでピーク強度が低減され、ゴーストの影響が軽減されます。今回は、入射角45°の光線によるゴーストを低減する例ですが、この場合にもGPIMオペランドを使用しています。これは、軸上画角におけるゴーストを低減させることで、軸外画角の光線に対する同様のゴーストも低減される傾向があるためです。

図10 : ゴーストの結像状態の違い

図11は、GPIMオペランドの最適化前後における比較結果を示しています。本モデルにおいては、10枚目レンズの後面がレンズデータエディタ上の第20面、9枚目レンズの後面が第18面に該当します。GPIMの値が小さくなった、すなわちゴースト像が像面から離れた状態となった新たなモデルに対し、再度.ODXファイルを作成し、Speosでシミュレーションを実施します。

図11 : ゴースト低減のためのGPIMオペランド

Ⅳ : 最適化で得られたモデルに対して再度Speosでゴーストシミュレーション

Ⅱと同様の手順でシミュレーションを実行し、ゴーストの強度も確認します。図12~14はその結果を示しています。照度分布を見る限り、初期状態で見られたような明るいゴーストは確認されません。定量的な評価では、光源出力1[W]に対して、平均値が約0.038[W/m²]、ピーク値が約1.78[W/m²]であることがわかりました。

図12 : 最適化後データのゴーストシミュレーション結果

図13 : 最適化後データで該当ゴーストを抽出

図14 : 最適化後のゴーストの定量評価

解析結果の評価

表2および図15に示すように、最適化前後でゴーストの強度および見た目を比較すると、いずれも低減されていることが確認できます(表2の強度は概算値を記載)。最適化により、ゴーストの集光点が像面から外れ、像面上での照射面積が広がっていることが視覚的にも確認できます。

表2 : ゴースト強度の最適化前後の比較

図15 : ゴースト照度分布の比較

まとめ

本事例では、Ansys Zemax OpticStudioで設計したレンズモデルに対し、Ansys Speosでゴーストの発生をシミュレーションし、対策が必要なゴーストを特定・低減する設計解析フローをご紹介しました。Speosによる照明解析の結果、球状の強いゴーストを抽出し、発生源となるレンズ面を視覚的に確認しました。その後、OpticStudioで該当ゴーストの低減を目的とした最適化を実行し、再度Speosでシミュレーションすることで、効果的にゴーストが抑制されたことを確認しました。
今回取り上げたのは一種類のゴーストのみですが、実際にはレンズ面の複数の組み合わせによって多様なゴーストが発生し、その多くが像面に到達します。Speosで各ゴーストの強度を解析しながら、低減が必要なゴーストを特定し、OpticStudioの最適化ターゲットとして設定することで、より高品質な撮像レンズの設計が可能になります。
このように、設計段階からゴーストの発生要因に対して対策を講じることで、試作工程における手戻りの低減が期待できます。

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