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特集:これからの産業社会と数学

折紙工学の数理と産業への応用

東京工業大学大学院 理工学研究科 機械物理工学専攻 教授 萩原 一郎

1.緒言

紙を折るのは古今東西万人の行為であり日本独自のもので はありません。その中で、我が国には優れた折り紙作家が輩出 し、今ではORIGAMIはそのまま英語になり日本伝統文芸と して世界から崇拝されています。たとえば、第2次世界大戦直 後、英国のエンジニアが日本の七夕飾りをヒントに開発した ハニカムコアというものがあります。このハニカムコアは、糊 付けして製作されるため熱に弱く、その形状から曲面化が困 難、せん断力に弱いという欠点を有すものの、面外方向の重量 当たりの反力が最も大きいため多方面で使用され、今や数兆 円の産業となっています。折り紙の産業応用は今のところハ ニカムコアのみで、しかもそれが英国のエンジニアによって 開発されたという事実を、我が国の工学研究者は真摯に受け 止めなければならないでしょう。これは、我が国では折り紙 や切り紙を伝統的に遊びとして捉え、学術的観点から折り紙 の本質を解明する努力を怠ってきたためと考えられます。我 が国の先端技術の一つであるロボット工学は、江戸期のから くり技術がその基になると言われています。伝統技術は一見、 ローテクのように見えますが、これに学術的な手と工学的な 努力が加わることで先端技術に変貌する場合が多い。このよ うな観点から、折り紙/切り紙技術は先端技術に脱皮させ得 る、あるいは脱皮させねばならない残された伝統技術の一つ ではないかと考えます。このような序文で野島博士は、2002 年11月に「折紙工学」を提唱しました(1)。私はこれに深い感 動を覚え2003年4月に日本応用数理学会に「折紙工学研究部 会」を設けました。

08年度に設けられた科学技術振興機構(JST)の日本の 科学技術の紹介のコーナーサイトhttp://sciencelinks.jp/ content/view/656/260/(英語)に折紙工学は次のように 説明されています。「日本の伝統的な手工芸である折り紙の 技術を科学的に研究して工学に応用しようとする学問。京都 大学の野島武敏博士が提唱。東京工業大学の萩原一郎教授が 2003年に折紙工学に関する研究部会を日本応用数理学会に 立ち上げ研究が進められている。簡単に潰せるペットボトル や車体や家具など軽くて強い構造開発に結びついている。今 後、折紙工学は、衝突強度、遮熱、吸音・遮音、幾何学模様デ ザインなどに応用され、infl atableな宇宙構造物、ビルや鉄道 車両のフロア構造、ヒートアイランド対策としてビルの遮熱 壁、騒音対策として防音壁などへの利用が検討されている。」

本報では、野島博士らによって創成された新しい折り紙の 一部を紹介し、折紙工学に必用な計算力学的側面に関する要 件を記した後、二つの産業応用例について述べます。

2.産業応用を秘めた新しい折り紙の形状創成と 折紙工学の要件

2. 1 産業応用を秘めた新しい折り紙の形状創成

近年注目されているバイオミメテックスの観点から折り紙 構造が考えられています(2)。折り紙または切り紙で造られる構造は大きく分けて2つの大きな特性を有します。それらは (1)折りたたみ/展開機能と(2)薄膜を高強度の構造にする強 化機能です。前者は主に螺旋形で変化・変形の容易な構造、後 者は対称形で安定化をもたらす構造になる場合が多いです。 自然界においては多くの螺旋構造や模様が現れます。その2、 3の例を図1(a)〜(c)に示します。特に、植物においてはそ の模様にフィボナッチの等角螺旋群[フィボナッチの数列、1、 1、2、3、5、8、13、21、34、55、…(各数は前2数の和) で与えられる2個の数(例えば21と34)からなる螺旋群]が 明瞭に現れます。この数列は細胞の分化と関連し、進化とも関 連すると信じられています。連続する2数の比が無限大の時、 黄金比1.618になることから、この螺旋は黄金螺旋とも呼ば れます。図1(b)のサボテンの側面を円筒と見立て、螺旋模様 を折り紙の折れ線(後述、展開図参照)と見ますと、この螺旋 は上方に逃げ得る自由度を持ちます。これが螺旋構造の展開 能をもたらしています。一方、図1(d)、(e)に示される構造 は対称で、安定な構造になることが多いです。図1(f)は円錐 殻を軸圧縮し塑性座屈させた後、引き伸ばしたものです。円周 方向に谷折線が閉じるように走る対称構造になるため、この ような構造は折りたたみ/展開が困難になります。図1(g)に (f)の折紙モデルを示します(2)。このように植物の観察から多 くの展開・収縮能を有す折り紙構造が作られます。

2. 2 折紙工学の要件

図1 螺旋型;(a)ひまわりの小花が描く螺旋 (中心から、時計回 り34、半時計回り21本の螺旋)、 (b)サボテンの小花の螺 旋の側面、 (c)生きた化石、オウム貝の切断面(自然界にお ける最も美しい螺旋と言われる(等角螺旋))、 対称型;(d) カーボンC60(32面体、隅切り20面体)、 (e)籠型C-ナノ チューブ(螺旋型と言う人もいる)、 (f)銅製円錐殻を軸圧縮 による塑性座屈後、引伸ばし、 (g);(f)の折紙モデル

折紙工学は、(1)バイオ・折り紙的側面、(2)感性的側面、 CAD&CG的側面、(3)計算力学的側面、(4)製造加工的側面、の4 つの側面から成ります。すなわち、第(1)グループで、様々な形 を創成します。第(2)グループで第(1)グループで得られた形を具 体的にCAD化し、CGで美的な観点から、時に形状そのもの にフィードバックします。折り紙のIT化は折り紙創発者の想 像力をさらに促進します。このようにして得られた形を基に計算力学で機能の適切化を行います。ここでは、CADグルー プや製造加工法グループとも密接な連携を持って進められる 必要があります。機能と製造加工とは両立が容易でないから です。


3.トラスコアパネルの車体パネルへの適用

3. 1 新しい軽量コアが望まれる理由

省資源の時代に当たり、軽量化は自動車業界をはじめとす る産業界のあらゆる分野で最重要課題であり、サンドイッチ パネル等軽量高剛性パネルに対する需要は拡大の一途にあり ます。航空機用途を中心に開発されたハニカムコア・サンド イッチパネルも近年さまざまな分野で利用されるようになっ てきており、飛翔体以外への利用も増加しています。しかしな がら、ハニカムコア・サンドイッチパネルは依然として高価 で、レーシングカーや新幹線など一部の高速鉄道、建築物では 高層ビル等、あくまでも利用範囲が限られているのが現状で す。コスト等の観点から考えた場合、今後も増加すると予測さ れる全ての軽量化ニーズに、既存のコア材のみで対処するこ とは難しいでしょう。

3. 2 トラスコアパネル

図2 トラスコアの切隅および面離による発展モデルの例

そこで、古典的幾何学で知られる平面/空間充填問題に着目 し、さらに平面から立体を創出する折り紙の手法を応用するな ど、新しい形状のコアパネルを創成する研究を行いました(3)。 この研究の過程におきまして、四面体形状の凹部を設けた平 板を2枚対向させることでオクテット・トラス形の安定構造 を製作する方法を考案し、トラスコアと名付けた新型の軽量 高剛性パネルの創成を得ました。はじめに製作した基本モデ ルの構造は四面体と八面体から成っており、鋭角を有するた め塑性加工において破れが生じやすいこと、接着面積がほと んど無いことなど、実用上の問題が提示されました。この問題 を解決し、さらに新しいコア形状を多数創成するため、図2に 示すようにコアパネルの形状に平面充填形の変換理論を応用 し、等辺の正則パターンから不等辺多角形を含む非正則パター ンへと連続的に変換することで、多数の発展モデルをデザイ ンする方法を開発しました(4)


3.3 多段階成形法の開発

金属の場合、トラスコアパネルの複雑な四面体形状を安価 な単純プレスにより成形すると材料の成形限界を超える板厚 減少が生じ、割れが発生することが試作段階で明らかとなり ました。この問題に対し、著者らはまず独自のプレス成形シ ミュレーション技術の開発を行い、計算力学を援用し解決を 試みました(5)。まず、予備成形において材料の張出しがほぼ 一様となるように半円形状に成形し、その後、四面体形状に 成形する多段階加工法を検討しました。この場合、予備成形 に用いる半円形金型の寸法が問題となります。そこで、実際 の金型製作とそれを用いたパネル試作に先立ち、非線形陽解 法FEMによる成形シミュレーションを実施し、金型形状お よびクッション圧等の成形条件の検討を行いました。その結 果、最適な予備成形金型形状および加工時の条件設定が得ら れ、これを試作に適用することで試作工数を大きく低減する ことができました。

3. 4 トラスコアの機能

図3 トラスコアパネルによる車体 パネルの試作

詳細は省略しますが、トラスコアパネルの基本モデルとして、 2枚のパネル片を貼り合わせたモデルをダブルトラスコアパネ ル、片側の一枚を平板にした変形タイプで曲面化および接合 が容易なシングルトラスコアパネルの二つの基本モデルを開発 しています。プレス成形によってパネル片は厚さが変化するとと もに、加工効果の影響を受けます。これらがパネルの曲げ圧潰 強度に与える影響を、数値シミュレーションで調べました。加 工硬化と板厚変化をともに考慮したケースでは、両者を考慮し ないケースに比べ、約1.6倍の強度になり、実験結果に合致す るようになりました(6)。本解析は、薄板から成形されたコアパネ ルの強度評価を行う場合は、加工硬化の影響を考慮する必要が あることを示唆しています。また振動特性ですが、等重量で基 本固有振動数はシングルトラ スコアで平板の5 〜 6倍、ダ ブルトラスコアで10 倍程度 となっています(7)。なお、以 上のことも含め、トラスコア パネルは、ハニカムコアに総 合的に優ることが示されまし た(8)。トラスコアを車体に適 用した例を図3に示します。


4.反転螺旋型折り紙構造の車体強度メンバーへの適用

自動車の前面衝突時、客室部分の変形を最小限に抑えるに は、前部構造で衝突のエネルギーを極力吸収しなければなり ませんが、前部構造にはエンジンやサスペンションがあり、そ れらは硬く変形量は小さいため、衝突エネルギーは車体で吸 収させる必要があります。そのために、車軸方向に走る左右の サイドメンバーが衝撃吸収体として大きく機能します。車体 設計で困難かつ重要なことは、衝突時のサイドメンバーの変 形を先端からできるだけ長くアコーディオン状にきれいに折 り畳まれるように潰しつつ、自らの嵩張りでそれ以上変形が 進まない、いわゆる底づきの発生が遅くなるように、変形を制 御することです。しかし、理想的な変形モードであっても衝 突時にサイドメンバーに底付きが生じ、変形率は70 %程度で す。そこで本研究では折紙を利用し、サイドメンバーを折り畳 み可能な構造とすることを考えます。

4. 1 折紙工学に基づく折り畳み可能な円筒のモデル化

図4のような帯板をN回折る場合、折り線((1), (2)…)とX軸との成す角をθ1,θ2…θN(0≦θi≦π/2)とすると、折れ曲がっ た後の図5に示すXi軸とX0軸との角Θiは次のように表わせ ます(9)

したがって、N回折れ曲がった後のXN軸とX0軸との成す角 ΘNは、次式を満たします(Nは偶数)。

すなわち、

を満たすように折り線の角度を決めれば、折り畳み後の平面 は閉じ筒状になります。

式(3)は、完全に折り畳んだ状態で展開図の左右両端が繋 がる条件です。しかし、所期の構造を作るには、完全に折り畳 まれた平面だけでなく立体をも構成する必要があります。以 下でその条件を求めます。

ここで平行四辺形A1A2B2B1 が横方向にmユニット(m≧ 3)並んだ展開図を考えます。このとき、折り畳み可能となる 角度αは、式(2)から

となります。図5の三角形A1A2B2 に着目すると、完全に折り 畳んだ状態では、点B2 は角度β に拘らず、辺A1A2 を正m角形 の一辺とし、それに外接する円上にあります。その円を鉛直上 向きから見ると図6のようになります。この三角形の頂点A1 , A2 を円上に固定したまま、頂点B2 を上方に起こしていくこと を考えます。このとき、この展開図が立体を構成するには、頂 点B2 が再度同じ外接円上の点B’2 に来る必要があります。つま り、両端点R1, R2を除いた弧R1R2上に頂点B2があるとき、こ の展開図は立体を作ることができ、かつ平面に折り畳むこと もできます。そのための角度βの範囲は次のようになります。

π /4-π /2m<β <π /2-π /m (5)

頂点B2 が弧R0R1 上ある場合は、折り線が維持されないた め、立体を構成できても折り畳むことはできません。

さて、螺旋角β が式(5)を満たしますと、展開収縮時コアは 反転せず、抗力は比較的小さい。これは、たとえば、ペットボ トルやビール缶に使用できる可能性があるため、あるビール 会社と実用性の検討を行っています。一方、β がこの範囲外だと展開収縮時コアは反転し、抗力は相当に大きくエネルギー 吸収材に使用できると考えました。自動車のエネルギー吸収 材である中空半割り型部材は理想的に潰れたとしても自らの 嵩張りのため、自長の7割程しか変形しませんが、この反転す る螺旋型円筒折り紙構造の場合、自長の9割以上の変形量が 得られました。しかし、荷重は現行構造より低く、期待したほ どのエネルギー吸収量は得られませんでした(10)。その後、最 適化解析を行った結果、等重量で、現行の中空半割り型部材よ り1.8倍ものエネルギー吸収量が得られる設計仕様があるこ とを見出しました(11)。そ してハイドロフォーミング に関する解析を行いそれに 則って試作も行いました。 RSC(反転螺旋形円筒折紙 構造)を車体メンバーに適用 した例を図7に示します。


図4 帯板上の折線の配置図

図5 折り畳み可能な円筒の展開図

図6 円上の三角形
A1A2Bの配置

図7 RSCの車体メンバー適用例

5 まとめ

  • (1) 折り紙または切り紙で造られる構造には大きく分けて、 (1)折りたたみ/展開機能と(2)薄膜を高強度の構造にす る強化機能という2つの特徴があります。前者は主に螺 旋形で変化・変形の容易な構造、後者は対称形で安定化 をもたらす構造になる場合が多いことを述べました。
  • (2) 平面/空間充填幾何学から編み出されたトラスコアパネ ルは総合的にハニカムコアに優ることを示しました。
  • (3) 螺旋形円筒折紙構造では螺旋角によって展開収縮時反 転する場合と反転しない場合があり、前者はエネルギー 吸収量が大きく後者の場合は吸収量が小さくそれぞれ異 なった利用法が考えられることを述べました。

折紙工学は以上のように新しい学問ですが、さらなる進展 には皆様方の参入が必要です。今後ともどうぞよろしくお願 い致します。

参考文献

(1) 野島武敏,数理折紙による構造モデル,京都大国際融合創造センター(IIC) フェアー,2002 年11.26.

(2) 野島武敏,植物に見るらせん模様の解析とその工学への応用,プラントミ メティックス〜植物に学ぶ〜,pp.106-117.,2006 年8月.

(3) T. Nojima, K. Saito, Development of Newly Designed Ultra-Light Core Structures」, JSME International Journal Series A, The Japan Society of Mechanical Engineers, 2006.1, vol.49, pp38-42.

(4) K. Saito, T. Nojima, Development of Light-Weight Rigid Core Panels」,『 Journal of Solid Mechanics and Materials Engineering, The Japan Society of Mechanical Engineers, Vol.1, No.9, 2007

(5) 戸倉直,萩原一郎,トラスコアパネルの製造シミュレーション,日本機械 学会論文集(A 編)Vol.74巻746 号,2008,pp.1379-1385.

(6) 戸倉直,萩原一郎,トラスコアパネルの衝撃エネルギー吸収性能向上の ための形状最適化,日本機械学会論文集(A 編),76 巻765 号(2010-5) pp.564-572.

(7) 田中聡,斎藤一哉,森村浩明,萩原一郎,トラスコアパネルの振動特 性に関する研究,日本機械学会論文集C編,76 巻765 号(2010-5, pp.1050-1055.

(8) 日刊工業新聞,平成22年7 月20 日“トラスコアによる太陽電池パネル 30%軽量,東工大が新技術”

(9) 野島武敏,平板と円筒の折りたたみ法の折紙によるモデル化,日本機械学 会論文集A 編,66 巻643 号(2000/4月),pp.1050 -1056.

(10) 萩原一郎,山本千尋,陶金,野島武敏,反転らせん型モデルを用いた円筒 形折り紙構造の圧潰変形特性の最適化検討,日本機械学会論文集A編70 巻689号(2004/1),pp.36-42.

(11) 趙希禄,胡亜波,萩原一郎,折紙工学を利用した円筒薄肉構造物の衝突圧 潰特性の最適設計,日本機械学会論文集A 編,76 巻761 号(2010-1), pp.10-17.性能に関する研究,日本機械学会論文集A 編,76 巻767 号 (2010-9),pp.1131-1138.

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