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BOOKレビュー

『「渋滞」の先頭は何をしているのか?』

西成 活裕(著)

今回のブックレビューでは、本文記事でもご登場頂いた東京大学先端科学技術研究センター教授・西成活裕先生の掲題の書籍を取り上げさせて頂きました。

まずは大きく国家財政の話から。2010年、我が日本国の財政赤字は800兆円だそうです。全くもって天文学的数字で、庶民にはピンとこないこと夥しいのですが、ここは簡単に、1日100万円ずつ遣うとしましょう。さて、800兆円遣い切るには何年かかるでしょう?1年では3億6500万円の支出。結構、遣う感じがしますね。何だー、800兆円って言ってもすぐに遣っちゃいそうだなあ、などと思っていませんか。800兆÷3億6500万を計算してみましょう。まず、私の電卓(に限らず、普通の電卓は全て)では800兆は打てません(ゼロが14個付きます)。手計算です。結局、800,000,000÷365となりますが、答は約2191781です。何を示す数字なのか既に途方に暮れそうですが、単位は勿論「年」です。

219万1781年かかるんですよ!1日に100万円ずつ遣って、800兆円を遣い切るには!(しかも、発生利息(通常、複利!)は考慮しないものとする)

ちなみに、今年の4月、南アフリカで約200万年前の「人類の祖先である猿人」の化石が発見されたとの報道がありました。200万年前、人類はまだ存在していないのです。

さて、そこで「渋滞」です。何と、交通渋滞による1年間の逸失利益は7兆円に上るという試算があるそうです。渋滞が無くなり、その逸失利益分が国庫に入る(そして、利息は無し)という最も単純な仮定を置けば、かくも膨大な日本の財政赤字も110年で解消できる可能性がある。これは凄い。実際、この本を読むまで渋滞に遭遇すれば「クソーッ」と思うだけで、毎年7兆円もの国民利益を損なっている“超・悪者”だとは夢にも思っていませんでした。というより、それほど渋滞について考えたことは無かった。まあ、多くの人はそうでしょう。

わけのわからない公益法人よりムダを垂れ流している(かもしれない)「渋滞」。では、その本質とは?

この本によれば、「渋滞」とは、交通渋滞に限らず、ある「流れ」が滞ることであり、つまりは、『「ものの流れ」があるところ、どこでも発生の可能性がある普遍的現象である』ということになります(「万物は渋滞する!」)。

もちろん、「渋滞」という言葉で第一に思いつくのは交通渋滞であるわけですが、この交通渋滞ですら、20世紀のモータリゼーションから始まるわけではなく、紀元前のローマで既にローマ市内における馬車渋滞が問題になり、シーザーが「午後3時までは、馬車の市内乗り入れを禁ず」との布告を出していたというから驚きます。今、欧州では、首都中心部への自家用車の乗り入れを曜日や時間帯によって制限する国が出始めていますが、同様の試みは早くも紀元前のローマで行なわれていたわけです。交通渋滞の歴史は古いのですね。

さて、この本では更に、交通渋滞以外の様々な渋滞現象についても広く解説されており、「うーん、こんなものまで…」と眼からウロコが落ちる思いが味わえます。血液の渋滞、物流の渋滞、会社内での回覧書類の渋滞まで、身近な「渋滞」の例として考察が加えられています。逆に「渋滞」を起こさせたいジャンルとして、インフルエンザなどの伝染病や悪い噂・中傷といった例が挙げられています。伝播スピードをダウンさせることで解決のための時間が稼げるわけですね。望ましい「渋滞」というものも存在するのです。

7兆円ものムダを産んでいる、にっくき交通渋滞に話を限れば、「これが決め手だ!」というような解決手段は残念ながら無いとのこと。ドライバーの認識と努力に委ねられる部分が大きいようです(そこで、西成先生は、教習所で交通渋滞のメカニズムをきちんと教えるよう提唱しておられます)。最後に、本書から渋滞させない秘訣を挙げておきます。

1) 車間距離を詰めない→高速道路での車間距離は40mが適当。それより詰めることは、自分は前に進んでいるという“気分”を味わっているだけ。実は、車の流れ全体を不安定(メタ安定状態)にし、渋滞発生に繋がる可能性が高い。

2) ブレーキを踏む回数を減らす→よく高速道路で見かける「上り坂 渋滞注意」といった看板の類は、過度に減速した車両が、後続車両群に減速の連鎖反応を生じさせることを警告するもの。この「減速の連鎖反応」こそが、渋滞の種であり芽。この看板を見たら、速度計に注意して速度維持を心がける。

3) 右折により発生しがちな一般道の渋滞は「1.5秒の法則」で回避→右折レーンに入ったらモタモタしてはならない。一人当たり1.5秒で次々右折していくこと。右折レーンのドライバー全員が「曲がるぞ、それーっ!」という気持ちで動く・・・。

現代の過密都市での生活は実に大変ですね。結局は、身勝手に行動せず、そのとき限りの見知らぬ人とも連帯感を持つこと。それがスムーズな動きに繋がるようです。

「渋滞」を通して、現代社会のあり方というものも考えさせられます。面白いエピソードも満載です。易しく書かれていて読みやすいので通勤時間にもお奨めです。

『「渋滞」の先頭は何をしているのか?』

西成 活裕(著)

宝島社新書(2009/06)
ISBN:978-4532260361


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