埼玉医科大学 解剖学 准教授 駒崎伸二 様
使用製品 INTAGE Realia Professional
現在、多くの大学の研究室には、古い時代から受けつがれ、棚の中にしまわれたままになっている胚や組織の連続切片の標本が数多く存在すると思われる。しかも、それらの中には、二度と作製できない貴重な標本もあるであろう。残念ながら、貴重な標本でもそのまま棚にしまって置かれたのでは教育や研究の役には立たず、やがて、ゴミとして廃棄されてしまう可能性が大きい。そこで、最新のコンピューターグラフイック(CG)技術を用いて、連続切片標本から元の立体的な姿を蘇らせ、生命科学の教材や研究用の資料として役立たせることを試みた。ここに示した例は、古い時代(約60年前)に作製されたヒトの胚のパラフィン連続切片から、当時の立体的な胚の姿をCGとして蘇らせたものである。
H-E染色されたパラフィン切片をOlympusのBX-50顕微鏡とCanon のEOSデジタルカメラを用いて写真撮影した。それらの連続写真(約1000枚)をフリーソフトのImageJ(プラグインソフトの TurboRegとstackregを使用)を用いて正確に整列させた後、ImageJの一括変換機能を用いて、Stack画像の明るさやコントラストを均一化させた。そして、それらの連続写真から、INTAGE Realia Professionalを用いて胚の立体構築を行った。以上の整列と立体構築の作業にはHP社のワークステーションZ800(OSはWindows XP 64bit版)を用いた。
古い時代に作製された標本は染色の色あせが起きている場合が多いが、立体構築に使用するのはモノクロ画像なので、撮影してから明るさとコントラストを均一化すればその影響はほとんど無視できる。また、パラフィン切片の場合にはやむを得ないことであるが、切片の壊れや歪みなどが多く見られる。その場合、壊れて変形のひどい切片を削除したり画像修正したりすれば、特に大きな問題もなく立体構造を作成することができる。しかも、いったんデジタル化された標本は永久保存が可能で、コンピューターさえあれば、いつでもその内部構造まで詳細に観察することが可能である。さらに、これらのデジタル標本を多量に集めれば、バーチャル博物館を作ったり、Webを介して、共有の教材として生命科学の教育や研究に役立たせたりすることもできる。
今までは、技術的な困難さや高価な設備の必要性から、今回示したようなパラフィンの連続標本から詳細な胚の立体構造を作製することは難しかった。ところが、ここで紹介した方法では、顕微鏡とデジタルカメラさえあれば、それ以外に、立体構築ソフトのINTAGE Realia Professional(〜40万円)とCG用のワークステーション(中古ならば10万円前後)を準備すればOKである。つまり、個人的なレベルでもこのような作業を容易に行うことができるようになった。
*以下の結果は駒崎伸二・猪股玲子・亀澤一らにより、2012年3月に開かれた解剖学会で発表されたものである。(クリックすると画像が拡大表示されます)
心臓の断面を示すムービー (動画サイトへリンクしています) |
胚の外観を示すムービー (動画サイトへリンクしています) |
胚の内部を透かして示したムービー (動画サイトへリンクしています) |