【第2回】メルマガ12月号 テクニカルコーナーシグナルインテグリティについて
シグナルインテグリティに伴う現象
みなみちゃんコーナーでお伝えした電気的現象を考えるには、幾つかの現象と用語について把握しなければなりません。
少し面倒かも知れませんが、設計時間短縮のためお付き合いください。
(理論的詳細につきましては各種文献やWEB等をご参照ください)
ここでは下記内容について簡単に説明させていただきます。
インピーダンスマッチング
波形の乱れを考える場合、信号の通る線路(配線パターン)を電気的回路に置き換えて考えます。

この線路を単位当たりのインピーダンスZoとするとZo=√(L/C)で表せます。
(ここでRは非常に小さい値として無視しています)
ドライバから信号が出力され、この線路を通り、レシーバに達するという一連の経路を考えると、それぞれの箇所でインピーダンスが異なる結果となり、信号を歪ませます。
ここで一般的なPCBの配線例を見てみましょう。
ドライバ、レシーバには内部インピーダンスZd,Zrがあり、配線されたパターンが層間に跨り配線されていたと仮定すると、線路インピーダンスZoは配線層、配線幅、Viaにより異なってきますので下図のような状態と考えられます。

このようなインピーダンスのミスマッチが、次に述べる反射やリンギングと呼ばれる現象を引き起こします。
反射(リンギング)
上図のインピーダンス値をそれぞれ水道管の管と考えて、そこに水道の蛇口(ドライバ)から水(信号)を流したとします。
それぞれ水の出口、水路、入り口で水流は官のつなぎ目で跳ね返ったり渦を巻いたりして、入り口ではぐちゃぐちゃになった水流としての水が到達することになります。
また、水は入り口でさらに跳ね返ったりします。
これと同じ現象が信号でも発生し、この現象を反射やリンギングと呼びます。
これを回避するには・・・・
- 線路をなるべく短くする
- ターミネータと呼ばれる抵抗をドライバ、レシーバ部分へ挿入して線路とのインピーダンスマッチングを取る
- 配線層や配線幅などを検討し、線路のインピーダンス変化をなるべく抑える
などがあります。
クロストーク
これは日本語だと漏話雑音とか混線ということですが、最近はあまり日本語化されていませんよね。
反射(リンギング)が単一線路に於ける問題だとすると、クロストークは隣接する線路に影響を与える、または受けるという現象です。

小学校の理科で習った?ように線路に電流が流れると、周りに磁界が発生します。
電磁石のようなものですね。
これにより隣を流れている信号が歪んだりするわけです。
また、近年では信号の立ち上がり(または立下り)時間のカーブも変わってくることも報告されていますので、高密度のPCBでは結構重要な現象であると言えます。
重要な高速信号パターンは、なるべく他の配線と離したり、シールドパターンで保護する等の対策が必要です。(昔は電話で良く混線してたなぁ・・・)
電源・グラウンドバウンス
これは電源スイッチングノイズとも呼ばれ、ドライバが動作したときにVCCまたはGNDの電圧が、一時的に下がったり上がったりする現象のことです。
前述した反射(リンギング)の絵で、さらに家の外に大きな水道管や下水道があると考えれば分かりやすいでしょう。
大量の水を蛇口から出したり止めたり、大勢の人が水を使ったりと、こうなると水道の元では水の供給が間に合わなかったり、下水道に流れきれなくなったりしてしまいます。
信号の扱い、現象もこれに良く似ています。

SI(シグナルインテグリティ)とは?
これらの現象を最小限に抑え、信号を安定してドライバからレシーバへ送ってやる、それが線路設計でありシグナルインテグリティというわけです。
1.ハイスピードデザインの定義
基本的な現象について、感じは掴めていただけたと思いますが、自分の設計するデザインがこれらに該当するか否か?
闇雲に解析していても大変ですし、見逃しても大変です。
ここでは、初歩の切り分け方法として考慮すべきキーワードを数項目挙げさせていただきました。
当然、これだけで見極められるわけではありませんが、思考の手助けとなればと思います。
- 動作周波数50MHz以上である
- 動作周波数より信号の立ち上がりスピードが重要
- ネットが「ハイスピード」になるのは配線のround-trip
delayが信号のエッジスピードの2倍以上(主に反射への影響が顕在化する)
*round-trip delayとは信号がドライバーからレシーバへ到達し、戻って来るまでの信号遅延時間
- 信号が高速になればなるほど、表皮効果や材料の誘電損失も考える必要がある
いきなり知らない言葉が出てきて戸惑ったかも知れませんが、この辺の知識も今後必要になってきますので、調べてみてください。
このようなことは今でさえ一般化していますが、数年前まで盛んに論議されながら整理されてきたことです。
では、難しい理屈はさておき、次に、現象を簡単に検証するひとつの手段として、シミュレータを使った解析方法についてお話しましょう。
2.SI(シグナルインテグリティ)解析
解析には伝送線路シミュレータを用います。
伝送線路シミュレータにはフィールドソルバーという計算ソフトが入っていて、CADの物理形状情報から線路のインピーダンスやRLCの回路を抽出してくれます。
線路モデルへの信号入力(ドライバ、レシーバのモデル)は一般的にIBISという規格のモデルが使用されます。
IBISモデルは伝送線路解析のために考え出されたビヘイビア(動作記述)のモデルで、SPICEに比べて
- 回路をブラックボックス化できる
- 解析時間が格段に短い
といった利点があります。
下図は弊社の扱っている伝送線路シミュレータでCAD上のPCB配線を抽出したものです。
赤い部品はドライバー、レシーバのIBISモデル、青いものが配線パターンの線路を表しています。
今回ご紹介したような簡単な知識があれば、複雑な理論が分からなくても解析波形を得て、簡単に評価をすることができます。

3.プリント基板解析のトレンド
今回の本題ではありませんが、最後にプリント基板解析のトレンドについて少しだけお話させていただきます。
簡単にまとめますと
- SI解析はなるべく設計の前半で!
- PI(パワーインテグリティ)、EMI解析は重要!
- 信号のリターンパス確保を忘れないで!
という内容です。
a. SI解析はなるべく設計の前半で!
言葉の通り、SI解析をなるべくパターン設計をする前にやってしまいましょうという内容です。
パターン設計が終わった段階で、「配線が長すぎる」「分岐箇所が悪かった」「インピーダンスの整合が取れない」「ターミネータが必要」となると最悪、折角引いたパターンを引き直したり、層構成を考え直さなくてはならない羽目になります。
現在では、仕様設計の段階で必要とされるモデルや、解析条件がかなり分かりますから、回路図作成段階やレイアウトの初期段階で解析が可能なケースが増えています。また設計フロー改善で設計期間を短縮している例も数多く出てきていますから一般的?になりつつあると言って良いでしょう。
下図に設計フローの改善例を示しますので参考にしてください。
b. PI(パワーインテグリティ)、EMI解析は重要!
数年前まではSIを解析し、設計を保証していた会社が多数でしたが、ここ2-3年の間にSI解析はOKなのに動かないというケースが増えているのです。
原因を調査してみるとPIまたは後述のリターンパスが原因というものが少なくありません。SI解析ツールでは、VCC,GNDを理想電源として解析をしますが、現実には固定値ではありませんので、その辺がごまかせなくなってきているというわけです。
また、EMI解析もなるべく設計の中盤あたりから設計ステップに併せてやらないと、SIと同じく設計の後戻りが発生しますので上手くデザインフローの中に取り入れることを考えると良いと思います。
(PIについては今後のメルマガで詳細をご紹介予定です)
c. 信号のリターンパス確保を忘れないで!
ご存知の通り、信号を伝達する回路は電源、グランドを含めてひとつの回路になります。高速信号は近隣のプレーン(ベタ)層を信号線の直下を通って信号が戻り、回路を形成すると言われており、これが遮断されるといろいろ問題が起こってくるようです(いろいろな研究機関で調査されています)。
これからSIを勉強するにあたり、プリント基板解析全体から見たSIという視点で捉えると面白いですよ!
サイバネットシステムでは「高すぎる!」「難しい!」のSI解析問題を解決すべく、新しいパッケージをご用意いたしました。