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相反する機能を両立させた唯一無二のメカニカルシールで、 世界規模でのエネルギー損失低減に貢献へ
世界初「表面テクスチャリング技術」の開発を支えた、緻密な最適化手法

イーグル工業株式会社 德永 雄一郎 様・井村 忠継 様・鈴木 啓志 様

イーグル工業株式会社様は、世界中の自動車、船舶、ロケットや航空機、その他各産業で使われているメカニカルシール・機器製品の総合メーカーです。
インタビューでは、先行技術の開発を担う技術本部 技術研究部の德永雄一郎様を中心に、これまで課題とされてきた技術的トレードオフを克服した画期的な製品と、その開発を支えた最適設計支援ツールの活用などについてお話をお伺いしました。

(左から 鈴木様、德永様、井村様)

今回お話をお伺いした方々
技術本部 技術研究部 部長 德永 雄一郎 様
技術本部 技術研究部 技術研究課 課長 井村 忠継 様
技術本部 技術研究部 技術研究課 鈴木 啓志 様
(以下、お客様の敬称は省略させていただきます。)

1.圧倒的な世界シェアを誇るメカニカルシール技術

貴社の事業内容について教えてください。

德永

イーグル工業(株)は、日本初のオイルシールメーカーNOK(株)のグループ企業で、60年ほど前に同社のメカニカルシール製造部門を独立させる形で設立されました。グループ内でも、メカニカルシールや特殊バルブなど、非常に厳しい品質が要求される製品に特化しており、素材開発から製造までの一貫生産システムも構築しています。
製品を提供しているお客さまは、主に自動車・建設機械、一般産業機械、半導体、船舶、航空宇宙の5つの業界ですが、これだけ幅広い業界を網羅するメカニカルシールメーカーは、世界を見渡しても当社だけと自負しています。当社のエアコンプレッサーシールは月産500万個ほどで世界シェアの約90%、ウォーターポンプシールも月産500万個ほどで世界シェアの約60%を占めています。

図1 メカニカルシール(画像提供:イーグル工業株式会社)

イーグル工業(株)の主力製品メカニカルシールと、画期的と評されている新しい技術「表面テクスチャリング技術」について教えてください。

德永

メカニカルシールとは、ポンプやコンプレッサーといった回転機器の軸部(シャフト)に装着する密封装置(パッキン)の一種です。機械内部の水や油などの流体が外部の大気中や水中に漏れだすのを防ぐために使われます。
メカニカルシールにはトレードオフとなる要素が数多くありまして、特にシールの性能に影響するのが、摺動面間のサブミクロン(1ミクロン以下)の隙間です。この隙間が広がると流体の漏れが発生しやすくなりますが、逆に狭めれば、潤滑が不足して摩擦が大きくなり、回転時の損失の増加や寿命の低下に繋がります。

図2  メカニカルシールの課題:摩擦と漏れというトレードオフを両立させる必要がある
(画像提供:イーグル工業株式会社)

井村

このような「摩擦」と「漏れ」というトレードオフを最小限に抑えることに成功したのが、近年開発した当社の「表面テクスチャリング技術」です。
摺動面に形成された「表面テクスチャ」と呼ぶ微細な溝で流体圧力分布を制御し、「密封機構」と「潤滑機構」という2つの機構を同一の摺動面内に配置することで実現できました。図3に示す例では、密封機構は内周側に、潤滑機構は外周側に配置し、流体を回収しながら同時に摺動時の摩擦コントロールを行って、密封性能を保持しつつ摩擦を低減させる仕組みです。
この技術により、密封性能を保持しながら従来機構と比較して最大98%の摩擦低減効果を得ることに成功しました。シールで生じる動力の損失を大幅に低減できます。

図3 表面テクスチャリング メカニカルシール:密封と潤滑機能の両立のしくみ
(画像提供:イーグル工業株式会社)

鈴木

この密封機能を保持しつつ摩擦低減効果を導き出すために、最適設計支援ツールOptimusの多目的最適化手法などを活用しました。このおかげで、当技術の開発は飛躍的に進歩したと考えています。

德永

正に、Optimus抜きでは成し得なかったと言っても過言ではありません。

2.「表面テクスチャリング技術」開発に不可欠だった最適化:解析プログラムの自社開発から最適設計へ

当技術の開発にあたり、これまで取り組まれてきたことについて教えてください。

德永

2005年より、流体潤滑解析プログラムの自社開発に取り組んでいました。Microsoft ExcelとVBAマクロで一件ずつ解析条件を設定し、結果もテキストファイルで出力するプログラムでしたが、狭い隙間の流体圧力解析に特化することで汎用の流体解析ソフトウェアより高速な計算ができ、数値解析の結果は、実性能ともよく合っていました。

図4 德永様が開発した流体潤滑解析プログラムの基本構成
(画像提供:イーグル工業株式会社)

ご自身で、解析プログラムを作られたんですね!

德永

はい。その後、このプログラムを製品開発に生かすための内製の最適化ツールの開発や品質工学にも取り組みましたが、実用化に至らず悩んでいました。
サイバネットさんからOptimusを紹介されたのは、ちょうどそのような時期でした。

Optimus導入のきっかけを教えてください。

德永

最初に触れたのは、2016年4月の「Optimus入門トレーニング」を受講したときです。Optimusを使えばなにができるのか、サイバネットの担当さんに質問しながら理解を深めていたとき、テキストデータの読み込みに対応していると分かりました。
このとき、自作の流体潤滑解析プログラムで作ったテキストデータを使える!と考えました。当初、OptimusはCADやCAEソフトウェアのために使用するものだと思い込んでいたのですが、私たちの開発したプログラムとも連携できると分かり、早速デモ利用を開始しました。

導入後、どのような成果が出ましたか?

鈴木

私は2016年に新卒で入社し、Optimus導入前後の実務を担当しました。2016年6月に実施したデモ利用では、最適化を手動で実施した場合とOptimusで自動化した場合とを比較すると、解析にかかる時間をトータルで83%も削減できることが確認できました。自動化前と自動化後の作業で比較した解析結果もよく一致していました。成果が明確ということで社内稟議もスムーズに通り、その年のうちに購入できました。

井村

私も、同じく2016年入社です。「表面テクスチャリング技術」の開発では、Optimusに搭載されている遺伝的アルゴリズムに基づく多目的最適化手法により、例えば、低速時のシール性能と高速時のシール性能双方を最大化させる最適解を容易に得ることができます。

図5 低速時のシール性能と高速時のシール性能を最大化する多目的最適化の実施例
(Optimusのプロット表示)(画像提供:イーグル工業株式会社)

また、製造上の制約の範囲内で、最適形状の組み合わせを模索できるようになったことも、設計部署に展開して適正なコストで量産できるようにするためには重要なことでした。Optimusの導入によって、自社開発したプログラムを開発現場で生かせるようになったと思っています。

長年Optimusをお使いになられて、率直なご意見をお聞かせください。

德永

とにかく自社開発のプログラムとOptimusの相性が非常によく、サイバネットさんのレスポンスもいつも早いので、改良やチューニングを順調に進められています。手動での最適化では、「本当に最適なのか」という客観的な根拠を示せないのに対し、Optimusの最適化アルゴリズムは「十分に探索しているので、これが最適な設計です」とお客さまに自信を持って根拠を示せることが大きいです。今後は、ポスト処理の表示に関する機能実装や改良に期待しています。そこがよりよくなると、レビューやプレゼンの場で活躍する機会が増えそうです。

鈴木

Optimusは、よく使うコマンドをアクションアイコンの中で操作できて、直感的に分かりやすいツールだと思っています。導入時に、なるべく多くのケースを短時間で実行するためのチューニングを行っていたのですが、たまに計算が収束しないことがあっても、サイバネットさんがすぐに相談に乗ってくれて、迅速に対応できました。多目的最適化などで、離散的な変数が多く最適解の改善に悩んでいたときは、紹介してもらったオプションのアルゴリズム「eArtius」がこちらの出したい解とうまくマッチしていて助かりました。

貴重なご意見ありがとうございます。そのほか、現在課題と感じられていることはありますか?

德永

Optimusの設計部署への展開ですね。現状、われわれの部署がOptimusで検討したシールの案を設計者に引き渡す形になっていますが、設計者自身でも最適解の探索ができたらと、2018年に設計者展開を一度試みました。しかしながら、検討途中で中止となり、現在も実現できていません。これは、Optimusの問題というよりは、設計者の定型作業に組み込めるくらいにシステム化して設計者に渡す必要があるためです。そこで、設計者のためのメカニカルシール設計GUIを開発しようという計画もありますので、ぜひ改めて相談させてください。

井村

Optimusは、汎用性も自由度も高く使いやすいツールだと思っています。もし要望を言わせてもらえるとしたら、GUIのポスト処理に力を入れて欲しいです。例えば、データ分析をするためのプロットの種類は基本的には2次元が主流ですが、変数が増えてくると見にくくなってくるので、3次元、4次元と表示できる変数を増やしてほしいです。
これから取り組みたいと思っているのは、ロバスト最適化です。また、サロゲートモデルもメカニカルシールの設計に適用できるようであればやってみたいですね。計算は相当早くなるし、ロバスト最適化も簡単になるはずと期待しています。

3.今後の展望:環境貢献型製品の開発の加速により、結果としてSDGsの達成にも貢献したい

「表面テクスチャリング技術」は環境負荷の低減も期待されていると思いますが、具体的にどのような製品に生かされていますか?

德永

まずはEVモータです。EVのモータの回転数は非常に高く、量産モデルでも既に最大2万rpm(1分あたりの回転数)に到達しており、将来は5万rpmを超えると予想されています(図6)。

図6 自動車や航空宇宙産業における近年の高速シール適用事例:モーター回転数
(画像提供:イーグル工業株式会社)

当技術を採用したEVモータシステム用シール「GlideXTM」は、EV用駆動モータの軸冷却システムや、eアクスル※の減速機内の潤滑油の密封に使用することで、駆動モータの高速回転を実現します。

井村

モータの過度な発熱を克服するためのEV向け冷却システム用のシールにも、当技術は活用されています。冷却効率の向上を目指し、シャフト内部を通してロータ側を直接水で冷却する仕組みで、欧州の自動車メーカーの量産車に採用されています。

このように、メカニカルシールの性能を向上させること自体が、環境への負荷を軽減させることに結びつき、結果としてSDGsの達成に寄与していると考えています。

德永

なお、当技術は『表面テクスチャリング技術による低損失と高密封性能を両立したメカニカルシールの開発と実用化』というタイトルで、2022年度日本トライボロジー学会技術賞を受賞しました。メカニカルシールの技術革新と、量産にも耐え得る生産性が評価されたようです。
当技術は、自動車をはじめとする「各種回転機械への採用が拡大することにより、世界規模での莫大なエネルギー損失低減効果が期待できる」技術です。
これからも、Optimusを活用しながら、世界の環境保護・省エネ促進にさらに貢献する製品づくりをしていきたいと考えています。

この度は、大変貴重なお話をありがとうございました。
計算に優れた高性能な解析プログラムを自社で構築されたことにまず驚きましたが、このようなバックグラウンドをお持ちのチームだからこそ、いち早くOptimusの有用性を見抜き、素晴らしい結果に結びつけることができたのではないかと感じました。
これからも世界規模でのイノベーションを実現されると期待しておりますので、ぜひ引き続きサイバネットにも協力させてください。

注釈
※ eアクスル:EVにおいて、駆動用モータおよびインバータ、トランスミッションを一体化したモジュール。電動アクスルと呼ぶこともある。

※本事例のPDF版は下記よりダウンロード可能です。

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