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CAEユニバーシティ

「CAE強度設計のための力学講座」について

東北大学災害科学国際研究所 教授
寺田 賢二郎

1.はじめに

CAEユニバーシティにおける講義群には、力学関連の講座は7つありますが、本稿では、私の担当している有限要素法(以下、FEM)関連の講座のなかから「CAE強度設計のための力学講座」(旧:数値実験による設計とCAEの力学講座)について紹介したいと思います。

この講座は、5つのパート(1. はり/フレーム構造(構造力学の基礎)、2. 応力と強度評価(材料力学の基礎)、3. 強度I(材料強度・非均質・異方性)、4. 熱と応力(熱膨張・焼きばめ)、5. 強度II(構造強度・降伏強度・大変形))に分かれており、テキストもこのパートごとに章立てされています。以下、この講座の趣旨と特徴を述べたのち、各パートでの学習の目標を順に説明していきます。

2. 講座の趣旨と特徴:事前に予測、事後に分析

この講座では、固体のCAEに関係する種々の力学問題を対象として、材料力学および構造力学における最低限の基礎知識を手がかりに

  • FEM解析の前に答えを予測する
  • FEM解析の後にその解を分析する

というプロセスを繰り返します。これにより、現象を表している力学モデルや数式の物理的意味の理解の仕方、および設計に必要な力学的洞察力の養い方を学ぶという、主に設計者のための新しい学習スタイルを採っています。

具体的には、設計において考慮すべき原理・原則(構造力学・材料力学・熱応力・強度/剛性など)を包含するような典型的な例題を設定し、まずはCAEの適用の前にその解を予測します。このとき、力学的な基礎知識をもって理由付けすることを心がけます。そして、CAEを適用して解を可視化することで、自分の予測と解釈を自己採点し、もし誤った予測をしてしまった場合、もしくは理由付きの予測ができなかった場合には、可視化結果と理論に関する解説を受けることで、「問題の解釈の仕方」および「解釈に必要な最低限の知識は何か」を学びます。正しく予測できていれば、理由付け、解釈まで含めて正しく理解できているかを再確認することで洞察力を深めるよう努めます。

また、現象が複雑で事前に予測が困難な例題も提示されますが、その場合には、まずはFEMを用いて解いてみて、結果を絵で表します(すなわち「可視化」します)。そして、その絵(変形図やコンター図など)と数式化した力学モデルと現象との対応付けを行い、それぞれの力学挙動を特徴付けているメカニズムを分析して現象を解釈します。すなわち、数値実験により現象を可視化し、内包されている力学原理を抽出することで、現象理解のために必要な知識を「見える化」するのです。

繰り返しますが、これらの事前予測、事後予測に必要な知識は、あくまでも材料力学と構造力学に関する基礎事項のみです。複雑な現象であっても、強度設計に係る力学問題についてはそれらの基礎知識を組み合わせるだけで、ある程度の理屈付けができるものなのです。

3.各パートの学習目標

ここでは、冒頭に挙げたパートの幾つかについて、具体的な例題を示しながら、その趣旨と学習目標を述べます。

(1) パート1:はり/フレーム構造

図1:はり/フレーム構造の例題(パート1)

図1を見て下さい。フレーム構造の左側にその曲げモーメント図が示されています。曲げモーメントとは、部材を曲げる力の強さの尺度ですから、大きいほど大きく曲がり、その正負は曲がる方向を表します。同図中に「どんな曲がり方をするか描いてみよう」という問いかけがありますが、これは左側の曲げモーメントが作用するためにはどのような境界条件でどのような荷重が作用しているのか予測してみようことです。

ある意味、小学生にでも予測できる問題ですが、実際にやってみると、構造力学的に妥当な解釈を与えながら正しい解を描くのはそれほど簡単ではないことがわかります。講座の中では、右側の図に境界支持と荷重、変形図を書き入れた上で、FEMで解いてみます。そして、自分の予測した結果を採点し、講師の解説を踏まて、自分なりに「何故そうなるのか」の理由付けを行います。


(2) パート2 & 3:応力と強度評価と強度I

図2:異方性と補強に関する例題(パート3)

パート2では、後の三つのパートの基礎知識として材料力学を復習します。主に応力/ひずみの定義と(線形)弾性体の構成式、および境界条件を理解します。特に、応力はテンソル量であることを改めて理解し、様々な強度評価の対象に照らしてそれを強度指標に変換する方法とその意味を理解します。例えば、金属のような材料の場合には、降伏応力が材料強度の一つとみなされるので、相当応力を指標としなければならないし、セラミックスのような材料の場合には主応力で評価することが有効であることなど、式と実際の計算例を通して学びます。

また、このパートでは、ある力学問題をFEMで解いて得られるコンター図を数種類用意して、それぞれがどの変数・指標を表しているのかを、理由をつけて当てるクイズを用意しています。材料力学の基礎知識を持ってさえいれば、正しく答えることができます。当てることができなくても、講師の解説から材料力学を学習し直せば良いのです。本講座での学習の仕方の典型例といえます。

パート3では、様々な力学問題をFEMで解き、パート2で復習した材料力学の知識を駆使して、その解に力学的解釈を与えます。たとえば、図2には矩形領域に相対的に剛性の大きな介在物が埋め込まれている2種類の構造に対して、上下に荷重が作用している状態の(鉛直方向)応力コンター図が示されています。そして、「何故このような分布性状になるのか」、「二つの構造ではどちらの変形が大きいだろうか、そしてそれは何故か」など、様々な問いかけがあり、それぞれに対する解答を試みます。講師による力学的な解説に照らして自分なりの解釈を確認・修正して、現象の理解に努めます。


(3) 熱と応力(パート4)

図3:熱応力の例題(パート4)

設計上、熱を考慮しなければならないケースは以外と多いはずです。このパートでは、特に異種材料を組み合わせてできた構造物の熱応力に焦点を当てて例題を設定して、対応する数値実験とその結果の解釈を行います。

図3に示されている例題は、線膨張係数の異なる二つの棒材を張り合わせたはり構造に対して温度差を与えるものです。FEMのポスト処理として、具体的に断面内応力を描画しています。変形の様子は比較的簡単に予測できますが、右側に示された断面内の応力分布が得られる理由を的確に述べることは容易ではありません。何故難しいのでしょうか?それは、温度上昇によって材料が「伸びる」という挙動と、それぞれの伸び量のミスマッチによって棒材が「曲がる」という挙動が組み合わさるからです。ということは、逆にこれらの個々の挙動を個別に理解すれば、その現れている現象はそれらの組み合わせとして理解できるはずです。このように、本講座で提示される例題を経験することで、一見難しそうな力学問題であっても、材料力学・構造力学の基礎知識だけでかなりの確度で解を予測したり、得られる解を正しく解釈したりできることがわかります。このようなアプローチは、実際の設計・解析業務にも適用できるはずです。


(4) 強度II(パート5)

図4:強度IIの例題(降伏強度とFEM解)(パート5)

「強度」と一言で言っても様々な視点・立場があり、各々での定義だけでなく、力学的意味も異なってきます。たとえば、座屈などによる構造物の崩壊で問題になるのは、「材料強度」ではなく「構造強度」です。もちろん、両者は無関係ではありませんが、ここの強度の意味を正しく理解していれば、何が支配的なのかは自ずと見えてきます。ここでは、関連した例題と理論を学んで、「強度」に関する理解を深めます。

また、非線形材料挙動の典型である塑性挙動についても、図のような例題に対する数値実験を繰り返すことで現象の理解を深めます。「降伏強度」とは何か、どのような力学的特徴を有するのか、そのFEMによる評価値・可視化結果はどの程度妥当でどのように理解すべきか、などといった簡単な設問に対する答えと解釈をセットで理解し、背景にある必要な力学理論を学びます。


 

5.おわりに

強度設計において正しくCAEを適用していくには、必要な力学的知識が何であるか、何を学習すべきかを認識することが肝要です。本稿で紹介したCAEユニバーシティにおける「CAE強度設計のための力学講座」はその一助となるはずです。勿論、この講座だけでCAE強度設計に必要な力学理論を網羅することはできませんが、少なくとも「力学を理解する上での事前予測の重要性」と「解析結果の分析に際しての(簡単な)力学理的知識の利用価値」を具体的な例題と通して体感できます。私は、その経験こそが力学の理解の近道であると信じています。

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