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特集:乗り物の近未来

近未来の鉄道その様々な可能性

東京大学生産技術研究所 教授/千葉実験所長・先進モビリティ研究センター長
須田 義大

1. ついに実現する超電導リニアの営業運転

図1 超電導リニア

今、鉄道の世界でもっとも夢のある話と言えば、やはり超電導リニア(図1)になるでしょうか。鉄道は他の交通機関よりも時間的スパンが長く、この超電導リニアも、新幹線開業の1年前の昭和37年からずっと研究されてきました。その際の構想が東京-大阪約1時間。時速約500キロメートルの鉄道というもの。しかし、技術的ハードルは高かった。これは特定技術の問題と言うよりもっと総合的な技術力、非常に高速かつ新しい原理で走る鉄道の信頼性をどう確保するかという問題だったと思います。

超電導リニア車両は高速走行時は軌道と非接触で走ります。軌道との摩擦力を考えれば、従来、時速200〜300キロメートルで速度限界がくると思われていた。そこで、摩擦力から解放される超電導リニアが、「新幹線の次」として採用されたのです。ところが、現在は、軌道との接触走行でも時速600キロメートルくらいは出せるところまで来ています。世界を見ても、超電導リニアは日本独自の方式で、磁気浮上鉄道そのものの開発を進めているのは、今は日本だけです。フランス、アメリカが止め、イギリス、ドイツも止めました。ただ、ドイツの技術は、現在、中国の超高速鉄道で浦東国際空港と上海郊外を結んでいる上海トランスラピッドで使われています。

超電導リニアの原理は、超電導現象を用いて強力な磁石を作り磁力で浮上させるというものです。ドイツの場合は通常の電磁石だったのですが、それですと1センチくらいしか浮きません。超電導リニアは10センチほど浮上します。これは、日本が地震国ということもあり、地震の際などに揺れる軌道に接触させたくないという発想からでした。そして、その高さまで浮かせるために常電導ではなく超電導磁石が採用された。磁気浮上方式鉄道の開発例はあり、イギリスでは実用例もありますが、いずれも常電導磁石を採用しており、超電導電磁石を使っているのは世界でも超電導リニアだけです。誘導方式は地上にコイルを設置し、走行によりこのコイルに電磁誘導現象で磁石が励起され反発力が出て浮力が発生します。ただ、浮上するための磁力を発生させるには高速走行し続けることが必要です。車輪は高速時には不要ですが、加減速や停止のときには使用されます。高速走行に伴い軌道壁面も磁石になり、車両も磁石。この中に人を乗せるには磁気シールドも必要で、超電導リニアがいかに多くの高度技術の総合でできているかが、よくわかります。


2. 在来の高速鉄道の可能性

通常の鉄輪を用いる鉄道で世界的にもっとも発展が期待されるのは高速鉄道です。日本でも新幹線が延伸します。北陸新幹線が2014年度中に金沢まで、2015年度中には北海道新幹線が函館まで開業します。その後、それぞれ敦賀と札幌までの延伸や、九州新幹線の長崎ルートの開業も予定されています。しかし、新幹線の開業は、地域の交通や経済をドラスチックに変えてしまうという側面もあります。たとえば、熊本にとって新幹線開通は本当にメリットなのか? 今、多くの鉄道関係者や都市問題研究者が注目しています。熊本−博多間が新幹線により約30分で結ばれ、比較的独立した経済圏だった熊本が福岡の経済圏に飲み込まれる可能性が出てきたからです。熊本が福岡までの通過駅になってしまう、支社・支店機能がこぞって福岡に移ってしまうといったことも考えられないわけではない。また、新幹線には、新幹線路線から見放された駅はどうなるのか? という古くて新しい問題もあります。専門家として私は、総じて新幹線のプラス面を見るようにしていますが、高速鉄道の整備にはこうした面もあるということを忘れてはならないと思っています。

新幹線は今、時速300キロメートル超くらいで走っていますが、時速350キロメートルくらいはすぐにも出せます。ただ、日本の厳しい騒音基準がネックになっている。住宅密集地を走ることもあるのでいろいろと規制も多いのです。中国は時速380キロメートルでの営業運転を目指していましたが、事故が起こり現在は少し減速しています。つまり、在来方式の鉄道でも、今や時速400キロメートルまでは出せ、チャンピオンデータは時速574.8キロメートルです。これはフランスTGVの記録なのですが、超電導リニアの記録とほとんど変わりません。ただ、特殊車両を使って、記録を出すための実験として行った結果ですので、本当のチャンピオンデータです。日常的に時速400キロメートル台の速度で走れると、東京−大阪間は2時間くらいになります。

3. 超急カーブを曲がれる電車

図2 独立回転車輪

しかし、私は、実は鉄道のスピードアップのみならず、ずっと研究してきたのは曲線をうまく走らせることです。直線走行においては、車両や軌道の精度をきちんと管理し、パワーとコストをかければ良いという方針が明らかですが、鉄道は本質的にカーブを曲がるのが苦手で、自動車とは回転半径が1ケタ2ケタ違うのです。そこを何とかしたいとずっと考えてきた。たとえば、有名な日比谷線の脱線事故は半径160メートルのカーブで起こりました。鉄道の世界では、半径160メートルが「急カーブ」なのです。もし、半径10メートルで曲がれれば鉄道の世界は大きく変わる。そんな鉄道を作りたいというのが永年の研究テーマでした。しかし、これは原理的に不可能と言われていました。ところが、発想を大きく転換すれば可能であることを私は示すことができました。独立回転車輪を使って従来とは全く異なる解決法を見出したのです。左右の車輪を車軸で剛結合した通常の輪軸を用いた曲線旋回のメカニズムだと、曲線半径は一般的に100メートル程度が限界ですが、独立回転にして車輪の勾配を逆向きに付ける。そうすると半径10メートルくらいでカーブを曲がれる可能性が出てきました(図2)。


東京大学生産技術研究所の千葉実験所で、今、その車輪を付けたスケール模型の車両を走らせています。実スケール車両での実験はこれからですが、「小回りの利く電車」というのは、鉄道の常識を大きく覆す話で、鉄道の歴史を変えるといってもいいくらいです。従来の鉄車輪・鉄レール方式でカーブを小さく曲がれると、たとえば、バスレーンにそのまま路面電車を走らせるといったことが夢で無くなります。路面電車の最大の制約は路面スペースですから、狭いスペースで走れるということになれば、その可能性は格段に広がるでしょう。

4. 手軽で便利な「エコライド」

図3 エコライド

「エコライド」は10人乗りくらいのキャビンで、パイプ状の2本のレール上をウレタン車輪で位置エネルギーと重力を利用して走る省エネ・低コストの乗り物です(図3)。動力が不要なので車両は軽くていい。すると軌道も華奢に作れるので建設コストがそれほどかかりません。高架式の乗り物でも地上に作るライトレールと同じくらいの価格でできます。「短距離だけど移動が不便」というところに、こうした乗り物を走らせたら便利です。短距離輸送の問題はほとんどコストなので、コストさえ安ければ実現可能性が高まります。しかも、基本原理はジェットコースターとほぼ同じですので、すでにある程度の安全性と信頼性が担保されており利用者も安心できるでしょう。東北の復興地などで使えないかと考えているところです。高台から海辺までの通勤手段などには最適です。

今後、高齢化する都市や過疎地の交通手段をどう確保するかというのは大きな問題です。高速交通網の整備と同時に補完的な交通手段が必要で、自動車も含めて、人々の移動手段を確保できる交通手段をトータルに考えていくことが必要だと思います。交通とは移動の手段なのですから、システムとしての全体が、スムーズな移動という目的のためにより良く機能すれば一番良いわけです。


5. 電車の安全性を高める乗降位置可変型ホームドア

図4 乗降位置可変型ホームドア

最後に、一番最近の話題として、私たちが開発した乗降位置可変型ホームドアをご紹介します。これは、転落防止のためのホームドアとその戸袋が同調して動くよう制御をかけ、戸袋ごとドアが移動するようにした装置です。2001年の新大久保駅での転落事故をきっかけにホームに、転落事故防止のための遮蔽ドアを設けようという機運が高まったのですが、かなりのコストがかかるため、このホームドアを設けた路線が多くなってきたのはここ3年くらいです(東京の地下鉄では、すでに7路線はホームドア付き)。現在、新線開業や駅の大規模改良時にはホームドアの設置が義務付けられており、利用客が1日10万人超の駅には設置するというガイドラインも示されていますが、車両長さや、ドアの数や位置が異なる電車が同じホームに発着する場合は、戸袋が固定された既存のホームドアの設置はできないという状況でした。さらに、電車をドア位置といった定点に停止させることは、実はとても難しいのです。コンピュータ制御による自動停止装置が採用され始めていますが非常に高価であるため、人力で定点停止させている線も多いのが現状です。このような状況に対し、私たちの開発した移動式ホームドアは、ホームドアの方が移動して止まった車両のドア位置まで来てくれるわけですから、電車はどこに止まっても大丈夫。いろいろな停止位置にも自由自在に対応でき大変便利です。

交通システムにおいては標準化の視点も重要ですが利用者の利便性と快適性の方が大事なはずで、ホームドアに合わせて車両を設計したり停止したりしろというのは、本来、本末転倒なのです。この移動式ホームドアは、来年度から実証実験と評価を行い、その後実用化される予定です。今、電車はホームでの人身事故があると1時間は止まるので、大きな社会的ロスを招いていました。この移動式ホームドアにより、近い将来には、安全性の向上とともに、朝の通勤でのイライラが少し無くなることと思います。


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