4人がエントリーしたレンズはCODC実行委員会により、厳正なる審査が行われました。
エントリー〆切からひと月。
【結果発表会場】
(ざわざわ、ざわざわ、ざわざわ)
レディース & ジェントルマーン!大変長らくお待たせいたしました!
いよいよCODCデザインコンテストの結果発表の時間です!!
(わーーー、パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ)
では、結果を発表する前に今回のデザインコンテストの課題を振り返って見ましょう。
波長 | 単色 λ = 0.532 μm |
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硝材 | Schott N-BK7 (index = 1.519473) |
レンズ枚数 | 21枚以下 (※薄い平板を利用すれば性能を変えずにレンズ枚数を増やせるため、"21枚以下"に修正) |
全長 | 無制限 |
最大径 | 要求なし |
レンズ形態 | 総て屈折面(反射面や回折面の使用はダメ) |
面の形状 | 球面或いは平面。総ての面は回転対称形状 総ての球面の曲率半径は絶対値で同一のこと |
レンズの制約条件 | 総てのレンズは、軸上とエッジ部で正の厚みを有すること。 空気間隔も軸上とエッジ部で正(レンズ同士が干渉していないこと) |
ビネッティング | ケラレがないこと(全画角の光線が絞りいっぱいを通る) →軸上画角のビネッティングはゼロ。軸外画角のビネッティング量は、瞳の収差に依存する |
結像性能 | 全画角にわたってRMS波面収差 ≦ 0.070 λ |
物体距離 | 無限遠 |
像面 | 空中の平面(虚像は不可) |
絞り位置 | 制約無し |
ディストーション | 全面にわたり絶対値が5.0%以下であること |
焦点距離 | 100.00 ± 0.01 mm (近軸計算) |
グローバルシンセシス(GS)の使用 |
原則使用可能 ただし、GSを使用して大きく改善した場合、「○○が□□のように変わったから、△△が改善した」と言えるように解析を行うこと。 |
ここでポイントとなるのが、やはり評価関数。
では、この評価関数、いくつまで目指せるのでしょうか?
過去に実際に設計された光学系を探してみたところ、評価関数7,000に相当するものがありました。これは、2005年に発表された論文で、全画角140°をカバーするFナンバー1.0の光学系です。もちろん、この光学系は今回課せられている『全ての球面の曲率は同一』という仕様を満たしていません。
この光学系は中間像をリレーして結像させる手法を採用しています。いわゆる2次結像系です。
中間像までの前半部分で画角依存の収差を補正、中間像以降で瞳依存の収差を補正しています。
このように収差補正を前半と後半で役割分担したことにより、Fナンバーが1.0にも関わらず±70°の画角を達成しています。
理論的には、Fナンバー0.5で画角が±90°が限界で、評価関数は18,000になります。
ではここで、なぜFナンバーの限界値は0.5なのでしょうか?
こちらはFナンバー0.51の光学系です。
一方、こちらはFナンバーが0.36の光学系です。
光路図を見る限りは何の問題もなさそうです。
ここで問題となるのが正弦条件です。
この場合、もっと明るい光学系はsinθ=1.0です。
また、h = 入射瞳直径÷2、Fナンバー = f÷入射瞳直径 です。
このことからFナンバーは1/2、つまり0.5が上限となります。
Fナンバーが0.5以下のレンズでは正弦条件を満たすことが不可能なため、軸外画角の球面収差が極端に大きくなります。
以下の横収差図、左は正弦条件を満足していないレンズ、右は満足しているレンズです。
正弦条件を満足していないと、画角を大きく取ることができません。
続いて、課せられている仕様を見ていきましょう。
まず、RMS波面収差 ≦ 0.070 λという結像性能はどういった基準なのでしょうか?
古典的には、ストレール比(Strehl ratio)が0.8以上であれば、ほぼ無収差と考えることができます。
ここで S はストレール比、λ は波長、W は波面収差のRMS値。
(実際には、光ピックアップ光学系などの性能としては、これでもまだ十分ではありません)
マレシャルの評価基準(Marechal criterion)では以下の式になります。
ここでMD はマレシャル評価基準。
この条件を満たす波面収差のRMS値(W)を求めると
となります。
RMS波面収差が 、つまり0.07λです。
このことから今回課せられているRMS波面収差の仕様は、光学系の結像性能がほぼ無収差であることと同義です。
ここで、計算するRMS波面収差にひとつ条件がありました。
「波面からフォーカスやティルトは除外しない状態で計算を行う」
これは、RMS波面収差に対する参照球中心は主光線であり、重心ではないことを意味します。
緑字の"最適な参照球にフィッティングした場合の中心位置"ではなく、青字の"主光線の交点"を中心とする参照球から計算したRMS波面収差です。
この値、CODE Vの波面解析(WAV)機能では計算することができません。
WAVでは参照球面中心を平行移動させたベストフィット球から計算したRMS波面収差のみを解析するためです。
今回の条件に合うRMS波面収差を解析する機能は瞳マップ(MAP)解析機能です。
MAPでは波面収差マップとともに以下のようなテキスト出力が確認できます。
エントリーされた方の中には、以下のようなマクロを作成してRMS波面収差が仕様を満たしているかどうかグラフで確認されていた方もいらっしゃったようです。
マクロ:calc_rmswa.seq
今回エントリーされたレンズで、もしRMS波面収差が0.07λ以上あった場合、以下のいずれかの処理を行うことといたします。
ただ、幸いといいますか、エントリー時に申請された物体側入射角度と入射瞳直径でRMS波面収差が0.07λを超えていたレンズはありませんでした。
次にディストーションです。
ディストーションの計算では、評価面がガウス像面と異なる場合、理想像高を定義します。
この理想像高定義の方法もCODE VとCODCでは少し異なります。
通常、ディストーションは近軸焦点位置で計算されます。
その位置から評価面がずれている場合、近軸像高とは別に"理想像高"を決めなくてはいけません。
CODE Vは近軸像面の近軸像高から実主光線と平行な角度を持つ補助線(下図赤点線)をひいた高さを『理想像高』とします。
一方、CODC(と本家のIODC)では近軸主光線と平行な角度を持つ補助線(下図赤実線)から『理想像高』を決定します。
CODE Vはy/yref、CODCではy/y'refをディストーション値とします。
こちらも仕様を満たしていない場合、光線入射角度を調整します。
全てのエントリーレンズは、このCODCの定義でディストーションを計算した結果、仕様(5.0%以下)を満たしていました。
最後に『ケラレがない』という条件です。
『ケラレがない』という状態は全画角に渡って絞りが満たされていることを指します。
全画角の光束が絞りの径にのみ制限されている状態です。
CODE Vのビネッティング設定が0.0であることと等しくはありません。
ビネッティング設定が0.0でも絞りいっぱいを光線が通らない場合があります。
こういった場合はビネッティングの設定(in setvig.seq)を行います。
上記モデルに対してビネッティング設定を行うと値が負となり、以下のように絞り径いっぱいを全画角の光線が通過します。
ビネッティングの設定を行っても、
こういった光路図になる場合は、全画角の光束が絞りの径でのみ制限されていない状態です。
つまり、絞り以外の面で光線がケラレています。
こういった状態のレンズがエントリーされた場合はビネッティングの再設定の後、入射瞳直径を小さくします。
エントリーレンズは全て適切なビネッティング設定がされていました。
さて、今回のCODCではグローバルシンセシス(GS、大域的最適化アルゴリズム)の利用が許可されていました。
ただし「○○が□□のように変わったから、△△が改善した」と言えること。
エントリーされたレンズの設計者の自己申請によりますと、全員グローバルシンセシスを利用していませんでした。
全てローカル最適化のみで設計されたレンズです。
では、ローカル最適化でどのように設計を進めていけば良いのでしょうか?
実行委員が考える設計のポイントを紹介します。
レンズの前面、後面に対して3種類の形状が可能 (-R, 0, +R)です。
つまり、9種類のレンズが考えられます。
新しいレンズを追加しようとするときに、この9種類のレンズからどれを選びますか?
どの面に(どちら向きの)曲率を与え、どの面を平面にしたらいいのでしょうか?
平面を曲面にしたり、曲面を平面にしたり、凹面を凸面に(またはその逆)したりする場合、何を判断基準にすればいいのでしょうか?
お互いに曲率半径がリンクされている場合は、面の凹凸平を連続的に変えることができませんので、特に注意が必要です。
そういった方法ではなく"曲率半径を独立で変化させつつ最終的には全て同一の値(±)に収まる"といった方法があれば便利です。
特にグローバル最適化を使用する場合に役に立ちます。
(ざわざわざわざわざわざわ)
・・・・・・
わたくし思わず熱くなってしまいました。
聞かれてもいないのに、評価関数と仕様、設計ポイントについて長々と喋ってしまい。。
大変申し訳ございません!
前置きはこれぐらいにいたしまして。
では、いよいよ結果発表です!
今回のCODC、合計6名の方からエントリーがありました!
(これまで設計手順を皆様に見ていただいたのは4人だったかと思います)
Iさん、Oさん、Uさん、Sさんのほかに特別参加としてGSさん、GSAさんからのエントリーを受け付けました!
では、早速エントリーされた方々のレンズをご覧いただきましょう!
※画像をクリックで拡大表示します
皆様、多種多様なレンズをエントリーいただきました。
で、気になる結果は!!!!(ドラムローール!)
第6位 | GSさん! | 評価関数:426 ( = Φ21.5mm×21.5°) |
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第5位 | Oさん! | 評価関数:806 ( =Φ65mm×12.4°) |
第4位 | GSAさん! | 評価関数:956 ( =Φ49mm×19.5°) |
第3位 | Uさん! | 評価関数:1103 ( =Φ56mm×19.7°) |
準優勝 | Iさん! | 評価関数:1469 ( =Φ84.775mm×17.325°) |
優勝 | Sさん! | 評価関数:1506 ( =Φ76.5mm×19.69°) |
Sさん、おめでとうございます!!!なんと1500超え!すばらしい。
Iさんも惜しかった。僅差の2位です。
では、ここで少しエントリーされたレンズの特長を見てみましょう。
やはり、特筆すべきは全長。
長い、長い。長いものでなんと1km!
みなさん、全長の制限がないことを有効活用しました。
この長い全長と曲率半径、最大アパチャー径をプロットしたグラフが以下です。
これらのデータは相関があります。
本家IODCにエントリーされたレンズも、だいたい黒実線上に各レンズが並びます。
曲率半径 ≒ 4×全長0.6
最大アパチャー径 ≒ 1.5×全長0.7
一方、レンズ枚数と全長にはあまり相関がありません。
IODCのエントリーレンズも同じです。
CODCにエントリーされたレンズは枚数が少ない(仕様で制限されていた)わりに全長が長い傾向にあります。
ちなみにIODCにエントリーされたレンズには2次結像系が3つ、3次結像系が1つありました。
それらはやはりレンズ枚数が他に比べて多くなります。
続いて、評価関数との関係です。
レンズ枚数が多ければ、全長が長ければ、重量が重ければ、評価関数が大きくなる傾向が見えます。
ただ、絶対的に有利というわけではなさそうです。IODCのエントリーレンズも同様の傾向を示します。
IODCと比較すると、同程度のレンズ枚数のエントリーの中ではCODCのレンズは比較的評価関数が高いです。
一方、全長はIODCエントリーレンズより総体的に長く、レンズ枚数のわりに評価関数が高いのは全長を長くとったから、ということも見えてきます。
重量もIODCエントリーレンズに比べてかなり重いです。
ちなみにIODCの優勝レンズは2次結像系、準優勝レンズは3次結像系でした。
この2つは飛びぬけて評価関数が良かったです。
最後に評価関数を決定付ける入射瞳直径と光線入射角度です。
最後に、ここで皆様にお知らせがございます。
優勝のSさん(評価関数:1506)、準優勝のIさん(評価関数:1469)。
この結果は本家IODCと比較しても、全く引けを取りません!
仮にIODCにエントリーしたとすると、、
Sさんは7位!!
Iさんは8位!!
世界有数の光学設計者と見事競り合っております!!
こんな結果が出せるのであれば、本家IODCになぜエントリーしなかったか。。悔やまれます。
では、このあたりで今回のCODC結果発表を終了いたします。
次回IODCは4年後(2014年)になります。
ぜひみなさん。IODCデザインコンテストにエントリーしてください。
(これを読んでいるあなた。そこのあなたです。)
デザインコンテスト以外もIODCは世界中の光学設計者と最新情報が集まるカンファレンスです。ご興味がありましたら、ぜひご参加ください。
では、みなさま。お元気で。4年後またお会いしましょう!