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熱流体解析

構造解析技術者のための流体解析入門(1)

流体解析はなぜ必要なのか

構造解析技術者のための流体解析入門(1)

CAEのあるものづくり Vol.13|公開日:2010年10月

目次

はじめに

設計の詳細化、解析の高精度化に伴い、流体解析への関心が高まっています。Ansys社はAnsys FLUENTやCFX、 Icepak といった汎用/専用流体解析ツールを提供しており、ツールを導入すればすぐにでも流体解析(CFD;Computational Fluid Dynamics)を行うことが可能です。また、ハードウェア環境の飛躍的な進歩により、従来の環境では長時間に及ぶ解析も数分の一の時間で行うことが可能となっています。

このように、ソフトウェア、ハードウェアともにCFDを行う環境が整ってきていますが、実際の解析作業を始めようとしたとき、なかなか着手できない現状があります。その理由としては、流体力学に関する知識の不足や、CFD経験者の不在などが挙げられます。また、知識を身に付けるにしても流体力学の難解なイメージやCFD特有の用語が多いことが障害となっているようです。

弊社では、こういった点でお悩みのお客様を対象として「構造解析技術者のための流体解析入門セミナー」を月1回、無料で開催しています(セミナーの詳細については本稿末尾を参照)。本稿ではセミナーの内容から核となる内容を取り出し、流体解析を始めるに当たって必ず押さえておきたい点について今後4回に渡ってご紹介致します。今回は流体解析の必要性、構造解析との違い、流体の基礎方程式の導出について取り上げます。後続の連載ではレイノルズ数と乱流(第2回)、熱流体解析概要(第3回)、流体解析作業時のポイント(第4回)を予定しています。

流体解析はなぜ必要なのか

流体解析も他分野の解析と同様に、試作回数の低減や、解析による未知の現象の再現及び理解、得られた知見の新規製品開発への活用等が目的として挙げられます。ここではもう1つとして、流体解析ならではの解析精度の向上について具体例を挙げてご紹介致します。

〈ケース1:伝熱解析〉

伝熱解析では構造体のみモデリングし、構造体周囲を取り囲む流体との熱のやり取りに関しては熱伝達境界として考慮することが一般的です。具体的には熱伝達係数と雰囲気温度を入力しますが、熱伝達係数の値がよく問題になります。

熱伝達係数は一般に、構造体周囲の流体の物性値(密度、粘性率、熱伝導率など)、流れの状態、構造体表面の形状(凹凸など)等に依存するため、空間的な分布を持ちます。この熱伝達係数を見積る方法としては、①理論式、②実験による測定、③実験と解析結果の合わせ込みがあります。いずれの方法も本来局所的な分布を持つ熱伝達係数を求めることは困難で、伝熱解析を行う際はモデル全体で一定の値、または面ごとに異なる値(各面では一定)、といった簡単な条件にせざるを得ません。したがって、解析結果を評価する際は実際との条件のずれを考慮する必要があります。

一方、熱流体解析では流れの影響を考慮した流体一構造体間の熱のやり取りを直接計算することが可能なため、伝熱解析で必要な熱伝達境界を定義する必要がありません。Ansys WorkbenchMechanical(伝熱解析)、Ansys CFX(熱流体解析)によるLEDチップの解析例を図1に示します。伝熱解析では構造体表面の熱伝達係数を5W/m 2 K 、雰囲気温度を20℃としています。熱流体解析では構造体周囲の流体領域をモデリングし、流体領域の外表面は20℃の大気開放条件としています。両者の最大温度を比較すると熱流体解析の方が約17℃低いことがわかります。

〈ケース2:構造解析〉

LEDチップの温度分布 左図:伝熱解析、右図:熱流体解析図1 LEDチップの温度分布
左図:伝熱解析、右図:熱流体解析

LEDチップの相当応力分布 左図:伝熱解析、右図:熱流体解析の温度分布を転送図2 LEDチップの相当応力分布
左図:伝熱解析、右図:熱流体解析の温度分布を転送

構造解析では構造体が流体から受ける力(流体力)を圧力荷重または力荷重として定義する場合がありますが、構造体表面の流体力は流れの状態に依存し、局所的な分布を持ちます。熱伝達境界と同様に、流体力を面内で一定として定義した場合、本来の流体力分布と異なるため、結果評価の際は条件のずれを考慮する必要があります。

Ansysでは流体力に関してもCFDツールから構造解析に転送することが可能なため、より実際に近い条件での結果を得ることが可能です。また、温度分布に関しても構造解析に転送し熱応力解析を行うことが可能です。

図2は、図1で得られた温度分布をAnsys Workbench Mechanicalに転送し熱応力解析を行った結果です。相当応力の最大値を見ると、熱流体解析結果の温度が低いことに伴い、1/3程度の値となっています。
以上の2ケースから熱流体解析を考慮することにより解析の高精度化が可能であることがわかります。

構造解析と流体解析の違い

構造解析と流体解析とでは解析対象が異なることを初め、現象の記述方法、構成則、物性、現象の複雑さなど様々な点で異なりますが、ここではより直感的に違いを理解するため、構造体、流体に一定のせん断力を加えた場合について考えます。

構造体に外から一定のせん断応力を加えると、力が釣り合うまでせん断変形し、その後は静止状態になります。一方、流体にせん断応力を加えた場合はどこまでも変形を続け、せん断応力が無くなってはじめて静止します。構造体の変形量は流体と比較して非常に小さいため変形量で現象を記述する方法が適当ですが、流体の場合はせん断応力が働く限り際限なく変形するため、変形量による現象の記述が困難です。そのため、流体の変形を記述する際は変形量ではなく、変形速度、すなわち流速(速度)で現象を記述します。
応力が既知の場合、構造力学で…

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