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分野別の課題

ペロブスカイト太陽電池・有機薄膜太陽電池の解析事例

1.はじめに

近年、地球温暖化が問題となっており、原因の一つとして二酸化炭素が挙げられています。火力発電から太陽光発電に切り替えることで二酸化炭素の排出量を削減することができると言われており、太陽電池への注目が高まっています。
現時点での太陽光発電の主流はシリコン太陽電池ですが、それ以外の太陽電池の研究開発も進められており、その中でもペロブスカイト太陽電池※1は軽い・曲げられる・低照度でも効率が落ちにくい等のメリットがあり、注目を集めています。例えば建物の壁や曲面への貼り付けなどの応用が考えられています。さらには、塗布法で製造が可能なため、製造コストも抑えられるとされています。有機薄膜太陽電池にも、ペロブスカイト太陽電池と同様のメリットがあります。
ペロブスカイト太陽電池・有機薄膜太陽電池は積層構造からなります。異なる屈折率の層が接すると層の境目で反射が起こるため、層の膜厚が薄い場合は、界面で反射せずに透過した光と層の上下の界面で反射してから層を透過した光の間で干渉が起こります。そのため、特定の波長が強められたり、弱められたりするので、この干渉を考慮に入れて太陽電池の構造を設計する必要があります。例えば、Fluxim社のSetfos※2でシミュレーションを行うとこの干渉を考慮に入れて、発電層で吸収されるエネルギーを計算することが可能です。そのため、決められた条件の中で吸収量ができるだけ大きくなるような構造を見積もることができます。
また、太陽電池の設計には光学特性だけでなく電気特性も重要です。光学特性のみに注目して最適化し、発電層で吸収される光量が最も多い素子を設計しても、吸収した光で発生した電荷が電極から取り出されないと太陽電池の効率は低くなります。Setfosでは、材料の移動度やエネルギー準位などのパラメータを入れると光学・電気の連成解析が行えるため、電流密度電圧特性などを算出することが可能です。これにより、効率や最大電力を見積もることも可能ですので、パラメータが変化した時の太陽電池の特性変化を予測できます。
移動度はさまざまな方法で見積もることができ、方法の一つとしてCELIV(Charge Extraction by LinearlyIncreasing Voltage)が挙げられます。CELIV法により光を照射して電荷を発生させ、電圧をスイープし、スイープした時の電流の波形から移動度を見積もれます。光を照射している間は開放電圧に保ってその後一定速度でスイープするという特殊な信号が必要ですが、Fluxim社のPaios※3はそのような信号を出力することができます。さらに、直流電圧に小さな交流電圧を印加してインピーダンス分光を行い、素子の等価回路の抵抗・コンデンサ成分を求めるなどの解析もPaiosで可能です。本稿では、ペロブスカイト太陽電池・有機薄膜太陽電池に関する各種シミュレーション例を紹介します。

2.デバイス光学シミュレーション例

ここでは有機薄膜太陽電池を二つ重ねたタンデム太陽電池の光学解析例を示します。2端子型のタンデム太陽電池は太陽電池を直列に並べた構造をしているため、それぞれの太陽電池で流れる電流は同じになります。そのため、重ねたそれぞれの太陽電池で発生する光電流が異なる場合、最も小さい電流しか取り出せません。すなわち、複数の太陽電池の発電層で発生する電荷の量を、同程度にする(発生電荷量が少ない発電層をなくす)設計がよいと考えられます。
ここでは図1のタンデム太陽電池を考えます。赤四角で囲んだ部分が発電層です。そして、二つの発電層の膜厚をそれぞれ150 ~ 250nmの範囲において10nm刻みでスイープし、それぞれの発電層で、太陽光を吸収して発生した電荷を全て外に取り出せた場合の電流密度に換算したグラフをそれぞれ図2、図3に示します。

図2 、3から上側の発電層の膜厚が250nmに近い場合、上側の発電層は発電量が多く、一方、下側の発電層は発電量が小さいため、最適条件が異なることがわかります。外に取り出すことのできる電流密度は、両方の発電層の小さい方であるため、図4のようになります。
図4の結果から、上側・下側の発電層がともに190nmの時、最大の電流密度が得られました。さらに、最適化を行うと、上側が192.7nm 、下側が200.0nmの時、最大の電流密度が得られました。
この例は有機薄膜太陽電池を重ねた場合ですが、ペロブスカイト太陽電池とシリコン太陽電池を重ねた場合についても同様のシミュレーションが可能です。このように、シミュレーションにより、光学的な観点で最適な膜厚を予測することが可能となります。
なお、光を吸収して電荷が発生しても、電極に取り出すまでにはロスなどがあります。その影響まで考慮に入れるには電気シミュレーションの結果も必要となります。

図4 タンデム太陽電池で取り出される電流密度の膜厚依存性

3.デバイス電気シミュレーション例[1]

最初の章で述べたように、材料の物性として、HOMO/LUMO準位※4・移動度・比誘電率、電極の仕事関数などのパラメータを入れると、電流電圧特性をシミュレーションすることができます。さらには、短絡電流・開放電圧だけでなく、各電圧での電場分布や電子・ホール密度等も求めることができます。また、過渡応答による解析もシミュレーションでき、その結果から効率向上の検討を行うことも可能です。
図5は電気シミュレーションを行ったペロブスカイト太陽電池の構造とエネルギーダイヤグラムを示しています。
ここで、発電層であるペロブスカイト層に3.6×1016 [cm-3]の濃度で、5×10-9 [cm2/Vs] の移動度の可動陰イオンがあるとします。
この素子に対し、光を照射しながらVO C(開放電圧)から0Vに電圧を変化させた時のシミュレーションを行いました。
図6に電流(短絡電流)印加した電圧の時間変化とシミュレーションで求められた結果を示します。
図6から、電圧を0Vにした瞬間では27.6 [mA/cm2]流れていた電流が少しずつ減少し、5秒後には26.5 [mA/cm2]まで減少しました。なお、素子にイオンがない設定にして同じシミュレーションを行うと、このような減少は見られませんでした。
VOC(開放電圧)から0Vに電圧を変化させ、電圧を変化させた後の陰イオン・電子・ホールの密度も、時間ごとに出力可能です。
図7の25us後の電荷密度に注目すると、イオンを考慮した場合のホール密度(青線)は、イオンを考慮しない場合のホール密度(黄色線)と比べて傾きは小さくなりました。
これによりビルトイン電場が一部スクリーニングされ、バンド図や電位のグラフでも傾きが小さくなりました。
また、2.5秒後の状態では、陰イオンがペロブスカイトと電子輸送層の界面に集まるため、ペロブスカイト層内でのホール密度の傾きは少なくなります。これにより、バンドやポテンシャルは水平に近くなり、電荷輸送が制限されてしまいます。
この影響を防ぐ方法として、電子輸送層にドナードープ※5して、陰イオンがペロブスカイト層と電子輸送層の界面に蓄積することを防ぐ方法や、ペロブスカイト層の電子移動度を上げてドリフト電流・拡散電流を増やす方法が挙げられます。
これを確認した結果が図8で、イオンを考慮した場合(赤)に対して、電子輸送層にドナードープした場合(茶)やペロブスカイト層の電子移動度を大きくした場合(赤紫)、イオンを考慮しない場合に近い特性がシミュレーションで求められました。
この結果から、電子移動度を大きくしたり、電子輸送層にドナードープしたりすると短絡電流が上昇し、効率向上につながる可能性があることがシミュレーションから予測されました。

図5 検討した太陽電池の構成とエネルギーダイヤグラム

図6 電圧の変化(左)と、電流の時間変化(右)

図7 25us後(左)と2.5秒後(右)の電荷密度・バンド図・電位

図8 短絡電流の時間変化

4.凹凸の影響の光学シミュレーション例

太陽電池の効率向上のためには、各層の屈折率や厚みを検討するだけでなく、層の界面に凹凸を検討することによっても可能です。
ここでは図9のようなペロブスカイト材料とシリコンのタンデム太陽電池を検討します。
この例では、下側の発電層であるSi層をエッチングして表面に凹凸を発生させ、その上にa-Si、ITO 、銀を凹凸がSi層と同じ形状になるよう積層した場合を、凹凸がない場合と比較しています。
図10がシミュレーション結果です。凹凸層を設けることにより、Si層の光吸収が1000nm以上の波長で増えることが示されました。なお、ペロブスカイト層には凹凸がないため、ペロブスカイト層の吸収量に変化はありませんでした。

図9 比較検討した太陽電池の構造

図10 発電層での吸収の比較

5.パネル電気シミュレーション例[2]

これまではデバイスのシミュレーション例を示しましたが、効率向上のためにはパネル設計も必要です。例えば、太陽電池の電極を流れる電気抵抗による電力を防ぐために補助金属配線の形状や幅を検討するなどが挙げられます。
このような設計検討はLaoss※6を使ったシミュレーションで可能です。ここでは、パネルサイズを50mm×41mmで固定し、このパネルを複数のセルに分け、図11のようにそれぞれを直列につなぎます。その際に得られる最大電力が最も大きくなる場合の分割数を求めます。
分割数を大きくすると一つの面積が小さくなって電極での電圧降下が減るため、曲線因子が上昇して効率向上に寄与します。一方、接続部分(図11のdead area)が増えるため、太陽電池として動作する面積(active area)が小さくなり、取り出し電力低下の要因となり得ます。
このように、分割した際に取り出し電力が上がる理由と下がる理由があるため、両方の要因を考慮して最適な構造を見つける場合、シミュレーションを行う必要があります。
今回の例では、図12のように4分割したときが、最大電力点における取り出し電力が最も大きくなりました。

図11 断面図と正面図(分割数5の場合・active areaを①~⑤で表示・両端は接続部)

図12 シミュレーション結果

6.測定による物性値予測例[3]

太陽電池を設計するにあたり、代表的なパラメータとして移動度が挙げられます。移動度は、一定電圧をかけた際に自由電荷が電極の方向へ移動する平均速度に関連し、太陽電池の効率にも影響します。この移動度を測定するには、電流密度が電圧の2乗に比例する領域での電流密度電圧測定結果をMott-Gurney則でフィッティングする方法も挙げられますが、多くの仮定を満たす場合に適用可能だったり、電流が電圧の2乗に比例する条件にするには高い電圧が必要だったりします。そこで、CELIV法が提案されています。CELIV法では、線形に増加する電場を発生させる(電圧を線形に変化させる)ことでデバイス内の電荷を取り出します。この時、ピークの出る時間・ピーク電流値と変位電流の差・膜厚・電圧の掃引速度から移動度を見積もることが可能です。
その中でもPhoto-CELIV法は、光を照射して電圧を開放電圧に保つことにより、デバイスの内部に電荷を発生させ、この電荷を電圧掃引により取り出します。

図13 CELIV測定の概念図

この時、移動度と各パラメータの関係は以下のようになります。他の関係式も提案されています。

ここで、dは素子の厚さ、tmaxは電流ピークが現れた時間、Aは電圧の掃引速度、Δj はjmax - jdispで、変位電流(jdisp)を基準とし、jmaxがどれくらい流れたかに対応する量となります。
なお、この時素子とは別に直列抵抗成分があると、移動度が低く見積もられます。このことはシミュレーションで確かめられており、素子の面積を小さくすることで静電容量を小さくしたり、透明電極を厚くしたり、透明電極の表面に金属を蒸着してプローブとの接触抵抗を減らしたりする工夫が必要となります。

まとめ

このように、太陽電池の性能、特に効率を上げるには、素子の屈折率・厚みの設計を行って発電層での吸収量を向上させるだけでなく、電気的な特性から短絡電流を上げたり、凹凸面など表面形状を工夫したりと様々な検討が必要になります。また、シミュレーションのパラメータを測定から推定することも必要になります。今回の解析例では、そのような検討の一例を示しました。このように、シミュレーションツールにより、太陽電池の性能向上が期待されます。

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