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特集:最適化を考える

最適設計がこれからの製品開発環境を激変させる

山崎 光悦 先生 インタビュー

金沢大学
理工研究域長・理工学域長・工学部長


Koetsu Yamazaki

1976年 金沢大学大学院工学研究科機械工学専攻 修士課程修了、1976年 金沢大学助手、1983年 金沢大学講師を経て、1985年 金沢大学助教授。1989年〜1990年までカリフォルニア大学サンタバーバラ校に研究員として滞在、1994年より金沢大学教授。2010年現在、金沢大学の理工研究域長・理工学域長・工学部長。
専門分野:設計工学,計算力学,材料力学など

今回のインタビューでは金沢大学理工研究域の山崎光悦先生に、最適設計について、お話を伺いました。
山崎先生は、長年、最適化の研究に携わってこられ、日本の最適化研究における「草分け」的な存在です。

先生は、長年、最適化の研究に携わってこられたわけですが、最適化に興味を持たれたそもそものきっかけは何だったのでしょう?

私は、大学時代から最適化一筋で、最適化の研究しかやってこなかったと言ってもいいくらいなのですが、興味を持ったきっかけは、修士論文のテーマに最適化を選んだことですね。ただ、当時は有限要素法自体がなかなか利用できる環境にありませんでした。結局、FEMの勉強をして、プログラムを自分で作ってみたり、研究室で開発されたプログラムを改良したりといったことから、研究をスタートしました。

当時、金沢大学で利用できる学内のコンピュータはメモリが90KBでしたので、要素分割も2次元三角形要素20〜30個ぐらいの粗さでした。しかし、有難いことに、全国の研究者が共同利用できる大型コンピュータが東大・京大以下、7大学にありました。特に東大の大型コンピュータは、金沢からは遠かったのですが、当時、最も計算スピードが速かったことから、重い紙カードのプログラムを携え夜行列車に乗って、頻繁に使いに出かけたものです。

その当時は、最適化研究としてはどういったステージにあったのでしょうか?

最適化というのは、始まりはもちろん、構造最適化だったわけですね。1960年代に、最適設計の要求が主として航空分野から起こりました。おそらく、この時期が「第1期 最適設計黄金時代」と言えるかと思うのですが、このときはまだ、実務設計のレベルまでは浸透せず、一部で試行的に使われていたという状態でした。私が研究生活をスタートさせ修士論文に取り組んでいたのは、この「第1期 最適設計黄金時代」のおしまい近くに当たると思います。当時は、まだまだ要素分割が粗く、形状設計を試みて応力分布の改善幅をチェックするのですが、形状変更の効果か計算誤差のせいなのか、わからない状態でした。単連結の連続体からスタートして、密度やヤング率を変化させることで物体の中に穴が自動的にできる多連結連続体を創成したり、トラス連続体の概念によって構造形態の最適パターンの創成を初めて試みたりしたのもその頃です。

1980年代が「第2期 最適設計黄金時代」でしょう。この時期から自動車産業で最適設計が活用されるようになり、また、コンピュータの発達・普及が大きくその動きを後押ししたと言えます。最適化プログラムの開発も始まり、最適化の現在に繋がる大きな礎が築かれた時代です。

最適設計や最適化はその誕生から、およそ半世紀が経過したのですね。黎明期からようやく50年が経った今、最適設計は第3期の黄金時代を迎えていると考えて良いのでしょうか

そうだと思いますね。90年代の終わりくらいから、最適化の概念や方法論は自動車産業を飛び出し各分野に広がって、そこで実践されるようになってきました。今では、最適化でひとつのビジネスが成り立つくらいですよね。最適化のソフトウェアを開発している会社もかなり出てきたし、そのソフトを使いたい、使ってみたいという感触は広く産業界にあると思います。そのバックグラウンドには、やはり、CAEの普及とパソコンの登場・その性能の飛躍的向上ということがありますね。かつては、専門家が構造計算を中心に、ときどき熱や流体なども含めたシミュレーションを、一生懸命、大型コンピュータにかけてやっていた。それが、今では、その辺に転がっているパソコンでそこそこの計算ができるし、2、3台見つけてきて繋いでやれば、それこそ、かなり高度な計算までできる。そういう時代になってきたわけです。私が大型コンピュータを使うためにはるばる東大まで通っていた当時からすると、本当に隔世の感があります。

「第3期 最適設計黄金時代」の特徴とは、言ってみれば、一部専門家のものだった最適化や最適化計算の裾野が大きく広がり、“誰でも気軽に最適設計ができる時代”になったということでしょうか?

「最適設計は誰でもできそう」といった雰囲気は確実にあると思います。明らかにそうなってきていますしね。たとえば、@寸法設計問題 A形状設計問題 B形態(位相=トポロジー)設計問題という3つが同時に解けて初めて構造設計が成り立つわけですが、この3つ全てが、最近ではソフトで簡単にできるようになってきています。条件だけ決めてやれば、ある程度は誰でもできる。形態(位相=トポロジー)設計法には、均質化法、SIMP法、レベルセット法といろいろあるのですが、そのどの方法を採っても、今、世界で5、6個くらいは、実に簡単に設計できるソフトがあるのではないでしょうか。

そういう意味では、コンピュータとソフトウェアの知識さえあれば、構造設計は素人でもできると言えます。あるいは、会社に入ってきたばかりの新人でもね。物理や力学の知識ですらほとんど要らないんです。

ただ、構造設計の真の専門家は大変な経験を積んでいます。設計というのは、自分の頭の中にノウハウを溜め込み、最後は、そこからいろいろな要因を判断する。振動はどうだろうかとか、考えなければならないファクターは多種多様です。力学的側面だけ押さえておけばいいといったものではないし、最終的には、コストや使う人にとっての便利さといったことも考慮に入れなければならない。ですから、「ソフトを使えば誰でもできる」という思い込みが余りに蔓延することは問題だと思います。

しかし、そうは言っても、これまでは経験豊富な技術者でなければ作れなかった、あるいは思いつかなかったような形態が、最適化設計ソフトを使って計算すれば、自動的な計算結果として誰にでも出せるようになった。それは事実です。その辺りが、最適化設計ソフトが大きな注目を集めている理由でしょうね。

ソフトウェアが進歩して、専門知識がなくても使える汎用的なソフトが増えてきたことが、現在の“第3期 最適設計黄金時代”を支えているということですね。今、ソフトのお話が出たので、現在の最適化ソフトのアルゴリズムについて少し伺いたいのですが。実際のソフト利用者にとっては、アルゴリズム自体はもはやブラックボックスでしょうが、ソフトウェアの根幹としての重要性は見逃せません

ソフトの発展というのは、即ち、アルゴリズムの発展とも言えますね。

従来は、関数の勾配、つまり微分係数を用いたアルゴリズムで探索していたわけです。登山を例にとれば、どの方向の勾配が急かを見る。一番急な勾配ならそこが山頂までの最短距離であるといった探索法です。

現在は、ある種“飛躍した”進化的アルゴリズムが登場して注目されています。従来とは違う数式に基づいたアルゴリズムで、生物の世界に着想を得ています。具体的には、「PSO」(Particle Swarm Optimization)や「ACO」(Ant Colony Optimization)と呼ばれるもので、前者は鳥や鰯などの群れの動きにヒントを得たものです。群れの中の一個体は自分の動きの情報、群れ全体の情報、進んできた方向の情報といった様々な情報をベクトルの中に入れて、自分の位置を定めているのですが、それを最適手段の探索に応用しています。このアルゴリズムはどんな問題に使っても計算時間が1桁早いし、どんなケースにでも使えます。

更に効率の良い探索法と目されているのが後者の「ACO」で、これは、餌を探すアリの動きにヒントを得たものです。その他に「DE」(Differential Evolution)というアルゴリズムもありますが、最終的には「ACO」や「DE」それにまあ「PSO」くらいが生き残って、他のアルゴリズムは淘汰されていくような気がしますね。

こうした、生物系のアルゴリズムは、連続変数でなければ使えない、離散変数でなければ使えないといった制約がない。何にでもどんな局面にでも使える。そこに大きな強みがありますし、現在未解決の殆どの問題を解決してくれるアルゴリズムになるのではないかと期待しています。

先生は、長い研究生活の中で、様々なご研究をされてきたことと思いますが、今、特に興味を持たれていることや研究事例について、お聞かせ頂けますか


図1 衝撃エネルギー吸収の最大化による安全性の確保


図2 人間を守る賢い車体(アクティブ・ロア・アブソーバ)

最近、自動車のクラッシュの際に衝撃を吸収するフロントサイドメンバーの設計を行なっています。この部材がクシュクシュと早く、うまくつぶれてくれることで、中に乗っている人を保護するのですが、現在の自動車は軽量化の要請が強いですから、アルミニウムで作りたい。そして衝撃エネルギーの吸収は最大にしたい。それにはどのような形状が最適かということで、最適化シミュレーションを行ないました。結果的には、六角形がよく、角と角とを結ぶのではなく、角の間と間に隔壁を通すと衝撃力の増加を抑制しつつ、最もエネルギー吸収が良いという結果が得られました。

もう一例、今、衝撃を受けたときにポンと上がって膨らむようなボンネットが考えられています。ポンと飛び出すところから、「ポップアップフード」と呼ばれますが、不幸にして人とぶつかってしまったときに、ボンネットが膨らむことで人への衝撃を和らげるのが目的です。それと同時に、柔らかい材料で作ったロア・アブソーバで人の足をすくってやろうと。敢えて、足をすくってこのボンネットに乗り上げさせるわけです。そうすれば、人の怪我はかなり軽くなるであろう。そうした発想に基づいて、「アクティブ・ロア・アブソーバによる損傷低減」という研究も同時進行中です。現在、足首の加速度・膝の折れ曲がり角・せん断のずれ角などがある範囲内にあると、怪我は少なくなるという指標が明らかになってきています。そこで、人の脚部モデル(脚部インパクタ)を作って、どの瞬間に、どのスピードでロア・アブソーバを出してやれば良いか、といった最適化計算を行なっています。


最適設計は、やはり自動車産業での使い道が多いようですが、他の分野でも効果を発揮しているのでしょうか?

もちろん、他の分野でも非常に有用ですよ。例えば、プラスチック成形の金型設計分野ですが、現在、私の研究室で次のような研究をしています。金属光造形という手法があるのですが、レーザー光線で作りたい形状に金属粉末を溶かし、その後エンドミルで削る。この成形手法を使えば中に複雑な空洞があるような3次元形状も自在に作れます。ということは、曲がった冷却管や螺旋状の冷却管が作れる。射出成形は高分子材料を熱で溶かして造形するので、残留応力が入らないように上手に冷やして固めるという必須の要請と同時に、全体のサイクルタイムを上げたいという要求があるわけですが、そのためにはどんな形状の冷却管をどう配置すれば最も効率的なのか。こうしたことにも最適化計算を使っています。

それと共に、葉脈などの自然界の分岐網をヒントにして、そういった形状の冷却管ができないかという研究も行っています。例えば、ICチップに冷却シートを分岐網のように貼る。ICチップは、熱を持つところと持たないところがありますから、今までにない形の、しかも、かなり有効な冷却管配置ができるかもしれない。あるいは、そもそもチップを作るときにそのような分岐網状の冷却シールを作って埋め込んでやる。そういった形で有効に使えるのではないかと考えています。

最適設計は自動車産業はもちろん、様々な分野で利用されているということですね

その通りです。今では、最適設計はありとあらゆるところで使われています。ちょっと趣向を変えて、私たちにとって大変身近な存在である飲料缶の話をしましょう。アルミのボトル缶にホットコーヒーを入れて売りたい。そのまま持てば当然熱いですね。そこで、缶の表面にぎざぎざ(エンボス)を付けて手との接触面積を減らすことにする。この段階で、加工性とのトレードオフを考えなければなりません。使う人の使いやすさと作り手側の作りやすさを天秤にかけるわけですね。このように、相反する複数の目的のバランスを取って、適切な解を求めることを「多目的最適化」と呼びますが、今、挙げたボトル缶は多目的最適化の良い例の一つと言えます。

缶の設計には他にも様々な工夫が為され、最適化が大活躍していますよ。例えば、缶ブタの上にはさらにタブが付いていますよね。このタブについても、実にいろいろなことが考えられているんですよ。まずは、開けるときに痛くないように、危なくないように、ということですね。缶を開けようとして爪を割った経験のある人もいると思いますが、そうした事態を防ぐために、指の痛点分布なども考えて、どういった形態のタブが一番軽い力で、痛みを感じさせることなく開くのか、そうしたことも最適化を使って計算しているのです。

飲料容器は多くの人が日常的に使うものですから、人間工学的な設計が必須です。しかし、ちょっと外国に行って飲み物を買ってみればわかりますが、飲料容器というジャンルで、世界で最も進歩したユニバーサルデザインを創出しているのは、何と言っても、アメリカと日本です。上に述べたような神経の行き届いた細部設計には、最適設計の果実が活かされていると言えますね。


図3 ユニバーサルデザインを目指して!

最適化のもたらす恩恵は性能や機能向上以外にもありますか

多目的設計の話をしましたが、種々の異なる設計要求に対し最もバランスの良い解を求める。設計の要諦というのは結局そこにあるわけで、それを昔は経験と勘でやっていた。それが、今ではソフトである程度できるようになったということですね。

私が学生だった頃、かれこれ30年ほど前になりますが、自動車会社が新車を作るには、コンセプト設計から上市まで4年くらいかかっていた。今は、何と、ほぼ1年しかかからないそうです。新車開発のためには試作車が要る。1台作るのに1億円くらいかかります。生産ラインができる前の手作りですからね。それを重要な実験の際には、トライで壊していくわけです。当然、何十台も壊すわけにはいきませんよね。今は、ある部材を付けてみたら…、取り外してみたら…、あるいは材料を様々に変えてみたら…、といったことは、かなりの程度、シミュレーションで確認できる。従って、シミュレーション結果を参考に相当高い完成度まで作りこんで、最後の最後、最も重要な安全試験といった場面で1台か2台壊して上市する、といったことが可能になっています。仮想的な実験を可能にして、コストがかかる現実の実験数を激減させたという点で、シミュレーションの力は非常に大きいと思います。コストと、そして時間の劇的な削減を支えているわけです。

製品サイクルがどんどん短くなっている現在、今後も、ものづくりにおけるシミュレーションの重要性は増すばかりでしょう。最適設計という場面に限らず、シミュレーションを上手に利用して良い製品につなげる知恵がますます求められていると思いますね。

実験がシミュレーションに置き換わっていく趨勢は、今後も変わらないでしょうね。そのようにシミュレーションやソフトの重要性が高まっていくにつれて、利用者の要求レベルも高くなっていくと思われますが、先生は、現状の最適化ソフトには、どんな問題があるとお考えですか?

そうですね。最適化ソフトが本当に実際の設計の場で使えるものでないと意味がないと思います。使えるというのは、限られた期間の中で最適化計算に必要な繰り返し計算ができるかどうかということです。その点を考えれば、もっと探索スピードの速い最適化アルゴリズムが出てくるといいと思いますね。探索スピードは、特に、整数計画や混合変数計画、組み合わせ問題では大変重要です。最適化アルゴリズムについては、先に述べたように、「PSO」や「ACO」、「DE」といった、現状でも新しい工夫が凝らされたものがいろいろと出てきてはいるのですが、まだまだ進展の余地はあるように思います。

また、もうひとつ、CAEを伴う最適設計では、応答曲面近似の精度向上が今後の利用拡大の鍵を握っていると思いますね。実計算をしながら何百回も何千回もCAEを計算することは実際の現場では困難です。近似精度の高い応答曲面を作成して、それを応用することが重要なキーとなると思います。

今後、最適化ソフトをどんな側面から発展させていくべきでしょうか。また、将来の最適化ソフトに期待するのは、どういったところでしょう?


リラックスした表情の山崎先生
(当日は、ご多忙な先生のスケジュールの合間を縫って、
機械学会近くの明治記念館にてインタビューを行ないました)

やはり、最適化ソフトウェアには“もっともっと使いやすく”ということを期待したいですね。誰でもが気軽に使えるソフトウェアでないと意味がありません。その観点からすると、当然、ユーザーインタフェースが重要となるでしょう。今のところ、寸法・形状・形態(位相)を表すパラメータは、ユーザーがその対象となるソフトウェアの入出力ファイルから直接マニュアルで設定し、それらをパラメータとして定義しているわけですが、それが始めから埋め込まれたようなモデル定義の手法、もしくはソフトウェアが開発されると、利用者にとっては大変利便性が高いと思いますよ。加えて、設計変数の選定なども自動的に行なえると、更に使い勝手が良いソフトになるのではないでしょうか。

また、FOA(First Order Analysis)のような設計検討に有用な、簡易モデル応答解析手法を搭載したソフトウェアの開発も重要だと思います。

いずれにしても、最適化というジャンルは理論もソフトも、将来に向けた発展がまだまだ期待できる分野ですので、私もその未来像というものを大いに楽しみにしたいですね。


◆インタビュアーから最後に一言

本当に、最適化ソフトはまだまだ発展可能性があるし、最適化技術は社会のいろいろな側面で役に立てる力を秘めていると思います。

この度、弊社は、最適化ソフトウェア“Optimus”の開発元であるNoesis Solutions NVを買収し、100%子会社化致しました。今後はNoesis社と力を合わせて、最適化ソフトの更なる進展に力を尽くす所存です。より多くの方々にご利用いただけるような使い勝手を有すと同時に、優れた最適化探索効率を追求したソフトウェア、世界でスタンダードとなれる最適化ソフトウェアを目指して、これからも積極的な製品開発を進めたいと思います。 当社がご提供する最適化ソリューションによって、今後の日本の先進的な産業飛躍に大きく寄与できればと願っています。

山崎先生、本日はお忙しいところインタビューにご協力頂き、誠に有難うございました。深く御礼申し上げると同時に、先生の今後のご研究を楽しみに致しております。

独立行政法人 理化学研究所 木村英紀先生には、お忙しいところインタビューにご協力いただき、誠にありがとうございました。この場をお借りして御礼申し上げます。

インタビュアー アドバンスドソリューション事業部PIDO室 室長
兼 Noesis Solutions NV CEO
古井 佐土志

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