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特集:企業の“イノベーション”と人材育成

神奈川工科大学 大学院での創造性開発授業

ソニー株式会社 半導体事業本部 品質信頼性部門 品質企画部 業務改革課
チーフコンサルタント 池田 昭彦
神奈川工科大学 創造工学部 自動車システム開発工学科 機械システム制御 教授 石濱 正男

なぜこの授業を始めたのか

成長著しい韓国やBRICs.こうした国々との国際競争の中で日本が生き残っていく道は、創造的な問題解決力による産業の発展にあります。しかし、 従来の工学教育では既存のシステムの作用や特性を解析する理論と方法は教えても、新しい解決策を考え出す方法は扱ってきませんでした。必要性は感じつつも教育の方法がわかっていなかったからでしょう。しかし、20世紀末から今世紀に入り、創造的問題解決を支援する「TRIZ1)」が各方面で改良され、 産業界で実用に供されるようになりました。そこで、日本の将来を担う創造力豊かな若者を育てるために、「創造的問題解決法特論」という授業を2年前に始めました。

授業の概要

表1 授業の概要

講師はソニーで商品設計エンジニアを経て現在同社内で講師とコンサルタントをしている池田昭彦と、創造設計教育を10年以上教えている石濱正男です。 「創造性」と言うと芸術方面のことまでを含めて考える方もいますが、この授業はエンジニアリングに近い部分に焦点を当てています。科目の概要は表1のとおりで、比較的少人数の大学院生を対象とした演習を中心に、隔週ごとに午前中3時間みっちり実施しています。教科書は株式会社創造開発イニシアチブ発行の『TRIZ実践と効用』別冊付録の『新版 矛盾マトリックス』を配布する他、池田講師が開発したワークシートを毎回配布しています。


教室の雰囲気

表1 授業の様子

図2 脳力で問題解決

教室は大きなホワイトボードやスクリーンのあるデザインスタジオで、自由に並べ変えられる机を4?6人で囲み、個人学習やチームディスカッションを組み合わせています。

頭を柔らかく使うために、講師は学生時代の車いじりの経験を話したり、夕方に懇親会を開いたりして打ち解けた雰囲気になるようにして授業を進めます。学生諸君には人生は問題解決の繰り返しであることを身近な例で理解してもらい、「脳力」すなわち創造的問題解決力が繰り返し必要になるとの切迫感を持ってもらいます。


脳力向上への三つのポイント

図3 授業の三つのポイント

図3に示した三つのポイントを授業内容の柱としています。

第一のポイント「気づき」とは、「あっ!そうだったのか!」と思わず手を叩いてしまうような体験のことです。「目からうろこが落ちた」経験は、読者の皆さんもお持ちでしょう。


図4 繰り返しトレーニング

第二のポイント「知る→理解する→できる」は、知の三段階を繰り返しトレーニングすることです。


図5 絞込みのためのトレーニング

そして、第三のポイントは問題の内容をTRIZの手法を用いて体系的かつシンプルに絞り込むプロセスです。


授業を進める上での工夫

この授業に参加した学生諸君が、より多くのものを深く吸収してくれるように、次のような配慮をしています。

  • 解答案の指示; 課題に対するチームごとの解答案を前に貼り出し、解説とQ&Aをしてもらいます。これによって論理的な分析力や他人の考えの取り入れ能力を磨いてもらいます。
  • チームの組み換え; チーム内の人間関係が固定したものにならないように、出身地方別や血液型別など、ときどき組み換えて刺激を与えています。
  • 授業の振り返りカード; わかりにくかったところを毎回記入してもらい、次の授業での解説や演習に活かしています。
  • 宿題; 簡単な復習を課しています。簡単なものですが、これをこなすことで前回の終了時点からジャンプスタートができています。
  • 随時のクイズ; 穴埋め問題などを行っています。よくできた学生には挙手をしてもらい、適度の達成感や競争心を持ってもらっています。

受講者の声

受講者から寄せられた主な意見は、次のとおりです。

  • 創造力が無いと何も作れないので、創造的問題解決力を身につける必要がある。
  • 創造的問題解決力はチームプロジェクトに役立つ。
  • このような授業は小・中・高校生にも必要だと思う。

ほとんどの受講者は日常的問題解決からものづくりまで、創造的問題解決力の必要性を切実に感じ、獲得したいという思いを強くしていました。また大学院生という若い世代が小・中・高校のさらに若い年代からの継続的な創造性教育の必要性を指摘するという、「気づき」もありました。

考察、課題、提言

図6 創造性の陶冶

図7 創造性教育の体系

人は皆創造性の種を持っており発芽させ伸ばすことができますが、それには適切な時期に適量の水を与えることが重要です。発芽した創造の芽は他の芽と絡み合うことでさらに伸びていきます。

そのためには体系的で気づきのある創造性教育を、 幼・小・中・高・大・社会人と段階的に実施する教育体系を構築し推進することが大切です。

我々のアイデアの芽もぜひ一緒に絡み合わせて創造性教育を推進していきましょう。


注1) TRIZとは、ロシア語の「発明的問題解決理論」の頭文字を並べたもの。旧ソ連海軍のゲンリッヒ・アルトシュラーとその同僚たちが、20数年間にわたり250万件の特許調査結果を分析して帰納的に導き出した体系的で構造化された思考方法についての理論である。TRIZを使って問題を解決するプロセスは次の3段階である。1)自分が解くべき個別の問題を一般的な問題として再定義する。 2)一般的な問題に対する標準解をTRIZ体系の持ついくつかの手法により容易に導く。 3)標準解から個別問題の解を考え出す。20世紀末からは各国で改良が加えられ、多くの先進企業での研究開発プロセスに組み込まれている。
(日本TRIZ協会ホームページ参照 http://www.triz-japan.org)。

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