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「見える化」技術

渋谷新生−渋谷ヒカリエと渋谷駅周辺の再開発事業

株式会社日建設計
設計部門
設計部 主管
西岡 理郎


渋谷に生まれた新しいスポットとして、渋谷ヒカリエは大きな注目を集めていますね。

図1 駅中心地区歩行者ネットワーク図(出典:渋谷駅中心地区まちづくり指針2010)

実は渋谷ヒカリエは渋谷駅を中心とする再開発計画の最初のプロジェクトなのです。この再開発計画は東京都都市整備局の「渋谷駅中心地区基盤整備方針」にも示されており、計画の概要は同局のホームページでも公開されています。渋谷駅周辺地区を5つの街区に分け整備再開発を行い、2027年くらいまでに全街区完成予定になっています。

この再開発計画のきっかけは東急東横線と東京メトロ副都心線の相互直通運転です。それが、2013年3月に達成され、本年(2013年)のゴールデンウィーク明けから、東急東横線地上駅の一部解体が始まりました。今後、渋谷駅の改築作業が順次本格化していくことになります。

現在の渋谷駅は、渋谷駅街区と呼ばれJR線、東急東横線、銀座線の駅改良及び駅ビルの開発がなされます。渋谷駅の西側は現在の東急プラザとその周辺を再開発する道玄坂一丁目駅前地区、東急東横線地上駅のある国道246号線南側を渋谷駅南地区とそれぞれ地区名が付けられており、いずれの地区でも60m以上の高層ビルが計画されています。

また、南西側の渋谷駅桜丘地区でも再開発に向けて協議が進められています。

渋谷が便利な街になればなるほど、これまでより遥かに多くの人が渋谷に集まってくることが予想されるので、防災面での対策も事前準備が必要ですよね。

図2 夕暮れの渋谷ヒカリエ 現在の渋谷駅周辺の建物に比べ、その大きさが際立つ

その通りです。渋谷駅は、現時点でも、乗降客数が国内2番目(相互直通前)の一大ターミナル駅であり、しかも、今の状況は、地震や何かの事故が起こった際、混乱状況が一番にテレビで取り上げられるほど、その混雑ぶりで有名な駅になってしまっています。渋谷を古くから開発してきた鉄道事業者の方々は、そうした状況を何としても打開して、渋谷を21世紀の新しい街として生まれ変わらせたいという強い意志でこの計画を推進しておられます。渋谷ヒカリエは3.11以前から、この再開発計画に基づき構想されていたもので、ご存じのように、旧東急文化会館の跡地に建てられています。

 渋谷駅周辺地域の再開発自体は、具体的には、渋谷駅が文字通り渋谷という街の根幹を成す「プラットフォーム」になるようにしたい。というのが基本的な発想です。しかし、渋谷という街が現在持っている特有の面白さ、個性は殺したくない。再開発をするにしても、渋谷は大手町のような街とは違って、基本的には商業とIT、そしてエンターテインメントの街です。そこが、渋谷の街の伸びやかな雰囲気を形づくっているので、そうした部分が発展し、融合した街「エンタテイメントシティ しぶや」を目指していくという考え方です。ですから、構造物の一部を、いろいろなイベントのスペースとして使うといったことが柔軟に構想されています。

また、銀座線はホームの位置が現在より東側に移り、渋谷ヒカリエの3階レベル、ちょうど明治通りの上辺りに来ることになります。駅の上部を覆う渋谷ヒカリエの4階レベルには人工地盤ができる予定で、駅と渋谷ヒカリエが上空でつながり、そこを人々が歩いて移動できるようになるので人の動線も大きく変わるでしょう。このような多層にわたる新しい歩行者動線がこれまでのように交通動線と交錯しないことで、防災面にも貢献できると考えています。

渋谷ならではの街づくりということですね。

はい。この再開発計画に携わっている鉄道事業者及び関係事業者、地権者の皆さんは、渋谷を楽しく、美しい街であると同時に、安全な街にしたいという思いも大変強くて、特に、渋谷区さんからは、地震があったときの帰宅困難者の受け入れや、一定面積の空地などを設けて災害に強い街を作るという条件で、いろいろな対策を一緒に考えて頂いています。具体的には「都市再生特別地区」という制度を使うため、空地を設けたり、歩行者動線を駅からフラットにしたり、特定の用途をビル内に設けることで容積割増を頂くということを行っています。

人の動き、いわゆる歩行者動線を整理することは、街の安全を考える上でも大切なことなのです。渋谷ヒカリエでは、そのために貴重な路面の部分も歩道の一部として使い、テナントを入れていない部分があります。売上に一番直結する道に面した部分の床面積を犠牲にして、ということですから、商業施設としては大きな決断だったと思います。

また、渋谷ヒカリエは、建築当初から帰宅困難という事態を想定して作っていました。72時間自家発電ができるような大きな自家発電機のスペースなどは設計当初から確保しておかなければなりませんし、備蓄倉庫も設けてあります。東京都では3.11の前から地震が落ち着くまでの72時間、巨大な街や巨大施設での人々の安全をどう確保するかという対策を立てつつありましたので、その一環として帰宅困難者受け入れということは、初期構想から考えられていました。

災害時には、やはり路面に人を出さないというのが基本です。渋谷ヒカリエのアーバンコアや3階東デッキといったところは、人の通過動線機能のスペースですが、そこが災害時にはそのまま帰宅困難者スペースとして使えるようになっています。

防災面でのシミュレーションなども、渋谷ヒカリエの設計時には行ったのですか。

建築基準法の「避難安全検証法」を採用しています。例えば、火災時を想定した場合ですと、全館の在館者(最上階にいる人も)が煙に巻かれず安全に避難完了するまで、どのくらい時間がかかるのか、といったことはシミュレーションで事前に検証しています。

また、建物自体について言えば、60メートルを超えるビルは、現在、建築基準法上「超高層」という扱いになり、特殊な構造計算をした上で国土交通大臣認定を取る必要があり、一般の建築物とは安全基準が違います。また、先ほど述べた避難安全検証法も、安全率を高めた特殊な計算をしており、これについても国土交通大臣認定を取っています。

これらの大臣認定を取るには防災や構造の有識者の間で広く安全性の評価を受けなければなりません。耐震設計で使う想定される地震のレベルなども、計算の基準となる設定そのものは国土交通省が定めているのですが、超高層の計算については、その定められた地震波入力値レベルが当地、つまり、渋谷なら渋谷でどうなるかということを、想定して計算をしています。

このように、幾重にも巡らされた安全基準をクリアしているので、実は、超高層の建物ほど安全なものはないと言えるほどです。超高層とそうではない一般の建築では、結果的に要求されている建物耐力が全く違うのです。 ただ、3.11の地震について言えば、東京での震度は「超高層」という認定区分ができて以後は初めてだったわけで、東京で設計を仕事にしているほとんどの人、つまり、関東大震災を経験していない人にとっては、未経験の揺れでした。

渋谷ヒカリエは、あのとき、たまたま鉄骨を組み終わった後だったのですが、その前にあの地震が起こっていたら、どこかにひずみが生じて、最悪の場合、一度壊してもう一度構造を建て直さなければならないという事態になっていたかもしれません。十二分に安全であるようにと設計し、揺れを吸収するいろんな仕掛けもビルに組み込んでいますので、建てられてしまえば安全なのですが、建てている最中は、そうした仕込みが完成時ほどは効きませんので、その点、工事中の課題はあります。

設計の専門家からすると、あの3.11の経験は、ある意味貴重なものだったと思うのですが、如何ですか。

自分なりに、「ナルホド」と思ったところはいろいろありました。天井が落ちる、モノが落ちる、扉が開かなくなるといった話は、地震のときにはこうなる、と机上で理解はしていましたが、「ああ、こんなふうになるのか!」と実感しました。

地震の後、当社では関わった建物を全て点検して回ったのですが、構造の担当者だけではとても間に合いませんので、設計担当の私も駆り出されて、自分が何らかの形で関わった建物を中心に15棟くらいを見て回りました。「ああ、こういうところが壊れるんだ、気をつけなければいけないところなのだな」と、実際に自分の目で見て確かめることができましたね。

3.11以前と以後では、私たちの考える設計上のスペックも変わりました。落下する要素などは、とにかく全て無くす。中越地震のときに大面積の天井が落ちたという話があり、そのようなことがわかってくる都度、我々の基準も変わっていたのですが、考えられる範囲でより厳しい基準で作ったビルが、今回の3.11でどうなったかということですよね。それを検証して、さらに安全性を高める方向に更新していくということです。安全基準はどんどん高めていかざるを得ません。

シンガポールとかですと大地震の履歴がほとんど残っていないんですよ。ですから、建物の構造については日本と全然違います。建築デザインに携わる身としては、制限が少なくて羨ましいと思うことも多々ありますが、人々の安全や建物を守ることこそ最も重要ですし、それはもう地震国である日本の建築の宿命ということでしょう。

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