光デバイスやシリコンフォトニクスの設計の効率化、高速化を目指して デバイスレベルとシステムレベルでの設計シミュレーション

シリコンフォトニクスではチップ内に光通信システムがすべて搭載されているため、設計にはデバイスレベルとシステムレベルの解析が必要になります。ここでは効率的な設計シミュレーションプロセスについて解析例を元に紹介します。

1.はじめに

シリコンフォトニクスは低コスト、高集積密度、高エネルギー効率、信頼性、CMOS製造手法を応用した電気と光回路の融合などのポテンシャルから近年注目を浴びており、その応用範囲もメインの通信用途からセンサ機器など広範囲に及びます。
現状では各製造メーカー・研究機関ごとに光インターコネクトに代表される製品を開発・製造しているが、今後シリコンフォトニクスの需要が拡大していった場合、実際に製品を利用するエンドユーザーの用途・要望の細分化が起き、製造メーカーから提供される汎用的な構成のデバイスでは個別ニーズを満たすことができなくなることが予想されます。顧客ごとのカスタマイズされた製品を提供するには、多様なニーズに合わせて短時間で効率的な設計プロセスが必要となります。

また、エンドユーザーとなる利用者側と製造者側に分けて考えるとそれぞれに必要な設計・解析ツールの要求条件は異なります。製造者側は各基本構成部品の詳細なデバイスレベルでのシミュレーションに加え、システムレベルでのシミュレーションが必要です。一方、エンドユーザー側は所望の特性を満たすシステムレベルでのデバイスの設計・シミュレーションができ、製造メーカーに依頼をするためのツールが必要になります。

以下の例ではSynopsys社より提供されるRSoft製品を用いた解析事例を元に設計手法の効率化についてご紹介します。

2.デバイスレベル(製造メーカー側)

シリコンフォトニクスは半導体レーザーなどのアクティブ・コンポーネント、変調器、フィルター、合分波器、光入出力部などのパッシブ・コンポーネント、Geフォトディテクターなどの受信器により構成されます。

要素部品の光学シミュレーションの手法としてはパッシブ・コンポーネントの場合、FDTD法(Finite Difference Time Domain Method)、BPM法(Beam Propagation Method)、有限要素法などがあり、どの解析手法を用いるかは要求されるデバイスの特性や寸法により異なります。
FDTD法は任意方向の伝播や反射解析が可能な汎用的な解析手法ですが、空間を解析波長の数十分の1のレベルで分割、時間的な経過を随時解析していく必要があるため、他の定常状態の結果を求めるタイプの解析手法に比べて解析領域の大きさや計算時間の点では不利になる事もあります。
シリコンフォトニクスの解析では全体を構成する各コンポーネント単位、もしくはコンポーネント内での複数のブロックごとに分けて解析することが望ましく、各ブロック単位でそれぞれ最適な手法を選択、データの受け渡しをすることで、効率的なシミュレーションが可能になります。そのためには各解析手法で計算したデータをスムーズに受け渡すことができる必要があります。

連携による設計解析効率化の簡単な例として、図 1に示すような反射型MMI (Multi-Mode Interference)デバイスがあります。


図 1.反射型MMIデバイスの構造

MMIは、入射光を複数のポートに分配する用途で用いられますが(ここでは解析手法の例として入出射が同じポートの構成としている)、伝播長が数mmレベルと長いため、サイズが大きくなる問題があります。反射型MMIデバイスでは、エッチングにより全反射ミラーを形成することで全体の寸法を小さくしています。
解析手法としては、素子寸法の大きさからBPM法を用いることが多いですが、BPM法では反射光の影響を解析することができないため、問題が生じます。
そのため、全反射ミラー部までの計算はBPM法を用いて計算し、ミラーによる反射光の解析はFDTD法、さらに逆方向への伝播はBPM法を使い、全体デバイスのシミュレーションを行っています。

BeamPROP(BPM法)とFullWAVE(FDTD法)を使用した解析結果を図2に示します。


図 2.反射型MMI解析結果

この例では8コアCPU、1.5GのRAMを使った場合で、約10分程度の計算時間でした。同様の計算をFDTD法単独でもできますが、この場合には約20GのRAMを使い、解析時間は20時間にも及ぶため、連携解析によって大幅な計算時間の短縮になります。連携解析のもう一つの例として図3に示すグレーティングカプラーがあります。


図 3.グレーティングカプラー構造

グレーティングカプラーはシリコン導波路からの出力光を光ファイバーへ結合させるためのデバイスですが、最適な結合を得るためにはグレーティング部の屈折率分布を調整する必要があります。
構造的には、導波路部分を拡大しグレーティング部に接続するためのテーパー導波路によるスポットサイズコンバーターの部分と、光ファイバーに出射光を導くためのグレーティング部の2つの領域に分割できます。スポットサイズコンバーターの部分はBPM法を使ったBeamPROPで設計できますが、ここでは詳細は割愛します。

ここではグレーティング部の計算フローの詳細を述べます。実際の屈折率の調整には、図4で示すようにシリコン導波路の領域に微細なSiO2の穴を多数設けることで等価的な屈折率を調整しますが、グレーティング部の屈折率プロファイルを求める際には、図4の微細孔によって生成される各領域を等価屈折率で代表される均一な領域とし、結合効率が最大になるための各領域の屈折率値を計算します。


図 4.微細構造による屈折率の調整

屈折率分布の最適化では、計算時間短縮のため2次元構造で検討しています。微細穴の配置により形成される低屈折率部プロファイルの初期条件として、図5に示すような線形のプロファイルを設定しました。


         図 5.初期屈折率プロファイル

    図 6.全体構成図

 

また、全体の構成図を図6に示します。このモデルでは入射光は図の左側より入射され、グレーティングにより回折された光が図の上部の傾斜したモニタにより受光され、シングルモードファイバーとの結合効率を計算しています。さらにグレーティングの下部にはAlの層が配置され下方に出射した光を上部に戻しています。

屈折率プロファイル最適化のための計算手法としてMMM法(Mode Matching Method)を用いた解析ツールであるModePROPを利用しました。上図のモデルでは解析対象が長手方向に80個程度領域のみを解析すれば良いため、同じマシンで比較をした場合、FDTD法を使った計算よりも約1/20の計算時間となり、多変数パラメーターを使った最適化をする際には大幅な時間短縮となります。

40個の低屈折率領域における各領域の屈折率値、導波層の上下に配置されたSiO2層の厚み、及びファイバーの位置をパラメーターに設定し、結合損失が最低になるように最適化ツールであるMOST Optimizerの機能を使い、複数変数での最適化を行いました。実際の計算回数は数千回に及びます。
最終的に得られた屈折率分布のプロファイルを図7に示します。


図 7.最適化後の屈折率プロファイル

最終的な結合損失は最適化で得られた等価屈折率プロファイルの結果を元に個々の低屈折率領域ごとにSiO2微細穴の大きさを変化させた3次元モデルでFDTD法を用いて計算し、0.4dBの結合損失が得られています。
グレーティングカプラーの設計例では、3次元のFDTD法単体では時間の掛かる解析を2次元化した上で計算時間が早い手法を用いてパラメーターの最適化を行い、最終的な検証をFDTD法で実施しています。


図 8.シリコン導波路位相変調部

次に進行波形変調器(TWM: Travelling Wave Modulator)を例として挙げます。シリコン導波路の等価屈折率は、図8のような構成を持った構造においてpn層間に印加されるバイアス電圧の値を変化させることで調整することができます(キャリアプラズマ効果)。

しかしながら、キャリアプラズマ効果によって誘起される屈折率の変化量は非常に小さいため、プッシュプルの構成を用いた場合、変調器の長さが数mm程度必要になり、高速変調が必要な場合には変調信号であるRF信号と光信号の速度不一致のため変調周波数帯域に制限が生じます。
帯域拡大のためにはRF信号と光信号の速度が近い、すなわち等価屈折率の値が近いことが求められます。伝播モードの等価屈折率の値は有限要素法を用いたモード解析ツール(FemSIM)とキャリアプラズマ効果を反映させるためにMulti-Physics Utilityの機能を利用して解析しています。図9に1550nmでの光波のモード解析結果、図10に10GHzのRF波のモード解析結果をそれぞれ示します。


図 9.光信号のモード解析結果

図 10.RF信号のモード解析結果

図 11.印加電圧による光波の等価屈折率

モード解析によって得られた光信号、及びRF信号の等価屈折率はそれぞれ2.566と2.253でした。また、異なるバイアス条件における光信号の等価屈折率の計算結果を図11に示します。

屈折率の変化量は約5x10-5/Vであり、VπLの値は約1.5 V-cmです。ここから1Vの電圧で駆動させる場合には変調器の長さは半分の8mm程度の長さになります。ここで得られたデバイスレベルのシミュレーションを行った結果は、後述のシステムレベルのシミュレーション用のパラメーターとして利用することができます。

3.システムレベル(製造メーカー・エンドユーザー)

シリコンフォトニクスは1つのチップ内に光通信システムがすべて搭載されているため、その設計と評価には必然的にシステムとしての評価も必要です。
また、生産を考えた場合には、製造時の特性のばらつきに対して検討も必要です。これらの点を考えた場合、製造メーカーとしてはデバイスの特性を考慮に入れた上でシステムとしてのパフォーマンスの確認が必要になってきます。
製造時の特性のばらつきについてシステム解析ツールであるOptSim Circuitを使って解析(解析対象:進行波形変調器)をしました。


図 12.進行波変調器製造ばらつき解析用レイアウト図

このモデルでは、分岐導波路部品と進行波形位相変調器部品を用いています。また、各要素部品は双方向伝播が可能なモデルを使用しました。
主な特性の確認事項としては、製造プロセスにおいて発生する様々なインピーダンス不整合の影響としています。インピーダンス不整合が発生する箇所としては、信号発生器-位相変調期間、位相変調器-負荷抵抗間などがあります。

デバイスパラメーターは前述のデバイス設計結果によって求め、インピーダンスの値をモンテカルロ法により変化させ特性のばらつきを評価しました。図13は、位相変調器-負荷抵抗間のインピーダンス不整合による消光比の変動を変調器のアイパターン出力から求めた結果です。消光比の値は、1dBから8dBの範囲でばらつきが生じているのが確認できます。
同様にback-to-backで評価をしたBER(Bit Error Rate)の分布を図14に示します。


        図 13.変調器の消光比

    図 14.back-to-backでのBER評価

 

BER値の多くの部分が10-10 から10-14の範囲で分布していますが、0.1程度の値も統計的には存在します。製造誤差の影響による特性のばらつきは、歩留まり計算や期待できる特性値の範囲に対する検討を行う上で重要です。
また、シリコンフォトニクスの普及や設計・製造までの一連のプロセスの短縮のためには、基本的な要素部品は製造メーカーのライブラリとして登録されていて、利用者は必要な機能実現のためのコンポーネントを選択、シミュレーションし、そのデータが製造メーカーで必要なマスクデータにシームレスに変換できるPDK (Process Design Kit)ツールを提供できるようになることが望ましいと思われます。

簡単な例としてOptSim CircuitのLioniX TriPleX用のPDKツールを用いてマッハツェンダー干渉計を作成し、マスクレイアウトを出力した結果を図15、及び図16に示します。


      図 15. PDKツールを用いたモデルの作成

   図 16.マスクレイアウト図

 

 

この例ではLioniX TriPleX用のPDKツールを用いて作成したモデルデータをOptoDesignerで取り込み、マスクレイアウトデータを生成しています。

4.おわりに

今後は動画を主体としたさらなる通信容量の増大が見込まれ、それに応じたデータセンター内での通信量の増大に伴い、シリコンフォトニクスの需要はますます増えていくものと思われます。
シリコンフォトニクスの効率的な開発のためにはシミュレーションを効率的に実施していく必要があり、デバイスレベルではそれぞれの解析手法の長所を生かした連携解析のプロセスが重要になってきます。

また、製造の観点ではシステムとしての特性が製造誤差の影響によって生じるばらつきの影響の解析による歩留まり・期待される特性の把握が必要です。
同時にPDKツールの整備を行うことで、シミュレーションから生産用のマスクレイアウト作成までを一貫して行うことができます。

このような流れは欧米では徐々に環境が整いつつあり、今後のシリコンフォトニクスの発展のためには国内でもPDKツールを用いたファウンダリプロセスが実現できるようになることが望ましいと考えます。

出典元 光アライアンス2016年12月号 「光デバイスやシリコンフォトニクスの設計の効率化、高速化を目指して」
http://www.nikko-pb.co.jp/products/detail.php?product_id=3960

上記関連プロダクト

RSoft
フォトニクス デバイス・材料設計ツール RSoft Photonic Component Design Suite
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