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IT時代の日本のモノづくり産業のすすむべき道

早稲田大学 創造理工学研究科 経営デザイン専攻
教授 澤口学 氏

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1.世界の中の日本のモノづくり産業の強みと弱み

筆者が2004年から2005年にかけて実施した「日本のモノづくり産業の課題」に関するアンケート調査の結果から、日本のモノづくり産業(主に製造業)は、総じて自社の「品質や製品実現化の技術力」には高評価で「自社ブランド」に自負心がある反面、「製品企画力やイノベーション力」には低評価であることがわかっています。この背景には、高度成長期以降1990年代初頭までの「日本の改善力=モノづくり力」が欧米企業への追い上げにつながり成功を収めた自信と、それ以降、韓国・台湾・中国等の新興国に追い上げられ低迷している現在の日本企業の姿が、見事に交錯した結果であると解釈できると思います。

実は、日本のモノづくり産業は、高度成長期以降、持ち前の改善力で高品質な商品をリーズナブルな原価で実現してきた面がありますが、この背景には、製品実現化の技術として、米国企業に先立って「イノベーションの源泉としての半導体」に目を付けてきた先見性があったことも忘れてはなりません。当時は、半導体技術そのものでは米国がリードしながらも、TV、VTR等の製品化では、日本製品が世界市場で大きくシェアを伸ばしたからです。しかしこの成功モデルも、1990年代以降は韓国、台湾、中国等の新興国の追い上げによって通用しなくなりました。この変遷をビジュアル的にまとめたのが図表1です。


図表1 『主な電化製品の世界市場でのシェアの変遷』

なぜ、日本製品は1990年代以降大きく世界市場でのシェアを落としたのでしょうか?実は、半導体はコンピュータやエレクトロニクス製品の性能向上・小型化・コスト低減を実現し、ユーザーには多大な恩恵をもたらしたのですが、製品アーキテクチャー(基本設計思想)が「“インテグラル型”から“モジュラー型”(図表2参照)」に大きく転換が進み、その結果、新興国の新規参入が容易になり、日本製品のシェアが低下したと言われています。

インテグラル型
(摺り合せ型)
インターフェースの集約化によってシステムが複数のサブシステムから構成された時、サブシステム間の相互依存性が高く、インターフェースがルール化されていないとき、当該システムの製品構造は“インテグラル型”である。
モジュラー型
(組合せ型)
インターフェースの集約化によってシステムが複数のサブシステムから構成され、サブシステム間の独立性が高く、インターフェースがルール化されているとき、当該システムの製品構造は“モジュラー型”である。
図表2 『製品アーキテクチャーの2タイプ(インテグラル型とモジュラー型)』

つまり、インテグラル(摺合せ)型の製品だと、部品間の複雑な調整が必要とされるので、日本の熟練技術に根ざした現場力や改善力等が大きな武器になり、簡単にはキャッチアップされないのですが、モジュラー型になると、部品間の調整等が不要になるので、現場力や改善力に依存せずとも、市場への新規参入が容易になるということです。前者の代表的な事例が自動車であり、後者の代表例としてはパソコンが挙げられます。このように半導体の性能が飛躍的に向上すると、製品のノウハウ(摺合せの熟練技術)を半導体が取り込むことによってモジュラー化が進むのです。例えば、今のガソリン自動車やHVC(ハイブリット・カー)はまだインテグラル型製品ですが、電気自動車(EVC)になるとパソコンの様にモジュラー化が進むと言われております。また最近ですと、微細金型技術などは、日本が得意とするインテグラル型ですが、ここに3Dプリンターが台頭してくると、これも急速にモジュラー化が進んでくるのではないかと予測する向きもあります。つまり、半導体によって製品のモジュラー化が促進され、日本のモノづくり産業の現場力や改善力だけでは世界市場で強みを発揮できなくなっているという“大きな流れ”が見えるのです。

2.半導体産業の社会的インパクト

前述したように、半導体産業の社会的な影響力が増大するにつれて主要部品のモジュラー化が進むことで、現場の摺合せ力がなくても、製品品質が十分に確保できるように産業構造が変化してきているのは事実です。この傾向は半導体部品の占有率が高い弱電系製品、とりわけIT系機器(PC、タブレットPC、スマートフォーンなど)では顕著だと思います。

ちなみに、2007年時点で日本の半導体産業は5兆円規模ですが、当時の日本のGDPは516兆円ですから、半導体産業はGDPの約1%程度に過ぎません。しかし、半導体を利用した製品は、(1)電気機械(パソコン、携帯機器、薄型テレビ、ゲーム機器等)、(2)輸送機械(自動車など)、(3)精密機械(カメラ、時計等)、(4)一般機械(製品の製造装置など)など広範囲に及び、約48兆円に達しています。ちなみに製造業全体では109兆円ですから、半導体産業は、製造業全体の約44%に相当します。この数字は、日本のGDPに対しても10%近い規模ですから、半導体が及ぼす社会的インパクトは非常に大きいことが客観的にも分かります(図表3参照)。つまり、半導体産業は社会的インパクトが非常に大きい反面、日本のモノづくり産業の改善力の強みを失わせる“諸刃の剣”になったことが分かります。この傾向は現在でも基本的に変わりません。このことは、今後はかつての日本のモノづくり産業が目指したハイエンドユーザーの要求機能を常に追いかける“最終製品の高品質化戦略”だけでは競争力を維持する事が難しくなっていることを意味しています。


図表3 『半導体産業の社会的インパクト度』

つまり、今後はモジュラー化がもたらす新しい市場環境においては、新規参入の障壁が低く、技術的にも新興国にキャッチアップされやすいオープン型でかつ標準化仕様の市場を前提とした革新的なビジネスモデルが求められるということです。

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