連成解析Ansys-MATLABによるロバスト制御系設計
1. ロバスト制御系って何?
近年、情報機器(HDD、DVD)、精密工作機械、自動車など、制御を積極的に利用したシステムが増えています。制御というのは、外から力や電圧などのエネルギを投入するため、“ちゃんと働いている”場合は性能が向上しますが、“想定外の状況”においてはかえって性能を悪化させるだけでなく、システムの暴走(発振など)を招き、破壊を起こす可能性もあります。このような現象を引き起こす大きな要因の一つに“製品のバラツキ”が挙げられます。“ロバスト制御系”とは、平たく言えば「製品のバラツキがあっても制御が成り立つ制御」と言えます。
この概念を制御系設計の典型的なブロック線図で描くと、図1のようになります。ここでGは制御対象(制御されるもの)の動特性を表しており、具体的にはFEMでモデル化された構造物などがこれに当たります。ここではこれを公称モデルと呼びます。VGは“不確かさ”を表し、モデル化されない(省略された)動特性やバラツキ(摂動)、場合によってはノイズや外乱などを表すこともあります。またKは設計されるコントローラです。GはFEMなどから正確に知ることができますが、VGは未知であり、「だいたいこの程度」といった不確定なものとなります。制御系設計においては、公称モデルGに対して性能を向上させるのはもちろん、それに加えて不確かさVGがあった場合でも、システムが暴走しないようにするコントローラKを求めることが望まれており、これを“ロバスト制御系設計”と言います。
ここでは、Ansys-MATLABを連動して、構造系のバラツキがある場合のロバスト設計法をご紹介します。

図1 ロバスト制御系設計
ちょっと寄り道:Structural Dynamics Toolbox
ここでAnsysとMATLABを連動させる場合に重要な役割を果たす”Structural Dynamics Toolbox(以下:SDT)”について簡単に紹介します。SDTはフランスのSDTools(http://www.sdtools.com/index.html)で開発されたMATLABのサードパーティツールです。機能は主に以下の3点です。
(1)実験モード解析
(2)構造解析簡易FEM
(3)商用FEMツール(Ansys,etc)とのリンク
(1)、(3)の機能により、大規模Ansys振動モデルの実験検証やモデル更新を行うなど、CAEと実験の融合をMATLAB環境で実現することができます。ここでは(3)の機能により、Ansysモデルを使ってロバスト制御系設計を行います。

図2 SDTによりAnsysとMATLABの相互連携が可能
ツールの連携
Ansys、MATLABおよびSDTを用いたロバスト制御系設計の手順を図3に示します。
1はじめにAnsysで制御対象となるモデルを作成します。このとき、節点や要素情報、質量行列、剛性行列を含んだバイナリ形式の結果ファイル(.rstファイル)が作成されます。2次にSDTで結果ファイルを読み込み、MATLABモデルに変換します。3FEMモデルは一般に極めて高次元となり、このままでは制御系設計に不向きなので、モード縮退法など、各種手法でモデルの低次元化を図り、4MATLAB上でロバスト制御系設計します。5ロバスト性の確認のため、Ansysのモデルパラメータを変更(バラツキを与える)し、1、2の手順を踏んで、6モデル変更前後の応答を比較し、問題なければ設計終了となります。

図3 設計手順
適用例

図4 光ピックアップ
Ansysでモデル化した光ピックアップモデルに対して制御系を設計し、テスト的に樹脂の密度を2倍に変化させた場合のロバスト性を確認します。光ピックアップの周波数応答を求めると、密度を変えたことにより、明らかに共振周波数が変化していることが確認できます(図6)。これに2自由度最適積分サーボ系(LQI)をし、ステップ応答を確認したものが図7です。ロバスト性を強めた設計をすることにより、パラメータ変動に強い制御系が設計できていることが確認できます。

図5 弾性支持体のサーボ

図6 周波数応答の変化

図7 ステップ応答によるロバスト性の確認