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事例・技術情報

産業界と教育分野の橋渡し的存在となれれば
九州大学 産業技術数理センター 穴井 宏和 教授

今回は、富士通研究所 の研究員として、また、九州大学 教授として、2つの顔をお持ちの穴井様にお話をお伺いします。 インタビューでは、九州大学教授としての取り組みを中心にお話をお伺いできればと思っておりますので宜しくお願いします。

穴井先生のプロフィール


九州大学の産業技術数理センターの概要を教えてください。

九州大学 産業技術数理研究センターは、21世紀COEプログラムから派生したセンターで2007年に設立されました。共同研究テーマの開発、数理的問題の技術相談、長期インターンの受け入れという3つのミッションがあります。

産業界との共同研究テーマの開発は、センターのHPでも紹介していますが、日新火災海上保険やマツダの事例を筆頭に、現在活動中です。数理的問題の技術相談は、センター内の技術相談窓口で企業からの相談を受け、その分野に適した教授が対応するという体制が整っています。インターンですが、既に富士通研究所をはじめとして何社かの企業で学生の受け入れを行っており、インターンシップ期間中に開発したツールが非常に良い評価を受け、翌年からその研究所に就職した学生も出るなどの実績が上がっています。学生にとってよりよいキャリアパスにもなり、研究・開発においては、「数学」が必要ですので、数学科の学生が持っているポテンシャルが重要視されています。こうした成功事例が増えてくると、企業の認識も変わり、学生に対する門戸もさらに開けてくると考えています。

富士通研究所に在籍しながら、九州大学に教授として就任された経緯を教えてください。

産業技術数理センターの立ち上げの際、活動協力のご依頼がありました。富士通研究所に籍を置きながらであれば、『ものづくり』の現場を見ながら情報の橋渡しができると感じたため、二足のわらじを履きながら教授という形で協力をさせて頂く運びとなりました。

どのような授業を担当されているのですか?

授業は集中講義で、QE(Quantifier Elimination:限量子消去)などの代数幾何の分野について、それをアルゴリズムとしてどう考えるかということを教えています。学生は、理論自体は知っているけれど、アルゴリズムという形ではぼんやりとしたことしかわかっていませんので、「計算」という観点から見直すとどうなるかを教えています。学生に興味を持ってもらうため、大学の入試問題などの身近な題材を使い、一般常識として知っている方程式や理論を、数式処理ツールで実際に「計算」するとどうなるのか、といったことを体感してもらっています。例えば、因数分解もアルゴリズムがあることは意外と知られていないのですが、考えてもらった後に説明をすることで、「数学」が「計算」と結びついてソフトウェアとなり、役に立っているということがわかります。

学生さんは、日常的に計算ツールを使われているのですか?

これまではあまり使っていなかった、といったところでしょうか。理系の学生ですので、理論的なものは理解が出来ますが、実際に数式処理ツールなどを使って「計算」をしてみる学生はあまりいませんでした。私の授業では、理論的な背景を説明した後に、実際に「計算」してその結果をグラフィックスで見せています。これまで本で得た知識が具体的になり、学生にとって新鮮な驚きが生まれるようですね。

また「計算」というのは非常に重要な概念で、そこにアルゴリズムや効率という概念が加わり設計に結びつきます。単に、実代数幾何の計算方法だけを教えても意味がないので、応用の話として、富士通研究所などでの『ものづくり』の実例を用いて説明しています。例えばハードディスクの設計には微分方程式が必要だけど、方程式は皆さんがいま勉強しているものですよね?設計者はまさにこの微分方程式を使った設計を行っているんですよ。皆さんの活躍の場はいっぱいありますよといって、モチベーションを高めています。

Mapleなどの計算ツールを教育の現場で使う上で気をつけていらっしゃる点はありますか?

基本的には中身を分からず使う、ということが起きないよう心がけています。いろんな場所でお会いするエンジニアの方によくする質問なのですが、「そのアルゴリズムは何を使っているのですか?」と聞くと、たまに使っている計算ツールの名前を答えることがあります。計算ツールを使うと何らかの答えが出ますが、その答えが正しいのかどうか、また正しくない答えが出てきた場合なぜそうなったのか?ということを検証していかなければいけません。問題の中身がわかっていないと、実際の問題に適したアルゴリズムをうまく活用することが出来なくなります。学生には、まず理論をきちんと理解した上で、適した道具(計算ツール)を使う必要があると考えています。

産業と数学の今後あるべき姿、指針はどのようなものだとお考えでしょうか?

数式処理を20年くらいやっていますが、「数学」をやっている人は強いという自信を持って頂きたいですね。システムエンジニアになることはできますが、研究職としてこれまで培った知識と経験ををうまく活かせるかというと難しい面もあります。「数学」を重要視する、そういう状況を多く作っていきたいですし、このような意識改革を企業側で行っていきたいと考えています。もうひとつは、学生の方も変わらなければならないと思います。数学者として研究現場に残るのはほんの一握りです。柔軟性を持って対応し、そして自分の置かれた環境に興味を持てると数学の能力は活きてくると思います。企業、学生の両方が少しずつ意識を変えてうまく歩み寄ることができればよいと考えています。

最後に、学生に向けたメッセージをお願いします。

どの学科・専攻でもそうだと思いますが、数学科にきたのだから、いっそ極めるつもりで深堀りして勉強しなさい、そして、また他の分野に興味を持つマインドを忘れないようにしなさい、と指導しています。何かを深堀りした経験があれば、卒業して他の様々な分野へ行った時に、それを掘り下げる時に、一度訓練されていますし、数学的本質を扱う能力があるので、理解するのが早いと思います。学生のうちに数学をしっかりと勉強して、色んな興味を忘れないでいれば将来は明るいとアドバイスしています。また、私の経験からもそうなのですが、まず自分の強みを見つけ、他分野への興味を持ち、柔軟性を持つことも重要と教えています。

取材を終えて

ものづくりの最前線の研究者として、また、学生教育に情熱を注ぐ教員として、「自分は、産業界と教育を結ぶ『橋渡し』的な存在でありたい、と思っています。」というお言葉が印象に残りました。穴井先生、貴重なお時間をいただきありがとうございました。

(2009 年 9 月 1 日)



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