近年の情報社会におけるコンピュータビジュアリゼーションの研究 〜視覚効果に着目した高度な画像表現・情報提示技術〜
東京大学大学院新領域創成科学研究科 複雑理工学専攻 高橋 成雄 准教授

人の視覚システム

われわれはSaliencyというモデルを使って、実際、人がどこに一目するかって言うのをちゃんと計算しながらやっています。最近、テレビでも見ることがありますが、ムービーの中の何かがどんどん変わっていく所を見つけてくださいっていう事をすると、大体コレで年齢がわかっちゃうんですよね、若い人は比較的すぐ見つけるみたいで。わかってれば気付くんですけどね、まさかそこじゃないだろうってやっぱり思っちゃうみたいで。それは、パッと見た時に、ここは視覚注意がいかないところだからなんですよ。これは実は、可視化する時に絵を作るのにすごく大事な話で、ここ注目してほしいのになんか注目されないような絵の作り方をしていたら、いつまでたっても相手にされないわけですよね。

非透視投影図(手描き風投影図表現)

普通、我々が描くものは、写真と違いますよね。わざわざ写真でとれるものも手で描いたりもします。それはなぜかと言うと、正確な投影図が最も分かりやすい表示でなく、人間にはもうちょっと分かり易い提示があるわけです。
そういった図を計算機で作れるといいよねって考えたのが2002年です。
3次元的な俯瞰図がいい例だと思います。人が手で描く地図は、航空写真と比べると、やっぱりゆがんでいます。それはなぜかというと、大事にしたいところが航空写真だと見えなかったり、注目すべきものがが狭いところにたくさんあると、そこを拡大するなどのデフォルメを加えるからです。

人間は、個々の直線の曲率から3次元性を見ているんのではなく、奥行きを感じるための特徴と、その配置を見ています。多少、投影変換が正確でなくても、頭の中でえいやっていうふうに、3次元をスポッと構成できてしまいます。そこに何か良い情報を埋め込む余地があります。

箱根のパノラマ図では、山は横からみたいけど湖は上からみたい、という要求を人間のイラストレーターは絵にしています。1つの視点からの投影図では、これは描けません。イラストレータは、山は見えている視点と、湖がみえるような視点を頭で考えて、そこからマップを作っています。 これを、コンピュータの支援で作成したのが下図です。湖と山が被っちゃってんるんで、山を手前に引っ張ってみましょう。それから湖ももうちょっと上から見るように移動しましょう。こういった二つの効果を併せると、案内図の下地としては充分だと。


この手法をカーナビに使おうとしたのが、2005〜6年で、冒頭で紹介した図1になります。
最近のカーナビは、2次元の地図に、別ウィンドウで3次元の鳥瞰図のようなビューを表示しますが、これだと、山の裏側に隠れた部分の道筋を、2つのウインドウを見比べながらイメージする必要があり、ストレスになります。そこで、先の事例と同様、平面図と透視投影図の良いとこ取りをします。 そうすることで、常に道路の遮蔽が回避されるような絵を作ることができます。

フォトモザイク

最後に、フォトモザイクの話です。
ここ、アヒルが見えているかと思うんですが、実は、これはまったく別の小さな画像を組み合わせて、全般としてアヒルのモチーフを表現しています。この小さい画像の個々も見ることもでき、遠くになるとこのアヒルがみえると、1つの絵で2度おいしいという絵が作れますよという技術です。 これを我々は工夫をしてみました。
従来手法と我々の手法を比べてみましょう。遠目で見ているとほとんど差がありません。もうちょっと近づけてみましょう。ちょっと違いが、でてきますよね。目のとこをみてくれれば分かるんですけど、こっちのほうが比較的目がパッチリしていて、こっちは眠いのかな?
もうちょっと大きくすると分かりますね。従来法は格子状に画像が配置されているのですが、我々手法は回転も含めて、特徴に沿ってレイアウトしています。


このフォトモザイクは、ある程度の範囲の色があれば、どんな写真でも大丈夫です。多少色相をシフトしても相対的な色関係は変化しないので写真として問題は大きくありません。そうすることで赤を含む写真が少ない、青が少ないといった問題は解消できます。そのため写真の数としては、色空間を埋めるために一定量は必要です。フォトモザイクは、アメリカでは結構流行ってます。CMとかでも結構使われているんで。ただ彼らが使っているのは基本的に格子状のモザイクですが。

参照:高橋研究室 URL
http://www.tak-lab.org

編集後記

ここ柏は、新しいことを作ってくださいよっ、という集まりで、この専攻には脳科学の先生が数人いるので一緒にディスカッションしながらパーセプション系(認知)の研究を進められているそうです。やわらかい可視化は学生に人気があるというお話でしたが、素人の私にとっても分りやすそうで、楽しめました。今後のご活躍を期待しています。