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「見える化」技術

組織・個人の知の構造を「見える化」し、社会と繋ぐ

東京大学大学院 工学系研究科
准教授
国際工学教育推進機構
国際工学教育プロジェクト部門
部門長
美馬 秀樹


図1 MIMAサーチ キャプチャ画面の一部

今回のこのコーナーは、正に特集テーマに“どんぴしゃり”の「見える化」技術です。開発なさったのは、東京大学の美馬秀樹准教授です。先生が開発された「MIMAサーチ」をご紹介します。

「MIMAサーチ」は、シラバス間の関係を構造的に「見える化」するシステムです。特許や論文の解析にも使われてきましたが、現在、東京大学の工学部で行われている約900の講義の相互関連性がMIMAサーチにより視覚的にすぐわかるようになっており、履修支援ツールとして広く利用されています。

MIMAサーチには“シラバス構造化システム”というサブ名称を付しているのですが、もともとはシラバスに含まれているテキスト情報を自動解析し、その解析結果を点と線のネットワークとして表す可視化手法です。講義の関係性解析に使うときには、まず講義内容を説明した500文字程度のシラバスに対し、その中に出てくるキーワード、そのキーワードの周辺に出てくるワード、それらの言葉の出現頻度などを自然言語処理で解析し、他の講義との類縁性・関係性を点と線で現していきます。そうすると、Aという講義とB、Cという講義の関連性が一目でわかる図ができ、履修科目を選択する際に自分に必要な講義をより簡単に選ぶことができます。

具体的には、自分が興味のある「エネルギー」といった検索ワードを入力します。そうすると、東大工学部で行われているエネルギーに関わりのある講義が全て表示され、また、講義相互の関連性の深浅も図式化されて見えますので、この図を元に、自分がどんなことを学びたいのかという興味の方向を重視して講義を選んでいけるわけです。2006年から工学部で使われていますが、教官にとっても便利で、他学科でどんな講義が行われているかもわかりますし、そうすると学科の違いにこだわらず講義を共通化しようかという発想も生まれます。履修の重複を防ぐこともできます。全学的にもより効率的なカリキュラム編成が可能になるわけですね。 現在、東京大学のHPを通じ一般にも公開されており、最近では高校生なども見てくれているようで、何を学ぶかという目的意識を持って本学を目指してくれる方々にとっても便利なツールになっているのかな、と大変喜ばしく思っています。


工学部だけで900もの講義があるとなると、今までこういう試みが無かったことの方が不思議に思えるほどです。

特にここ最近ですが、専門領域がますます細分化されて、従来、人材の理想イメージとされてきた、いわゆる「T型人材」でもまだ足りなくなってきていると思うのです。今は、専門領域の理解を示す「T型」の縦棒がもっと深いところまで届き、知識の幅広さを示す横棒ももっと長いくさび型(?)人材とも呼べるような、そういう人材が必要とされ始めていると感じます。私の専門である情報分野でも、情報のことだけをどんなによく知っていてももうダメで、情報と経済、情報とバイオというふうに最低でも一つは、他分野の深い知識が要求されるようになっています。そうでないと現実問題として、就職先が無いという状況です。そういうわけで、知識を学際的に、あるいは分野横断的に使えるものにする、また、そのように知識を駆使できる人材を育てるというのが、今後の教育現場における一つの課題になると思います。MIMAサーチは、そうした目的のために役立つツールだと考えています。

MIMAサーチは知識獲得の効率化のために発想されたのですか。

知識獲得の効率化ということも確かにMIMAサーチの目的の一つではありますが、それだけではありません。知識を素早く得るには、ノウ・ハウやノウ・フーも重要になります。

今の社会では、これまでのように、万人に共通の視点で知識を探索させることは効果が薄れてきています。それをやっていると、あらゆる分野で、問題解決等に必要とされる知識の量が増えていますので、知識の習得が追いつかないのが現状です。そこで、個々の目的志向性、課題志向性ということをもっと重要視すべきではないかと考えています。たとえば「ものづくり」という課題があるとします。今、「ものづくり」について考えるときには、材料/加工/エネルギー/環境といった極めて多数の分野を横断し、またその各分野におけるかなりの深さの知識が必要になっている。つまり、ひとつの学問体系を重視する従来の高等教育のカリキュラム編成では、現代の問題にはうまくアプローチできないことが多くなっているのです。そこで、課題を解決するために、どんな知識が必要かという観点からの機能的なアプローチが必要となるわけで、それを可視化しているのがMIMAサーチと言えます。全体的な知識体系の個々の部分がある課題に対してどう作用しているのか、それが可視化できるということです。既存の体系とはまた別の視点から知識の構造を見直してみることができる。そうすると、課題解決に向けて何の知識が今欠けているのか、ということもわかりやすい。それは、取りも直さず、知識をより実用のものとすること、机上でではなく実際の場で知識を活用することに繋がるはずです。課題を解くという方向性から知識の構造を見ていく。それは、社会や企業が、今、現に知識の世界に求めていることと言えるのではないでしょうか。

人材の育成や個人の能力開発の場面で、MIMAサーチの利点というものはありますか?

個人の獲得知識の可視化ができますので人材育成にも役立ちますよ。自分の取った講義の関連性を見ていけば、どんな種類の講義や知識が足りないのかということも理解しやすいですよね。このA講義を取るならB講義も一緒に取っておいた方が理解が進むかな、とかそういったことですね。eコマース・サイトでのリコメンデーションのように、次に取ればいい講義のリストアップ機能まで持たせてしまうと、学生の自主性を伸ばすという観点からはやや問題があり、一概に良いとは言えません。しかし、知識の底上げのための何らかの指針を求めているような学生には、キミはこの方面の知識がまだ足りないから、この講義を取ったらどうかといったコンサルテーション的な使い方はできると思いますね。「学生のカルテ」みたいなものをイメージしてくださっても結構です。それをMIMAサーチと連動して使っていく。自分の獲得知識を可視化してそれを見れば、何をいつ補完していけば良いかもわかりやすくなります。

他大学の講義の関連性も可視化できるのですか?

図2 大学プログラムの可視化

図3 履修シミュレーション

できます。現に今、OCW(オープン・コース・ウェア=外部公開講義)やNNs(ネットワーク・オブ・ネットワークス)プロジェクトの試みがあって、たとえばOCWでは東大の公開講義とマサチューセッツ工科大学(MIT)の約2000の公開講義との関連性が見られます。これは、東大がMITのサイトから情報取得の許可を得てMIMAサーチで可視化したものですが、NNsプロジェクトではWebを介した講義情報入力のシステムが完成し、世界中の大学から講義を登録してもらう仕組みが稼働しつつありますので、これからどんどん拡大していけると思います。将来的には、世界中の全ての大学にわたって講義の相互関連性を見ることのできるサーチシステムができれば便利でしょう。留学する際に単位互換性のある外国の大学や興味分野で先進的な講義を多数設置している大学を調べたいといったときに非常に役立ちますし、世界の研究現場での自分の位置みたいなものも一目瞭然です。世界の大学ランキングといったものはもうありますが、学問領域で重要なのはランキングよりも相互関連性なんです。ある研究領域では、現在どこの地域、あるいは国が中心なのか、どの大学が先端を走っているのか、注力しているのかといったことが、すぐイメージとして見えるようになれば、これは非常に役に立つと思います。


大学や個人に集積された知識を社会へと繋げますね。

そうです。MIMAサーチにおいては、講義や特許の相互関連性といった客観的な知識構造の見える化ということも重要ですが、前述した「学生カルテ」のような、個人の知識の「見える化」に使うという方向性もかなり面白いものがあります。たとえば、個人の獲得知識とその後の進路みたいなものも可視化できるわけです。個人情報との関わりでどこまで個人の持っている知識を集積・組織化できるのかという問題はありますが、大学には講義履修の記録や履修状況、さらには就職先企業への繋がりの記録などがありますので、それを体系化すると、どこそこの企業に就職した人は、どのような知識を持っているかということがわかりますね。そうすると、この企業に就職するためには、どんな知識を在学中に獲得しておけばいいのかといったキャリアパスが非常にわかりやすくなる。また、落とした講義の関連性がMIMAサーチで可視化されれば、自分の苦手分野や知識不足の分野なども、改めて認識できます。そうすると、自分はこうなりたいといった将来の完成イメージに向かって、今の自分はどの位置にいるのかということも見えるわけです。自分の能力を社会との関連性の中でどう把握し、伸ばしていくかということを考えるときに、非常に使えるシステムになりうると思います。

これは、教育のパーソナリゼーションやe-learningという今の教育に求められていることにも深く関連しています。マンモス教育機関になりがちな現代の大学で、よりその人に合った教育を提供する、また、生涯にわたる学びを支援する、個人の能力を個性に合った形で、かつ、長期にわたって高めるシステムとして利用できるわけです。

自分の社会での立ち位置がわかるような、また、自分の理想と現在の達成度がわかるような、そんな見取り図があると便利ですよね。効率的に人の持っている知識を吸収しつつ、自分の獲得知識をも広く社会に向けて開放し、多くの人に利用してもらう。そのためのより良い見取り図やチャートになるシステムをこれからも考え開発していきたいと思っています。

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