脳神経外科領域での臨床応用 3次元MRI画像による脳神経の可視化 新潟大学 脳研究所 脳神経外科学教室

「ボリュームレンダリングによる3次元MRI画像は、脳幹部周辺の脳神経や血管を高い解像度で可視化し、脳神経外科での術前評価において、立体解剖の把握や手術シミュレーション法として貢献している。」

新潟大学 脳研究所 脳神経外科学教室 大石 誠氏、
真仁会 北日本脳神経外科病院 放射線部 石田 剛氏

使用製品 Real INTAGE

新潟大学 脳研究所、真仁会 北日本脳神経外科病院 放射線部では、シミュレーション用3D画像作成にReal INTAGEを活用しています。大石様、石田様にお話をお伺いしました。

目次

脳・神経系の評価でのMRI画像の3次元構築技術の発展

MRI撮像技術の進歩により、脳神経系の画像診断は飛躍的に向上している。さらに近年の撮像画像の3次元構築技術の発展は、複雑な脳神経系の3次元解剖の可視化を可能にしてきた。脳神経系画像の3次元構築は、大脳の脳回構造の立体的な可視化を目的としたサーフェイス・レンダリングに端を発し、脳幹部周囲の神経や血管の描出も様々な工夫のもとに試みられてきた。

近年コンピュータのハイスペック化により、画像をボリューム・データとしてレンダリングすることが容易となり、解析ソフトウェアの改良も進み、画像解析の専門家でなくても高精度な3次元画像を簡単に作成し、かつ自由に操作・加工することが可能になってきた。

ボリューム・レンダリングは、対象構造の表面情報だけを処理するサーフェイス・レンダリングと異なり、内部にボクセルの情報を含むため、内部の立体構造を任意の断面や角度で観察することを可能とし、頭蓋内の評価法として適した解析法といえる。その解像度は細かな脳神経や微小血管の描出も可能としており、脳神経外科医にとって顕微鏡手術の術前評価法として使用する上でも申し分のないレベルにある。

脳幹部周囲の脳神経や微小血管の評価での3次元画像の必要性

脳神経外科領域において、脳幹部周囲脳槽内の微小解剖は重要である。この部は、三叉神経痛や顔面痙攣といった神経血管圧迫症候群と称される機能性疾患や、神経鞘腫や髄膜腫など頭蓋底部に主座をおく良性腫瘍など、機能解剖学的に重要な疾患群の対象領域として馴染み深い部分である。

一方で、この部では脳幹部に起始する各脳神経や小脳・脳幹部を還流した静脈系が、髄液腔内を頭蓋壁へと橋渡しするように走行しており、かつ椎骨脳底動脈系から分枝した微細な動脈が縦横無尽に走行している部分でもある。これら脳槽内構造物の立体的関係のバリエーションも豊富で、症例ごとに大きく異なる。

この部の手術において顕微鏡手術時代の脳神経外科では、機能障害を最小限に抑えるための最大限の努力が要求され、必然的に微小解剖の詳細な把握を可能とする精度の高い術前診断法の確立に関心が寄せられている。

MRIによるこの部の従来の評価法としては、髄液とその中を走行する神経血管系を高いコントラストで示すことが可能なHeavyT2 強調画像が挙げられ、撮像条件としてCISS(constructive interference in steady state)、FIESTA(fast imaging employing steady - state acquisition )、true FISP(true fast inflow with steady-state precession)、3D―FASE(3D fast asymmetric spin echo)など様々な検討がなされ、またHeavy T2 強調画像のみでは神経と血管の判別が難しいため、TOF(Time-of-Flight)法によるMRAのシークエンスでの動脈情報の評価も併せて行われてきた。

一方で、画像そのものの解像度がいかに向上しても、2次元情報を読影者自身の頭の中で3次元構成して理解することは、読影に慣れた診断医にとっても依然として難しいことは事実である。熟練した脳神経外科医であっても、実際の術野で術前の想定と異なる状況に遭遇することは稀なことではない。

我々新潟大学脳神経外科では、真仁会北日本脳神経外科病院(新潟県五泉市)とともにサイバネット社が提供するINTAGEシリーズを活用し、MRI画像の各種3次元解析を行い、脳神経外科領域の画像診断や術前シミュレーションに取り組んでいる。とりわけ脳幹部周囲の脳槽内を走る脳神経や血管系の評価に威力を発揮しており、ここでは実際に術前シミュレーションを行った自験例を中心に紹介する。

3次元画像による神経・血管系の評価と術前シミュレーション

MRI撮像は、MAGNETOM Symphony 1.5T(Siemens 社製)を使用、撮像条件は3D―CISS(TR, 10.15 msec ; TE, 4.48 msec ; matrix, 512×384 ; slice thickness, 0.80 mm) および3D-TOF MRA(TR, 26.0 msec ; TE, 7.0 msec ; matrix, 320×320 ; slice thickness, 0.90 mm)である。

画像解析はReal INTAGE(サイバネット社開発)を使用し、3D―CISS画像単独、または3D―CISSとMRAの重畳画像でボリューム・データを作成、神経や血管の構造を残し髄液の信号強度を除去できるようにopacity curve を調整し、スムージングなどの加工を施す。

本ボリューム・データは、同社のvolume player(現在ver.5)にてWindows コンピューター上でレヴューが可能で(図1)、ボリューム画像を任意の角度で切断しながら眺めることができる平行投影モードや、仮想カメラであたかも髄液腔内を進んで行くかのように脳槽内の観察ができる仮想内視鏡モードが装備されている。


図1 ボリューム・レンダリングによる3次元画像解析
CISS 画像から作成されたボリューム・データ(a)に対し、
平行投影モードで任意の断面から内部を観察し(b)、
仮想内視鏡モードで仮想カメラにより脳槽内を自由に観察する(c)。
仮想カメラの位置はmultiplanar reconstruction 像で3方向から確認できる

本法による術前評価の最大の利点は、既述の通り2次元画像で把握することが難しい脳槽内の神経・血管構造の走行を3次元で視覚的に捉えることができる点にある(図2)。我々の経験例では、三叉神経、顔面神経、聴神経などの脳神経は、その走行だけでなく形態も含めて全例で明瞭に3次元描出が得られている。例えば三叉神経痛では、血管圧迫による三叉神経の歪みそのものを3次元画像で評価可能であり(図3a)、また片側顔面痙攣では顔面神経の脳幹部からの起始部(Root exit zone‥REZ)に血管が食い込むような圧迫所見が確認でき、それぞれ確定診断の一助となる。


図2
右三叉神経痛の一例 CISS 画像(a)では、右三叉神経周囲の複雑な
血管構造(白矢印)の立体関係の把握が難しい。
3次元構成画像(b:交差法立体視)で、ループ状の
2本の血管が三叉神経(V)を挟み込んでいるのが分かり、
実際の術野(c)でも同様の視野が確認される。
外転神経(VI)も明瞭に描出されている(b, c)

また舌咽神経や外転神経といった比較的細い神経の走行も3次元で描出される症例が多く、一方で滑車神経や迷走神経、副神経といった微細な神経群は適正な3次元描出が得難い。三叉神経痛や顔面痙攣といった神経血管圧迫症候群は、開頭にて責任血管の移動を行う微小血管減圧術が根治的な治療法として知られるが、本術後の3次元画像診断では圧迫の解除を確認することも可能である。また脳幹部周囲の髄膜種や聴神経腫瘍などの腫瘍性病変においても、術前に各脳神経や動静脈との関係を把握しておけることは手術を安全に遂行する上で有用といえる(図3b)。


図3 a:右三叉神経痛の症例三叉神経(V)に血管が食い込んでいる
所見(白矢頭)が確認できる
b:左錐体骨部髄膜種の症例聴神経と顔面神経(矢印)が、腫瘍
(*)の前方で引き延ばされている像が確認される

仮想内視鏡モードでボリューム・データを観察すると、術中に手術顕微鏡で眺める脳槽内の視野を術前に確認しておくことができる。自験例では全例で実際の術野に極めて近い視野が本シミュレーションで得られており、本評価法の精度の高さを確認してきた。三叉神経痛では三叉神経周囲で遭遇する架橋静脈の走行が、また顔面痙攣ではREZを観察する際に小脳片葉や椎骨動脈の走行が問題となるが、いずれも本シミュレーションにより術前に予測しておくことが可能である。また、術野では見えない深部での責任血管の走行も把握しておくことが可能であり、無理のない血管の移動法を検討しておくことができる。

以上のような3次元画像を用いた手術シミュレーションを術者自身が術前日に30分程度行い、翌日遭遇し得る術野のイメージを膨らませておくだけで、実際の手術がよりスムーズかつ安全なものとなり、有用な術前シミュレーション法であるといえる。また若手脳神経外科医にとっては、症例個々の微小解剖を実際の術野に近い視野で理解する訓練として有用な手段である。

3次元画像による脳神経評価法の今後への期待

ここで紹介した通り、既に本法の精度は細かな脳神経や血管系を対象とした脳神経外科の顕微鏡手術に必要な情報を提供し得るレベルに達してはいるが、動脈の細分枝や穿通枝、静脈系の一部などは依然として描出し難いという課題も残されており、3・0T―MRIの普及に伴い、その解像度にも一層の改善が期待される。

また、スライス厚や髄液腔内アーチファクトは処理画像に影響を及ぼす大事な要素であり、本技術の精度を向上させるには、これらの点においてさらなる工夫が要求される。手術シミュレーション法としては、加工されたボリューム・データを使い、単に内部の観察を行うだけではなく、実際の手術手技に準じて骨や腫瘍などの疑似切除を行うような機能も検討されており、小脳の圧排や血管の移動に伴う術野の変化などが表現されるようになっていけば、より実用性の高い手術シミュレーションが可能となるであろう。

MRIの3次元構築画像を利用した術前シミュレーション法は、脳神経外科の様々な領域において今後ますます発展し、必須の方法として高い期待が寄せられていくであろう。

 

お忙しい中、インタビューにご協力いただきまして、誠にありがとうございました。

 

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