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事例

ジェネレーティブデザインによるバッテリー用コールドプレート設計

バッテリー用コールドプレートの設計は、ますます高度化・複雑化している。近年、ジェネレーティブデザインはこの専門的分野にも導入されている。本稿では、バッテリー用コールドプレートに対するトポロジー最適化の基礎を解説し、複数の事例および比較を通じて本手法の付加価値を示す。

従来のコールドプレート設計は、電気自動車のバッテリーを冷却するために広く製造されている。企業はバッテリー冷却システムをより効率的に管理する代替手法を模索しているが、依然として設計プロセスには人為的な介入や試行錯誤が存在している。現在の技術は、トポロジー最適化を活用したジェネレーティブデザインによって、このプロセスをより円滑にすることが可能である。

はじめに

電気自動車(EV)は、化石燃料ベースの輸送手段に対するよりクリーンな代替技術である。高い効率性を特長とし、市場での普及が進んでいる。EVは充電式バッテリーを動力源とするが、産業界にいくつかの技術的課題をもたらしている。

バッテリーの長寿命化を実現するためには、高度なバッテリー熱マネジメントが不可欠である。そのため、コールドプレート設計においてエンジニアが直面する主な課題は、バッテリーセル全体の温度を低く維持しつつ、その温度均一性を確保し、さらにコールドプレート内部の圧力損失を許容範囲内に抑えることである。加えて、製品の製造可能性にも配慮する必要がある。これらは常に製品重量の最小化と両立していなければならない。

近年ジェネレーティブデザイン分野に導入された新たな技術は、これらの課題を克服し得る。トポロジー最適化と流体力学を組み合わせることで、制約条件と設計目標を統合したシンプルかつ堅牢なワークフローを構築でき、高性能なコールドプレート設計を実現できる。

本稿の構成は以下の通りである。まずジェネレーティブデザインを紹介し、続いてトポロジー最適化解析の手順を説明する。次に、複数のバッテリー用コールドプレートの検討事例を通じて性能比較を行う。本章ではコールドプレートのモデリングおよび解析における前提条件を示し、性能結果を提示する。最後に、冷却システムの比較に関する考察を行う。

 

ジェネレーティブデザイン

従来の設計サイクルでは、エンジニアが設計アイデアから最終解に至るまでのすべての工程に直接関与する。このプロセスは、設計者が構想したモデルの作成から始まる。担当者は、モデリング、シミュレーション、ポストプロセスおよび解析を通じて選択した設計の性能を検証する。最終設計が満足できる水準に達しない場合、新たな反復が行われる。この時間を要する手順は、最小限のユーザー入力と操作で進行するジェネレーティブデザイン技術により、加速・高度化される。

ジェネレーティブデザインは、設計空間、目的関数、制約条件などのシステム要件が与えられたとき、人工知能(AI)技術を用いて一つまたは複数の設計案を生成する。アルゴリズムは入力条件に基づいて異なる解を探索し、得られた情報を活用して新たな、場合によってはより優れた設計解を生成する。このサイクルは、与えられた制約条件を満たす実行可能な設計が見出されるまで繰り返される[1, 2]。

設計サイクル内で数値シミュレーションにより生成設計を評価することで、最適化プロセスは完全に自動化される。ユーザーが初期設計を与える必要がないため、全体プロセスにおける人間の関与は、問題設定および最終設計の評価に限定される。設計プロセスから人為的バイアスを排除することで、設計空間をより徹底的に探索でき、全体最適解に到達する可能性が高まる。

トポロジー最適化を用いたジェネレーティブデザイン

ジェネレーティブデザインの反復プロセスでは、前段階で設計を評価して得られた情報を、さまざまな手法を用いて活用できる。代表的なジェネレーティブ戦略の一つがトポロジー最適化である。本手法では、設計空間における材料分布の最適化により新たな設計が得られる[3, 4, 5]。概念的には、ベース材料の一部が別の材料へと変換され、それが設計形状を定義する。

形状最適化などの従来の設計手法とは異なり、トポロジー最適化は初期設計入力を必要としない。そのため、設計空間をより網羅的に探索でき、局所最適解への収束リスクを低減できる。実際の最適化プロセスは図1に示す4つのステップから構成される。これらのステップは最適設計が得られるまで繰り返される。

図1:トポロジー最適化プロセスのフローチャート

1.設計評価

所与の設計に対して、CFD(数値流体力学)シミュレーションにより流体の流れ場および温度分布を評価する。
このシミュレーションの結果として、流体領域における速度場・圧力場・温度場、および固体領域全体における温度場が得られる。

2. 性能評価

(1)で得られた数値解を用いて、最適化目標に対する設計性能を評価する。
性能が目標を満たせば最適化プロセスは終了し、設計が出力される。満たさない場合は最適化ループを継続する。

3. 感度解析

本ステップでは、性能向上のために設計をどのように変更すべきかを決定する。これは材料分布に対する設計性能の感度を評価することで実現される。設計空間には多数の自由度が存在するため、随伴法(adjoint approach)により感度を計算する。この数学的枠組みにより、計算効率の高い感度解析が可能となる。本解析では、連続随伴法[6]に基づいて随伴方程式を構築する。

4. 設計更新

最適化アルゴリズムは、現在の設計および感度解析の結果に基づいて新しい設計案を提案する。
この設計は次の最適化反復の出発点となる。

本ケーススタディでは、コールドプレートの冷却チャネル設計にトポロジー最適化を適用する。
流体冷却問題におけるトポロジー最適化は、最適な材料分布を求めることを目的とする。運用条件および製造制約の下で目的関数を最小化する必要がある。言い換えると、初期の流体領域内の各セルにおける固体量を増減させることで、最適な固体設計を生成する。

冷却システムのモデリング

バッテリーパックは通常、1つまたは複数の固体部品と液体冷却材から構成される。この種のシステムの解析は、共役熱伝達(Conjugate Heat Transfer:CHT)問題として知られている。CHT問題では、ナビエ–ストークス方程式およびエネルギー方程式により流体挙動を記述する。
一方、固体領域の熱伝達は熱伝導方程式によって記述される。各領域の解はさらに連成される。

流体領域のモデリング

流体領域において解かれる一般方程式は、以下のナビエ–ストークス方程式である[7]。

質量保存則

運動量保存則

エネルギー保存則

ここで、ρは流体の密度、υは速度、pは圧⼒、μtは乱流粘性係数、fは⼀般的な運動量外⼒項(例︓重⼒)、hは流体のエンタルピー、kは熱伝導率を表す。運動量方程式の閉鎖は、乱流粘性係数μtを算出するために乱流モデルを適⽤することで⾏われる。乱流モデルにはさまざまな種類が存在し、その選択は各⽤途における物理特性に依存する。代表的な乱流モデル⼿法は、RANS(Reynolds-Averaged Navier-Stokes)およびLES(Large Eddy Simulation)である。RANSは、ナビエ–ストークス方程式に時間平均およびレイノルズ分解を適用することで得られる。

LESは、ナビエ–ストークス方程式に空間フィルタを適⽤することで導出される。壁⾯拘束流れ(wall-bounded flows)に対してはRANSが最も一般的に用いられるため、本ケーススタディ解析では乱流モデルとしてRANSを採用する。

固体領域のモデリング

固体領域では、エネルギー保存則のみが適用される[1]。

ここで、ρ、cp、k、h はそれぞれ材料密度、比熱容量、熱伝導率およびエンタルピーを表し、Qは熱エネルギーを示す。定義式 dh = cpdT を適用することで、この式は温度を用いた表現に書き換えられる。

流体 ‒ 固体の連成

固体と流体との間の熱交換は、壁面に隣接するそれぞれのセル間の温度差のみに依存する。この壁面では、界面平衡条件(式(6))が課され、界面を通過する熱流束が連続であることが要求される。流体側から見た熱流束は、有効熱伝導率のみに依存する。この有効熱伝導率は、流体の熱伝導率および乱流拡散率を考慮したものである。なお、固体同士の界面には追加の接触熱抵抗が含まれる場合がある。

ここで、ksolidおよびkfluidはそれぞれ固体領域および流体領域の熱伝導率を表し、∇Tsolidおよび∇Tfluidはそれぞれ固体領域および流体領域における温度勾配を示す。さらに、流体領域と固体領域の界面の両側における温度は一致しなければならない。

この⼿法は計算負荷が⾼いものの、問題の物理現象に対する詳細な理解を可能にする。また、各設計案に対してより現実的な評価を最適化アルゴリズムに提供する。より現実的な解釈は、設計空間を正しく探索し、最終的に最適設計を⾒出す上で不可⽋である。

コールドプレート:比較ケーススタディ

本ケーススタディでは、市場に存在する従来設計と、最適化されたカスタム設計のEVバッテリー冷却プレートを比較・検討する。プレート寸法は図2に示す通り 447×220×10.5 mmである。金属板材はアルミニウムであり、熱伝導率は κ = 237 W/mK に相当する。

図2:冷却システムの構成
上図は流体領域の入口および出口を示す。下図はコールドプレートと接触するバッテリーを示しており、これがシステムの熱源を表している。

図2には⼊⼝および出⼝、ならびに流体領域も⽰されている。冷却材は⽔50%およびグリコール50%の混合液である。⼊⼝温度はTinlet = 20℃ 、流量は3 l/minである。また、800W の熱源が与えられている(図2)。

冷却システムが最良の性能を発揮するためには、いくつかの条件が満たされる必要がある。コールドプレート上の温度分布の均⼀性は、バッテリーの⻑寿命にとって極めて重要である。そのため、本検討では温度変動ΔT = 5℃を最適値とみなす。なお、ΔT の値は通常これより小さいが、本稿では機密情報保護のため意図的に5℃ としている。この選択は本手法の妥当性に影響を与えない。もう一つの重要な要素は、コールドプレートチャネルに沿った圧⼒損失である。本ケースでは、最⼤圧⼒損失5.5 kPa を目標とする。

製造可能性

製造プロセスに関しては、複数の選択肢が存在する。意思決定においては、コストや最終製品の品質など、多くの要素が重要となる。
本稿では、製造可能性を設計領域設定時に定義される設計制約として扱う。採用する製造技術は板金成形である。

図3:板金成形パラメータ

板金成形技術では、以下の製造可能性パラメータを定義する必要がある。
Rf はチャネル幅、bRo,I は曲げ半径、t は板厚、delta は流体領域の高さ、angle はチャネルの面取り角を表す。
これらのパラメータはサプライヤーに依存し、生産設備の条件に強く左右される。
本技術を選択することで、最終製品の製造可能性が保証される。

従来設計

従来型コールドプレート設計として、S字形状設計、オープンディンプル設計、およびファインディンプル設計の3種類をシミュレーションし、それぞれの性能を評価する。これらの設計は、問題設定における目的または制約条件の少なくとも一つを満たすよう最適化されている。

図4︓従来型コールドプレート設計の概略図

S字形状設計は、図4aに示す通り、49 mm のチャネルを11本有する。2番目のプレートはオープンディンプル設計で、220個のディンプルを備え、各ディンプルの寸法は5 × 2 mm、ディンプル間距離は8 mm である(図4b)。ディンプル数を874 個に増やし、サイズを維持したまま間隔を5 mm に縮小したものが、ファインディンプル設計モデルである(図4c)。

図5︓従来型コールドプレート設計の解析結果

上図はバッテリーの温度分布を⽰し、下図はプレートチャネル内における冷却材の流速を示している。

可視化されたシミュレーション結果は、バッテリー(熱源)の温度分布および流体チャネル内の冷却材の速度分布である。S字形状設計(図5a)の結果では、バッテリーセル上に不均⼀な温度分布が⾒られ、プレート出⼝に向かって徐々に温度が上昇する。

また、各チャネルを通過するにつれて液体が加熱され、プレートチャネル内部では⾼い流速が確認される。オープンディンプル設計(図5b)のシミュレーションでは、出口に向かってバッテリー温度が上昇する様⼦が⽰される。この不均⼀な温度分布は低温域およびサーマルホットスポットを⽣じさせ、⻑期的にはバッテリーに悪影響を及ぼす。なお、本モデルでは低い流速が確認される。
3番目の従来設計では、同様の対角方向の温度分布が⽰されるが、ピーク温度はより低い(図5c)。本モデルはプレートチャネルに沿って均一な流速へと収束する。

ジェネレーティブデザイン

ジェネレーティブデザインでは、最適化モデルを得るために目標および制約条件を設定する。圧力損失および温度制約はそれぞれ 5.5 kPa および ∆T = 5℃ に設定され、製造制約は板金成形である。ピーク温度の最小化が熱設計の目標となる。図6に最終的なジェネレーティブ設計を示す。

図6︓ジェネレーティブコールドプレート設計におけるチャネル形状の概略図

ジェネレーティブ設計プレートのシミュレーション結果を図7に示す。
本設計では、バッテリー上の温度分布がより均一であり、低温域が少ないことが確認できる。一方で、流速は不均一であることも示される。

図7 ジェネレーティブ設計結果

上図はバッテリー上の温度分布を⽰し、下図はプレートチャネル内部における冷却材の速度を⽰す。

考察

Tバッテリーの温度分布は、コールドプレート設計を決定する上で重要な指標である。
図8に示すグラフは、バッテリー温度と入口温度との差、すなわち∆T = Tbattery − Tinletを示している。

図8:入口温度に対する温度の最大値、平均値および最小値の変動。

図9:各設計におけるバッテリー温度分布

ピーク温度上昇は 12.26 ℃であり、他の設計と比較してオープンディンプル設計がわずかに高い。S字形状は 10.7 ℃ 、ファインディンプルは 10.56 ℃ 、ジェネレーティブ設計は 10.94 ℃ である。両ディンプル設計では、バッテリー上の温度分布範囲も広い。図9は、コールドプレート上の温度分布の全体像を示す頻度分布図である。このプロットは、両ディンプル設計における温度範囲がおよそ 10 ℃ であるという前述の結論を視覚的に示している。最適設計では、シミュレーション開始時に設計基準の一つとして設定した温度変動(∆T = 5 ℃ )を維持している。

次のグラフ(図10)は、各設計における圧力損失を示している。S字形状設計は温度性能に関しては安定しているものの、圧力損失は 23.5 kPa であり、目標圧力損失 5.5 kPa の約4倍に達している。制約値内の圧力損失を達成しているのは、オープンディンプル設計およびジェネレーティブ設計のみである。

図10:各設計における圧力損失

表1は各設計の結果をまとめたものである。ピーク温度および温度均一性、チャネル内の圧力損失、ならびにプレートの製造可能性の有無を示している。従来設計は、ピーク温度、温度均一性、または圧力損失のいずれか一つの観点では所望の性能を満たすことができる。しかし、カスタム設計のようにすべての条件を同時に満たすことはできない。結果を総合すると、ジェネレーティブコールドプレート設計が最も優れた性能を示していることは明らかである。

表1:各コールドプレート設計に関する結果の要約(ピーク温度、温度均一性、圧力損失、製造可能性)

追加事例

すべての解析および設計は、Diabatixの独自プラットフォームであるColdStream[8]を用いて作成された。図11には、ColdStreamによって生成されたバッテリー用コールドプレートの追加例を2件示している。ColdStreamはクラウドベースのプラットフォームであり、バッテリー用コールドプレート設計に限定されるものではない。ColdStreamには、熱解析、ヒートシンク選定、ジェネレーティブデザイン機能が含まれている。

図11:ColdStream によって生成されたバッテリー用コールド プレート設計の例

結論

本稿では、バッテリー用コールドプレート設計を通じて、ジェネレーティブ熱設計プロセスの付加価値を示した。
本手法は、自然な自由曲面形状を有する冷却システムジオメトリを自律的に提案し、最適設計へと到達する。性能比較の結果、従来設計(S字形状およびディンプル形状)は、より高い圧力損失またはより大きな温度分布を許容することで、ジェネレーティブ設計と同等の性能を示すことができる。

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