データ同化:そのインパクトを3Dで実感する
情報・システム研究機構 統計数理研究所 樋口知之 様
科学技術振興機構(JST) 中村和幸 様

日本海は実はもっと浅い?

図1に示したのは、北海道南西沖地震による、日本海を伝搬する津波のシミュレーション結果のスナップショットである。手に入る日本海海底の深さに関する主なデータベースとして、四つくらいあげられる。左側は韓国成均館大学の海底地形データベース、また右側は米国海軍海洋学局の海底地形データベースにもとづいてシミュレーションを行った結果である。日本海の中央に大和堆と呼ばれる水深約400mの浅い部分の水深の値には、四つのデータベース間で、それらの平均値に対して5%程度にものぼるかなりの差異が存在する。


図1:北海道南西沖地震による、日本海を伝搬する津波のシミュレーション結果

どのデータベースが信頼できるのか、少なくとも実際の潮位計データをうまく説明できるのはどのデータベースなのかを、データ同化で探ってみた。大和堆付近についておもしろいことが分かってきた。四つの海底地形データベースの平均よりも、実際の水深はもう少し浅いことが示唆されたのである。これは、日本海の体積はこれまで考えられていたよりも少し小さいのではないか、ということになる。
この計算を行うには、複数のシミュレーションを並列に走らせる必要性がある。今回は、SGI Altix SuperCluster (Intel Itanium2 1.3GHz)を16並列用いて計算している。

結果のインパクトをどこでも実感

データ同化の計算機による数値実験結果を可視化したものが図2である。津波の伝播に従って、地形に補正がかかっていく様子を、3次元的に捉えることが可能となっている。


図2:データ同化の計算機による数値実験結果の可視化

また我々は、上記のようなAVS/Express MPEを使用して解析された結果について、可視化サーバSGI Prismならびに22.2型16面液晶モニタを用いて、大画面・高解像の可視化を行っている。サイエンス分野のシミュレーション結果を大画面、高解像度で表示することで、研究者だけでなく一般の方々まで理解しやすい形でプレゼンテーションすることは大切である。特に、データ同化の言葉自体がまだ多くの研究者に初耳であることから、そのねらいと仕組みを大掴みしてもらうため3D可視化を重宝している。
『データ同化結果の3D実感をいつでも、どこでも』をモットーに、我々は従来のものより機動性を高めた3D Portable VRシステムを導入した(図3、右下)。通常、Portable VR 装置においては、左右視差に対応する22出力ビデオカード使用のために、デスクトップPCを必要とした。我々は、Matrox社製GXMを用いることにより、ノートPCの1出力から2出力相当分の出力を得るシステムを採用した。このことにより、より機動性が上がるとともに、手元での液晶画面でのオペレーションとスクリーン表示を独立に行うことにより、より効果的なプレゼンテーションが可能となっている。


図3:3D Portable VRシステム『データ同化結果の3D実感をいつでも、どこでも』

未来デザインの道具に

データ同化技術はあらゆる科学技術の分野で行われているシミュレーションに適用できる。新たに計測をしなくとも、データ同化でもって手元のデータと知識の総体であるシミュレーションモデルを融合することで、科学的新発見も夢ではない。

謝辞
この研究の多くは、科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)による、「先端的データ同化手法と適応型シミュレーションの研究」プロジェクトの成果によるものである。


著者写真:データ同化チームメンバーでThe National Center for Atmospheric Research (NCAR)、USを訪問。上野玄太(左)、樋口(中央)、中村(右)