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知識・経験の「可視化」でサービス業務の変革へ

右:山形正行様 株式会社アドバンテスト 群馬R&Dセンタ フィールドサービス本部 Service Design部 部長
左:日笠淳治様 株式会社アドバンテスト 埼玉R&Dセンタ フィールドサービス本部 NBU Global Support Expert Center センタ長

今回のインタビューでは、株式会社アドバンテスト フィールドサービス本部の山形正行様、日笠淳治様にご協力いただきました。コロナ禍の影響で顧客の直接訪問や作業に制限を受けたことを契機に、従来の属人的なサービスからデジタルトランスフォーメーションへと方向転換し、リモートサポートの仕組みを開発、実現に至りました。リモートサポートの仕組みについては、FalconLink on Azure(※)を導入し、データ分析においてはBIGDAT@Viewerを採用され、自動化、可視化を含むさまざまな変化や改善された点、今後提供していきたいサービス、働き方を含めた展望まで幅広くお話を伺いました。

※ FalconLink on Azure 東京エレクトロンデバイス株式会社(以下、TED)が手掛けるリモートサポートサービス
https://esg.teldevice.co.jp/iot/azure/solution/detail_falconLink.html

顧客の生産性改善に貢献する包括的な保守サービスを提供

サイバネットシステム(以下サイバネット):まず、御社についてご紹介ください。

日笠様 弊社は1954年創立の株式会社アドバンテストです。電子計測技術を軸とした製品やソリューションを提供しており、半導体部品テストシステム事業部、メカトロニクス関連事業部、フィールドサービス事業部の3つの事業領域があります。日本以外に北欧、米国、アジア各地に拠点を置き、国内の従業員数は約2700人、世界全体では約6500人です。

サイバネット お二人が所属されるフィールドサービス事業部での取り組みと、その中での課題などについてお教えください。

日笠様 製品設置からメンテナンス、デバイスの量産、早期立ち上げやテストフロー、全体の稼働率向上などお客様の生産性改善に貢献する包括的な保守サービスを提供しています。お客様が気づいていない潜在的な課題まで事前に察知して手当てすることを目指していますが、実際には不具合が出た際に部品交換や調整のために赴き、復旧させるという事後対応が多いです。また多数の製品をサポートしており、各々の装置から出てくる膨大なデータを限られた人数で分析し、グラフ等で可視化しています。データの種類は合計で100種を超えます。これまでは特定のエンジニアしかデータの分析ができず、データ自体はもちろん分析作業も多く工数がかかっていたので、データの分析を御社にお願いしました。これがほぼ自動化、可視化できるようになって非常に助かっています。

山形様 フィールドサービスは基本的に、トラブルが起きてお客様から電話を受け、エンジニアを出張させる対応をとっていました。またその内容もそれぞれのお客様のシステム構成や環境に応じた属人的なサポートでした。ところがコロナ禍で移動制限や入国制限、隔離措置がとられ、従来のエンジニア派遣は減少しました。そのような状況で注力しているのがリモートサポートで、リソースを集中して仕組みと対応を開発しました。この仕組みの中のビッグデータ分析において、御社のBIGDAT@Viewerを選びました。

コロナ禍で得た「働き方は変えられる」という気付き

サイバネット 具体的にはどういったデータを取り、どう分析されていますか。

日笠様 装置データの一例でいうと装置の環境に関わる、温度や水の流量等です。ナノテクノロジー製品では、電子ビームを使った装置の安定性を確認するための様々なデータを取っています。そこから性能の劣化、通常では起こらない変化を把握しようとします。

サイバネット このようなデータ分析はコロナ禍になってから始められた、もしくは増えてきたのでしょうか。それとも以前から取り組まれていたのでしょうか。

山形様 山形様 属人的な対応や働き方は契機がないとなかなか変わりにくいものです。従来は、解析のために時間がかかるなら、そういうものだと思い、 人が足りなければ増やせばよい、という考え方だったのですが、コロナ禍で様々な気付きがありました。リモートサポートへの取り組みでは、クラウド技術の可能性を東京エレクトロンデバイスさんから学び、Azureのクラウド技術が使われている同社のFalconLink on Azureという遠隔制御プラットフォームを紹介いただき採用しました。この経緯の中で「自分達の働き方は大きく変えられる」という気付きがありました。構築した我々の遠隔支援サービスは、「ADVANTEST CONNECT+」として提供しています。プラットフォームであるFalconLink on AzureがAzureで構成されているので、我々のサービスも様々な可能性があると考えています。AI、ディープラーニングやマシンラーニング、BIツールによるビジュアライズ拡張も視野に入れています。ただ、Azureはデータ課金制のシステムなので、大量にデータを受送信するのが良いのかどうかという検討事項はあります。データをどのように最適な間隔で取得していくのかは気になるところで、そこも含めてサポートサービスを設計する必要があります。このような、どういった時間軸でデータ取得していくかの判断分析としてもBIGDAT@Viewerを使う予定です。(※)

※今回、アドバンテスト様ではBIGDAT@Viewerの動作環境に柔軟性の高いAzureのVirtual Machineを選択されました。これにより従来であればサーバー機のスペック選定、H/Wの手配にかかるリードタイムなど導入までに必要となっていた時間が大幅に削減され、実質数時間で導入する事ができました。

TED リモートサポートへの取り組みは2020年の秋頃から始めましたね。

山形様 EB露光装置(※)は、投影型露光装置のステッパーと並び世界で一番難しい装置と言われていて、それを扱える知識や技術は自分達のアイデンティティー、自信でもありました。ただ、コロナ禍で考えが変わり、属人的なものからデジタライゼーションへ、さらにはデジタルトランスフォーメーションへと向かい、仕事のあり方を変えようとしています。

※EB露光装置とは
半導体の回路パターンを光でウェハ上に転写する露光装置として、一般に知られるのがステッパーですが、EB露光装置は電子ビームでウェハ上に直接パターンを描画する装置です。ステッパーの場合、もともと原版というマスクが必要ですが、EB露光装置であればマスク不要で、パターンだけ自由に設計すれば、ウェハ上に直接パターンが設計データ通りに描画されます。ただし電子ビームを使っているため真空装置で、かつ駆動ステージ系などもあり、電気・物理からメカトロまで種々の技術が合体した装置です。研究や開発の用途で主に使われています。

データの瞬時の可視化と分析ツール導入でエンジニアの
工数削減を実現

サイバネット お客様のデータはどのように入手されていますか。

日笠様 以前はお客様を訪問し、メンテナンスのついでにデータを持ち帰るのが通例でしたが、現在はお客様に随時データを送って頂き、会社で解析するようになりました。

山形様 半導体の業界では機密性が高く、お客様からデータを頂くのが容易ではなかったですが、当社がセキュアなソリューションを提供したことにより、お客様も安心してデータ提供頂けるようになっています。一部のお客様や装置に関しては、当社のADVANTEST CONNECT+を利用頂くことで当社に繋がり、そこからデータをダウンロードできます。ダウンロードしたデータを瞬時にBIGDAT@Viewerに読ませ、可視化させる仕組みは既に完成しています。これにより過去にやってきた属人的作業の置き換えが進み、エンジニアの分析工数が削減できました。分析そのものと、分析結果の可視化、そして不具合の原因を探る工数の削減です。

日笠様 BIGDAT@Viewer導入前は、グラフ化しないとデータの状況が分からなかったので、何でもエクセルに入れてグラフ化していました。それで一つの傾向が見えると他のデータを見て連携しているところを探すという、地道な作業でした。

山形様 多いときは一日4、5時間を分析だけに充てて原因を想定し、各エリアのサポートエンジニアに電話して修理に当たってもらっていました。その分析の経験値は実際には暗黙知で、その分析エンジニアしか持ってないものです。その暗黙知と経験値を頼りに個々のやり方で対応していた状況が、BIGDAT@Viewerで一定のフォーマットが決まり、その中にデータだけ入れるとすぐ可視化されることになり、圧倒的に時間が短縮されました。

サイバネット ものすごく工数がかかる作業だったんですね。

山形様 日笠は非常に優秀な分析エンジニアなので根本的な原因にたどり着けますが、それは彼だからできることです。BIGDAT@Viewerを利用することで、彼の暗黙知を可視化できました。また、圧倒的な時間短縮で、日笠においては守備範囲を増やしてもらえましたね。今までEB露光装置だけだったのに、今はナノテクノロジー製品全部を見てもらえるようになりましたね。

BIGDAT@Viewerの採用で「予知保全」サービス提供
めざす

サイバネット そもそも弊社のBIGDAT@Viewerを採用いただいた経緯をお聞かせください。

山形様 TEDさんの推薦があり、御社から製品やサービスの紹介プレゼンをいただきました。その内容と紹介プレゼンをご担当いただいた方への信頼感が最大の決め手となりました。FalconLink on Azureとの親和性が高く、可視化も交えたベルトコンベア予兆保全システムのデモでは、装置の異常が出た際のアラートの出方、システム上の数値の可視化などDXで可能なことを見ることができ、とても期待を持てました。当時ちょうど予兆保全をやりたいと考えていた時期でしたので、基本プラットフォームとしてFalconLink on Azureを導入し、そこに載せる分析ツールとして採用に至りました。

TED FalconLink on Azureとの親和性という点では、FalconLink on AzureにAzureの技術が組み込まれていることから、新たにハードウェアをオンプレで準備する必要なく、スムーズに導入できましたよね。

日笠様 そうですね。ハードウェアの費用は押さえることができました。

TED FalconLink on Azureでデータが集まると、BIGDAT@Analysis(※)と組み合わせることでしきい値を決め、異常値に近づいたらアラームを出すこともできますよね。

山形様
山形様

山形様 以前は装置が止まってからのアクションでしたが、今は先にお客様にログファイルを頂き、リスクを判断できています。今までずっと受動的だったのが、能動的に動けるようになったことも大きな変化です。今後より深く勉強して、もっと活用していきたいです。

日笠様 分析結果が事前に分かれば、定期点検の項目も増やせます。

山形様 私は経験値があるので、あるトラブルにおいて見るべき部分が分かりますが、経験値の低い人だと取り組みにくいので、BIGDAT@Analysisで共有できると嬉しいですね。今後はこの仕組みで予兆保全を行い、装置が壊れる前に修理をする、またはお客様にお知らせして装置のメンテナンスを促し、システムダウンをさせない状況にしたいです。

BIGDAT@Analysisとは
BIGDAT@Viewerの後継製品。BIGDAT@Analysisでは、予兆保全のニーズが強まったこともありさらに機能強化がされ、お客様のシステムと連携する部分にも機能強化されている。予兆保全のシステム化の観点では、BIGDAT@Analysis自体の可視化結果を見たいというよりも、分析に関わる情報だけ取り出してシステム側で好きなように表示したいというお客様が多いため、お客様のシステムとの連携部分のAPIを強化している。製品出荷後、エンドユーザー様側でもBIGDAT@Analysisを動かしたいというお客様もいるが、エンドユーザー様分の多数のライセンスを購入頂くわけにもいかないため、ラインタイム版という、事前に各種分析を済ませた結果だけをお客様のところに配置し、監視に活用頂ける小さいモジュールを配布する予定。

BIGDAT@Viewerは暗黙知のデジタル化のツール

山形様 今、我々は日本の労働人口分布について懸念しています。1990年頃に就職氷河期が始まって多くの企業で採用が見送られ、15年間ほど、採用が非常に縮小していた期間があります。我々団塊ジュニアの世代は定期的に人が入ってきていたので、OJTで人から人への伝承がありました。ところが今は、教えたくても伝えられる人がいない状況なのです。10年後、我々の知識や経験は引退をもって全て暗黙知のままになりかねないため、企業にとっては深刻な問題です。従って、デジタル技術を活用して暗黙知を可視化することに積極的に取り組んでいまして、BIGDAT@Viewerはそのためのツールの一つとなっています。今までベテランの人に頼っていたノウハウ、しきい値をどう設定し、何に注目すべきかをツールで設定することで、暗黙知だったものを明確化して価値にできます。今後、我々の働き方の多くがデジタル化されますし、そうしないと企業が成り立っていかないでしょうね。

サイバネット BIGDAT@Viewerに対するご要望はありますか。

日笠様
日笠様

日笠様 フォーマットが異なると整形するのが大変だった部分が、BIGDAT@Analysisで改善されたと聞いています。BIGDAT@Viewerでは、データを入力して表示させると特異点として異常値はわかったものの、それがどういう変化をしたかを知るには別のグラフを作る必要がありました。BIGDAT@Analysisでは、気になる属性があればそのボタンを押すと時系列の波が表示されると聞いています。

山形様 今後は、これを単なる可視化ツールとしてだけではなく全てのお客様の予兆保全に役立てていきたいと思っています。そのため、TEDさんとのコラボ=FalconLink on Azureとの融合性も重要です。

サイバネット BIGDAT@Analysisは、完全内製化したことによりすばやく新機能に対応できるようになりました。我々が予想してアプリケーションを作ってもお客様の使いたい機能にならない可能性もあるので、POCで必要な機能を明確化する機会を設け、開発を進めたいと考えています。御社でも欲しい機能、試したいことなどのご要望があればぜひお聞かせください。

日笠様 BIGDAT@Viewerではパラメーターが多く、その重みづけを変えて調整していく部分で、判断工数や慣れが必要です。そのような部分も自動的にできるようになると嬉しいです。

サイバネット ありがとうございます。お客様先に製品が導入されると、社内や開発上の機密データを扱われるので導入後の利用状況や課題を知る機会がありません。このようなお話をお聞かせ頂き、課題を解決できる開発に繋げたいです。

山形様 はい。我々も新たなソリューションをお客様に提案し、POCでテスト導入して本当にお客様に役立つものか、価値のあるものかを確認しつつ提案をしています。サイバネットさんともその方向性で一緒に取り組めればと。

日笠様 BIGDAT@Analysisにも期待していまして、一年間契約させていただきたいと考えています。

最先端技術を利用しサポート業務の革新と新たな挑戦へ

サイバネット 最後に一言お願いします。

山形様 我々は今、Microsoft Hololens等のビューアーツール、VRやMixed Reality(複合現実)など色々なことに取り組んでいて、今後得られた画像を解析しながら新たな価値を生むことにも取り組んでいます。複合現実というものは、現実とサイバー空間のオブジェクトの位置合わせが必要で、アライメントポジションを決める座標系を作り、重ね合わせて表示します。すると、今までエンジニアが記憶に頼ったりPC画面で確認したりしていた手順を複合現実の中で表示させることができます。この順序でどこの部分をどう作業しなさいと、全てガイドしてくれるようになる。弊社でも、会社全体でDXへの取り組みが進んでいまして、今後の展示会などでお客様にシステムを体験いただく予定です。

日笠様 弊社のナノテクノロジー製品分野では、本当に微細なパターンを露光したり測長したりする優れた製品を取り扱っていますので、それに劣らないサポートも行っていきたいです。従来の保守サポートから、最先端の技術を利用し、予知保全まで見込んだサポートに変化させ、お客様により良いサービスを届けるため、サポートの分野でも引き続き新しいことにチャレンジしていきます。

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