事例
ユーザー事例:ポンプ動力を24%削減した800Vインバータの冷却システム設計(GLM株式会社)
電気自動車(EV)におけるインバータ
EVは、再充電可能なバッテリーの電力を用いて推進用モーターのエネルギーを生成します。EVのバッテリーは直流(DC)デバイスであり、正極と負極を持ち、それぞれに一定の電圧が供給されます。これらのバッテリーに直流モーターを接続することも可能ですが、速度やトルクの制御の面では十分な性能を発揮しません。
EVのモーターはあらゆる運転条件において高度な制御が求められるため、電圧が周期的に変化する交流(AC)モーターが最適な解となります。
インバータの役割は、バッテリーから供給される高電圧・大電流の直流(DC)を、車両の駆動モーター用の交流(AC)に変換することです。EVの重要な構成要素であるインバータの性能は、常に技術革新の対象となっています。
重要な開発分野の一つが、バッテリーからの800V電圧に対応したインバータです。
直流(DC)から交流(AC)へと電力変換に伴い、さらに電圧が連続的に変動することにより、システム内部には大きな熱負荷が発生します。効率的な冷却システムは、車両やバッテリー、さらには充電設備の損傷を防ぐとともに、ユーザーの安全性を確保するうえで重要です。GLM株式会社(以下、GLM)は、800Vシリコンカーバイド(SiC)インバータの大きな可能性に着目し、投資を進めています。
SiCを用いることで、より高速で高効率かつ軽量なドライブトレインが実現でき、さらにColdStreamを活用することで、より効率的な冷却システムの構築が可能となります。
800V SiCインバータの冷却システム
これまで従来の設計サイクルを用いてきたGLMは、自社の冷却システムに対してジェネレーティブデザインの活用に踏み切りました。その実現のために、ColdStreamのCustom Designパッケージを採用しています。
トポロジー最適化によるジェネレーティブデザインは、熱性能を極限まで引き上げ、設計目標および製造要件を満たす完全にカスタマイズされた設計を実現します。
本稿で紹介するGLMの800Vインバータ冷却システムを図1に示します。

図1: GLM製800Vインバータにおける発熱源と入口および出口の位置
運転条件
インバータの運転条件は、ColdStreamにおける設計生成の入力条件となります。熱源は電気部品であり、図1に示すように、冷却チャネルの上面および下面を含む3つの表面において、それぞれ667 Wの発熱量が与えられます。冷却媒体は水で、流量は9.5 L/minであり、図には入口および出口の位置も示されています。
本冷却システムでは、図2に示すように2つの設計領域が定義されています。各設計領域において、ColdStreamは最適なトポロジーを生成することが許可されています。設計領域の定義には製造方法の指定が必要であり、本ケースではCNC加工が採用されています。インバータ冷却システムの材料にはアルミニウムが用いられています。

図2: GLM製800Vインバータの設計領域
制約条件
冷却システムの最適な性能を確保するために、各種制約条件が設定されます。温度分散制約は、熱源上の温度をあらかじめ定められた範囲内に維持するためのものです。ここでは分散を 1 K² としており、これはガウス分布において99.7%の確率に対応する温度変動が 6 K 以内に収まることを意味しています。
第二の制約条件は圧力損失です。この制約により、冷却チャネル内を流れる流体の圧力損失が、設定された値(4400 Pa)以下となることが保証されます。
最後に、設計目的は温度の最小化です。この目的は、平均温度を最小化することで、熱源全体の温度を低減することを意図しています。この設計目的と温度分散制約を組み合わせることで、平均温度の低下にともない、熱源における最大温度も必然的に低減されます。
ColdStream上で解析条件が整うと、アルゴリズムが処理を行い、与えられた目標に対して最適な設計を提示します。GLMインバータの結果を図3に示しています。なお、上部と下部の設計領域では、それぞれ異なる最適形状が得られています。

図3a:筐体および流線を含むColdStreamによる設計

図3b: ColdStreamによる設計の流路構造
結果
ColdStreamによる設計は、GLMの従来の冷却チャネルと比較され、その改善効果が評価されています。表1には、各設計における熱源の最大温度、平均温度、および最小温度が示されています。図4、5、6に示すように、ColdStreamは同等の温度レベルを維持しながら、より優れた温度分布を実現しています。カスタムデザインでは、温度ばらつきの97.4%が6℃以内に収まっています。

表1:従来のGLM設計およびジェネレーティブデザインにおける最大・平均・最小温度

図4:従来のGLM設計およびジェネレーティブデザインにおける温度分布の頻度

図5:ジェネレーティブデザインにおける上面および下面の加熱面の温度

図6:従来のGLM設計における上面および下面の加熱面の温度
ColdStreamによる設計における最も顕著な改善は、冷却チャネルにおける圧力損失の低減です(図7)。カスタムデザインの圧力損失は4.36 kPaであり、従来のGLM冷却システム(5.6 kPa)と比較して24%の低減を実現しました。
カスタムデザインは、従来設計と同等の温度性能を維持しながら、圧力損失を大幅に低減することに成功しています。また、圧力損失の低減により、熱性能を損なうことなく、必要なポンプ動力を低減することができています。

図7: GLMのジェネレーティブデザインにおける冷却チャネル内の圧力分布
結論
クラウドベースのプラットフォームであるColdStreamを活用することで、GLMは800V SiCインバータ向けに、より効率的な冷却システムを構築することができました。システムの圧力損失を低減した結果、冷却媒体を循環させるために必要なポンプ動力を24%削減することに成功しました。さらに、ColdStreamは設計を自動生成するため、解析ケースを投入するまでに要したエンジニアリング時間は最大でも30分程度でした。
カスタムのジェネレーティブデザインを採用することで、GLMは従来の設計手法と比較してエンジニアリング時間を大幅に削減しています。また、ColdStreamがクラウド上でシミュレーションを実行できることにより、本設計におけるHPC関連コストを不要としています。
- 本資料に掲載されている情報は、作成当時の内容に基づいています。
- 本資料は、Diabatix社の許諾を得てサイバネットが翻訳・掲載しています。
