A君のレンズ設計物語第9回:偏心(Off-Axial)光学系の解析をしてみよう

博士「さて、前回は、任意画角での近軸量計算を利用してOff-Axial系の設計を行ってみた。Off-Axial系の光学特性を回転対称系のそれに近づける場合には、近軸量のX,Y依存性を無くすことが有効じゃったの」

A君「そうですね。ところで、宿題やってきましたよ!答え合せしてください」

博士「どのように考えたのかな?」

A君「以下のデータが得られていますが、像距離Img Distanceは、最終光学面から評価面までの距離なので、近軸計算では使いません。焦点距離EFLと倍率REDのデータを使用します。

結像に関する公式としては以下のような、物体距離、像距離、焦点距離の関係式が一般的ですが、

ここでは、ニュートンの公式(下記)で使われているzやz’を考えます。

博士「ほほう、どうしてかな?」

A君「式(a)は、薄肉レンズの近軸結像公式として有名ですが、物体距離や像距離の基準が主点位置です。上の情報からだとsもs’が不明ですので、この式は使えません。それに対して、ニュートンの式中のzやz’とfを用いると横倍率βが以下のように書けます。

今回は、βが分かっているので、zやz’を求めることができる、というわけです」

博士「うむ、近軸計算はどれも単純な式じゃが、何を計算するかによって上手く使い分ける必要がある」

A君「それとですね・・・式(b)や(c)の方が覚えやすいんですよね。式(a)は、sとs’でどっちにマイナスが付くのか、いまだに覚えられないんです。とほほ・・・
で、求められたz,z’は物体側焦点や像側焦点の位置なので、そこから焦点距離だけ離れた位置に各々の主点が来るわけです」

博士「うむ、考え方は合っておるな」

A君「では、具体的に計算してみますよ。横倍率の符号が、CODE Vでの定義と一般的な(日本の)光学の参考書とで反対であることに注意します。XとYで別々に計算しますが、Yに関して詳しく述べます。

β=f/zの式を使用して、

-0.3639=11.8311/z ∴ z=-32.5120

このzは、物体側焦点から物体までの距離なので、物体から”物体側主点位置”までは、

-z+f=-(-32.5120)+11.8311=44.3431

となります。

一方、像側のデータを用いて倍率の式に代入すると(或いは、式(b)を使用しても同じ結果が得られます)、

-0.3639=-z’/11.8311 ∴ z’=4.3053

このz’は、像側焦点から像までの距離なので、”像側主点位置”から像までは、

z’+f=4.3053+11.8311=16.1364

となります。
X断面も同様に求められますが、これらの位置を光路図に書くと、以下のような位置関係にあります。

XとYのずれに着目してみると、物体側焦点位置Fについては約8mm、物体側主点位置Hは焦点距離の差も影響して約11mmもずれていました。像側の焦点F’と主点H’も、やはりXとYでずれていることが分りました」

博士「反射面が奇数枚の場合、像空間の符号が反転するため分かりにくいかもしれんので、Y断面と同じパワー配置の系を共軸屈折系で組んでみたのが以下じゃ。
これを使って確認してみようか。NODPマクロを用いると、第1面(S1)や最終面(SL-1)に対しての物体側主点・像側主点位置が確認できるので、その位置も併せて示している。

A君「先ほどの例では物点・像点からの焦点までの距離を計算してから主点位置を求めましたけど、NODPマクロを用いた場合には面に対する主点位置が求まるので、そこから焦点位置を求めるという流れなんですね。
ところで、この共軸系の光路図を見て今気づいたのですが、Offnerタイプのような凹面反射→凸面反射→凹面反射って、屈折系のトリプレットみたいな構成なんですね。素性が良いのもその辺に理由があるんですかね?」

博士「屈折系と反射系ではペッツバール和の符号が逆になるという違いもあるが、A君の想像もあながち誤っているということでもなさそうじゃな。
ところで、式を使わずとも、凡その位置であれば光路図から確認することができる場合もある。この↓光路図はY断面のそれじゃが、主光線がどうなっているかを見てみると、どうじゃ?」

A君「物体側テレセントリックなので、物体側の主光線は光軸に平行です」

博士「その主光線が像空間で一箇所に交わっている箇所があるね。そこが、像側焦点なのじゃ」

A君「あぁ、なるほど!主光線を無限遠物体からの光束と見立てると、それが像空間で一箇所に交わっている箇所こそが像側焦点=F’(y)ということですね」

博士「Excellent!
さて・・・今回も前置きが長くなってしまったが、本題に入ろうか」

A君「はい。でもだいぶページを使ってしまったので、軽く、にしましょうね」

博士「前回はなるべく回転対称系に近づけることを試みたが、今回は、回転対称系とは異なる、Off-axial系特有の特性を見てみようと思う。
ここに、以前に自動設計頼みで設計した4面反射面の光学系が二つある。

これをABCD関数で解析してみるのじゃ」

A君「なんか、殆ど同じ光路に見えますけど・・・何が違うんですか?」

博士「論より証拠、これがそれぞれの計算結果じゃ」

A君「あれ!?(b)の光学系は、焦点距離の符号がXとYで異なっていますよ!え?そんなことって、あるんですか?」

博士「前回説明したように、たとえ球面であっても斜めに入射する光線に対しては、XとYのパワーが異なる。これが累積していったりすると、全体でXとYで焦点距離が異符号になることも有り得るのじゃ」

A君「へぇ・・・どういう風に結像しているのか・・・そもそも、絵が写るんですか?」

博士「中心画角のY光束を赤でX光束を青で描画してみたのが、次の図じゃ」

A君「(a)の方は、XもYも中間結像が1回ありますが、(b)の方は、X(青い光線束)は中間結像していないんですね」

博士「XとYで結像回数が異なっているため、焦点距離の符号が逆になるのじゃ。2次元像シミュレーションで計算すると、このように写ることが分る」

A君「へぇー、普通の1次結像系では倒立像になるのに対して、(a)は2次結像なので正立像、(b)では鏡像!が得られるんですね。でも・・・(b)の方が結像状態が良いように見えるのは何故ですかね。前回の内容を踏まえると、当然、(a)同符号の方が良い性能となる気がしますが?」

博士「ところが、そう単純でもないのじゃ。
ここから先の話は理論的な裏付けがあるわけではなく、自動設計で改善できなくなっている状況(レンズデータ)に対する考察であることに注意しておくように」

博士「Off-axial系の殆どは、このモデルのように、偏心設定が一つの断面内で行われている。つまり、中心画角の主光線は常に一つの平面内にあるような状態じゃ。この偏心が行われている平面をYZ断面として考える。
球面のようにX方向とY方向の曲率(2次成分)が等しい面を傾けて配置すると、XZ方向のパワーよりもYZ面内の光束に対するパワーの方が強くなる。これは前回触れたことじゃな。
見方を変えると、非対称非球面を用いてX方向の曲率をきつくすれば、偏心配置であってもパワーの非対称性が生じないようにできるということじゃ。各面独立でじゃ」

A君「それって、ものすごく重要なことなんじゃないですか?」

博士「面白い特性ではあるが、この条件を満たすように面を構成しても、実用上は上手く行かないことも多い。
似たような例を説明しておこう。単レンズでも、平面+双曲面或いは楕円面+球面といった構成とすることで球面収差をゼロにすることが可能じゃ。ただし、軸上では無収差となっていても、軸外では大きなコマ収差が発生するため、軸外の性能は、むしろ軸上を無収差にしない方が良いのじゃ」



A君「あぁ・・ピックアップレンズを設計したときに経験がありますよ。
軸上画角だけを設定して最適化したら無収差に出来たんですよ。やったぜ!と思ったんですが、ちょっとでも軸上からずれるとコマ収差が出て使い物になりませんでした」

博士「設計で大事なのはバランスじゃからな。
話を戻そうか。斜め入射するときの、XとYのパワーの違いのため、この配置(各面の間隔)で、X方向の焦点距離をY方向(負の値)のそれに揃えるためには、x方向の曲率をきつくせざるを得ない」

A君「なるほど」

博士「(a)EFL同符号」のモデルでは、(b)「EFL異符号」モデルに比べて、X方向の平均曲率が2倍以上きつくなっている(下表)

前述したように、両レンズデータに対して同様の条件で自動設計を使用してみても、下に示す評価関数以上(以下?)への改善は非常に困難であった。

評価関数
   (a)EFL同符号:506    (b)EFL異符号:137

一般的に、面の曲率がきつくなると、収差も大きく発生する傾向があるのは知っているね。
(b)の方が光学性能が良好となっているのは、
焦点距離の符号を合わせるためにX方向の面曲率をきつくするのではなく、敢えて焦点距離を異符号の(結像回数が異なる)状態とすることで、収差補正が容易になり、性能向上が可能であるということを暗示しているのではなかろうか!
…と思うのじゃが、どうじゃろ?」

A君「一理あると思います。でも、前回の3面反射系の例のように、デフォーカスしたときに問題が生じるかもしれないですよね」

博士「物体距離は固定するなど、状況次第ではOKじゃろ。主点位置などの比較を行っていないので詳細は不明、あくまでも可能性と言う話じゃ」

A君「宿題ですか?」

博士「いや、答え合せなどが結構厄介なのが判明したため宿題とはしない」

A君「ちょっと話を戻しますが、(a)のモデルは、焦点距離の符号を同じ(負の値)にするために、x方向の曲率をきつくする必要がある、ということでしたね。逆に?y方向の曲率を緩くする、ってのは、どうなんでしょう?
つまり、焦点距離を負の値で揃えようとする(全体で2次結像)から、Xがきつくなるのであって、じゃあ、焦点距離を正の値で揃える(全体で1次結像)ようにすれば、Yの曲率がさらに弱くできる、のでは?」

博士「鋭いな、A君!確かに、そのようにすれば、XもYも緩い曲率で揃えることが出来るじゃろう。ただ、この二つの光学系において、Y方向で中間結像している理由に触れていなかったな。広角光学系は絞りから離れるほど軸外画角が広がってしまう。光学系(面)を径方向にコンパクトにするためには、中間結像せざるを得ない」

A君「なるほど、そういうことでしたか」

博士「第8回の冒頭でも触れたように、色々と考えてみることは良いことじゃ。次回は、この任意画角の近軸量計算を、色々な検討に使ってみる例を紹介してみようと思う」


今回の話で使用したCODE V用のレンズデータやコマンド操作などは、ここからダウンロードできます。

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