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解析事例

サンデン株式会社

目指すは試作レス。AnsysやOptimusの逆解析を活用した、開発スピードアップのための取組み

山形様、井上様、手島様、佐藤様

本インタビューでは、サンデン株式会社様にご協力いただきました。
「Delivering Excellence」をコーポレートスローガンに掲げ、常に高品質な「製品」「システム」「サービス」の創造と提供をめざすサンデン様。「冷やす・暖める・電子」をコア技術に、自動車や住環境、流通システムの快適空間を追求しておられます。中でもカーエアコン用のコンプレッサでは世界的に高いシェアを誇り、国内はもちろん、世界各国の車両メーカーに供給されています。

今回は、「Delivering Excellence」の中核を担う基盤技術開発部の皆様より、解析や最適化ツールを活用した取組みについてお伺いしました。

(以下、お客様の名前の敬称は省略させていただきます)

解析から実験、測定、ツール利用環境の構築まで。多方面から製品開発を支援する、専門家集団

皆様の担当業務についてお聞かせ下さい。

佐藤

我々が所属する基盤技術開発部では、他部門の依頼に応じて、解析や実験、測定など、様々な方法で全社の製品開発を支援しています。また利用ツールの取りまとめも行なっており、私はAnsysの契約関連をはじめ、社内のCAE利用環境の構築全般も担当しています。

井上

私は、当社の主力製品であるコンプレッサの各種解析を行なっています。入社は1989年、構造解析を始めたのは1993年頃です。当時はメッシュを手で切る事が当たり前だったので、基礎理論はかなり勉強しました。その頃は別のツールを利用していましたが、コンプレッサの開発部隊に異動したことをきっかけにAnsysを使い始めました。

手島

私の入社は2001年です。入社当時は自販機やショーケースの解析を行っていましたが、今は当部署でコンプレッサの新商品開発における設計支援を行っています。設計チームと連携しながら、少しでも試作レスに近づくために日々解析をしているところです。

山形

私は2006年に入社しました。当時は実験を行っていましたが、2年程前にこの部署に異動になり、鉛フリーはんだの疲労や、ボルトのゆるみなどの要素技術の開発に携わっています。

御社の取り扱い製品についてお聞かせ下さい。

佐藤

大きく分けて自動車機器システム、店舗機器システム、自動販売機システム、そして住環境機器システムの4つの体系があります。解析はどの分野でも行っており、例えば自動販売機の扉の強度を評価するためにAnsysを使っています。自動販売機は重いのですが、実は非常に薄い鉄板でできており、いかにして剛性を保つかが重要です。自販機は防盗性の問題もありますし、扉の開け閉めでヒンジにも無理がかかるので、たびたびAnsysで解析しています。

しかし、特に多いのはコンプレッサ系です。コンプレッサの形状は極めて複雑ですし、軽量化のために肉盗みもギリギリのところまで行なっています。また生産効率向上のためには、アールの大きさを調整するなど、作りやすさも無視できません。これらの条件を満たすために、膨大な数の解析を行なっています。

究極の課題は、試作レス実現のための環境づくり

御社の業界では、どのような問題が重要課題になっていますか。

佐藤

我々のお客様からは、信頼性の強化とともに、より一層の短納期化を求められています。またコスト削減や生産性の向上も不可欠です。これらを満たして、ライバルメーカーとの競争に勝っていくためには、どうしてもCAEが必要になってきます。

手島

加えて、自動車メーカーのお客様からは、実験だけでなく解析結果の提出を求められることが増えています。実験でなぜこのような結果が出たのか、解析の数値データを用いて理論的に説明する必要があるのです。

佐藤

当部署はこうした課題の中でも、短納期化、つまり開発のスピードアップを重点課題に掲げています。そのためCAEへの投資など、スピードアップのための施策は積極的に行っています。今はAnsysをメインに使っていますが、その他にも磁場や流体、機構など、様々なツールを導入しています。

また、我々にとっての究極の課題は試作レスです。試作レス化するためには、どのくらいの解析精度が必要かとか、技術者のスキル、必要なライセンス数など、考えるべきことが沢山あります。完全に試作が無くなることはありえないかもしれませんが、我々はそれを目指すべきだと考えています。
特に今取り組みたいのは、技術者が気軽にCAEを使えるような環境づくりです。CAEというと敷居が高いと思われがちですので、その先入観を払拭したい。設計計算を楽に行うために、Excelや電卓感覚でCAEを使ってもらうためにどうするべきか、日々検討を続けています。

井上

同時に、実験との相関を取っていくことが不可欠ですね。電卓は、やはり信頼して叩いてほしいですから。人によって叩き方も違えば答えも異なるというのでは困ります。
特に設計部門では、様々な設計者が日々の設計業務の中で解析を使っていますから、失敗は許されません。できるだけ使いやすく、かつ失敗しないようなCAEの利用環境を整えていくことも我々のミッションだと思っています。

Ansys DesignSpaceを導入後、設計者のCAE利用が拡大。現在では上位ライセンスにニーズが集中

Ansysの導入経緯についてお聞かせ下さい。

井上

1990年前半に、クラッチの電磁場解析の目的でAnsys Emagを導入したのが最初だと思います。そして2002年に開発リードタイムの短縮を目的に、設計者向けにCAEを展開することになりました。
いくつかのツールを検討した結果、すでに解析部隊はAnsysを利用していたことと、CATIAのデータの読み込みが非常にスムーズだったことからAnsys DesignSpaceを導入しました。

その後、設計者の間で利用が広がり、やがて線形解析では機能が足りなくなりました。今ではAnsys Mechanicalのような上級ライセンスにニーズが集中しています。昔はモデルや条件を単純化することが当たり前でしたが、今の設計者にはその時間がありません。CAD形状をそのまま使って、できるだけ現物と同じ接触条件で解析するために、大変形や接触解析といった上級ライセンスの機能が求められています。

佐藤

実際と同じ条件を与えた解析なら、お客様にも説明しやすいですよね。また、アセンブリモデル丸ごとの解析なら、計算時間はかかっても技術者の工数はかかりません。計算時間もHPCを使えば改善されるので、当社ではHPCをかなり活用しています。

試験コスト低減のため、はんだの疲労解析を実施。実験結果をもとに、妥当性の検証は徹底的に

具体的な解析事例についてお聞かせ下さい。昨年のAnsys Conferenceで発表いただいた鉛フリーはんだの疲労解析事例は特に人気の高い講演の1つでしたが、こうした解析が必要となった背景はどのようなものでしたか。

山形

電動コンプレッサのインバーターに利用するはんだの開発です。現在、はんだの信頼性評価では熱衝撃試験を行っていますが、これは基板を恒温槽に入れて、-40度程度の低温から120度程度の高温まで、数千サイクルもの温度荷重をかけていくものです。これを仕様変更の度に行なうと、コストも時間もかかってしまうので、解析で試験回数を減らせないかと考えました。

手島

試験を外注する場合、そのコストは試験期間によって決まります。お客様からのご要望で熱衝撃試験は2ヶ月にも及ぶことが多く、1回の試験につき百万単位でコストが発生します。それを解析でもっと絞り込めないかと。

山形

この解析で苦労したのは、局所的にひずみが発生するため、メッシュサイズを変更すると結果が変わってしまうことです。そこで解析の妥当性を確認するために、実際に熱衝撃試験を行ってサイクル毎の基板の様子を観察し、亀裂が入ったサイクル数を調べました。具体的な観察方法は、はんだを慎重に輪切りにし、顕微鏡で数ミクロン単位の亀裂を測定するというもので、まさに気の遠くなるような作業です。

また、実験装置によっても温度変化のスピードが変わるため、温度変化速度の考慮方法も課題でした。今回の解析では、温度依存のない非弾性ひずみエネルギーで評価したことが効果的だったと思います。

この研究について、今後の課題はありますか?

山形

解析結果を確認するための試験方法の開発です。先述の方法では、はんだを輪切りにしたときに亀裂が発生している可能性がありますので、より有効な方法がないか検討中です。

コンプレッサの試験条件の特定に最適設計支援ツールOptimusを利用。解析で行きづまった時は「逆解析」が有効

Optimusの導入経緯はどのようなものでしたか。

手島

Optimusの導入は2006年頃です。他の最適化ツールも検討したのですが、Ansys Workbench環境との親和性やサポート体制を重視してOptimusに決めました。

当社では逆解析でOptimusを利用しており、昨年のOptimusセミナーで発表したのも逆解析の事例でした。コンプレッサ内のスクロールの単体疲労試験において、実際に近い最適な試験条件を見つけるというものです。

製品の疲労は形状や表面の条件によってSN曲線が大きく異なってきます。そのため、実製品のSN曲線を再現するためには、実製品そのままの形状で同じ応力が出るような条件で疲労試験をする必要があります。しかし複雑な形状をもつスクロールの場合は条件を決めるのが難しく、疲労試験の結果が実体と合わないことが問題になっていました。そこで逆解析を使って、実製品と同じ応力を出すような試験条件を求めたのです。

井上

コンプレッサの内部には可動スクロールと固定スクロールがあり、両者を組み合わせてできる空間を圧力室として利用します。可動スクロールを動かす事で、圧力室の容積を変えて、圧縮動作を行います。

手島

動作は単純なのですが、圧力室の位置や圧力値が常に変化してしまうため、応力がピークになるタイミングや位置を特定するのは困難です。また、スクロール同士の接触状態が変化するため、圧力のピークが応力のピークになるとは限りません。この様に考慮すべき現象があまりに複雑だったので、逆解析で最適な疲労試験条件を求めました。

得られた条件をもとに疲労試験を行ったところ、実機の破壊モードを再現することができたので、かなり妥当性の高い結果を出せたと思います。今後はこの考え方を応用して、実際に製品開発で用いられているスクロールのSN曲線を単体試験で求められるようにしたいと考えています。

佐藤

逆解析は、Optimusがなければできなかったことです。今回のように、実物と解析結果が合わずに行き詰まっているときには極めて強力なツールだと思います。

手島

Optimusは、最初は操作が難しいように感じましたが、一度使ってみると合理的で解りやすいと思うようになりました。Workbench環境との親和性も非常に良かったです。非線形の材料特性と実験結果を合わせるために、Optimusの逆解析でチューニングするといった用途もありそうですね。

ありがとうございます。新しいバージョンではWorkbench環境とのダイレクトインターフェースが搭載されましたので、操作性はさらに向上しています。どうぞご期待ください。

※「逆解析」とは

通常の解析では、モデルに既知の材料物性や境界条件を与えて結果を算出しますが、カタログスペックの材料データや、理想化された境界条件で得られた解析結果は実験結果と合わないことがあります。

この場合、実験結果と解析結果をすりあわせて適切な入力条件を探索するには、材料や境界条件を未知のパラメータとして変動させ、解析結果と実験結果との差を最小にするような最適化問題を解くことが有効です。これを逆解析と呼びます。

「解析実践塾」など、現場のニーズに直結したCAE教育活動を展開。同時に基礎理論の教育も

ところで、御社でのCAE教育活動についてお聞かせください。

井上

2001年頃から、設計者の中でも予備知識のある人を何人か集めて、いわゆるキーマン教育を実施していました。当初は定着しなかったのですが、Ansys DesignSpaceを導入してからは順調に教育が進むようになりました。その後、教育を受けた人を中心に各部署で利用が広がりました。

佐藤

最近では、全社的な活動として「解析実践塾」を展開しています。これは各部署の悩み、つまり効果的な解析方法がなく困っている問題をテーマに取り上げ、私達で対処方法を指導するというものです。
実際の業務で抱えている問題を扱いますので、参加者も真剣に取り組みますし、上司の了解も得やすいのがいいですね。年に数回程度しか実施していませんが、それでも着実に成果を上げています。最近ライセンスの稼働率が上がっているのは、この活動によるところも大きいです。
また、CAEは気軽に使ってもらいたいのですが、CAEをブラックボックス化することは避けるべきです。そこで就業後には「基盤技術勉強会」を開催し、流体方程式の説明をしたり、実際にExcel VBAでソルバーを書いたりすることで、最低限の理屈は把握してもらうようにしています。

Ansys Workbench環境の操作性は解析技術者にも有効。今後求められるのは、業界共通のインターフェース

当社や製品に対して何かご要望はありますか?

佐藤

サイバネットのサポートは非常に良いと思います。サポート専用サイトのQuick-Aがとても充実していて、自分の場合、大抵の問題はFAQを見れば解決します。解決しない時も、サポートに問い合わせればすぐに解決することが多く助かっています。
またWorkbench環境は非常に使いやすいと思います。当社の設計者が解析できるようになったのも、Workbenchの操作性あってのことでしたし、解析技術者でさえ、一度Workbenchを使い始めるとMechanical APDL(旧Classic環境)には戻りづらいものです。

手島

私は、Mechanical APDLを使う時もメッシュ作成まではWorkbenchで行っています。CADデータの読み込みやメッシュ作成はWorkbenchのほうが便利ですから。
WorkbenchにはもっとMechanical APDLの機能を盛り込んでほしいです。今でもかなり機能は充実してきたと思いますが、構造解析でも周期境界を利用したり、クリープや粘弾性、音響などもWorkbenchで実施したいです。

佐藤

当社では色々なツールを導入しており、それぞれで操作方法が違うのが悩みなので、業界でインターフェースを標準化してほしいですね。Workbenchが業界標準になるか、ツール共通のプリポストになると便利だと思います。

井上

ただ、12でプロジェクトページが搭載されて、GUIが大きく変わりましたよね。使いこなせれば便利なのでしょうが、今まで使っていた機能がどこに移動したのかが解らないことがあるので、セミナーなどで詳しく説明してほしいです。

Workbench12で搭載されたプロジェクトページには、最初は戸惑う方もいらっしゃるかもしれません。しかし、これによってFluentをはじめとした、Workbench Mechanical(旧Simulation)以外のツールを使った連成解析や最適化が容易になりました。また作業の自動化が可能なジャーナル機能など、操作性向上に役立つ機能も搭載されています。当社も積極的にサポートしていきますので、ぜひ使ってみていただければと思います。

また、試作レスは当社にとっても大きな願いです。今後も様々な活動を通じて、精一杯のご支援をしていきたいと思いますので、何かありましたらお気軽にご相談ください。

サンデン株式会社 佐藤様、井上様、手島様、山形様には、お忙しいところインタビューにご協力いただき誠にありがとうございました。この場をお借りして、厚く御礼申し上げます。

鉛フリーはんだ接合部の疲労信頼性評価

概要

実装電子部品のはんだ接合部信頼性評価は、電子製品の機能を左右すると言っても過言ではない。はんだで接合される実装電子部品は、基本的に線膨張係数の異なる部材から構成されており、電力のON/OFFなどで温度変化が繰り返されると、構成部材に繰返しの熱応力が生じて疲労破壊が発生することがある。

特にはんだは降伏応力が低いため、ひずみが集中して熱疲労破壊が生じやすく、また低融点材料であるために通常の使用温度域でもクリープ現象を示す。本報では、鉛フリーはんだの力学モデルを構築し、スルーホール基板のはんだ接合部構造体において、温度サイクル下での弾塑性クリープ解析を実施し、熱疲労寿命を検討した。

1. 解析モデル

2. 鉛フリーはんだ接合部の疲労寿命推定

3. 熱応力解析の妥当性検証

Ansys-Optimus連成によるカーエアコン用コンプレッサー部品最適疲労試験条件の逆同定

概要

カーエアコン用コンプレッサーの信頼性設計においては、事前に部品強度を正確に把握しておくことが重要である。部品の材料強度は、荷重様式/形状/寸法/表面処理/温度などの影響により、標準試験片の強度からずれてしまうため、部品の実形状を強度測定することが望ましい。

つまり「実部品を供試体とし」「製品運転時の荷重モードを再現した」単体強度試験が、開発スピード/データ信頼性の両面から必要になる。そこでAnsys構造解析+Optimus最適化機能(遺伝的アルゴリズム)の連成により、製品運転時の荷重モードを最も良く再現できる単体強度試験条件を決定した。

1. スクロール型コンプレッサーの圧縮原理

2. 実体疲労試験の必要性

3. 目的

4. Optimus解析シーケンス

5. 解析結果

6. 最適解の妥当性

「CAEのあるものづくりVol.13 2010」に掲載

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