CYBERNET

幾何公差入門

幾何公差の必要性と導入するときの3つのポイントを分かりやすく解説

幾何公差とは?

「幾何公差の導入方法は?」
「幾何公差を社内で使えるようにするにはどうすればいいの?」

寸法公差から幾何公差への移行方法やスムーズな導入方法に悩んでいる企業は多いのではないでしょうか。

幾何公差の導入は、基本的に下記3つのステップで実施することをおすすめしています。

日本国内(寸法公差)

まずは、設計部署を中心に基本的な知識を身につけます。その後、社内での共通認識・共通言語となるように幾何公差の定着化を促進することが大切です。

幾何公差の導入は設計担当者任せではなく計画的に進めて、これから社内で長く使える知識にしていく必要があるのです。

そこでこの記事では、幾何公差を導入する必要性や具体的な導入方法をまとめて解説していきます。

この記事を読むと分かること

この記事を最後まで読めば幾何公差の導入方法が把握でき、計画的な導入を検討できるようになるはずです。幾何公差を適用する企業は増えているので、いち早く適用できるよう参考にしてみてください。

1.図面に幾何公差を適用する企業が増えている

幾何公差とは

弊社が主催いたしました「幾何公差入門セミナー」の参加者を対象に実施したアンケートによると、90%以上の企業で幾何公差を「一部」または「かなり」適用していることが分かりました。

幾何公差とは

幾何公差と聞くと抵抗を感じる企業がある一方、多くの企業で幾何公差の導入が進められていることになります。なぜ、幾何公差の導入が必要なのか、次の章で解説していきます。

2.幾何公差を使うべき3つの理由

幾何公差を使うべき3つの理由

幾何公差を使うべき理由として

◎寸法公差よりも設計意図を正確に指示できる
◎諸外国に通用する図面が書ける
◎国内でも幾何公差に移行する流れが出てきている

という3つがあります。なぜ今、幾何公差の導入が必要なのか把握するために重要なポイントとなるので、ぜひチェックしてみてください。

2-1.寸法公差よりも設計意図を正確に指示できる

寸法公差では、サイズや長さ、角度しか指示ができず、設計者の意図が伝わらないことがあります。何度も確認のために連絡を取らなければならない、解釈のすり合わせなど余分な労力や時間がかかるケースも見受けられます。

例えば、寸法公差の場合は下記のように基本的に2点間計測で管理します。基準となる部位や測定方法が把握できず、寸法の定義が非常に曖昧です。

一方で幾何公差を使うと、形状や姿勢、位置関係まで細かく指示ができます。穴の位置や傾きを定義できるだけでなく、基準が明確なため人による解釈の違いが起こりにくいと言えます。


このように、幾何公差は基準が明確で解釈が一定です。設計者の意図が正しく伝わり、スムーズに製品を作ることができます。

幾何公差と寸法公差の違いについて詳しく知りたい場合は、下記の記事を参考にしてください。

幾何公差とは?寸法公差との違いや記号の種類、記載ルールを解説

2-2.諸外国に通用する図面が書ける

欧州やアメリカでは、国際標準であるISO 1101やASME Y14.5を基本として、幾何公差が広く普及しています。言い換えると、諸外国では寸法公差のみで指示した図面は通用しないことになります。

例えば、海外から部品を調達する場合や日本で設計した部品を海外へ販売するときは幾何公差を使わざるを得ない場面が出てきます。寸法公差しか使えないと、業務の幅が狭くなってしまうのです。

日本産業規格のJIS B 0420-1:2016「製品の幾何特性仕様(GPS)-寸法の公差表示方式-第1部:長さに関わるサイズ」の解説でも「現状の多くの日本の図面では、決して欧米諸国などの技術者には理解されないものになってしまう」と警鐘を鳴らしています。

今まで日本では読み手側が図面から意図を汲み取り、長年の知識や技術でカバーをする方法が取られていました。しかし、グローバルに活躍していくためには幾何公差の導入が必要不可欠となってきているのです。

2-3.国内でも幾何公差に移行する流れが出てきている

諸外国だけでなく、日本国内でも幾何公差に移行する流れが出てきています。JIS B 0420-1:2016の解説には、下記のように記載されています。


この表はサイズ形体を示すときには寸法公差を使用し、それ以外は基本的に幾何公差を使うことを示しています。JISに取り入れられたということは、日本でも今後の産業界の標準になっていくと考えられます。

また、JEITA(電子情報技術産業協会)をはじめとした業界団体も、幾何公差の考え方を取り入れた規格を定めるなど幾何公差への移行は活発化し始めています。

こうした国内の動向を受けて、幾何公差の導入に取り組む企業が増えていることが冒頭のアンケート結果にも表れています。
将来的には、幾何公差が使えていないというだけで競合他社に遅れを取ることにもなりかねません。

3.幾何公差を導入するときの3つのステップ

幾何公差を導入するときの3つのステップ
実際に幾何公差を導入するときには、上の表のように
  • 幾何公差を使うための知識を養う
  • 幾何公差を使う環境を定着させる
  • 公差解析ツールを使い効率化する
という3つのステップが基本となります。それぞれどのようなことを実施するのか詳しく解説していくので、ぜひ参考にしてみてください。

3-1.幾何公差を使うための知識を養う

まずは、幾何公差を使うための基礎知識を養います。幾何公差のルールや基本は規格にも書かれていますし、参考書や書籍を買えば誰でも学ぶことができます。

しかし、現実的には時間を要する、解釈が難しいなどの壁があります。今までの方式と違うため戸惑ったり社内に教育できる人がいなかったりといった問題も起こるでしょう。そこで、幾何公差を導入するための教育を受けることも一つの方法です。

幾何公差は従来の公差方式とは違うとは言え、製品の設計に関わる基本的なところは変わりません。どのように考えるのか、その考え方を身につけることが最も重要となります。寸法公差との違いや考え方について、ポイントをおさえたサポートを受けることで、短期間で効率よく知識を養えます。

幾何公差の導入を後押しする方法について弊社の「幾何公差入門セミナー」参加者を対象にアンケートを実施したところ、社内研修の充実や実図面を用いた指導を望む声が多く見受けられました。


回答者のほとんどは、設計や生産・製造技術などの現役の技術者の方々ですが、単純な知識の習得よりも各社の実態に合わせた、より実践的な教育機会を求めている傾向が見て取れます。
技術者の自主勉強に任せるのではなく、実例を交えながら積極的に幾何公差を学べる環境を構築することが導入時のポイントとなります。

とは言え、企業内で教育やサポートをするのは時間や労力がかかるかと思います。そこで、弊社では質の高い幾何公差導入セミナーを開催し、企業の幾何公差教育や知識の定着をサポートしています。

幾何公差 学びなおし講座
(初級編/対象:不問)
規格の基本から、幾何公差記号と優先順位や記入方法などの解説・グループワークを通じて幾何公差の基本的な知識を深めます
幾何公差方式入門講座
(中級編/対象:初級編受講済みの方)
幾何公差講座の中級編として、自由度による幾何公差設計と幾何公差による形体コントロールを実践で使えるように知識を養います

詳しい講座の内容や開催時期については、お気軽にお問い合わせください。

また、「寸法公差と幾何公差の違いを知りたい」という方は「幾何公差道場」の動画をご視聴ください。

3-2.幾何公差を使う環境を定着させる

設計者だけが幾何公差を覚えても、導入する意義やメリットを全社的に理解しないままでは、後工程の反発を招いたり解釈が正しくできなかったりと歪みが生まれます。

そこで、会社全体としての幾何公差導入を促進するために定着化のコンサルティングを行います。現状の課題を見つけてどのように幾何公差を定着させていくのか、スケジュールを立てて進めていきます。

幾何公差に対して「そもそも幾何公差が分からない」「幾何公差を使うと工数が増える」「設備投資が必要なのでは」というイメージを持っている方がいるかと思います。

しかし、実際には幾何公差を導入することで
  • 使い方次第で工程が簡略化できる
  • 必ずしも3次元測定は必要ではない
という側面があります。定着化のコンサルティングでは幾何公差への誤解を解いて、社内での共通認識として幾何公差を扱えるようにしていきます。

弊社では、幾何公差を定着させるための定着化コンサルティングを実施しています。現状の設計プロセスを把握したうえで課題を分析し、幾何公差を定着させるための最適なプロセスを提案します。

定着化のコンサルティングは下記のように進めていきます。


①ヒアリング

現在の図面や幾何公差の定着状況をヒアリングし、課題とゴールを明確にします。このときに、コンサルティングの期間や対象人数なども決めていきます。

②スケジュール・実施項目の提案

ヒアリング内容を基に、幾何公差を定着化させるスケジュールや必要となる実施項目を提案します。

③コンサルティングの実施

スケジュールに基づいて、コンサルティングを実施します。コンサルタントの訪問やメール、電話でのサポートを行います。

幾何公差を定着させるときには、社内の足並みを揃えることが難しくなりがちです。弊社の定着化コンサルティングを活用すると、本当に必要な指導を短期間で実施し確実に定着させていきます

定着化のコンサルティングについて詳しく知りたい場合は、こちらのページをご覧ください。

3-3.公差解析ツールを使い効率化する

製品の各部に公差を設定する場合、一般的には、関連する公差を足し合わせたときに製品が求める性能を満たしているか、ばらつきの範囲が基準内かを把握するために公差解析をします。

寸法公差で公差解析をする場合、図面上(2次元)の数値を足したり引いたりするだけで済むことも多いので、関連寸法などは比較的イメージしやすいでしょう。

一方で幾何公差では3次元的な考え方が入ってくるため、イメージがしにくくなります。とくに公差値が変化したときに最終的な性能にどれくらい影響を与えるのかを考えようとすると、計算が複雑になります。

公差解析をExcelなどで行っている場合もあるかと思いますが、幾何公差による3次元的なばらつきまで考慮するのは非常に難しくなってきます。

そこで、公差解析ツールを活用すると、画面上の3D CADモデルを基に公差のシミュレーションができます。頭の中でのイメージを可視化でき、確認しながら幾何公差を設定できます。
  • 部品点数が多い場合
  • 複雑な製品を手掛ける場合
といったケースでは、公差解析ツールを活用すると製品設計のミスを未然に防げるようになります。

弊社の「CETOL 6σ」は、高精度な3次元公差解析ツールです。

【CETOL 6σの特徴】
  • CADモデルを直接活用、システムモーメント法を用いた高精度な3次元公差解析が可能
  • PMI(3Dアノテーション)も活用でき、解析設定を簡易化、高速化
  • 設定エラーを表示するアドバイザー機能、ポスト処理でのアナライザー機能なども充実
  • 分かりやすいGUIにより、簡単な操作で設定が完了
「CETOL 6σ」を使うと幾何公差での公差解析・公差設定を強力にサポートしてくれます。
製品情報は、こちらからご確認ください。

4.幾何公差導入のQ&A

幾何公差導入のQ&A

最後に、幾何公差を導入するときによくある質問をまとめてみました。幾何公差の導入の前に知っておくと役に立つ質問ばかりなので、ぜひ参考にしてみてください。

Q幾何公差の導入時には、まず設計部門内で取り組んでいくべきでしょうか?
A 幾何公差の導入時には、図面を作成する設計部門の主導が必要です。しかし、
・図面をもとに加工や検査を行う製造部門
・生産を外部委託する場合には、購買部門や取引先
なども図面に関わるため、幾何公差に対する理解度や知識の向上が欠かせません。幾何公差の導入や定着は全社的な課題として考えることが重要でしょう。
Q幾何公差の測定には3次元測定器が必須でしょうか?
A必ずしも、3次元測定器が必要なわけではありません。多くの場合は従来同様に汎用・専用の検査治具を使って測定が可能です。
ただし、幾何公差の選択や指示内容によっては、3次元測定器を使わないと測定が困難になったり工数が増えたりする場合があります。
Q幾何公差は素材によって利用できないことがありますか?
A素材による制限は、基本的にありません。ただし、プラスチックや板金など変形しやすい素材は特有の表記方法があります。
Q幾何公差の積み上げ計算・公差解析は複雑で工数がかかりませんか?
A幾何公差は指定された公差域の中で、位置や姿勢の3次元的な変動を規制します。部品点数が多い場合や複雑な製品になると、Excelや手計算での公差計算が困難になります。そのような場合に3次元公差解析ツール(CETOL 6σ)を使用すると、精度の高い公差検討を短時間で実施することが可能です。

5.まとめ

いかがでしたか?幾何公差の導入が必要な理由や、具体的な導入方法について把握できたかと思います。最後にこの記事の内容をまとめてみると

◎幾何公差の導入が必要な理由は次の3つ
1)曖昧さがなく寸法公差よりも設計者の意図が正確に伝わる
2)欧州やアメリカでは幾何公差が広く普及しているので諸外国に通用する図面が書ける
3)国内でも幾何公差に移行する流れが出てきている

◎幾何公差を導入するステップは次のとおり
1)幾何公差を使うための知識を養う
 幾何公差の書き方や基本的なルールを身につける
2)幾何公差を使う環境を定着させる
 全社的な課題として幾何公差の定着を促進する
3)日本国内でも寸法公差から幾何公差にシフトする動きが出ている
 公差解析ツールを活用すると、3D CADデータを使用して効率良く3次元的な公差のシミュレーションができる

幾何公差の導入は、ポイントやコツさえ把握できればスムーズに進めることができます。幾何公差の導入に壁を感じている場合はサポートさせていただきますので、お気軽にお問い合わせください。

Contactお問い合わせ