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研究開発からより良い社会の実現まで、創造を支える可視化技術(前編)

小山田先生インタビュー

京都大学国際高等教育院
教授
小山田 耕二/コヤマダ コウジ


プロフィール

略歴

1960年7月
神戸生まれ
1983年3月
京都大学工学部卒業
1985年3月
京都大学工学研究科修士課程修了
1985年4月
日本アイビーエム(株)関西営業本部
1988年1月
日本アイビーエム(株)東京基礎研究所
1998年4月
岩手県立大学ソフトウエア情報学部・助教授
2001年4月
京都大学大型計算機センター・助教授
2004年8月
京都大学高等教育研究開発推進センター・教授
2013年4月
京都大学国際高等教育院・教授
2014年4月
自然科学研究機構・客員教授

学会活動

2004年7月
日本シミュレーション学会理事・編集委員長
2006年7月
可視化情報学会理事・和文論文誌編集委員長
2009年4月
システム制御情報学会理事
2010年7月
日本シミュレーション学会・会長
2011年10月
日本学術会議・連携会員
2014年1月
Editors in Chef of Journal of Visualization
2014年7月
可視化情報学会・会長
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近年収集されるデジタルデータが増加して、その活用が期待されています。このような現状をどのように見ておられますか。

私自身は、可視化分野の話をする際にビッグデータというキーワードをよく使っています。2011年にIDCという調査会社が年間1.8ゼタバイトのデータが年間生成されているというレポートを行ってからビッグデータというキーワードが出てきたと思っています。1.8ゼタバイトというデータは、32GBのiPadを全世界の人々がひとり10台持たないと収めきれないデータ量です。
しかし、そのデータもそのままでは何も生み出せないでしょう。サイズが大きすぎてまさにデータの洪水です。人類はそのようなデータに初めて向き合っており、どのように取り組むかが問われている状況だと思います。

ビッグデータの活用に向けていろいろなアプローチがあると思いますが、可視化の優位性とはなんでしょうか。

私自身もそうですが、「データ」と「情報」という言葉をごちゃごちゃにして使用することが多いです。それぞれの言葉の定義を調べてみたことがあるのですが、情報というのはデータであって「人間が認識したもの」という定義です。

人間に認知させる方法としては、人間の感覚器を通してしかありえないと思います。われわれはたくさんの感覚器を持っています。味覚、触覚など五感がありますが、その中で人間の脳に一番効率的にデーを送り込めるのは、多くの方に賛同いただけますが、視覚であると思います。全体の6−7割のデータ量を脳に運ぶ役割を持っています。ですから、データを情報化する上で可視化というのは大変効率のよい手段だということがまずお分かりになっていただけると思います。

ただ闇雲に画像化しても本当に認識されられるのかという、人間の脳の方の問題があります。とりあえず、データを絵にして見せたら終わりかというと、そうではありません。どの程度認識させられているのかということも大事です。データを絵にするという観点で多くの手法が世の中にも出てきていますが、本当に人間に認識させられているかということの関しては、まだまだ十分な評価軸がある訳ではありません。その点について多くの方が関心を持たれていますが、どうしたら良いかはまだまだオープン問題です。

可視化について、現在どのような取り組みが行われ、どのような展望をお持ちなのでしょうか。

2045年には、テクノロジーのシンギュラリティ(技術的特異点)があり、コンピュータの能力が人間を超えてしまう、と言われています。そうなれば、視覚は必要ありません。人間の意識そのものがコンピュータにビルトインされてしまうわけですから。それまでの技術かもしれませんね。

現時点では、まず画像化されてものを人間がどのように認識するかという話になりますが、ここ10年、可視化で解決すべき問題というものがいろんなところで議論されています。10のオープン問題なども欧米の可視化研究コミュニティで議論されています。ビッグデータということであれば、ディスプレイの解像度を超えてデータ量が増えてきている状況があります。そこでもうひとつの軸として奥行きの活用という考えが出てきており、データを深さ方向に重ねるテクノロジーに焦点が当たっています。融合可視化、フュージョンなどという言葉で言われています。いろんなデータを同一画面の上で統合するというテクノロジーが出てきつつあると思います。

融合可視化という言葉が出ましたが、先生が現在行われている研究をご紹介いただけますか。

JSTのASTEPという枠組みで、融合可視化に取り組んでいます。重ね合わせという一言で言うのは簡単ですが、たとえば、数値シミュレーション結果だと三次元空間で計算結果が定義されています。二次元の絵を重ね合わせるのは比較的簡単ですが、たとえば有限要素法の複雑なメッシュの上に透明感を保ったまま、重ね合わせるということはそれほど簡単なことではありません。

なぜそれほど簡単なことではないかと言えば、有限要素法のような複雑なメッシュで定義された数値データを想像してみてください。半透明で三次元データを可視化する方法としてボリュームレンダリングという方法があります。この可視化手法を有限要素法のような複雑なメッシュに適用する、絵を作る際のカメラのポジションに応じて有限要素の格子を全てソートしなければなりません。半透明をきちっと保つためにはソートしながら重ね合わせるわけです。これはひとつのシミュレーション結果でも大変ですが、ひとつもうひとつと重ね合わせようとすると、ソートができない可能性があります。重ね合わせるために並び替えをするとき、たとえば小さなサイズの格子と大きなサイズの格子が同じ位置にあった場合、どっちが前にあるか分かりません。根本的な方法の開発が必要でした。

そこで我々がひとつ考えているのは、格子を全て粒子で表現してしまうという考え方です。四面体格子も三角形メッシュも線も適切な密度で粒子化して表示するというものです。これまでも粒子で表現した表示技術はたくさんありましたが、粒子は不透明な属性ではなく半透明で重ね合わせていました。その場合、視点から見た並び替えの処理が必要でした。我々は適切な粒子の生成と表示方法で、並び替えを一切不要にしました。つまり一番前の粒子だけを描き、その後ろは描かないわけです。

それでなぜ半透明の効果が出るのかというと、種を変えて粒子群をたくさん作っておいてそれらから得られる画像群を平均化しているからです。その方法で従来法による時と同じ絵ができることを確認しています。それによりたとえば並び替え処理ということで有限要素法のメッシュ1億とか1兆とかとてつもなく多くなりますと、回転していく最中に重ね合わせをしなくてはならない、この作業が格子の数のオーダーだけ必要になっていくわけですね。格子の数は1億ならば、1億に比例だけでなくそれ以上にソートにはコストが掛かります。さらにそれが複数重なってくると処理はおそらく不可能でといってもよいでしょう。それをあらかじめ適切な方法で粒子にしておいて、要は一番前の粒子だけを描かせることにするわけですから、粒子の数も1兆の格子から1兆スケールの粒子を生成すると、高速な可視化はなかなか難しいですが、たとえば100万の粒子を生成すれば、ノートパソコンでも十分表示可能です。この手法は商用ソフトでも実装され、本当に大きなデータから効率の良いボリュームレンダリング表示ができることを確認し、現在、いろいろなデータでその有効性を確認しているところです。


データ提供:東京大学奥田洋司教授
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