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IT時代の日本のモノづくり産業のすすむべき道(2/2)

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3.産業構造を意識したビジネスモデルの構築へ

モジュラー化がもたらす新しい市場の収益構造は「スマイル曲線(図表4参照)」であることが知られています。この構造になると従来の日本企業に多い“垂直統合型”は迅速な対応ができず、収益的にも不利なビジネスモデルになります。対応策の1つとしては、自社のコア技術にフォーカスして、「外モジュラー内インテグラル戦略」に徹する手があります。いわゆる「インテルインサイド型のビジネスモデル」です。部品レベルで他社の追従を許さないコア部品を開発し、最終セットメーカーに採用されつつ、インサイドはブラックボックス化(知財戦略も含む)して他社の模倣を不可能にさせる戦略です。この技術戦略は、日本のモノづくり産業の今までの強みを基本的に踏襲できるので有望なビジネスモデルであるとは思いますが、経営資源の取捨選択が迫られるので、経営者の意思決定が重要な要素になります。図表4に示すような「シマノや三菱化学のケース」が有名ですし、スマートフォーンのコア部品である「積層セラミックコンデンサーの小型化、小型・省電力のNAND型フラッシュメモリ、CMOSセンサーなど」も日本企業の強いコア部品開発のケースです。

もう一方の対応策としては、製品単体に拘らず、製品の使用段階に特化したソリューション型ビジネスモデルにフォーカスする戦略があります。いわゆる「アウトサイドアップル型のビジネスモデル」です。こちらの方は基本的に米国企業が得意とする分野です。

例えば、アップルのスマホとAPPの一体化戦略や、アマゾン・ドット・コム、フェイスブックあるいは、メインフレームの箱ものメーカーからソリューションビジネスに変貌を遂げたIBMなどが思い浮かびます。しかし、最近では日本企業でもソフトバンクの事業展開などはこの領域のビジネスモデルに近い印象がありますから、日本企業の新しい動きとして注目できると思います。


図表4 『半導体産業の社会的インパクト度』

その一方で、半導体技術をベースにしたIT化はいかなる産業でも進むものの、摺合せ作業の依存度が相対的に高く、未だに“インテグラル型”の製品アーキテクチャー分野が存在することもまた事実です。具体的には、前述した自動車産業や重厚長大系産業(重電・プラント・建設工事関係)、現場の総合力が重要なウエイトを占めるサービス産業(鉄道運行サービス、日本式CVSなど) などが当てはまると思います。これらの産業では、熟練技術者や技能者が技術を若手にOJTで伝承しつつ、チームワークで日々の改善提案を積み重ねて、社会にインパクトのある効用を提供する活動になります。なお、この業界の収益構造は、逆スマイル曲線(図表5参照)になるので、従来の日本企業に多い“垂直統合型”が収益を得やすいビジネスモデルであると言えるでしょう。つまり、“インテグラル型”製品やサービスでは、モジュール型のような画一的な標準の組合せだけではうまくいかないので、日本の現場力や改善力は依然としてその強みを発揮できるというわけです。具体例としては、図表5に示しているような「日立やトヨタのケース」がありますし、最近注目されている「三菱航空のMRJ(Mitsubishi Regional Jet)」なども、垂直統合的な総合技術力の結集であるとの見方ができると思います。この経営戦略を一言で言えば「外インテグラル型モノづくり戦略」であるといえるでしょう。なお、この戦略をサービス分野にまで広めると、「安全かつ定時運行に定評があるJRグループの新幹線やその運行システム」や「お客様第一で地域社会に必要不可欠なインフラに進化してきたセブン-イレブン等の日本式CVS」なども、筆者の解釈では立派なインテグラル型サービス業であると考えております。


図表5 『逆スマイル直線とそれに適したビジネスモデル』

4.イノベーションの推進と未来ビジョンの持ったビジネスマンへ

前述したように、弱電系製品などは、半導体をベースにしたIT化の進展によって、製品アーキテクチャーのモジュラー化が急速に進んでいるので、このような産業構造では、高度成長期の日本企業が得意としたキャッチアップ戦略は通用しません。したがって、フロントランナー戦略に基づいたラディカル・イノベーション(部品レベルであれ、ビジネスモデルであれ他社が真似できない製品・サービスの企画・開発)が欠かせません。一方、重厚長大系産業では、未だに日本企業の現場力が効力を発揮する産業構造であるため、最近では、「現場型イノベーション(グラスルーツイノベーション) 」とも呼称され、日々の改善提案力が重要な位置づけになっております。

しかしこのようなケースでも、単純に従来型の画一的な改善提案(例えばQC7つ道具を活用した小集団活動など)を繰り返せばよいというものでもありません。というのも、“インテグラル型”の産業構造であっても、過去に比較すると飛躍的にIT化が進んでおり、ITベースド・テクノロジー(主に情報加工技術等)の重要度が相対的に高まっているからです。しかも過去に比べて新技術への切替えも早まっているので、この分野であっても、“未来ビジョンをベースにした提案能力(社会環境の変化に適した技術の切替えタイミングを予測する能力など)の向上は必須だといえるでしょう。”モジュラー型“製品では、さらにこの能力(未来予測力)の研鑽は欠かせないでしょう。

しかし「OECDの国際成人力調査(平成23〜24年に実施)」によると、日本のビジネスマンは、調査対象国(OECDの先進国中心に24か国・地域が参加)の中で「読解力、数的思考力、ITを活用した問題解決能力の3分野のスキルでいずれも1番」という特筆すべき結果が出ていますから、日本の将来は決して暗いものではないと断言できます。

最後に、今まで述べてきた内容を体系的にまとめた日本のモノづくり産業の変遷と今後の進むべき道筋をまとめた図表6を示して、終わりにしたいと思います。


図表6 『日本のモノづくり産業の変遷と今後の進むべき道筋』
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