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構造解析

溶接の数値シミュレーション入門

溶接の数値シミュレーション入門

CAEのあるものづくり Vol.11|公開日:2009年9月

目次

  1. はじめに
  2. 汎用有限要素法解析ソフトを用いる簡便な溶接変形解析
  3. 冷却中の相変態の時間的な変化を考慮する方法
  4. Ansysを用いた溶接変形解析事例
  5. おわりに

はじめに

ものづくりの素材として鉄鋼は古くからいろいろな分野で多く使用されています。鉄鋼材料は他の材料に比べて良好な溶接性を持っているので、鉄鋼製品の製作過程において溶接が盛んに活用され、現在、ものづくりの要素技術として溶接は欠くことのできないものとなっています。近年、溶接において溶接後の寸法精度確保が重要となっています。溶接変形問題を検討する手段として有限要素法解析ソフトが利用されていますが、最近、より高い解析精度が要求されてきています。
特に、鉄鋼材料に関する高精度の溶接変形解析には相変態の考慮が必須になります。
「溶接の数値シミュレーション入門~伝熱解析における相変態の考慮~」(1)に引き続き、一般の汎用有限要素解析ソフトを使用した溶接時の応力変形解析において、どのように相変態を考慮するかについて解説します。

汎用有限要素法解析ソフトを用いる簡便な溶接変形解析

通常、Ansysなどの汎用有限要素法解析ソフトを用いて行う溶接時の変形解析は、温度の解析と応力変形の解析は独立に行われ、(1)まず、伝熱解析によって温度履歴の解析を行ってから、(2)次に、その温度履歴に対する熱応力・変形解析を実施します。それらの解析に必要な材料特性データ、今回は薄鋼板の代表的な材料SPCCを例として取り上げて説明します。

2.1 伝熱解析

図1  鉄の比熱の温度依存性図1  鉄の比熱の温度依存性

図2 比熱と温度の関係図2 比熱と温度の関係

図1は純鉄を比較的ゆっくり加熱した場合(平衡状態)の比熱(2)の温度依存性を示します。磁気変態を伴う結晶構造(BCCからFCCへの相変態)変化のため、比熱は750℃付近において大きく変化します。
比較的速い速度で冷却すると、図1のような比熱と温度の関係とは異なり、非平衡状態となって相変態開始終了温度が変化します。また、相変態温度範囲だけでなく相変態潜熱(3)も変化し、低温になるほど増加します。この潜熱は見かけ比熱として比熱の入力データに考慮されます。

図2は、相変態潜熱を考慮した比熱と温度の関係を示しています。
加熱時および冷却時(冷却速度50℃ /s)のいずれも相変態温度範囲において比熱の変化が大きくなるのが特徴です。
解析に用いる熱伝導率データについても比熱と同様に、相変態温度を境にして各相(材料組織)の特性に対応した値を使用します。相変態温度領域における熱伝導率は、相変態の温度に対する変化は近似的に線形と考えられるので、相変態開始温度および終了温度における熱伝導率を直線で結んで求めることができます。
以上より、溶接の伝熱解析における熱物性値は少なくとも加熱時と冷却時の2種類のデータを用意する必要があります。この場合、冷却時の物性データは冷却速度の影響を受けるので簡易的には平均冷却速度に対する値を用いて計算することができます。

2.2 熱応力・変形解析

溶接時の応力変形解析には機械的な特性として弾塑性材料モデルが最も多く使用されます。弾塑性材料モデルの特性値として温度依存性を考慮したヤング率、降伏応力、塑性域の加工硬化係数と線膨張係数などが使用されます。相変態の発生する要素に関しては相変態前後において機械的な特性も変化するので、伝熱解析と同様に加熱と冷却で異なる2種類のデータが必要となります。一般に溶接時の熱膨張・熱収縮を考慮する応力解析では参照温度(応力が生じていない温度)を常温に設定しますが、溶加材や溶接時に溶けた母材などの溶融金属に対しては参照温度を溶融温度に設定する必要があります…

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