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「見える化」技術

医療用内視鏡の歴史と最新技術

オリンパスメディカルシステムズ 株式会社
開発企画本部 医療技術開発部
部長 鈴木 明 氏


 今回の本コーナーは、カメラでお馴染みのオリンパス株式会社(以下、敬称等略)を訪問しました。オリンパスは世界的なカメラメーカーであると同時に、内視鏡のシェア世界一という世界有数の医療機器メーカーでもあります。体内の「見える化」を一早く実現し、医療の世界を変えたオリンパスの内視鏡。今この瞬間も世界中の医療現場で使われています。今回は、内視鏡の開発に携わっておられるオリンパスメディカルシステムズの鈴木 明部長にお話を伺いました。

内視鏡の歴史は大変古いものだそうですね


図1 
腹部領域における
CTスライス像の例

身体の内部を見たいという欲求は古代からありましたが、現代の内視鏡の祖先という観点からすると19世紀にその歴史は始まったと考えて良いでしょう。1805年にはBozziniがLichtleiterという管を通して直接尿道や直腸などの体内を初めて観察したとされています。胃を観察するためにも同様のものが使われたのですが非常に硬く、一般人にはとても飲み込めないので、大道芸の呑刀師に飲んでもらって実験したそうです。

現在の内視鏡の前身は「胃カメラ」です。一般人にも飲み込めるように、管部分が柔らかいゴム素材で作られた、太さ約12mm(人の咽喉の広さは約14mm)の胃カメラが1950年に完成しました。この胃カメラを開発したのがオリンパスで、オリンパスの内視鏡の歴史はここに始まります。

1960年代に光ファイバーが発明され、ファイバースコープの時代に入ります。胃カメラを第一世代とすると、ファイバースコープからがいわゆる「内視鏡」で、第二世代です。束ねた光ファイバーで光が伝達され像がリアルタイムで見えるようになったことで、内視鏡は爆発的に普及し始めます。ただ、このときは接眼部を覗いている医師しか画像を見ることができませんでした。



内視鏡先端部と鉗子。鉗子は様々な形状のものがあり、内視鏡のチャンネルを通して体内に導入される。

光ファイバーから約20年、1980年代には内視鏡の第3世代とも言われるビデオスコープができました。内視鏡の先端部に配置されたCCDチップにより体内を撮影します。先端にデジカメを入れているようなもので、今はハイビジョン画質の内視鏡もあります。モニターに映し出し、複数人がリアルタイムかつ同時に映像を見ることができるようになって、医療現場での有用性が飛躍的に高まりました。管の太さも細くなり、8ミリくらいの内視鏡が作れるようになりました。


オリンパスは内視鏡のトップメーカーとして高い信頼を得ていますが、その強さの理由というのはどういうところにあるのでしょうか?

トータルサプライヤーとしての実績にあると思います。今では、内視鏡を使って様々な治療が行なわれています。ポリープ摘出などは代表的なものですが、オリンパスにはこうした際に使う鉗子などの治療具はもちろん、他にイメージングの技術・IT機材なども揃っています。また、内視鏡や治療具自体も、消化器科・外科・泌尿器科・婦人科・耳鼻咽喉科などの診療分野の要請に応じて各種揃えられています。内視鏡メーカーは他にもありますが、これほど多岐の診療分野にわたって多くの治療具と機材を提供している会社は他に無いと思います。そこが、大きな信頼を頂いている理由だと思いますね。幅広く多種多様なものを取り揃えていると、医療現場から寄せられるニーズを吸い上げ、それをより総合的にマッチングさせて技術に反映できます。チーム医療が主体になってきつつある時代の流れにも合致しているのではないでしょうか。

最新の内視鏡技術について、いくつかご説明頂きたいのですが

まず、「身体の内部をよりよく見る」という観点から、NBI(Narrow Band Imaging:狭帯域光観察)という技術をご紹介しましょう。NBIは波長により散乱特性が異なるという光の性質を利用しています。散乱しやすい青い光は生体組織の浅い層の、そして、もう少し深くまで伝わる緑の光は更に深い層の情報を得やすいという特徴があります。波長を選んで照射することで、深さ方向の変化をとらえた画像が得られます。更に、波長をなるべく狭く設定すると、より鮮明な像を得ることができます。

では、どの波長を選ぶか。血中ヘモグロビンの光吸収特性は波長によって異なるため、ヘモグロビンによく吸収される波長を使えば血管が非常に鮮明に映るということになります。NBIでは415nmの波長を使っています。色で言えば青い光です。もうひとつ540nmの波長も使っており、こちらは緑の光で、前述のようにやや深いところまで届きます。この深さでは逆に細い血管は見えにくいのですが、表層よりやや深部にある太い血管をよく見ることができるのです。結果として、NBIを使うことで粘膜表層近辺の血管構造や見えにくい病変が大変見やすくなりました。がんは始め粘膜の表層にできることが多く、また、がん腫には新しい血管ができやすいので、NBIはがんの診断と早期発見を追求する医療現場に無くてはならない技術になりつつあります。

そして、これがカプセル内視鏡ですね。滅菌状態で個包装されたパッケージを空けて取り出し飲み込む、と


図1 腹部領域におけるCTスライス像の例

はい。外径11mm/長さ26mmです。原理的には携帯電話と同じで、このカプセルに内蔵されたCCDカメラで撮影し、それを無線でデータ送信します。今のところ、小腸のみを対象としたものです。画質はまだまだ内視鏡の方が上ですし、小腸用の内視鏡もあるのですが、小腸は身体の奥にあり長い臓器ですので内視鏡だけでカバーするのがやや難しい面があります。そこで、病因がどうしてもわからないといった場合の検査に、このカプセル内視鏡が使われています。他の臓器は普通の内視鏡で充分なので、敢えてカプセル内視鏡を飲んで頂く必要は無いわけです。

このカプセル内視鏡は、小腸を通過する約8時間、1秒に2コマずつ撮影していきます。撮影画像が約6万枚になるので電池容量が大問題で、いかに低消費電力での駆動を可能にするかが技術課題でした。それをクリアして実用化したものです。また、大量の画像を読影する医師の負担軽減のため、読影支援コンピュータも併せて開発し、前画像と比べて色の変化や形の変化が大きな画像を抽出できるようにしています。

ただ、残念ながら機能は画像撮影に限定され、内視鏡のようにポリープ切除といった治療はできません。しかし、将来、貯蔵電力容量が上がれば治療具として使う道が開けるかもしれません。薬を噴出する機構を付けたり、といったことですね。


確かに、今や内視鏡は治療具としての役割も大変大きくなっていますよね

そうです。患者さんの負担を減らすことを目的に細い内視鏡を作りたいのであれば、直径0.5mmの内視鏡も可能なのですが、細いと画質がプアーになるし、治療具が中に入らないので、結果的に通常の内視鏡に比べあまり使われないのです。

実際、経鼻内視鏡といって鼻腔から中に入れるタイプの内視鏡は、径は約5mmと細く(標準タイプは約9mm)、挿入時の負担は相当軽減されるのですが、逆に径5mmではいろいろな治療具を使うことができないのです。「内視鏡手術」という言葉があるように、内視鏡を使った治療の幅が広がり、今では3cmくらいの病変も摘出できるようになっていますが、内視鏡を治療具として使うとなると、どうしてもある程度の太さが必要になるということですね。飲み込むときはちょっと大変かもしれませんが、その代わり病変まで切り取れるわけですから。

確かに内視鏡は今や手術器具としても大活躍していますが、オリンパスは内視鏡を用いた治療にも最初から関わっていたのですか?

はい。お医者様と一緒に多くの治療具を開発してきました。ファイバースコープの時代になり目の前でリアルタイムに病変が見られるようになったことが大きいと思います。実際に、まだその場所で撮影しているわけですから、「このまま切って取れれば…」と思うのは人情ですよね。結果的に内視鏡手術という大きな道が開けました。メスによる開腹に比べ人体への侵襲度が低いので、術後の経過が大変良く入院期間も短くてすみます。まだまだ進歩していくのではないでしょうか。

◆終わりに

今や、世界中の医療現場にとって無くてはならないものとなった内視鏡。それが日本発の技術であることは大変誇らしいことです。実は、昨年・2010年は胃カメラ誕生から60年という節目の年でした。今回お話を聞かせて下さった鈴木部長も、会社訪問でファイバースコープ内視鏡を実見し「体内を見る」その技術に感銘を受けて、入社を決意されたそうです。

胃がんが日本人の死亡原因第一位だった胃カメラの時代から、大腸がんが猛スピードで増加している現代へ。オリンパスは、戦後から現代まで、日本人のおなかの健康を見守り続けてきた企業と言えるかもしれません。


<Tokyo健康ウォーク 出発地点風景>
今後数年のうちに日本では、大腸がんの患者数が男女とも第一位になると予測されています。そこで、オリンパスでは大腸がん検診の受診を促進し早期発見を啓発するため、「大腸がん撲滅キャンペーン“BRAVE CIRCLE”」を2007年から応援しています。2010年9月23日には、「Tokyo 健康ウォーク」に協賛しました。あいにくの雨天でしたがこんなに多くの方々がご参加くださいました。

オリンパスさんの素晴らしいHPのご紹介です。その名も、
「おなかの健康.com」 (http://www.onaka-kenko.com/)
内視鏡検査の受け方や内視鏡の仕組みなど、内視鏡についての楽しく、ためになる情報がいっぱいです。

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