IODC2010参加報告

概要

四年に一度開かれるという、まるでオリンピックのような学会、IODC(International Optical Design Conference)が今年(2010年)6月に開催されました。私は初めて参加してきたのですが、その様子を報告したいと思います。

今回の開催地は米国ワイオミング州のジャクソンという、日本人には馴染みの薄い街で、日程は6月14日〜17日です。会場となるホテルに前日にチェックインし、同時に学会受付で参加受付をしました。観光地とは違うため日本人に逢うことはないだろうなと思いつつ夕食から帰ってくると前から日本人らしき人達が!・・・「A(私の名前)さん!」と声をかけられたので良く見ると、私が以前に勤めていた会社の先輩UさんとOさんでした。Uさんは米国在住ですが、Oさんは「明日の講演に備えて昨日来たのに時差ボケが・・・」とぼやいていました。街自体はとても小さく、通りを歩いていると学会バッグを持った人や参加証を胸から下げた人に良く出くわしました。

私は普段の業務でCODE Vという光学設計ソフトウェアを使用していますが、この開発元はORA(Optical Research Associates)といって、光学業界の最先端企業です。今回のIODCにも大挙して参加していましたが、会期中、居残り組みは技術サポートにてんてこ舞いなのだとか・・・。

学会のプログラムは大きく分けて、「レンズ設計」「照明設計」「システム設計」「製造と測定」「ソフトウェア」「光学設計における偏光とコヒーレンス」「その他」に分かれています。OF&T(Optical Fabrication & Testing)も同時開催されていましたが、会議室は隣同士で共同セッションもあり、出入りは自由。主催者側もノーネクタイで非常にアットホームな感じの学会です。論文寄稿は130件(このうち口頭発表があったのは約95件、ポスターセッションは46件(OF&Tと共催))を越えていました。非常に盛況で議論も活発な印象でした。前回(2006年)の開催記録では、口頭発表79件、ポスターセッション25件だったようなので、大規模になってきているようです。

学会の内容

さて肝心の内容ですが、最先端の研究も当然ありましたが、なかには単に双眼鏡の歴史を実物を見せながら滔々としゃべる発表もあり、非常に多種多様でした。その中からIODCとOF&Tの共同講演を紹介します。

「Better Ways to Specify Aspheric Shapes Can Facilitate Design, Fabrication and Testing Alike」

QEDテクノロジー社のG.Forbes氏の新タイプ非球面、QbfsやQconの話です。CODE Vでも次のバージョン10.3から正式に実装されるますが、従来の多項式表記と比べて、以下のようなメリットがあるということです。
  • 各非球面項が規格半径内で直交している。
  • 各項が物理的に意味のある値である。
  • 高次球面係数として必要な桁数が少なくてすむ。
  • Qconの方は、従来型多項式非球面と解析的に変換ができる。
Forbes氏は日本のODF10でも講演していましたが、参加者の関心も高いようでした。

「Computational Imaging Technologies」

FiveFocal LLC社のKenny Kubala氏の講演。このFiveFocal LLC社からはRob Bates氏が後述のレンズ設計コンテストへエントリーしていました。

講演の内容は、撮像系というものをレンズとしてではなく、システム(被写体→レンズ系→センサー→IPS(Image Processing Solution)→ 表示)として捉えてみると、様々なバリエーションが考えられるという話です。最近ではデジタルカメラにも色々な機能を付加して差別化を図ろうという動きがありますが、近年流行の機能を紹介していました。特にEDoF(被写界深度の拡張、Extended Depth of Field)の様々な手法に力を入れて説明していました。

これら二つの基調講演に代表されるように、今回は、「非球面を効果的に使用した設計法や非球面の測定」と、「光学系だけではなく後処理も含めての画像生成」というテーマが多かったように思いますが、この辺りがトレンドなのでしょうね。ORAも今後力を入れようとしている分野です。

その他の講演に関しては、IODCのOnline Abstract Submission and Invitation Systemから参照することができます。

Coffee Break

展示会場には、Zygo 社のような測定器メーカーやCDGM社のような硝材メーカー、他の光学ツールメーカーなどがブースを出していました。Schott社ではショットグラスを配布していました。Schottのshot glassと洒落込んでいたのでしょうか。

われらがORAも会議場の真ん前にブースを構え、派手なTシャツを吊るして、参加者の目を引こうと余念が無い様子です。ORAはこの学会のスポンサーでもあるのですが、技術スタッフが発表したり座長を務めたりと、積極的に学会を盛り上げているよという雰囲気が見られました。また他の多くの発表、特に学生による発表で、共著としてORA社のK.ThonpsonやJ.Rodgersの名前があったり、acknowledgementとしてORAの名前が挙がっていたりしました。教育機関への奨学金にも協力しているようです。ブースでは、他のツールを使用しているDave Shafer氏の過去の業績と題して、彼の特許や論文などのPDFが入っているUSBメモリを配るなど、余裕と言うか懐の深さを見せているとも感じましたね。

レンズ設計コンテスト

さぁ、3日目の夜8時からは学会のハイライト(と勝手に思っている)、レンズ設計コンテストの結果発表です。照明系と結像系の二種目がありますが、中には両方にエントリーしている人もいました。

照明系

優勝は、昨年の覇者ORAのWilliam J.Cassarly。結像系に比べ歴史が浅いためか、設計条件の解釈が難しいのか、多くのエントリーが条件未達成で失格になったり自己申告したスコアが下げられていたりしていました。すみません、照明系は専門ではないため、あまり詳しいことは分かりません。

結像系

若手のホープとして誉れの高いO社のM氏も、設計コンテストに応募していました。実際にお会いして気付いた(M氏から指摘された)のですが、以前に私の「手と頭を使うレンズ設計セミナ」を受講されていたとか。これは負けられませんね。

今回の課題は「グリーンレンズ」。世相を反映してか、環境への配慮のため製造で用いる原器が一種類、つまり全ての面は平面もしくは曲率半径の絶対値が等しい面、という通常では考えられない制約条件です。この状態制約条件下で要求性能を満たしつつ、MF=(最大画角)×(入射瞳径)の大きい人が勝ち!です。例えばレンズを2枚使用する場合の最適解は以下の図のような構成になると思いますが、この状態でMF=172(4°×43mm)です。果たして優勝者のMFはどのくらいまで行くのでしょうか?

前回は他ソフトに優勝を奪われ、CODE Vのみを使用した最上位は5位のJ.Iserberg(ORA)であったためか、今回はORAもかなり力を入れてきたようで3人がエントリーしていました。

さて結果は・・・

CODE Vだけを使用した設計が上位3位を占めました!使用ツールの紹介スライドが表示されると、それまでリラックスした様子で発表を聞いていたGeorge Bays(ORA社長)、David Brown(同副社長)が突然伸び上がって食い入るように見ていたのが印象的です。

1位のMFはなんと3,537!前記FiveFocal LLC社のRob Bates氏でした。

2位と3位はORA。特に2位のスコアは3,502と1位に僅差だったため、優勝者は二人という感じでの表彰でした。光学的な話をすると、この二人の設計は二次結像系と三次結像系です。実は私もその可能性に気づいてはいたのですが、少し検討しただけで諦めていました(言い訳)。

さらに今回の設計では、全長が長くなるのを許容すれば面の曲率を緩くできるため(全長に関する制約条件は無し)、上位入賞者のレンズ全長は軒並み10,000mmを超えていました。

一番”長い”設計解にいたっては、「全長3,600,000mm(3.6km)を超え、重さは二百万トン」と公表されると場内で笑い(失笑?)が起きていました。プレゼンター曰く「勿論これはグリーンレンズではありません」。

私は4年前にも応募しており、そのときは32人中11位でした。今回は密かに「ひょっとしたら上位入賞も・・・」と期するところもありましたが、37人中13位ということで"相対的"な順位は殆ど変わりませんでした。最適化の手法は3位のJ.Isenbergと殆ど同じであったのに、彼のスコア(2,169)には及びませんでした。前記「全長が長くなると性能が向上していく」という事実には気づいていたのですが、焦点距離100mmのレンズが何十メートルもあると格好悪いなと思い、5,000mm以下という制約を(勝手に)かけていたのも影響しているかもしれません(またまた言い訳)。

この課題に挑戦した人達曰く、「色々なアイデアが浮かんで、やればやるほど改善される」「面白くて、他の仕事に手が付けられない」という声もありました。今回は日本からの応募は私を含めて3人だけでしたが、みなさん如何です?CODE Vを使って4年後に応募してみませんか?

 


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