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特集:これからの産業社会と数学

特集に寄せて

CTO 石塚 真一


数式 =/≠自然界

「数学を利用すると手を抜くことができる」。つまり、面倒な実験や試作をしなくても未知のことが確かめられる。一見、乱暴な言い方です。が、これが事実だとしたら、皆さんもっと数学をありがたく思うのではないでしょうか。そして、「数学で手抜きができる」というのは、ある意味、事実だと思います。

物理の時間にあまりにも有名なニュートンの運動の法則「F=ma」を習ったとき、不思議でなりませんでした。力Fは質量mと加速度aの積となる。簡単な掛け算ですが、「なんでそうなるの?」と思いました。この関係を、純粋に理論的に導くのは実は容易なことではなく、ニュートンの場合は実験や観測から導いたとされていますが、何故、自然界の現象がそれとはまったく関係無いところで考え出された人工的な数学の規則に従うのか?それが不思議でならなかったのです。その後、いろいろな物理法則や工学の理論式を学ぶたび、その疑問はますます大きくなっていきました。「何故、自然界の現象を人工的な数式で表すことができるのか?」。長い間悩まされてきたこの問題も、私なりに答を見つけることができたように、最近は感じています。

思えばその答は、小学校の算数にすでにあったのだと思います。小学校低学年の算数問題、「リンゴ5個とミカン3個があります。合わせていくつでしょう?」。多くの生徒が何の疑問も無く8個と答えるでしょう。私もそうでした。でも、今、考えたらおかしな話で、リンゴとミカンがそもそも足せる訳 はありません。エッ!と思うかもしれませんが、問題を少し変えて「リンゴ5個とロケット3機があります。合わせていくつでしょう?」。こうなるとかなり違和感がありますよね。それは通常の世界でリンゴとロケットを足すことは、ほぼ無いからです。でも、それはリンゴとミカンでも実は同じことで、ただ、リンゴやミカンの「数」という性質に注目したとき初めて、両者を足すことができるのです。ニュートンの運動の法則も、その質量や加速度という性質に注目してその関係を結びつけ ている。だから、数式で表現できるのだ。と気付いたのはかなりの年月が経ってからでした。

数学は性質が保存される

数学は非常に厳密です。厳密であるが故に、前に進むのに苦労する場合も多々あろうかと思われます。数学は紀元前から存在しますので数千年の歴史があります。その長い間に公理と呼ばれるシンプルないくつかの約束事を基に、さまざまな定理やそれを証明するための予備的問題(補題)などが積み重ねられて発展してきています。そして、定理は決して公理を破ることなく、また、新たに生まれた定理は、それ以前に確立された定理を決して覆すことなく体系立てられています。これはつまり、数式の持つ性質が保存されているということです。これは非常にありがたいことで、自然界の現象や工学的問題の性質を一度数式で表現できれば、後は数学の世界だけで答を導き出せる。ニュートンの運動の法則で言えば、質量mと加速度aがわかれば、そこに働きかけている力Fを測定しなくても、計算すればわかるということです。

この最たるものが理論物理学でしょう。宇宙の構造は多分これから先も、決して“目で見る”ことはできないでしょう。しかし、数式で表すことにより、“心(頭)の目で見る”ことが できます。もちろん、性質を読み違えたら誤った答えになります。現にニュートン力学は、粒子の世界ではズレが生じることがわかり、その後の量子力学へと発展しています。このように数式から物ごとの理解が生まれる、ということは「数学を利用すると手を抜くことができる」とも言えるかと思うのです。

今回は、システム・制御系、構造系、そして自動車業界と、それぞれの第一線で活躍する方々に、数学の持つ可能性や有効性、また、数学に対する思いをそれぞれの立場から解説していただきました。数学の持つ表現力を改めて感じていただけると幸いに思います。

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