コラム
若手設計者が図面を読めない?設計現場で起きている教育の変化
「若手が図面を読めない」は本当なのか?

「最近の若手は図面が読めない」
設計現場でベテラン設計者の方と話をしていると、このような言葉を耳にすることがあります。
もちろん、若手設計者の能力が低下しているという単純な話ではありません。実際には、CADの操作スキルや情報収集能力に優れた若手も多く、設計ツールの習得スピードも以前より速くなっています。
それでもなお、「図面を理解できていない」「設計意図が伝わらない」と感じる場面があるのはなぜでしょうか。
その背景には、若手個人の問題ではなく、設計を学ぶ環境そのものが大きく変化していることがあります。
そもそも設計者にとって「図面を読む」とは、寸法や公差、加工指示を理解するだけではありません。ベテラン設計者は一枚の図面から、なぜその形状になっているのか、どの寸法が重要なのか、どのような加工や組立を想定しているのかまで読み取っています。
一方で若手設計者は、図面に描かれている内容は理解できても、その背景にある設計意図や判断理由までは読み取れないことがあります。
つまり、「図面が読めない」というよりも、図面から設計の背景を読み解く経験を積みにくくなっていると言った方が正確なのかもしれません。
設計を学ぶ環境は大きく変わっている
かつての設計現場では、設計者が製造現場へ足を運び、試作品を確認し、加工担当者や組立担当者と直接会話をしながら仕事を進めることが一般的でした。図面に描いた内容が実際にどのような形になり、どのような問題が発生するのかを自分の目で確認できたため、設計と製造が自然につながっていたのです。
また、ベテラン設計者の近くで仕事をすることで、図面には書かれていない判断基準やノウハウを自然と学ぶことができました。設計で発生した問題や失敗も含めて経験として蓄積され、それが設計者としての成長につながっていました。
しかし現在は、製品開発のスピードが加速し、設計業務は高度に分業化されています。試作回数も減少し、設計者が製造現場に足を運ぶ機会は以前ほど多くありません。さらにリモートワークの普及により、先輩設計者の仕事を隣で見ながら学ぶ機会も減っています。
設計を取り巻く環境が変化したことで、若手設計者は設計の背景や製造現場の感覚を体験的に学ぶ機会を得にくくなっています。
加えて、製品そのものも以前より複雑になっています。機械要素だけでなく、電装部品や制御システムとの連携が当たり前となり、部品点数も増加しています。
図面は製造に必要な情報を正確に伝えるための重要な成果物ですが、本質的には設計結果を表現するものです。
設計者がどのような考えで形状を決めたのか、なぜその寸法が必要なのかといった背景まですべてを表現することはできません。
そのため若手設計者が図面を見ても、「何が描かれているか」は理解できても、「なぜそうなっているか」が分からないという状況が生まれやすくなっています。
また、そうした背景まで図面だけで伝えることも難しくなっています。
3Dデータは設計教育をどう変えるのか
こうした課題に対して、近年は3Dデータを活用した設計教育に注目が集まっています。
3Dモデルの大きな特長は、製品を立体的に理解できることです。
図面だけでは頭の中で想像する必要があった形状や組立構造も、3Dモデルであれば直感的に把握できます。部品同士の位置関係や組立順序、可動範囲なども視覚的に確認できるため、若手設計者にとって製品全体を理解するための助けになります。
例えばCreoのような3DCADでは、製品構造を立体的に確認しながら設計を進めることができます。設計者が頭の中で組み立てを想像するだけでなく、実際にモデルを確認しながら理解できるため、図面だけでは伝わりにくい情報を補完することができます。
もちろん、3Dモデルを見るだけで設計力が身につくわけではありません。しかし、設計意図を伝えたり、製品構造を理解したりするための共通言語として、3Dデータが果たす役割は年々大きくなっています。
これからの設計教育に求められるもの
これからの設計教育では、「図面を読む力」を身につけるだけでは十分とは言えません。
重要なのは、図面の向こう側にある設計意図や製品全体の構造を理解する力を育てることです。
かつては、製造現場や試作の経験、ベテラン設計者との日常的なコミュニケーションを通じて、それらを自然に学ぶことができました。しかし現在は、開発スピードの向上や業務の分業化によって、そうした機会が減少しています。
だからこそ、従来と同じ教育方法だけではなく、設計の背景や考え方を伝えるための工夫がこれまで以上に重要になっています。
例えば、図面だけでは伝わりにくい製品構造を3Dモデルで共有したり、過去の設計事例や設計判断の理由をデータとして残したりすることで、経験豊富な設計者が持つ知識を若手へ伝えやすくなります。
設計者に求められる役割も変わりつつあります。単に図面を作成するだけでなく、自分の考えや設計意図を周囲へ伝え、他部門と連携しながら製品開発を進めることが求められるようになっています。
「若手が図面を読めない」という言葉の背景には、設計者の能力ではなく、ものづくりを取り巻く環境の変化があります。
設計教育に必要なのは、若手の知識不足を嘆くことではなく、変化した環境に合わせて技術やノウハウを伝える仕組みを整えていくことではないでしょうか。
設計教育のあり方を見直すことは、将来のものづくりを支える人材育成につながる大切な取り組みと言えるでしょう。

