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「見える化」技術

「ゲリラ豪雨」を捕まえる 
〜フェーズドアレイ気象レーダと可視化〜

株式会社東芝 社会システム社
小向工場 電波通信技術部
水谷 文彦 氏


ワールドビジネスサテライト“ゲリラ豪雨を捕まえる技術”のコーナー(09年7月22日:テレビ東京)で、(株)ケイ・ジー・ティーが開発する可視化ソフトウエアAVS/Expressを使って作成された雲の3次元CG映像が放映されました(図1)。これは、(株)東芝社会システム社の新型レーダ開発で使われている映像です。3次元の可視化技術が、どのように役立つのか、(株)東芝小向工場でレーダの開発に携わっていらっしゃる水谷文彦様にインタービューしました。


フェーズドアレイ気象レーダで観測されるであろう積乱雲の内部構造を数値シミュレーションした結果。 レーダが完成すれば、水平・鉛直100mメッシュで10秒毎の雨粒の振舞をCGで表示することができる予定。
図1 AVSによる積乱雲の3次元CG表示例

まずは、TV放送で使われた映像について教えてください。

これは積乱雲のシミュレーション結果の可視化映像です。計算結果をCGで表現することで雲が発達する様子がわかります。先日、TVで紹介された新しいレーダは、現在、開発中のものなので残念ですが映像自身は、今日、説明するレーダでの観測結果ではありません。

しかし、3年後に完成を予定している新しいレーダが運用されれば、このようなCGが実際に観測データから作成されることになります。

その新しいレーダについて、従来のレーダと比べ、どう違っているのか、何が可能になるかを教えてください。

まず、レーダは電磁波を対象物に照射して、その反射波を受信して、送信からの時間、反射信号の強度の変化で対象物の位置や大きさを捉えます。従来のレーダはレーザービームのようなペンシルビームと呼ばれる電磁波を1本1本照射しながら計測します。この方法で3次元的な情報を取得するには、任意の仰角で空中線を1回転させ、角度を少し上げて1周して、また、少し角度を上げて、という操作の繰り返しが必要です。この方法では、図1で紹介したような3次元のデータを取得するまで5分から10分程度かかってしまいます。また、ビームを照射する鉛直方向の数が10〜15程度と限られ、遠方になるほどビームの間隔が広がるので空間の解像度が低下してしまいます。

これに対して、新しく開発しているフェーズドアレイ気象レーダでは、ファンビームと呼ばれる電磁波を図2のように一度に照射するので、鉛直の面を漏れなく観測することができます。これにより、空中線は1回転(最短約10秒)のみでレーダ周辺地域の3次元情報を取得できます。

  • 複数の半導体素子により縦に広がったビーム(ファンビーム)を送信。
  • 受信時はデジタル処理により複数のビームを同時に形成(DBF)。
  • 1回転で三次元ボリュームの観測が可能。
図2 高速三次元観測

「ゲリラ豪雨」をもたらす積乱雲のライフサイクルは30分程度と短く、その大きさも数百m〜5km程度なので、従来の計測方法では時間的にも空間的にも解像度が足りませんが、我々が開発しているレーダでは、それを捉えることができます。

例えば、2008年7月28日に、兵庫県で発生した「ゲリラ豪雨」の影響で、都賀川では10分間に1.3mもの水位上昇がみられました。フェーズドアレイ気象レーダは、その「ゲリラ豪雨」を捕捉し、関連事故の防止に役立つものと考えられます。

図3はフェーズドアレイ気象レーダの観測イメージです。


図3 フェーズドアレイ気象レーダ:観測イメージ

ところで、これは東芝さんだけで開発している極秘プロジェクトなのですか?

いいえ。これはNiCT(情報通信研究機構)からの委託研究で、信号処理技術の開発や完成後のフィールド観測評価については大阪大学、そしてシステム開発メーカーとして東芝が参加している“次世代ドップラーレーダー技術の研究開発”プロジェクトの中で開発や検証を進めています。

次に可視化についてお聞きします。雲の様子を3次元CG(図1)で表示していますが、レーダーで計測したどのようなデータを用いているのですか。

雲の中に含まれる水の粒の大きさはマチマチです。その水の粒の大きさで、雨粒と雲粒に分類します。雨粒は落下する大きさ(直径0.1〜7mm程度)と重さを持ち、雲粒は、それより小さなものです。気象レーダは5GHz帯や9GHz帯の周波数の電磁波を使い雨粒を捕らえますが、雲粒は現在の技術では補足できません。

航空機探知レーダも気象レーダも、レーダの原理は同じですが、飛行機のような固形のものに反射した信号と雨粒群のように、個々の粒子が必ずしも同じ動きをしないものから反射した信号は、その強度や強度の変化の様子が違います。気象レーダでは、ある程度の雨粒の集まり(雨の領域)の平均的な存在を見ているようなものと思ってください。

一方、TVでも紹介されたドップラーレーダは、反射信号の強度だけでなく、位相も見ます。ある時間差をもって受信した信号の位相の違いを見ることで、雨の領域が近づいてきているか、遠ざかっているか、また、その速度がわかります。反射信号の位相を見るには、照射する電磁波の位相が安定している必要がありますが、今は、ハードウェアの位相安定度が高まったことで、容易に雨の領域の移動速度を知ることができるようになっています。

新しいレーダは、もちろん、ドップラーレーダの機能も包含しています。

レーダで観測されたデータをCGで見る人は誰なのでしょうか? その人々にとってCGの映像は役立つのでしょうか?

レーダが観測しているのは、現在の状況だけであって、未来の予測はできません。レーダやその他の観測データを入力値とし、気象予測シミュレーションを実施することで天気の予測(予報)ができます。その結果が冒頭のような図になります。

しかし、観測結果にせよ、シミュレーション結果にせよ、その映像を見るのは気象の予報官です。専門家は、雨の構造(大きさや内部での気流の動きなど)を見ることで、経験的にも地上の天気を予測するので3次元のCGは有効と思います。また、ダムや下水道のポンプ場を運用している方へも、放水のタイミングを判断する情報として、上空に強い雨があり、それがいつ落ちてくるかがわかるCGは有効と思います。

同じ情報を一般の方々に公開することもできますが、それだけでは天気予報にはならないでしょう。詳細な気象情報が観測、予測できることと、一般の人が知りたい情報とは異なるので、予報の伝達方法は、まだまだ考慮の余地があります。

因みに、東芝では2004年から自治体向けにWeather-PlusTMという気象情報サービスを、2006年からは個人向けにゼンリンデータコムと共同で携帯電話向け気象情報サービス「ピンポイント★天気」(http://pinten.jp) を提供していて、現在は、auの「EZweb」、ソフトバンクの「Yahoo!ケータイ」、NTTドコモ「iモード」でアクセスすることができます。

私は、釣りでは風の強さ、山では雨が気になります。いつでも、どこでも天気が判れば便利ですね。気象情報はイベント屋さんやコンビニの仕入れにも有効と聞くのですが、本当ですか?

そういうニーズはありますが、正確な予測ができないと提供情報への対価は得られません。利用者のニーズにマッチした精度での気象情報が提供できるかどうかですね。さきほどの「ピンポイント★天気」は自動予測のシステムです。ぜひ、ご利用いただき、予報の精度を実感してもらえればと思います(笑)。

水谷さんは、東芝に入社して7年目とのこと。今後も、レーダおよび気象シミュレーションでの活躍が期待されています。今後とも、可視化ツールはAVS/Expressを、よろしくお願いします(笑)。

(聞き手:(株)ケイ・ジー・ティー 技術部長 宮地 英生)

参考文献

[1] 価格.com テレビ照会情報 「ワールドビジネスサテライト」7月22日(水)放送内容http://kakaku.com/tv/channel=12/programID=561/episodeID=252614/

[2] 水谷文彦,河原智,和田将一,菅井弘幸:進化した気象サービス Weather-PlusTM,東芝レビュー,Vol.60, No.11, 2005

[3] 平田洋介,小野洋一,和田将一:気象シミュレーションを活用した下水処理場流入量の長時間予測,東芝レビュー,Vol.62.No.4, 2007

[4] 携帯電話向け気象予測情報サービス『ピンポイント★天気』事業拡大(2007年7月17日)
http://www.toshiba.co.jp/about/press/2007_07/pr_j1702.htm

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