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特集:乗り物の近未来

特集に寄せて

CTO 石塚 真一


技術の壁を破る発想

今回は、近未来の交通機関や交通システムをテーマに、様々な分野の専門家からのインタビューならびに記事をいただきました。自動車/パーソナルモビリティ、鉄道、航空機ならびにそれらを支える基幹要素技術。一つ一つ読ませていただく中で、新たな技術を生むにはいかに柔軟な発想が必要か、ということを改めて感じました。

ここ50年から60年の間に交通システムは大きな進化を遂げました。しかしこれから先はどうでしょう? たとえば航空機について技術的な側面は全く無視して勝手なことを言うと、その実用的な飛行速度には大きな前進が見られないように思います。戦時中のプロペラ機でも時速800kmくらいは、すでに記録していました。現在の最新鋭の旅客機の巡航速度は時速900km程度ですからプロペラ機と大して変わりません。太平洋横断には相変わらず10時間程の時間を要します。もちろん様々な技術が進化しているのは間違いありませんが、利用者にとって最も直接的に関係する要素の一つである飛行時間(すなわち飛行速度)に関してはほとんど変わっていないのです。鉄道においても、初代新幹線から時速100kmほどの速度向上に、約40年の歳月が費やされています。これが速いか遅いかは別として、速度が向上すればそのエネルギーは二乗に比例しますので、制御や安全性確保が急激に困難になるのは想像に難くありません。空気抵抗も二乗に比例しますから、総じて言うと現在の交通システムは、投入する技術の量に対して、利用者が得られるメリットは相対的に少なくなってきているのではないか、ということが言えるかもしれません。

つまり今後、革新的な交通システムを構築するには、今までの技術の延長線上だけでなく、全く違ったユニークな発想が要求されるのでは、と思います。

速さ=便利?

それでは“速い”ことは良いことなのか? 総じて言えば「Yes」と言えると思いますが、良いことばかりではないかもしれません。

たとえば、新幹線は東京⇔新大阪を約2時間30分で結びます。なんとか日帰り出張ができる範囲ですが、「もっと速くなったら楽なのに」といつも思います。しかしひとたび速くなったら本当に楽になるかというと、実は日帰り出張の距離が長くなるだけで、経済効果はあるにしても、快適さという面では変わらないのかもしれません。インターネットが莫大な経済効果と利便性をもたらしたのは間違いありませんが、その分、今までになく仕事量が増えたのと似たところがあるように思います。

10年ほど前に、インターネットに対するアンチテーゼを問いかけるようなテレビ番組がありました。それはインターネット/IT化/コンピュータライズによって、未来の社会システムの可能性を明るく描写していたのですが、Eメールを始めとする情報通信により、様々な処理が便利に高速にでき、そして時間ができた。「さあ、何をしようか・・・」、というときに、「久々に田舎の両親に手紙でも書こう」と思い立ち、その手紙が川べりを自転車で郵便配達される情景がエンディングとなっていました。これは、技術の一端を担うものとして心に留めておかねばならないと思った次第です。

交通システムは流通という社会基盤をなすものであると同時に、今や個々人の必需品であります。また、最近忘れられがちですが、いわゆる「乗り物」としての趣味性や楽しみを備えたものでもあります。世界最高レベルの成熟した交通システムを持つ日本だからこそ、今後の交通システムを構築するには、個々人や地域社会に合わせた様々な視点から考える必要があると思います。

今回の特集記事は、しっかりした技術基盤はさることながら、常識にとらわれない発想がいかに大切であるか、を改めて感じさせ、そして近未来の新たな交通システムの誕生を予感することができると思います。

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