A君のレンズ設計物語第4回:A君、望遠レンズの設計を開始する

博士「さて、レンズの収差に関する知識もついてきたところで、第1回で触れた"望遠レンズの設計"を、再度試みてみようかの。ただし、最適化は使わずに、手計算で初期解を導出することを今回は行ってみる」

A君「わかりました!親方!」

博士「まずは、今回の検討に関係する仕様をもう一度確認してみようか(以下)。

焦点距離 200mm
レンズ全長(第1面〜像面) 180mm以下
レンズ枚数 4枚以下

レンズ全長を焦点距離で割った値をテレ比とも呼ぶが、望遠レンズは焦点距離が長いためレンズ全長が長くなるのは避けられない。それでも、テレ比の小さいレンズの方がコンパクトになるため、実用上便利なのは分かるじゃろ」

A君「レンズ全長に係わる仕様は、別な言い方をすると、テレ比が0.9以下ということですね。どれ位が目安なんですか?」

博士「製品レンズは、今回の課題よりも明るい反面特殊硝材を含めレンズ枚数も多く使っているので単純な比較はできないが、以下のような感じになっておる。

焦点距離/F値 テレ比
200mm/2 1.25
200mm/2.8 0.9
200mm/4 0.82

これを踏まえて、今回の仕様(レンズ4枚)ではテレ比が0.8までいけば、まぁ合格点じゃろう?」

A君「じゃあ、僕は、全長50mmにしますよ。一見標準レンズだけど実は望遠レンズ!なんて格好いいじゃないですか。つまりテレ比0.25です」

博士「またそんな、大言壮語を・・・できるかできないか、パワー配置を検討するところから、始めてみようか。
単レンズの場合は、レンズの厚さを無視すれば(薄肉レンズ状態)テレ比は常に1となる。これより長くすることも短くすることも出来ない。じゃあ、テレ比を1よりも小さくするには、どうしたら良いかな?」

A君「単レンズでは不可能ということだから、2枚以上のレンズで構成するんですよね。でも、凹ー凹では集光しないし、凸ー凸は、性能悪そう・・・」

博士「うむ。組み合わせて意味のありそうな、凸ー凹、凹ー凸の構成で、焦点距離fとレンズ全長Lがどうなるかを表したのが、以下の図じゃ。

凸と凹の順序を変えると像側主点位置が大きく変化しているのが分かるね」

A君「物体側に凸レンズ、像側に凹レンズを配すると、像側主点をレンズの物体側に出せるから、焦点距離に比して全長を短くできるんですね」

博士「その通り。この(上側の)構成はテレフォト(望遠)型とも呼ばれている。因みに、下側の凹-凸構成の場合、焦点距離よりもバックフォーカスが長くできるので、一眼レフカメラの広角レンズで良く用いられる、逆テレフォト型と呼ばれるパワー配置じゃ」

A君「一眼レフカメラでは、クイックリターンミラーのための空間を確保する必要があるからですね。ミラーレスカメラだとその制約も無いから、最近の広角レンズは新しいタイプが出てきているみたいです」

博士「さて、所望のテレ比を実現するための、パワー配置を検討してみようか。収差を考えるためにはレンズの具体的な形状(曲率半径)が必要じゃが、形状が未だ決定していないパワー配置の段階から考慮できる収差がある」

A君「前回学んだ軸上色収差ですよね」

博士「うむ。それもあるが、もう一つ。ペッツバール和じゃ。ペッツバール和は、各レンズのパワーをそのレンズの屈折率で割った値の和、

となる。だた、硝材の屈折率は1.5〜1.8程度なので、大きく異なる値は取れない。そこで、硝材も未決定のこの段階ではNiは考えずに、

を小さくすることだけを考えてみようか。
φ1、φ2は前群と後群のパワーじゃが、その間隔をe'とすると、全長Lは、

と書ける。なお、パワー配置からレンズの形状決定の段階までは、レンズ系全体の焦点距離を1と考えるようにする。そのため、全長Lはテレ比と等しくなる」

A君「焦点距離:200mmでレンズ全長(第1面〜像面)が180mm以下という仕様を、焦点距離1、全長0.9以下、という風に考えるわけですね」

博士「因みに、ペッツバール補正のためにφ1=-φ2に簡略化した場合は、e'がφ1のみで記述できるので、テレ比Lは以下のようになる。

この式をから、φ1=-φ2の場合のLの最小値を求めてみようか。φ1で微分してLの極値を求めると、L=0.75が最小値となる。これが、φ1=2(φ2=-2)の場合の、収差論的に考えて良好な性能を実現できる凡その限界値じゃ。実際には硝材の屈折率も関係するし、φ1≠φ2なので状況は変わってくるが、A君のようにテレ比0.25で設計しようというのは明らかに無謀なのじゃよ」

A君「うーむ。博士のおかげ、いや収差論のお陰で無駄な努力をすることを避けられました」

博士「パワー配置を検討する際には色々な考え方が可能じゃ。前述のLに関する式(φ1=-φ2としない場合の式)を利用して、例えばLを固定してe'を変えてみると、φ1、φ2が計算で求まるので、φ1+φ2を評価するような検討も可能じゃ。以下の図がそれで、横軸にe'を採ったときの、φ1、φ2、φ1+φ2を表示している。


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A君「L=0.75の図では、φ1+φ2が0で極値となっているみたいですね!」

博士「先ほど説明した凡その限界に相当しているところじゃな。L=0.7の場合には、φ1+φ2=0を実現できるパワー配置が無いことも分かる。
さて、様々なパワー配置の中でどこに着目するかじゃが・・・重要なのは、

  • φ1+φ2が0に近いとペッツバール和を小さくできる、

ということと、

  • φ12も絶対値が小さい方が各種収差の発生を小さくできる、

ということじゃ」

A君「なるほど。じゃあ、L=0.8で、φ1= 1.38462、φ2=-1.3736、e'=0.52
とします。この組み合わせなら、φ1+φ2=0.011になるので、ペッツバール和も良さそうでしょう?各レンズのパワーの大小は、経験が無いのでどれ位が妥当なのか分かりませんが、上記の様々なパワー配置の中でも弱い方なので無難かな、と」

博士「うむ、楽な道を選びおったな。最初から難しい仕様だと上手く行かず設計が嫌になってしまうから、良いじゃろう。
望遠レンズは画角が狭いため、画角に関する収差(非点収差、像面湾曲、歪曲収差)の補正は容易という特徴がある。ただ、注意すべきことは色収差じゃ。凸凹の2群構成の望遠レンズの場合はパワー配置の関係上、前群の作る像および収差が後群により拡大されて最終像が形成される。そのため、各群において色収差を補正する必要があるので、各群を最低2枚の色消しレンズで構成する必要がある、ということもわかる」

A君「それで、全体で4枚ということになるんですね」

博士「前回の色収差補正の話を踏まえると、各群を構成する凸レンズと凹レンズにはどういった組み合わせが良いかな?」

A君「アッベ数の差が大きい組み合わせを選べば、各単レンズのパワーを弱く抑えられるんでしたよね。うーん、以下で行こうと思います。
G1aにS-BSL7(nd=1.51633,ν=64.1),G1bにS-TIH4(nd=1.75520,ν=27.5)
このとき、色消しの条件から各単レンズのパワーは、
φ1a=2.425(正レンズ)、φ1b=-1.04(負レンズ)
になりました。第2群も同じ硝材の組み合わせにしてみます。
G2aにS-BSL7,G2bにS-TIH4
を使用すると、第2群の各レンズのパワーは、
φ2a=-2.406(負レンズ)、φ2b=1.032(正レンズ)
となりました」

博士「さて、4つの単レンズのパワーが決まれば、近軸光線追跡を行うのじゃ。

この近軸追跡値は、3次収差の計算式(収差係数と形状の関係式)で使用されることになる」

A君「テレ比を考えて2群のパワー配置を決めて、色収差を考えて4つのレンズのパワーが求まって・・・骨組みが出来上がっていく様子が分かりますね」

博士「さぁ、次に、収差を考慮した形状決定に入っていくぞ。
第1回でも説明したが、レンズデータ(形状・材質)からその光学性能を計算することは可能だが、その逆の、目標性能からそれを満たすレンズデータを得ることはできない。そのため、面形状や厚さなどを微小に変更しながら、性能が上がる方向に動かしていくという方法で、性能評価→微小修正→評価→修正を繰り返す必要がある。この作業には最適化(自動設計)が使えるので楽にはなったが、試行錯誤は避けられない。ところが収差論を用いると、目標性能を決めてそれを満たす形状を解析的に求めることができるのじゃ」

A君「収差論さまさまですね」

博士「ただし、薄肉レンズに限っての話じゃがな。また、目標性能というのも、スポット径やMTFではなく、当然収差係数で与える。詳しい式はかなり長くなるためここでは示さないが、単レンズのパワーφと屈折率N、近軸追跡値と収差係数T,U,V,W,Xが、ある関係式により結び付けられる。つまり、各収差係数の目標値を決めると、それを満たす形状が解析計算で求められる。というわけじゃ」

A君「収差係数の目標値はどうしたらいいですか?」

博士第2回で見たように、3次収差係数=0としても、高次まで含んだ収差はゼロにはならない。しかし、3次収差が小さいレンズは高次収差も抑えられていることが多いため、微小変更で上手くバランスさせることが容易に行える」

A君「なるほど。とりあえずは、全収差係数の目標値は0にして形状を求めてみます」

博士「この計算では、2元2次方程式を解くことで各単レンズの形状(曲率半径)が求められるため、二つの解が求められる」

A君「ん?前回のHartingの式に似ていますね」

博士「実は、Hartingの式というのは、この “薄肉レンズの収差の式”において、α=0、h=1、球面収差係数=コマ収差係数=0とした場合の計算に相当するのじゃ。望遠レンズの場合、二つの解のうち、曲率の緩い(曲率半径の大きい)Fraunhofer型の解を選択すると良いぞ。これで、各レンズの硝材、曲率半径、群間隔が決まったね。各レンズは薄肉レンズなので厚さは0じゃぞ。では、このレンズデータをCODE Vに設定してみようか。ここまでは焦点距離1として計算してきたが、この段階で実寸に直すことを忘れずにな」

A君「実寸に直すにはどうしたら良いんですか」

博士「曲率半径やレンズの厚さ、面間隔など、長さの次元を持つパラメータを200倍(焦点距離倍)するだけで良い。さて、光路図はどんな感じかな?」

A君「最適化を使わずに設計したレンズがどの程度の性能なのか、ワクワクしますね」

A君「おっ!すごい!きれいに結像しているように見えますよ!」

博士「うむ。今回の仕様では3次収差が支配的なのだから、3次収差をゼロとして求めた薄肉レンズの状態でかなりの性能が実現できているのじゃ!
では次回は、レンズを厚肉化して収差補正を試みてみようかの・・・」


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今回の話では、CODE Vは最後のところで少しだけ使用していますが、レンズデータはダウンロード可能です。

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