新たな小児歯科歯内療法実習用模型の評価 東京医科歯科大学

東京医科歯科大学大学院 歯学総合研究科 小児歯科学分野
宮新美智世, 和田奏絵, 大石敦之, 菅原貴子, 髙木裕三

使用製品 INTAGE Volume Editor


緒言

乳歯をできるだけ残したいとの要望が高まっている現代、乳歯を保存することも強く希望する保護者は多い。乳歯は生理的に歯根吸収が進行して脱落するが、または交換期まで保存されてから抜去されるためか、歯根が長く残存した抜去乳歯を目にする機会は減少した。このことは、従来抜去乳歯を臨床研修に用いてきた、乳歯の歯内療法教育を困難にしている。

一方、既存の歯内療法実習用模型は、完成永久歯を模したもので、小児の歯の歯内療法実習に適した模型は未だない。また、小児歯科領域では、歯根吸収のわずかな乳歯や根尖が開大した幼若永久歯の解剖的形態を3次元的に理解し、これらを用いる治療法の実習は、小児の歯の機能・疾患・治療の教育研究にとって重要である。そこで演者らは、小児の天然歯を精密に再現した模型を製作することを目的に、天然歯のエックス線写真情報から、歯の構造を可視化し、これを観察するための画像や人工歯の作成へと進み、この人工歯を観察したのち、これを用いて根管治療実習を行い、その教材としての意義を検討したので報告する。

資料ならびに方法

1.材料と機器

  1. 抜去歯;ヒト乳歯(歯根吸収がほとんどないもの)ならびに歯根未完成永久歯
  2. データ収集;産業用マイクロフォーカスエックス線CT(μCT);SMX100CT®
    (島津製作所)
  3. デスクトップパソコン;Compaq 8200 Elite USDT PC®
    (Hewlett-Packard Company)
  4. 3次元画像処理ソフトウェア; INTAGE Volume Editor®
    (サイバネットシステム社)
  5. 積層造形システム(3Dプリンター);ProJet HD 3000®
    (スリーディー・システムズ・ジャパン社)
  6. 造形材料;
    紫外線硬化アクリル樹脂(透明、表面は 半透明)

2.方法

1)抜去歯はμCTで撮影し、その形態データを収集した。 本CT装置は、エックス線管球とエックス線検出器の位置が固定されてい て、資料を回転させる仕組みである。 エックス線はエックス線管球から水平に放射され、資料のエックス線 透視像をあらゆる角度からとらえてコンピュータに蓄積し、断層像を 再構成して計算後に表示する。

2)得られた3次元情報は、歯の形状モデルを作成する研究1)を参考に、 まず、研究・教育の基礎的資料として活用するために、汎用性のあるデ ータ形式 (TIFFデータ)で出力し画像データとして保管した。

3)画像データは、3次元画像処理ソフトウェア 、INTAGE Volume Editorを用い、 3D表示した画像から形状の抽出を行った。硬組織の濃度領域と、歯髄腔の濃度領域を分離抽出したうえで、 データを読み込んだ。

4)さらに、それぞれの歯についてSTL形式に変換された歯の硬組織、歯髄腔の各データを読み込み、色と質感の設定を行うことで、可視化された画像とした。 (断層像は動画等で観察可能である)


乳歯各種

幼若永久歯 各種

5)その後、このデータを積層造形システムProJet HD 3000に送り、紫外線硬化アクリル樹脂(透明)を造形材料として、歯髄腔を有する人工歯を作成した。
(本研究は東京医科歯科大学研究倫理審査委員会の認可を受けたものである)

3.結果

作製した人工歯を実体顕微鏡にて観察した。元の天然歯(下) と外形は酷似していた。

【左側上顎第一乳臼歯の例】

遠心面観

咬合面

6)さらに、根管形成実習で試用した。人工歯は、アルジネート印象材に埋め込み、ステン レス製の不関電極を植立して、根管形成を行い、電気的根管長測定をEndodontic meter MarkⅡ(EM,株式会社コマツ)を使用し、ラップを巻いた♯15Hファイルによる根管形成過程2)を記録した。つまり、実習操作を行いながら、天然歯との形態の比較と、切削感、根尖孔形状態 等を調査した。根管内洗浄には、生理食塩水を用いた。

4.人工歯の根管形成実験

【人工歯の根管形成実験; Endodontic Meter(EM)値38におけるファイルの位置】

考察とまとめ

3D画像により可視化された歯は、立体感のある画像として観察でき、レジン積層築盛による人工歯は根管形成過程で天然歯と比較したところ、根管形態の特徴がよく現れていた。すなわち、乳臼歯では、根尖に到達する最も太いH fileは#8~15の範囲で、歯根吸収がほとんどない乳臼歯の繊細で複雑な根管形態が再現されていた。一部に存在する歯根吸収部は穿孔しやすいことも体験できた。模型原料の樹脂の物性は、健全象牙質よりも柔らかく、軟化した根管壁の形成練習に適していた。さらに、天然歯での実習同様のシステムで、根尖孔にファイル到達時のEM値が38~40で、臨床同様の電気的根管長測定の術式2、3)が実習可能であった。

以上のことから、幼若永久歯や歯根吸収のない乳歯など、希少価値のある天然歯の解剖学的形態は、本研究の手法によりデータならびに立体画像や模型・精緻な天然歯様人工歯として保存することができた。さらに、これらは教育研究や臨床手技の訓練への応用が期待される。

文献

1)加藤彰子ら.画像ラボ、18:23-27,2007.
2)宮新美智世ら、小児歯誌35;304,1997.
3)宮新美智世、デンタルダイヤモンド増刊号, 臨床歯内療法, 108-113, 2008.


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