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特集:MATLABを活かした技術開発

解説「スライディングモード制御」
第3章:スライディングモード制御の応用例

3.1 はじめに

2章ではスライディングモード制御(以下SMCと略記します)の設計手順を概説し、シンプルな例題を示しました。本章では、実際的な応用例を紹介します。国内外を問わず多くの応用研究がありますが、ここでは電動スロットルバルブの制御にSMCを応用した例(3-1)を簡単に紹介します。さらにスイッチドリラクタンスモータの状態推定にスライディングモードオブザーバを応用した例を紹介します。

本解説では、上記応用例について詳述するスペースはありませんが、考え方や設計手順に重きを置いて解説したいと思います。

3.2 応用例:電動スロットルバルブ(横山2002)


図3−1 電動スロットルバルブシステム

図3−2 非線形バネ特性

良く知られているように、主に環境問題への配慮から自動車の電子制御化が著しくなっています。特にスロットルバルブの電子制御化は、駆動力や空燃費を適切に制御することを可能とします。この研究(3-1)では、図3−1に示すような電動スロットルバルブを制御対象としています。この系にはフェイルセーフ(脚注1)を目的として図3−2のような特性を持つ非線形バネが用いられています。一方で、制御系にとってはこのバネの非線形性が問題となってしまいます。このバネの非線形性の取り扱いとモデル化誤差などにより発生する外乱トルクへの対処がポイントです。


設計概説


図3−3 設計の流れ

図3−4 SRモータの状態推定

設計の流れを図3−3に示します。モデリングから始まる大きな流れは通常の制御系設計と同様ですが、切換関数と切換入力の設計が特徴的です。また設計を進める上で最大のポイントはモデリングですので、以下で説明します。

制御系設計では、何らかの制御系設計手法が使えるように、使いたい制御系設計手法において標準的な形で、制御対象をモデル化することが第一です。SMCにおいて標準的な形は次式です。

したがって、本例では図3−1の系を上記の形式でモデル化する必要があります。制御するのはスロットルバルブの開度ですが、モータがバネやモデル化誤差などから外乱トルクを受けると考え、モータ軸の回転角度制御問題として以下のようにモデル化します。

θ:回転角、d:外乱トルク、J:慣性モーメント、
L
:コイルインダクタンス、 R:抵抗、Kf:トルク定数、
Kv:逆起電力定数、D:粘性抵抗定数

式(3-1)のように表すためには不連続な特性を持つ非線形バネをどのように取り扱うかがポイントとなりますが、本例では、図3−2 に示すように線形バネとモデル化誤差として次式のようにモデル化します。

さらにコイルインダクタンスを無視すると、次式のようなモデルを得ます。

これで準備が出来ましたので、あとは制御系を設計するために上式を状態空間モデルへ変形し、切換関数や非線形入力を設計していきます。詳細は省略しますが結果として入力は次式のように構成されます。

上式の入力は、それぞれ目的の異なる4つの項から構成されています。実は、基本的には、SMCで必要なのは切換入力だけです。しかしながら、切換入力だけを用いると非常に大きな切換ゲインが必要となる場合があります。そこで、線形入力(ueq)(脚注2)や、既知のモデル化誤差を補償する入力(uf)を切換入力と共に用います。こうする事で切換ゲインを小さく抑えることが出来ます。さらにulは比例到達入力で、到達モードを速やかに収束させるための入力です。

本応用例では、状態フィードバックを用いるために状態観測器をスライディングモードオブザーバを用いて構成しています。数値実験、実機実験を通して有効性を検証しており、優れた制御性能を示しています。


3.3 その他の応用例

SMCは高いロバスト性と高周波の非線形入力が特徴ですが、この特徴はパワエレと相性が良く、多くの応用例があります。ここではスライディングモードオブザーバ(SMO)の応用例をいくつか紹介します。

参考文献(3-2)はスイッチドリラクタンスモータ(SRモータ)のセンサレス制御を行なうことを目的とし、状態観測器としてSMOを応用しています。SRモータのセンサレス制御は有用な技術ですが、モータの非線形性が強いため難しい問題です。

オブザーバ全体の構成は図3−3となります。図中のSRMモデルではSRモータの数学モデルに基づいて、推定角度と電流値から磁束を算出します。磁束オブザーバでは電圧と電流から磁束を推定します。SMOではモータモデルを用いて計算される磁束推定値と磁束オブザーバの磁束推定値とから、角度と角速度を推定します。

この例では、さらに離散化による実装を考慮して離散時間で定式化しており、実験により有効性を確認しています。

また参考文献(3-3)はSMOをインダクションモータの状態推定器として応用した例です。外乱の構造を考慮した設計法を提案しています。外乱やモデル化誤差に対する状態推定のロバスト性について、従来のオブザーバと比較し、SMOの優位性を示しています。

3.4 おわりに

近年多くの応用例が見られるスライディングモード制御について解説してきました。スライディングモード制御の特徴は、比較的単純な制御則で高いロバスト性が実現できるところに在ります。また非線形制御則(脚注3)ですので、線形制御では難しい「追従性を高めつつ安定性を頑強にする」ことができます。スライディングモード制御はシステムの構造を考慮し、非線形入力を用いて積極的に外乱を打ち消す制御手法です。現在、制御系設計においては、制御対象のモデルに基づくモデルベースの設計法が注目されていますが、スライディングモード制御は制御対象や外乱の構造を考慮し、外乱に積極的に対処する手法です。線形制御よりも多くの恩恵をモデルから受ける事ができると思います。

制御系が満たすべき仕様が厳しくなっている現在、線形制御のトレードオフを克服できるというスライディングモード制御の特徴は、さらに注目されていくと考えています。スライディングモード制御の設計手法はほぼ確立されているといわれており、制御系設計に応用する準備は整っています。さらには機械系や化学系をはじめとして数学的なモデリング技術が高まっていますので、これに伴いスライディングモード制御の応用も広がっていくのではないでしょうか。

スライディングモード制御の参考文献として前章まででもいくつか取り上げてきましたが、端的にまとまっている文献として参考文献(3-4)、多くの応用研究が網羅されているものとして参考文献(3-5)を挙げて終わりとします(脚注4)

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。御質問や御指摘などあれば下記お問合せ先まで連絡頂ければ幸いです。

※脚注1:制御不能になった場合に機械的にバルブ開度を保持します。

※脚注2:等価制御入力と呼ばれる線形フィードバック入力です。初期状態によってはこの入力も過大になる場合があります。

※脚注3:切換入力を用いず、線形入力だけでSMCを構成する例もあります。チャタリング低減などの意味で効果的ですが、線形制御ですので、トレードオフが存在し十分なロバスト性が得られない場合があります。

※脚注4: 今回でリレー解説は終わりです。目を通していただき、誠にありがとうございました。言葉足らずで分かりにくい箇所もあったと思います。何かございましたら遠慮なくご連絡いただければ幸いです。

参考文献

(3-1) 横山誠:電動スロットルのスライディングモード制御,日本機械学会論文集(C編)68巻670号(2002-6)

(3-2) R.A.McCann, M. S. Islam, I. Husan:Application of Sliding-Mode Observer for Position and Speed Estimation in Switched Reluctance Motor Drives, IEEE, Trans. Ind. Applications, 37-1, (2001)

(3-3) Somboon Sangwonwanich,米本,古橋,大熊:スライディングオブザーバを用いた誘導電動機の二次磁束推定とその設計法,電学論C,110巻4号,(1990)

(3-4) K.D.young, V.I.Utkin, Umit. Ozguner:A Control Engineer's Guide to Sliding Mode Control, IEEE, Trans. Cont. Sys. Tech. 7-3 (1999)

(3-5) "Special Issue on Variable Structure Systems", ASME, J. Dyn. Syst., Meas., Control, 122-4 (2000)

お問い合わせは

アドバンスドソリューション統括部 モデルベース開発推進室

E-mail:infomaple@cybernet.co.jp

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