Mapleトップページ
事例・技術情報

数式からその意味を想像させ、プロット画像で確認する
〜受身にならない数学E-Learning 教育のために〜
名古屋大学 大学院情報科学研究科 複雑系科学専攻/情報文化学部自然情報学科 中村 泰之 准教授

今回は、複雑系科学や統計物理学の分野で活躍されながら、理工系のE-Learning にも積極的に取り組んでおられる名古屋大学 中村 泰之 准教授にお話を伺います。

中村先生のプロフィール


まず、先生のご専門について教えてください。

私の専門は複雑系科学と統計物理学です。複雑系科学というとちょっとイメージしにくいと思うのですが、例えば物理学とか、化学とか、生物学などにおいて、シンプルな要素が結合して相互関係を持つ場合に、その結果現れる現象を理論やシミュレーション、また実験的な手法で明らかにしていくような学問です。統計物理学では、例えば経済で見られる現象をモデル化してシミュレーションしたり、ニューラルネットワークの解析をしたりといったことをしてきました。現在は名古屋大学の情報文化学部でMaple を利用した授業を行っており、また神戸大学でも同じくMaple を使った講座の集中講義をしています。

先生のいらっしゃる名古屋大学の情報文化学部ですが、比較的新しい学部と聞いております。どんな勉強をされる学部なのでしょうか。

情報文化学部」は平成6年に創設された、文理融合型の学部です。これまでの大学は理系、文系にわかれてそれぞれの専門分野を研究してきましたが、実際の社会ではいろいろな問題が複雑に絡み合い、専門分野だけを極めていては社会のニーズに応えられないという状況になってきました。そこで作られたのが総合的な知識を持った人材を育成する「情報文化学部」です。私の所属している、複雑系システムや数理、環境を学ぶ「自然情報学科」と、心理システムやメディア社会などを学ぶ「社会システム情報学科」とに分かれています。

理工系のE-Learning システムを作られたと伺っていますが、こちらの対象も情報文化学部の学生さんだったのでしょうか?


「Web 上の科学教材」のページ
はい、情報文化学部2年生向けの全学教育科目のひとつである物理実験の授業向けにコンテンツを作っていました。実際には実験するのが難しい現象などを再現するとき、数式だけでなく、その動きを画像にして見せるというような物理シミュレーションのコンテンツです。数式だけだと非常に難しいのですが、アニメーションとして見られると非常に分かりやすいですし、学生からも理解しやすいと好評です。
こちらは2年生向け学部授業のサイトです。「Web 上の科学教材」のページが総合サイトになっていまして、様々な教材サイトへのリンクがはられています。また、「目次」の下のほうをご覧頂くと、Maple や、MapleのワークシートをそのままWeb に公開、実行が可能なMapleNet に関するドキュメント類もあるのがお分かりになるかと思います。

MapleNet がリリースされたのは数年前ですが、その頃からMaple に興味をもたれたのでしょうか?

いいえ、もっと前、7〜8年前くらいでしょうか。ある展示会にてMaple のプレゼンテーションをたまたま見かけ、そこで紹介されていた「Maplets」 というパッケージに興味を持ちました。このパッケージはMaple 8 から正式に組み込まれたツールですが、数式処理を利用したGUI アプリを非常に簡単に作ることが出来るというプログラムです。それまでは物理シミュレーションの視覚化にはJava を使ってプログラミングをしていたのですが、Maplets を利用することで格段に早く作成できるようになり、これは便利!と思いました。

それまではMaple は利用されていなかったのですね。

当時、私のまわりでは数式処理ツールとしては別のツールがメインだったですね。Maple もその頃からサイトライセンスで導入されていたはずですが。数式処理ツールとしては私も別のツールのほうから使い始めたのです。ただ、そちらのツールのほうは細かなところ、例えばコマンドの最初は、単純な数学関数でも必ず大文字にしなければならなかったり、入力トップには必ず「In」「Out」の表示があったりして、そんなところが馴染めませんでした。Maple は数式を打ち込む時もとにかく自然に、何かを意識することなくタイプでき、利用してい感を感じることがありませんでした。Maple のほうが性にあっていたということでしょうか。

先生が最初に興味をお持ち下さったMaplets で、どんなことをされたのでしょうか?

最初はMaplets で作ったGUIアプリを授業で利用していました。MapleNet がリリースされた後は、MapleNet を使ってこのGUIアプリをネット上にも公開するようになりました。
微分方程式とかフーリエ級数展開のふるまいをMaplets で視覚化して、それをWeb で公開しています。先ほどご紹介したページにもサンプルがあります。
目次の「Mapletアプリケーション」というところを開いてください。

これですね?学生さんの反応はいかがでしたか?

授業で使う分には視覚的に分かりやすく好評でした。ただ、「サイトに行って試してみてください!」と言っても、これは反応イマイチでしたね。起動までに若干時間がかかりますし、ちょっと面倒だったのかもしれません。
今は、Maplets を利用しなくてもMapleNet 上でMaple のワークシートをそのまま実行可能になったので、ものすごく使いやすくなりましたね。GUI を含めた数学テキストコンテンツをワークシートで作成し、そのままWeb 公開が可能なので非常に便利です。
ただ、便利な半面、教育という意味でみると気をつけないといけない点もあります。なんでもMaple でテキストを作ってGUI化すればそれでよいということはありません。

例えばどういったところでしょうか?

式があり、そのプロットがそのまま見えてしまうと、学生はそれだけでその数式を理解できたような気になってしまうものです。なので、授業で見せるときも、最初からプロットを見せることはしません。まず数式だけを見せて、そのふるまいを考えてもらいます。自分なりのイメージをつかんだ後で、実際のプロット画面を見せます。あっていたか、間違っていたか、また間違っていたならなぜ間違っていたのか、それを繰り返すことが学生の理解を深めます。物理情報数学といった授業では特に、数学や、数式処理ツールを道具として使いこなす力が重要なのです。

道具として使いこなす…なるほど。うなずかれる先生も多いことと思います。ちなみに先生はMaple を道具として使ってプログラミング実習もされているそうですね。


実際に学生さんが作られた
iPhone 向けアプリケーション
数式やパラメータを入力すると、
分かりやすくプロットしてくれる
はい、2年生の後期の学部授業でMapleNet とJSP(JavaServer Pages)技術を使ってiPod Touch やiPhone 向けの数学アプリケーションを作るという授業です。これは学生が作ったアプリケーションです。結構いいものをみな、作ってきます。先ほどのWeb ページの「教材ピックアップ」2008と2009に他にも学生の作品が載っています。
作成にあたり、最初はサンプルを用意するのですが、その他実際のプログラム作成にあたっては特に課題を与えていません。学生に自由な発想で作らせると結構ユニークを作ってくるんですよ。簡単なプログラミングサンプルも「JSP + Maple」ページにありますので宜しければご覧下さい。

先生は神戸大学でもMaple を利用した集中講義をされていらっしゃいますね。

はい、2008年から神戸大学発達科学部の3 年生向けに行っている「情報環境科学B」という授業がそれにあたります。数式処理を使って、情報環境系のモデルを解析するという授業です。この解析ツールとしてMaple を利用しています。
初日の5コマでは、無料の「Maple ビギナーズガイド」を利用してMaple の実習をし、2日目以降で自然・社会の現象を微分方程式を使って表現し、このモデルを検証します。モデル自体はそれほど難しいモデルではありません。目的は微分方程式、Maple といった道具を使って過去のモデルから未来の予測をするといった作業を学ぶということです。Maple を利用すると、数式の値(パラメータ)を変えるとグラフがそれに連動して変わるので、ビジュアル的にも非常に理解しやすく、非常に役に立っています。
名古屋大学の授業にしても、神戸大学の授業にしても、私が担当している授業は数学そのものを勉強する授業ではありません。だからこそ、数式処理やMapleを学ぶのではなく、Mapleを使いこなすことが重要なのです。

Maple はいわゆる数式処理ツールですが、

  • GUIを組み込んだテキストを作成できる点
  • これをMapleNet を使って公開できる点
  • また学生自身もこうしたプログラムを簡単に作ることが出来る点
などで、様々に使いこなすことで教育的な可能性を感じさせてくれるツールだと思います。

また、Maple だけでなく、製品グループのひとつであるMapleT.A. という製品にも期待しています。これは数学・工学系のテストや成績管理をWeb を通じて可能にするツールですね。こうしたE-Learning ツールも日本にもっと広まって欲しいと思っています。ただ、欧米での事例は多いのですが、日本での事例や日本発のコンテンツが少ないのが残念です。日本でも、もっともっとユーザ交流などが盛んになると嬉しいですね。是非サイバネットシステムで音頭をとってお願いします。

サポート体制などはいかがでしょうか?

サポートはとても丁寧だと感じています。 開発元であるMaplesoft 社のコミュニティでMaplePrime というサイトがありますが、以前このサイトに「MapleNet もMacintosh をサポートして欲しい」と書き込んだらすぐに開発者から返事が来ました。「これまで要望が無かったためサポートしていなかったが、今後サポートする」ということで、実際にMapleNet 14 ではMacintoshに 対応しています。きちんとユーザのほうを向いてくれている気がします。Maplesoft 社は今、サイバネットシステムの子会社だそうですね。より日本市場にあった製品開発ロードマップを期待します。

Maple の教育利用という点でとても参考になりました。大学や高等学校の先生から「こうしたツールを利用すると学生が何も考えなくなる」というコメントも頂くこともあります。
しかし、やり方次第ではマイナス面を上回るプラス面が作ることが出来るということですね。本日はどうもありがとうございました。

取材を終えて

今回のインタビューは「数式処理と教育」と題した研究会でのご発表の合間に、貴重なお時間を頂いて実施しました。学生の理解を深めるために、いろいろな手段を考え、工夫されている姿が非常に印象的でした。中村先生、貴重なお時間をありがとうございました。

(2010 年 9 月)


関連する製品群



お問い合わせ サイバネットシステム株式会社 システムCAE事業部
TEL: 03-5297-3255 (受付時間 9:00〜12:00 / 13:00〜17:30 ※土日祝及び弊社休業日を除く)
メールでのお問い合わせ  お問い合わせフォーム  お問い合わせ一覧

モデルベース開発