高価で特殊な装置を必要としない、胚や組織の高精細な立体構造構築 埼玉医科大学

「高価で特殊な装置を必要としない、胚や組織の高精細な立体構造構築」

埼玉医科大学 解剖学 准教授 駒崎伸二 先生

使用製品

INTAGE Realia
INTAGE Realia Professional
RealINTAGE

医用画像処理ソフトウェア「Real INTAGE」を導入頂いたユーザである、埼玉医科大学 解剖学 准教授 駒崎伸二 先生の事例をご紹介します。

目次

はじめに

我々は組織学と発生学の教育と研究に携わっており、とりわけ教育においては、組織や胚の構造をわかりやすく学生に示して説明することが大きな課題となっている。そこで、我々は、そのための有効な手段の1つとして、組織や胚の構造を詳細な3Dのイメージで示したり、3Dのアニメーションで示したりする方法を試みている。

最近は、多くの研究者や教育者の間で、胚や組織を3Dイメージとして示す方法に関心がもたれ、その方法の開発が試みられている。たとえば、最近では、(1)蛍光物質で染色した胚を樹脂に包埋して、その標本を一定の厚さで削り落としながら、表出した蛍光画像を連続的に撮影し、それをもとにボリュームレンダリング法により胚の3Dイメージを立体構築する方法(Ewaldら、Dev. Dynamics、225、369-375、2002)、(2)SPLM(Selective Plane Illumination Microscope)と呼ばれる顕微鏡で撮影した像をもとに、生きた状態の胚を3Dイメージとして立体構築する方法(Huiskenら、 Science 305、1007-1009、2004)などが考案されている。しかしながら、両者とも特殊で高価な装置を必要とするために、その方法を一般に普及させることは難しい。しかも、残念ながら、それらから得られる立体像は今回紹介する方法と比べてはるかに分解能が低いために、胚や組織の微細構造の詳細な観察には不十分である。

一方、我々が考案した方法では、高価で特殊な装置を必要とせず、誰もが胚や組織の高精細な立体構造を容易に構築することができる。その方法が、以下に紹介するサイバネットシステム社のボリュームレンダリングソフト(Realia、Realia Professional、RealINTAGE)を用いた方法である。簡単に言えば、MRIやX線CTの画像の代わりに精細な光顕用の連続切片の写真を用いて、胚や組織の高精細な立体構造をボリュームレンダリングするという方法である。

方法の概略

  • 連続切片:一般的なパラフィン切片でも可能であるが、さらに高精細な立体像を構築するためには、0.5〜1.0μm程度の厚さのエポン樹脂切片が必要。
  • 標本を撮影した写真の向きを精確に整列するためのソフト: ImageJ(Freeソフト)
  • 立体構造を構築するためのボリュームレンダリングソフト: INTAGE Realia(Freeソフト)、INTAGE Realia Professional、RealINTAGE

最初に、胚や組織の連続切片を撮影する。その際には、撮影する解像度が出来上がった立体構造の精細さに反映するため、必要に応じて高解像度で撮影する。その連続写真の位置をImageJと、そのプラグインソフトのStackregを用いて精確に整列させる。整列させた連続画像をボリュームレンダリングソフトに取り込んで立体構築する。

結果

この方法がいかに優れた方法であるかということを、我々が作成した胚や組織の立体構造でご覧いただきたい。


A.ネズミ胎児の心臓のパラフィン切片。B.パラフィン切片を用いて作成した心臓の立体構造。良質なパラフィン切片を作成すれば、誰もが容易に高精細な立体像を作成することが可能である。
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両生類の原腸胚を示す。胚の内部を移動中の細胞が詳細に観察できる。
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A.ネズミ腎臓の糸球体の1μmのエポン切片写真。B.周囲の尿細管を削除して、糸球体だけを取り出したもの。赤は毛細血管、緑は足細胞を示す。C.はBの拡大。D.は0.3μm厚のエポン切片もとに作成した高精細な立体構造。太さ約0.2μmの足細胞の三次突起(挿入図、矢印)まで確認できる。
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A.1μmのエポン切片をもとに作成したニワトリの神経胚の断面を示す。B.ソフトの削除機能で外胚葉を削除して、その下に存在する神経堤細胞(矢印)を示した。C.図Aの点線で示した部分の断面を示す。細胞の集団により構成されている体節の内部構造まで観察できる。
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A、B、D、Eはニワトリの胚(C)から取り出した、それぞれ、脊索、神経管、中胚葉細胞(核が赤く透けて見える)、血球を示す。このように、ソフトの抽出機能により、胚の一部を取り出して詳しく観察することが可能である。
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両生類の幼生の1μmエポン切片を用いて作成した心臓の原基。ソフトの削除機能を用いて、観察に邪魔な周囲の構造を削除して、心臓(心筒)だけを取り出したもの。ごつごつしているものは、それぞれが1つの細胞である。
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ニワトリ胚1μm切片
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哺乳類の腎臓糸球体
0.3μm切片
UPlanSApoX100油浸
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哺乳類の
腎臓糸球体
1μm切片
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両生類の
幼生心臓
1μm切片
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撮影した写真の解像度を上げれば、それに応じてより微細な構造の立体構造を作成することが可能である。しかしながら、それにも限界がある。それは、顕微鏡の分解能、作製する切片の厚さ、そして、ソフトが扱えるデータの容量に限界があるからである。我々の経験では、顕微鏡の分解能の0.2μm(一般的な明視野顕微鏡)、切片の厚さの0.3μm程度(エポン切片使用の場合)、そして、ソフトが扱えるデータ容量の2GB まで(64Bit版のRealINTAGE(評価用)を使用した場合)が限界である。この限界近くまでもっていくと、走査型電子顕微鏡に匹敵(光学顕微鏡の分解能の限度を越えることは不可能ではあるが)するほどの立体像の作成も可能である。

さらに、この方法で作成した3Dモデルでは、走査型電子顕微鏡を圧倒するような別な作業も可能である。それは、コンピューターの中に構築した胚や組織の内部構造まで自在に観察できることや、ソフトの機能(抽出や削除機能)を駆使すれば、コンピューターの中で胚や組織の仮想的な微小解剖が自在に行えることである。その機能により、胚や組織内に存在する一部の構造を取り出して詳細に観察したり、邪魔な部分を削除して好みの角度から標本を観察したりすることも可能である。現在のところ、世界中で紹介されている方法で、高精細な胚や組織の立体構造をその内部まで自在に観察でき、その微細解剖まで容易にできる方法はこの方法以外にはない。

ここで示したいくつかの例の他にも、さらに多くの表現方法があり、工夫しだいでそれぞれの目的に合った胚や組織の構造、さらには、細胞の構造までも多様に示すことが可能である。

今後の展望

今回紹介した例のみならず、この方法には研究や教育用のためのさまざまな利用法がまだ多く考えられる。たとえば、細胞を蛍光標識した組織や胚を共焦点顕微鏡で撮影して蛍光像を立体構築した後、その標本を今回の方法で立体構築し、得られた両者の3Dイメージを融合処理することにより、標識した細胞が組織や胚のどこに存在するのかを正確に示すことが可能である。

また、教育や研究用として我々が作製した標本のデータを持ち寄って世界共通の膨大なデータベースを構築すれば、それらの標本を世界中の学生や研究者がフリーのビューアーを用いていつでも自由に机上で観察することが可能になり、生命科学の教育や研究の発展に大きく貢献するであろう。

 

事例をご提供いただきまして、誠にありがとうございました。

 


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