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2022.3

2021年版 ものづくり白書まとめ|レジリエンス・グリーン・デジタル

経済産業省は、令和3年5月に「2021年版ものづくり白書」を発表しました。ひと言で概要を説明すると、新型コロナウイルス感染症の流行でもたらされたニューノーマルなどへの対応といえるでしょう。同資料を参考にすれば、製造業がニューノーマルを含めた新しい社会にどのように対処すればよいかがわかります。この記事では、「2021年版ものづくり白書」を参考に、製造業がとるべき今後の対応をわかりやすくまとめています。

日本の製造業の状況

日本の製造業の業績動向

新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は世界経済に大きな影響を与えています。もちろん、国内製造業も例外ではありません。2020年第2四半期における業況判断DI(全国企業短期経済観測調査)は、大企業製造業・中小企業製造業とも大幅に悪化しています。

2020年における製造業全体の営業利益は8.6兆円です。この金額は、2017年の約半分に相当します。ただし、製造業全体の営業利益が減少しているわけではありません。情報通信機械器具製造業は、コロナ禍でも営業利益を伸ばしています。体感している厳しさは、業種によりやや異なるといえるでしょう。

日本の製造業の経営判断

新型コロナウイルス感染症の流行拡大は、私たちの生活を一変させました。代表的な変化のひとつといえるのがリモートワークの普及でしょう。想定外のリスクが顕在化したことで、日本の製造業はこれまでと異なる経営判断を求められています。

例えば、従来のサプライチェーンリスクは、自然災害とそれに伴う生産拠点などへのダメージを意味していました。したがって、代替生産地の確保などが有効な対策になります。しかし、新型コロナウイルスが出現したことで状況は一変します。世界中のあらゆる地域が同時に被害を受けうることが明らかになりました。従来とは異なるサプライチェーンリスクの管理が求められるようになっています。

また、製造業の在り方も変化を求められつつあります。単に良いモノを作るだけでなく、顧客のニーズを掘り起こすコトづくりなどが求められているのです。取り巻く環境が厳しいうえ、製造業の在り方が変わりつつあるため、これらを経営戦略に取り込む経営判断を求められています。

今後の課題

製造業が直面する課題を一言でまとめると「ニューノーマルを含めた新しい社会への対応」といえるでしょう。誰も経験したことがない日常に、適合していく必要があります。したがって、各企業には自社を変革する力が求められます。

変革のポイントは、以下の3つです。

【製造業が変革するべきポイント】

サプライチェーンの強靭化
カーボンニュートラルへの対応
DX化の取り組み深化

当然ながら、これらに対応するため人材の強化も欠かせません。例えば、デジタル化に必要な能力を有する人材は不可欠です。製造業がデジタル化を進めることで、在庫管理や作業効率を効率化できる可能性などがあります。人材強化を含め、これらのポイントをいかに変革していくかが、製造業が直面している課題と考えられます。

ニューノーマルでの3つのポイント

ニューノーマルを含めた新しい社会へ対応するため、製造業は「サプライチェーンの強靭化」「カーボンニュートラルへの対応」「DX化の取り組み深化」を進めなければなりません。これらのポイント詳しく解説します。

レジリエンス ―サプライチェーンの強靭化―

新型コロナウイルス感染症の世界的流行は、製造業にも大きな影響を与えています。特に影響を受けている分野といえるのがサプライチェーンです。三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社が発表した資料によると、新型コロナウイルス感染症の流行拡大で支障をきたした業務は以下の通りです [1]。

【支障をきたした業務】

国内の生産活動:41.8%
海外からの部材の調達:19.4%
物流・配送:13.3%
海外の生産活動:12.3%

新型コロナウイルス感染症の流行で、世界中で同時多発的にサプライチェーンは分断されうることがわかりました。個々の企業で、このようなリスクに対応することは困難です。ニューノーマルに対応するため、個々の企業でできる取り組みに加え、複数事業者で協力する体制の整備、より広域的な視点からサプライチェーンを見直す取り組みが必要になると考えられます。

したがって、自社の取引先だけでなくその先も含めたグローバルサプライチェーンの把握は欠かせません。デジタル技術を活用すれば、災害発生時の被害状況の把握は容易になります。当然ながら、状況に応じて対面業務を減らせる体制の構築も必要です。この面でもデジタル技術は活用できます。盲点になりがちなのが輸送です。いわゆる巣ごもり需要で、消費者向けの物流需要は高まることが考えられます。この影響で企業向け物流はひっ迫する恐れがあります。物流の効率化も、ニューノーマルに対応するため欠かせない対策といえるでしょう。

自社が抱えるサプライチェーンのリスクを正確に把握して、想定外の事態が発生したときも柔軟に対応できる体制を構築しておくことが重要です。

グリーン ―カーボンニュートラルへの対応―

各国政府は、カーボンニュートラル実現を次々と表明しています。我が国も、2050年までに温室効果ガス排出量を全体としてゼロにすることを宣言しています。

このような流れを受けて、大企業を中心にカーボンニュートラル実現に向けた取り組みが進められています。例えば、製品製造に再生エネルギーを活用するなどがあげられます。また、一部の企業はサプライチェーン全体でカーボンニュートラル実現を目指しています。今後は、サプライヤーも無関係とはいえなくなるでしょう。

カーボンニュートラルが、企業の資金調達に影響を与え始めている点も無視できません。近年、グリーンファイナンスやトランジション・ファイナンスが導入されつつあります。グリーンファイナンスは環境への影響などを投資の判断材料にする手法、トランジション・ファイナンスは脱炭素化を進める取り組みなどに投資をする手法です。G20杭州サミットでは、グリーンファイナンスを拡大させる必要性が確認されています。環境負荷が大きな事業は、資金を調達しにくくなる恐れがあります。

カーボンニュートラルへの対応は事業の足かせになると捉えられがちですが、捉え方を変えるとビジネスチャンスにもなりえます。例えば、国はグリーン成長戦略を策定するとともに、2兆円の基金を創設してイノベーションに挑戦する企業を支援しています。製造業も、成長のきっかけとしてカーボンニュートラルを自社に取り組んでいくことが重要です。

デジタル ― DXの取組深化―

不確実なニューノーマルに対応するため、製造業には自社を変革する力が求められます。「2021年版ものづくり白書」によると、自社を変革する力は以下の3つで構成されます。

【自社を変革する力】

感知:危機などを感じる力
補足:機会をとらえて、競争力を獲得する力
変容:競争力を維持するため組織を変革する力

これらの力は、デジタル化により強化できます。例えば、AIを活用すれば、感知する力を飛躍的に高められます。販売した製品からデータを集めて(補足)、新しいビジネスを創出することも可能です。デジタル技術を活用して、変容する力を高めていくことがDXといえるでしょう。

製造業が戦略的にDX投資を進めるため見直したいのがバリューチェーンで扱われるデータです。製造業では、CAD・CAM・MES・SFA・MAなど、各業務領域でITソリューションが活用されています。戦略的にDX化を推し進めていくため、これらのITソリューションを有機的に連携させせることが重要です。例えば、受注・設計・調達などあらゆる業務領域のデータを統合管理するERP(経営資源管理システム)の導入などが考えられます。

また、今後は製造現場で5G技術の活用も想定されています。この技術が本格活用されれば、状況に合わせて生産ラインを柔軟に組み替えて有事に対応するなどが可能になると考えられています。本格的に普及すれば、企業のレジリエンスは大きく強化されるでしょう。

「関連記事:製造業が目指すデータ活用|データドリブンな意思決定のために

製造業生き残りのカギはニューノーマルへの対応

2021年版ものづくり白書をもとに、製造業に求められるニューノーマルの対応を解説しました。新型コロナウイルス感染症の流行前後で、製造業を取り巻く環境は大きく変化しています。どの企業にとっても、サプライチェーンの強靭化・カーボンニュートラルへの対応・DX化の取り組み深化は欠かせないと考えられます。この記事で紹介した内容を参考に、今後の方針を検討してみてはいかがでしょうか。

サイバネットシステムでは、IoT化やデジタルツイン導入のサポートをさせていただいております。
是非ご相談ください。

[1]出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社
令和2年度製造基盤技術実態等調査 我が国ものづくり産業の課題と対応の方向性に関する調査
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2020FY/000066.pdf

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